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書評「鎌倉の禅(井上禅定)」

2015-01-24 11:49:25 | 書評(仏教)
これは、東慶寺ギャラリー&ショップで見つけた本である。

著者の井上禅定は、昭和の時代に円覚寺派の東慶寺や浄智寺の住職、円覚寺派宗務総長をされた方である。この方が、1974年に東慶寺で行った講演「鎌倉の禅」の速記録を再編して、東慶寺文庫として発刊されたものである。全79ページで、口述を記録したものなので、さらっと読める。
私も鎌倉で坐禅をしているので、鎌倉の禅宗の歴史には興味があった。この本では、栄西から鈴木大拙に至る鎌倉の禅宗の流れをまとめている。自らが円覚寺派ということから円覚寺派にひいき目な書き方になっているが、円覚寺にいかに多士済々な人々が集まってきたか、そして海外を含めいかに影響力を及ぼしてきたかがよくわかる。
まず、開山の無学祖元がそうとうな人だったらしい。北条時宗が使者を中国に送って日本に来てもらったのだが、中国ではすでに非常に有名な人だったという。宋の時代に、元の兵士が攻めてきて自分の首を斬ろうとしたとき、坐禅をしながらこちらも空だがそちらも空、私の首を斬っても春の風を斬るようなものでなんたることはない、と「臨剣の頌(りんけんのじゅ)」いう詩を読んだという。なんたる落ち着きぶりか。
明治になると今北洪川(こうせん)という人が円覚寺の管長になって、居士禅、つまり一般の人たちが参加する坐禅が盛んになる。そして、山岡鉄舟、夏目漱石、鈴木大拙といった人たちが参禅する。次に釈宗演が管長になり、アメリカで講演をして初めて禅というものを伝えた。そして、鈴木大拙をアメリカに送り出して、英語で禅を紹介することでZENが世界に知れ渡ることとなる。
他には、著者との個人的な交流の話も紹介されていて、高見順のノイローゼが落ちた話、野坂参三との対話をきっかけに「赤旗」の人たちが興味を示してきた話などもおもしろい。

結論を言えば、円覚寺は強い磁場を持っていて様々な人々を引き寄せてきた場所だということだろう。
そして、私もその磁場に惹かれて円覚寺に参禅しているのである。

定価500円。一般の書店やAmazonでは購入できないようだ。
興味のある方は、東慶寺ギャラリー&ショップに直接行くか、ウェブで確認していただきたい。


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