水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

語彙力アップ⑮ 夏目漱石「こころ」後半

2022年10月06日 | 国語のお勉強(小説)
語彙力アップ⑮ 夏目漱石「こころ」後半
空欄に漢字・読み方・意味・対義語etcを記入しなさい


37( 信条 )しんじょう……信じている考え方・教え
  ☆ 信念……揺るがない( 自分の思い )
38 侮蔑( ぶべつ )……侮る( あなど る)+蔑ろ( ないがし ろ)
39 刹那( せつな )……瞬間(指弾きの65分の1) 須臾( しゅゆ )……しばらく
40 居直り強盗……泥棒が見つかって( 開き直り )強盗になる ☆( 窃 盗)→ 強盗
41( 残酷 )ざんこく ←→( 慈悲 深い)じひぶかい
42( 萎縮 )いしゅく……萎える( な える)+縮まる( ちぢ まる)
43( 卒然 )そつぜん……とつぜん
44 茶褐色( ちゃかっしょく )……黒みがかった茶色 ☆ 茶色・褐(かつ)色(しよく)・鳶(とび)色(いろ)……同系統
45( 覚醒 )かくせい……目覚める・悟る
46 熾烈な( しれつ な)……勢いが激しい
47 影法師( かげぼうし )……光があたってできる人の形
48 果断に富む……( 決断 力)がある
49( 優柔 )ゆうじゅう……決断できない
50 煩悶( はんもん )……思い煩いもだえ苦しむ
51 懊悩( おうのう )……悩み苦しむ
52 生返事( なまへんじ )……気のない返事  ☆ 生(なま) ~ ……中途半端な ~
53( 屈託 )……小さなことを( くよくよ )思い悩む
54( 催促 )さいそく……うながす
55 頓着( とんじゃく )……気にする・こだわる
56( 境遇 )きょうぐう……身の上・環境
57( 明瞭 )めいりょう……はっきりしている ←→( 曖昧 )あいまい
58 拘泥( こうでい )必要以上に( こだわる )こと
59( 界隈 )かいわい……あたり・近辺
60 いびつな……形が( 歪んで )いる
61 きまりが悪い……( 気まずい )・気恥ずかしい
62 曠野( こうや )=広野
63( 挙止 動作)きょしどうさ……日常のからだの( 動き )
64( 不審 )ふしん……疑わしい
  ☆ 審らか( つまび らか)にする……はっきりさせる
65( 詰問 )きつもん……きびしく問いただす
66 狡猾( こうかつ )……ずる賢い
67( 窮境 )きゅうきょう……追い込まれた苦しい状態 ≑ 窮地・( 苦境 )くきょう
68( 超然 )ちょうぜん……物事にこだわらず平然としている
69( 敬服 )けいふくに値する……心から敬う価値がある
70 因縁( いんねん )……前世からの( 運命 )≑( 宿縁 )しゅくえん
71( 疾風 )しっぷう……激しく吹く風  
  ☆ 疾風怒濤(しっぷう どとう )……激しい風と荒々しい波
72 世間体( せけんてい )……世間の人にどう見られるか ≑( 体裁 )ていさい

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語彙力アップ⑭ 夏目漱石「こころ」前半

2022年10月05日 | 国語のお勉強(小説)
語彙力アップ⑭ 夏目漱石「こころ」前半
空欄に漢字・読み方・意味・対義語etcを記入しなさい


1 伯母( おば )……父・母の姉 ☆( 叔母 )おば……父・母の妹
2 細君( さいくん )……奥さん
3 挨拶( あいさつ )……受け答えする
4( 元来 )がんらい……もともと
5 平生( へいぜい )……普段から
6 分別( ふんべつ )……物事の判断ができること  
 ☆ 分別( ぶんべつ )……種類ごとに分けること
7( 自白 )じはく……罪や秘密をうちあける。白す( もう す)
8( 給仕 )きゅうじ……食事の世話
9( 時機 )じき……タイミング ≑ 時宜( じぎ )
 ☆( 時期 )じき……一定の期間
10( 遮 る)さえぎる 
11 手ぬかり……( 準備 )不足による不十分な対応 
 ☆ 手落ち……手続きや方法の不手際 手抜き……やるべき手順をわざと( 省略 )する
12( 悔恨 )かいこん……悔やむ( く やむ)+恨めしい( うら めしい)
13 襖( ふすま )……和室を仕切る引き戸の扉
14 下心( したごころ )……心の中に隠し持った思い・( たくらみ )
15( 往来 )おうらい……道路・行き来
16 咀嚼( そしゃく )……かみくだく
17 解しがたい( げ しがたいorかいしがたい)……理解しにくい
18 祟り( たた り)……神仏・霊魂による災い 
19( 所作 )しょさ……身のこなし・( ふるまい )
20 胸に一物( いちもつ )がある……心に( たくらみ )がある ≑ 腹に一物がある
21 養家( ようか )……養子として入った家 ←→( 実家 )……生まれた家
22 談判( だんぱん )……自分の主張を通すための話し合い
23 悄然( しょうぜん )……しょんぼりしている
24( 慈雨 )じう……めぐみの雨
25 他流試合……( 流派 )が異なる者同士の威信を賭けた戦い
26 五分( ごぶ )……( 一寸 )の半分。約1.5㎝ ☆ 一寸×10=( 一尺 )
27 要塞( ようさい )……とりで 要( かなめ )+塞ぐ( ふさ ぐ)
28 彷徨( ほうこう )……さまよい歩く
29 虚につけ込む……相手の( すき )をついて攻める ≑ 虚をつく・虚に乗じる
30( 厳粛 )げんしゅく……厳か( おごそ か)+粛む( つつし む)
31( 滑稽 )こっけい……おもしろおかしい
32( 羞恥 )しゅうち……はずかしい 羞じる( は じる)+羞じる( は じる)
33 復讐( ふくしゅう )……仕返し
34 宗旨( しゅうし )……宗教の教え
35 精進( しょうじん )……( 仏道 )修行に専心する
36( 犠牲 )ぎせい……いけにえ

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語彙力アップ⑫ 中島敦「山月記」その2

2022年06月25日 | 国語のお勉強(小説)
(  月  日)語彙力アップ⑫ 中島敦「山月記」その2
空欄に漢字・読み方・意味・対義語etcを記入しなさい


33 Vするに忍びない……Vすることに( たえられない )
34 誦んずる( そら んずる)……暗誦する
35( 残虐 )ざんぎゃく 残なう(そこなう)・虐げる( しいた げる)
36( 礎 )いしずえ……( 土台 )・基礎
37( 埋没 )まいぼつ ←→ 露出・( 発見 )
38( 元来 )がんらい……もともと  ≑ ( 本来 )ほんらい
39( 遺稿 )いこう……死後に遺された未発表の原稿
40 世に行われておらぬ……世間に( 知られていない )
41( 伝録 )でんろく……伝える( つた える)・録す( しる す)
42( 巧拙 )こうせつ……巧み( たく み)・拙い( つたな い)
43( 執着 )しゅうちゃくorしゅうじゃく……何かに( とらわれて )離れられない 
44 格調( 高雅 )かくちょうこうが……体裁や品格、調子が高貴で優雅である
45 意趣( 卓逸 )いしゅたくいつ……詩の内容や趣が特に秀でていること
46( 漠然 )ばくぜん ←→( 判然 )はんぜん
47 嘲る( あざけ る)……馬鹿にする・おとしめる
48( 自嘲 )じちょう……自分で自分をおとしめる
49( 奇異 )……奇しい( あや しい)・異なる( こと なる)
50 粛然( しゅくぜん )←→( 騒然 )そうぜん ☆ 粛しむ( つつ しむ)
51( 薄幸 )はっこう……幸せに恵まれない ←→( 多幸 )
52 息をのんで … 息をするのも忘れるほど( 緊張 )して 
53 叢中( そうちゅう )……叢( くさむら )の中。
54( 尊大 )そんだい……いかにも( 偉そう な)態度をする様子
55 羞恥心( しゅうち しん) 羞じる( は じる)・恥じる( は じる)
56 郷党( きょうとう )……郷里の( 仲間 )・郷里
57( 鬼才 )きさい……人間とは思われないほどの優れた( 才能 )の持ち主。
58( 臆病 )おくびょう ←→( 大胆 )
59 切磋琢磨( せっさたくま )……競い合い励まし合って( 共に向上 )すること
60 ~に伍(ご)する……~の( 仲間 )になる・肩を並べる
61 珠( たま )……美しい( 宝石 ) ≑ 玉 ←→( 石 )
62( 刻苦 )こっく……心身を苦しめて励み務める。 ≑ 刻苦勉励(こっく べんれい )
63 憤悶( ふんもん )……憤り( いきどお り)+悶える( もだ える)
64( 空費 )くうひ……無駄づかい。 空しく( むな しく)費やす( つい やす)
65 警句( けいく )……短く巧みに真理をついた言葉。 ≑ 箴言( しんげん )
66 暴露( ばくろ )……暴く( あば く)・露わ( あら わ)←→ 秘匿・( 隠蔽 )
67 卑怯( ひきょう )……卑しい( いや しい)・怯む( ひる む)
68( 危惧 )きぐ……危ぶむ( あや ぶむ)・惧れる( おそ れる)
69( 怠惰 )たいだ……  ←→( 勤勉 )きんべん
70 慟哭( どうこく )……激しく嘆き悲しみ、大声で( 泣く )こと。
71 懇ろに( ねんご ろに)……心を込めて( ていねいに )

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語彙力アップ⑪ 中島敦「山月記」その1

2022年06月24日 | 国語のお勉強(小説)
(  月  日)語彙力アップ⑪ 中島敦「山月記」その1
空欄に漢字・読み方・意味・対義語etcを記入しなさい


1 狷介( けんかい )……かたくなに自分の考えを( 曲げない )
2 恃む( たの む)……( 期待する )・あてにする
  ≑( 自尊 心)じそんしん・( 自負 する)じふする・矜恃( きょうじ )を保つ
3 賎吏( せんり )……身分の低い( 役人 )=下吏
4 ~に甘んずる…… ~ を我慢して( 受け入れる )
5 ~を潔(いさぎよ)しとしない…… ~を自分で( 許せない )・受け入れられない
6 故(こ)山(ざん)( こざん )……( 故郷 )or故郷の山
7 遺す( のこ す)……死後にのこす
8 ようやく……( しだいに )・やっとのことで
9( 焦燥 )しょうそう……( あせる )気持ち
10( 容貌 )ようぼう……顔つき
11 進士に登第する……中国の官吏登用試験である( 科挙 )において、最難関の進士科に( 合格 )すること。
12( 貧窮 )ひんきゅう……貧(まず)しい・窮まる( きわ まる)←→( 裕福 )
13 節を屈する( せつ をくっする)……( 志 )をまげる
14 官吏( かんり )……( 役人 )・公務員。「官」は上級職、「吏」は下級職。
 ☆( 官僚 )かんりょう……上級の国家公務員。
15 鈍物( どんぶつ )……頭のにぶい人物。←→ 傑物( けつぶつ )
16 歯(し)牙(が)にもかけない……全く( 相手 )にしない
17 下命を拝す……上からの( 命令 )をかしこまって受ける
18 Vするに難(かた)くない……( 容易に )Vできる
19( 捜索 )そうさく……捜す( さが す)+・索める( もと める)
20( 勅命 )ちょくめい……皇帝、天子の命令 
21 翻す( ひるがえ す) 
22 驚懼( きょうく )……驚く・懼れる( おそ れる)
23 久闊を叙す( きゅうかつ をじょす)……久しぶりの( あいさつ )をする
24 おめおめと……恥ずべきことを恥じずに( 平然 )と
25( 故人 )こじん……亡くなった人。漢(昔からの 友人 )。
 ☆( 古人 )こじん……昔のすぐれた人物
26 畏怖嫌厭……畏れる( おそ れる)・怖がる( こわ がる)・嫌う( きら う)
  ・厭う( いと う)
27 消息( しょうそく )……そのときの事情・様子
28 覚えず……( 思わず )
29( 無我夢中 )むがむちゅう…… 何かに心を奪われ、われを忘れること
 ☆( 五里霧中 )ごりむちゅう……先の見通しが立たないこと
30( 茫然 )ぼうぜん  ≑ ( 茫然自失 )ぼうぜんじしつ
31( 所行 )しょぎょう……行(おこ)ったこと。
      ☆ 所=直後のVを名詞化する( 所在 所与 所見 所得 所信 所用 etc )

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語彙力アップ 芥川龍之介「羅生門」

2021年06月23日 | 国語のお勉強(小説)
語彙力アップ 芥川龍之介「羅生門」
空欄に漢字・読み方・意味・対義語etcを記入しなさい

1 丹塗り( にぬ り )
2 朱雀大路( すざく おおじ )
3 烏帽子( えぼし ) 
4 飢饉( ききん )
5( 始末 )しまつ……細かな( 事情 )、最終的な状況・処理。
6( 顧 みる)かえりみる……ふりかえる・気にかける ☆ ( 省 みる)……反省する
7 棲む( す む )……生息(棲息)する ☆( 住 む )すむ……生活する
8( 刻限 )こくげん……時刻・定刻
9 洗いざらした……何度も洗って( 色落ちした )
10( 据 える)すえる……固定する・落ち着ける
11( 衰微 )すいび……勢いが衰え弱まる ←→( 繁栄 ) 
12( 暇 を出される)ひまをだされる……( 解雇 )される・離縁される 
13( 余波 )よは……ある出来事の( 影響 )、なごり
14 気色( けしき )……( 様子 )・顔色・気配
 ☆ 気色(きしょく)……顔色・( 気分 )
15 聞くともなく聞く……聞いているとも( いない )ともわからない様子で聞く
 ☆ 聞きかじる……( うわべ )だけを少し知っている 
 ☆( 小耳 )にはさむ……意図せずに少し聞いてしまう
16 築土( ついじ )=築地……土塀
17( 低回 )ていかい……思いをめぐらし行ったり来たりすること
18( 逢着 )ほうちゃく……出くわす・行き当たる
19( 肯定 )こうてい ←→ ( 否定 )
20 かたをつける……ものごとの( 決着 )をつける
21 大儀そうに……( めんどうくさそうに  )
22 草履( ぞうり )
23 たかをくくる……たいしたことはないと( 見くびる )
 ☆ たかが知れる……数量や程度が( たいしたことがない )
24( 無造作 に )むぞうさに……工夫しない・かんたんに
25( 腐乱 )ふらん  26( 覆 う)おおう
27 檜皮色( ひわだ いろ ) ☆ 檜皮葺( ひわだぶき )
28 暫時( ざんじ )……しばらく  ☆ 漸次( ぜんじ )……しだいに
29( 語弊 )ごへい……言い方が不適切なこと
30( 未練 )みれん……あきらめきれない、( 執着 )する。
31 慌てる( あわ てる )
32 罵る( ののし る ) 
33( 成就 )じょうじゅ……やりとげる ←→ 失敗・( 頓(とん) 挫(ざ) )
34 和らげる( やわ らげる )
35( 存外 )ぞんがい……思いのほか
36 菜料( さいりょう )……おかず
37( 侮蔑 )ぶべつ……あなどり見下す ←→ ( 尊敬 )・崇拝
38( 冷然 )れいぜん……ひややかな様子
39 大目に見る(おおめにみる)……悪いことを( 寛大に )扱う
40 行方( ゆくえ )
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中沢けい「楽隊のうさぎ」(センター2006年)③

2020年06月24日 | 国語のお勉強(小説)
 克久がいちばん間抜けだと感じたのは百合子だった。なにしろ、地区大会を終わって家に戻って最初に言ったのは次の一言だ。
 「やっぱり、強い学校は高い楽器をたくさん持っているのね」
 それを言っては、みもふたもない。言ってはならない真実というものは世の中にはある。それに高価な楽器があれば演奏できるというものでもない。演奏する生徒がいて、初めて高価な楽器がものを言うのだなんてことを、克久は百合子に懇切丁寧に説明する親切心はなかった。
 「小学生とはぜんぜん違う」
 実は百合子も少し興奮気味だったのである。克久には小学校時代は太古の昔、悠久のかなただったが、百合子にはわずか六カ月前にもならない。だいたい、その頃、銀行に申し入れた融資の審査がまだ結論が出ていなかった。伊万里焼の皿の並んだテーブルをはさんで恐竜と宇宙飛行士が会話しているという比喩で良いのかどうか。そのくらい、時の流れの感覚が食い違っていた。これだから中学生は難しい。百合子がうれしい時に使う古典柄の伊万里が照れくさそうに華やいでいた。この皿はうれしい時も出番だが、時には出来合いのロールキャベツを立派に見せるためにお呼びがかかることもあった。
 翌日から一年生は「やる気あるのか」と上級生に言われなくなった。帰宅は毎日九時を過ぎた。


 地区大会を見に行った母親の百合子。
 子どもの時間の進み方に対する驚きは、次の場面の伏線になっています。
 そして、地区大会後、県大会に向けて練習が熱が帯びます。
 中学生で帰宅が毎日九時すぎというのは、ブラック部活と言われてもしょうがないでしょう。
 そして、県大会前日の夜を迎えます。
 ここでは「克久」の成長が、母「百合子」の視点で描かれます。
 ブラックは大変ですが、乗り越えることで成長もします。


 県大会の前日はさすがに七時前に克久も家に帰って来た。「ただいま」と戻った姿を見た百合子はたちまち全てを了解した。了解したから、トンカツなどを揚げたことを後悔した。大会にカツなんて、克久流に言えば「かなりサムイ」しゃれだった。
 「ベンちゃんが今日は早く風呂に入って寝ろってさ」
 「そうなんだ」
 百合子はこんな克久は見たことがなかった。なんでもなく、普通そうにしているけれども、全身に緊張があふれていた。それは風呂場で見せる不機嫌な緊張感とはまるで違った。ここに何か、一つでも余分なものを置いたら、ぷつんと糸が切れる。そういう種類の緊張感だった。
 彼は全身で、いつもの夜と同じように自然にしてほしいと語っている、「明日は大会だから、闘いにカツで、トンカツ」なんて駄ジャレは禁物。
 もっとスマートな応対を要求していたのである。会話だって、音楽の話もダメなら、大会の話題もダメであった。
 そういうことが百合子にも解る顔をしていた。こんなに穏やかな精神統一のできた息子の顔を見るのは初めてだ。一人前の男である。誇りに満ちていた。
 もちろん、彼の築き上げた誇りは輝かしいと同時に危ういものだ。


 息子の変化を瞬時に理解するのは、母親だからでしょう。
 父親は無理です。
 百合子は、息子の変化を見抜いたからこそ、あい変わらずの自分に恥ずかしささえ感じてしまいます。
 大人あるあるですね。
 でも大人は、少年の成長が非常にもろいものであることも分かります。
「全身に緊張があふれていた……一つでも余分なものを置いたら、ぷつんと糸が切れる。そういう種類の緊張感だった」


 「お風呂、どうだった」
 「どうだったって?」
 「だから湯加減は」
 音楽でもなければ、大会の話でもない話題を探そうとすると、何も頭に浮かばない。湯加減と言われたって、家の風呂は温度調整のできるガス湯沸かし器だから、良いも悪いもないのである。
 「今日、いい天気だったでしょ」
 「毎日、暑くてね」
 「……」
 練習も暑くて大変ねと言いかけて百合子は黙った。
 「……」
 克久も何か言いかけたのだが、目をぱちくりさせて、口ヘトンカツを放り込んでしまった。
 「あのね、仕事の帰りに駅のホームからうちの方を見たら、夕陽が斜めに射して、きれいだった」
 「そう。……」
 なんだか、ぎこちない。克久も何か言おうとするのだが、大会に関係のない話というのは探しても見つからない。それでも、その話はしたくなかった。この平穏な気持ちを大事に、そっと、明日の朝までしまっておきたかった。
 C初めて会った恋人同士のような変な緊張感。それにしては、百合子も克久もお互いを知り過ぎていた。百合子は「こいつは生まれる前から知っているのに」とおかしくて仕方がなかった。
 「……」
 改めて話そうとすると、息子と話せる雑談って、あまり無いものだなと百合子は妙に感心した。
 「……」
 克久は克久で、何を言っても、話題が音楽か大会の方向にそれていきそうで閉口だった。


 二人とも、部活動とは関係ない話をしようとし、ゆきづまります。
 生まれる前から知っている息子との会話が妙にぎこちなくなる。

問4 傍線部C「初めて会った恋人同士のような」とあるが、この表現は百合子と克久のどのような状態を言い表したものか。その説明として最も適当なものを選べ。
 ① 自分の好意を相手にきちんと伝えたいと願っているのに、当たり障りのない話題しか投げかけられず、もどかしく思っている。
 ② 互いのことをよくわかり合っているはずなのに、相手を前にしてどのように振る舞えばよいかわからず、とまどっている。
 ③ 本当は心を通い合わせたいと思っているのに、話をしようとすると照れくささからそっけない態度しかとれず、悔やんでいる。
 ④ 相手の自分に対する気配りは感じているのに、恥ずかしくてわざと気付かないふりをしてしまい、きまり悪さを感じている。
 ⑤ なごやかな雰囲気を保ちたいと思って努力しているのに、不器用さから場違いな行動を取ってしまい、笑い出したくなっている。

 ①「自分の好意を相手にきちんと伝えたいと願っている」は、親子としてはやばいですね。
 ③「本当は心を通い合わせたいと思っている」か、克久は微妙ですね。「そっけない態度しかとれず、悔やんでいる」は完全に誤答になりますね。
 ④「恥ずかしくてわざと気付かないふりをしてしまい」はちがいますね。
 ⑤「不器用さから場違いな行動を取ってしまい、笑い出したくなっている」はまったくちがいます。

 「初めて会った恋人のように」はあくまで比喩ですから、恋愛感情があるわけではありません。
 お互いによく知っている、しかしぎこちなくなっている状態なので、正解は②です。


 「これ、うまいね」
 こういうことを言う時の調子は夫の久夫が百合子の機嫌を取るのに似ていた。ぼそっと言ってから、少し遅れてにやりと笑うのだ。
 「西瓜でも切ろうか」
 久夫に似てきたが、よく知っている克久とは別の少年がそこにいるような気もした。
 「……」
 西瓜と言われれば、すぐ、うれしそうにする小さな克久はもうそこにいない。
 「……」
 百合子は西瓜のことを聞こうとして、ちょっとだけ息子に遠慮した。彼は何かを考えていて、ただぼんやりとしていたわけではない。少年の中に育ったプライドはこんなふうに、ある日、女親の目の前に表れるのだった。


Q「百合子は西瓜のことを聞こうとして、ちょっとだけ息子に遠慮した」とあるが、なぜか。50字以内で説明せよ。
A 息子の成長した姿に気づき、今までと同じように接するわけにはいかない時期がきたと悟ったから。

問5 傍線部D「少年の中に育ったプライドはこんなふうに、ある日、女親の目の前に表れるのだった」とあるが、その説明として最も適当なものを選べ。
 ① 充実した練習を通して自ら育(はぐく)んできた克久のプライドは、県大会に向けての克久の意気込みと不安を百合子に感じさせるものであった。/このプライドは張り詰めて折れそうな心を自覚しながら独り大会に備える自立した少年の姿を通して不意に百合子の前にあらわれ、幼いと思っていた息子が知らないうちに夫に似てきたことを百合子に感じさせた。
 ② 仲間たちとの交わりの中で自ら育んできた克久のプライドは、仲間への信頼と自分がかけがえのない存在であるという自覚を百合子に感じさせるものであった。/このプライドは自らの緊張感を百合子に悟らせまいとしている大人びた少年の姿を通して不意に百合子の前にあらわれ、息子の成長に対する喜びを百合子に感じさせた。
 ③ 努力を重ねるなかで自ら育んできた克久のプライドは、克久のおごりと油断を百合子に感じさせるものであった。/このプライドは他人を寄せつけないほどの緊張を全身にみなぎらせている少年の姿を通して不意に百合子の前にあらわれ、大会を前にした息子の気負いをなだめ、落ち着かせなければならないという思いを百合子に感じさせた。
 ④ 吹奏楽部の活動に打ち込むなかで自ら育んできた克久のプライドは、りりしさともろさを百合子に感じさせるものであった。/このプライドは高まった気持ちを静かに内に秘めた少年の姿を通して不意に百合子の前にあらわれ、よく知っている克久の姿とともに、理解しているつもりでいた克久ではない成長した少年の姿も百合子に感じさせた。
 ⑤ 同じ目的を持つ仲間たちとの協力を通して自ら育んできた克久のプライドは、どんなことにも動じない自信と気概を百合子に感じさせるものであった。/このプライドは百合子を遠慮させるほど堂々とした少年の姿を通して不意に百合子の前にあらわれ、克久がこれまでとは別の少年になってしまったという錯覚を百合子に感じさせた。


 県大会前日の場面全体から考えます。
 帰ってきてすぐの百合子の感覚が描かれている部分に「誇り」とありますね。
「誇りに満ちていた。……彼の築き上げた誇りは輝かしいと同時に危ういものだ」
 問5は、それぞれの選択肢が長いですが、核となる部分と本文とを対応させると、明確な差異が見えます。
 ①「意気込みと不安」、②「仲間への信頼と自分がかけがえのない存在であるという自覚」、③「おごりと油断」、⑤「自信と気概」は、「輝かしい誇りとあやうさ」とは対応しません。
 ④「りりしさともろさ」が正解です。
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中沢けい「楽隊のうさぎ」(センター2006年)②

2020年06月22日 | 国語のお勉強(小説)
 ここで一つ記述問題を解いてみましょう。

問「「スゲェナ」有木がつぶやいた隣で克久は掌を握り締めた。」とあるが、このとき克久はどのような状態か。(60字以内)

 一つの場面内では、何らかの事件が起こり、登場人物が何らかの感情を抱いて、何らかの行動をします。
 地区大会当日に何が起こったか。
 問3で確認したように、他校の演奏を聴いておどろき、一年生も態度を改めたという話でしたよね。
 克久は、課題曲「交響的譚詩」を選んだある中学校の演奏を聴きます。
 1996年の一番難しい課題曲で、これを選んだということ自体、上手な中学校であることがわかりますね(わからないか)。
 その演奏は「克久の胸のうさぎが躍り上がるような音を持ってい」ました。
 隣で「スゲェナ」と部長がつぶやく。
 少し先には「負けた」「遠く遠くへ連れ去られた」とも書いてある。
 そして、すぐ後の場面では、どんな演奏であったかが表現されている。


 最初のクラリネットの研ぎ澄ました音は、一本の地平線を見事に引いた。地平線のかなたから進軍してくる騎馬隊がある。木管は風になびく軍旗だ。金管は四肢に充実した筋肉を持つ馬の群れであった。打楽器が全軍を統括し、西へ東へ展開する騎兵をまとめあげていた。


 このような具象的イメージが、克久の胸のなかに生じたのです。
 そして、「うさぎが踊る」。
 「事件:すごい演奏を聴く」→「心情:胸のうさぎが踊る」→「行動:掌を握りしめる」
 の「事件」と「心情」をまとめれば答えになりますね。
 ただし、「うさぎ」は言い換える必要がある。
 どう言い換えればいいでしょうか。
 そのとき、注の情報に気づくことがポイントです。


注6 克久の胸のうさぎ … 克久が、自分の中にいると感じている「うさぎ」のこと。克久は、小学校を卒業して間もなく花の木公園でうさぎを見かけて以来、何度かうさぎを見つけては注意深く見つめていた。吹奏楽部に入った克久は、いつの間にか一羽の「うさぎ」が心に住み着き、耳を澄ましているように感じ始めていた。


 「うさぎ」はどう言い換えればいいですか?
 どのようなことを表しているのですか?
 克久の胸のなかにうさぎが棲み、耳をすましている。いい音楽に触れると踊り出す。
 つまり、克久の音楽を感じる心を、表しているのですね。
 解答例は、こんなかんじです。


答 自分の学校とは全く異質な、精密で力強い他校の演奏を聴き、
  内面の音楽的感性が刺激され、その衝撃に圧倒され力が入っている状態。


 「うさぎ」は、羅生門における「にきび」、「山月記」における「月」と同じはたらきをもっています。
 なんらかの抽象的概念を、具体物におきかえて表現することで、感覚的に理解させようとする表現ですね。
 これを「象徴」といいます。
 小説とは、ある人物に起こった、一回こっきりの特殊な出来事を描きます。
 映画やドラマも同じですね。具体の極致ですね。
 ですから、作品自体が、何らかの象徴にちがいないと思って読んでいきましょう。
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中沢けい「楽隊のうさぎ」(センター2006年)①

2020年06月20日 | 国語のお勉強(小説)
 評論文では意味段落ごとに解いていくように、小説は場面ごとに解いていきます。
 場面とは何か。
 何らかの出来事が生成する状況が描かれたひとまとまりのことです。シーンとも言いますね。
 a時間とb空間、そしてc登場人物で規定されます。

 第一場面を見てみましょう。


譜面をパートごとに練習して、セクションごとに音として仕上げていくのは、山から石を切り出す作業だが、そのごろごろした石がようやくしっかりとした石組みになろうとしていた。森勉が細やかに出す指示は、石と石の接続面をぴったりと合わしていく仕事だった。
 この日、何度目かで「くじゃく」をさらっていた時、克久はばらばらだった音が、一つの音楽にまとまる瞬間を味わった。スラブ風の曲だが、枯れ草の匂いがしたのである。斜めに射す入り陽の光が見えた。それは見たことがないほど広大な広がりを持っていた。いわく言い難い哀しみが、絡み合う音の底から湧き上がっていた。悔しいとか憎らしいとか、そういういらいらするような感情は一つもなくて、大きな哀しみの中に自分がいるように感じた。つまり音が音楽になろうとしていた。地区大会前日だった。


 地区大会の前日の場面ですね。場所は音楽室でしょう。
 その日、主人公の克久は「音が音楽になろうとす」る瞬間を体験します。

問2 傍線部A「音が音楽になろうとしていた」とあるが、それはどういうことか。その説明として最も適当なものを選べ。
 ① 指揮者の指示のもとで各パートの音が融(と)け合い、具象化した感覚や純化した感情を克久に感じさせ始めたこと。
 ② 指揮者に導かれて克久たちの演奏が洗練され、楽曲が本来もっている以上の魅力を克久に感じさせ始めたこと。
 ③ 練習によって克久たちの演奏が上達し、楽曲を譜面通りに奏でられるようになったと克久に感じさせ始めたこと。
 ④ 各パートの発する複雑な音が練習の積み重ねにより調和し、圧倒するような迫力を克久に感じさせ始めたこと。
 ⑤ 各パートで磨いてきた音が個性を保ちつつ精妙に組み合わさり、うねるような躍動感を克久に感じさせ始めたこと。


 「音が音楽になる」とは、どういうことでしょうか。
 選択肢を見ると、
 「②演奏が洗練され、楽曲が本来もっている以上の魅力を克久に感じさせ始めた」
 「④練習の積み重ねにより調和し、圧倒するような迫力を克久に感じさせ始めた」
「⑤音が個性を保ちつつ精妙に組み合わさり、うねるような躍動感」
 などとありますが、どれも正解のように見えませんか。
 実際に、このような意味合いで「音が音楽になる」と言われることはよくあります。
 「③楽曲を譜面通りに奏でられるようになった」の意味ではあまり用いられないでしょうか。
 「譜面通りに吹くだけじゃ、音楽にならないんだよ!」と怒られることさえありますから。
 傍線部と選択肢を見るだけでは、この問題は解けません。
 場面全体をふまえましょう。
 さらに傍線部の「つまり」にも注意しましょう。
 「つまり」は言い換えですから、「つまり」の前後は「=(イコール)」の関係です。

 克久はばらばらだった音が、一つの音楽にまとまる瞬間を味わった。
    ∥
 枯れ草の匂いがしたのである。入り陽の光が見えた。
 大きな哀しみの中に自分がいるように感じた。
    ∥
 つまり「音が音楽になろうとしていた」

 演奏から、具体的イメージがわき、感情がわきあがってきます。
 それを、選択肢①では「具象化した感覚や純化した感情」と言い換えています。
 ①が正解です。
 「各パートの音が融け合い」も、本文の「ばらばらだった音が、一つの音楽にまとまる」と対応してます。

 問2を間違えた人は、
 1 場面で解くという意識が欠けている
 2「具象化」が何のことかわからなかい
 3「つまり」をチェックしていない
が、原因のはずです。123のような状態の人を専門用語で「テキトーに解く人」とよんでいます。


問3 傍線部B「怒られるたびに内心で『ちゃんとやってるじゃないか』とむくれていた気持ちがすっかり消えた」とあるが、それはなぜか。その理由として最も適当なものを選べ。
 ① 日々の練習をきちんと積み重ねているつもりでいた一年生だったが、地区大会で他校の優れた演奏を聴いて、めざすべき演奏のレベルが理解できたと同時に、まだその域に達していないと自覚したから。
 ② 地区大会での他校の演奏を聴いて自信を失いかけた一年生だったが、演奏を的確に批評するOBたちが自分たちの演奏を音に厚みがあると評価したので、あらためて先輩たちへの信頼を深めたから。
 ③ それまでばらばらだった自分たちの演奏が音楽としてまとまる瞬間を地区大会で初めて経験した一年生は、音と音楽との違いに目覚めると同時に、自分たちに求められている演奏の質の高さも実感したから。
 ④ 地区大会で他校のすばらしい演奏を聴いて刺激を受けた一年生は、これからの練習を積み重ねていくことで、音楽的にさらに向上していこうという目標を改めて確認し合ったから。
 ⑤ 自分たちとしては十分に練習をしてきたつもりでいた一年生だったが、地区大会での他校の堂々とした演奏を聴き、自信をもって演奏できるほどの練習はしてこなかったと気づいたから。

 これを解くためにも、場面を把握する必要があります。
 問6で問題にもなっていますが、お話は時系列どおりには進んでいません。
 第一場面も含めて整理すると、

 a 地区大会前日    克久の「音→音楽」体験
 b 地区大会翌日以降  克久含む一年生……先輩の言うことを聞くようになる
 c 地区大会当日    他の中学校の演奏を聴く
              →(克久の)「胸のうさぎ」が躍り上がる音
              →部員達……「負けた」
              →一年生たち……自分たちの未熟さを思い知る
 d 地区大会の夜    克久と百合子(母)のやりとり
 e 地区大会翌日以降  一年生……先輩に叱られなくなる

 時の流れは、a→cd→beですね。
 b(結果)の理由は、cd(原因)にあるはずです。

 正解は、①「地区大会で他校の優れた演奏を聴いて、めざすべき演奏のレベルが理解できたと同時に、まだその域に達していないと自覚したから」しかありません。

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津島祐子「水辺」(センター2001年)④

2020年05月24日 | 国語のお勉強(小説)
津島祐子「水辺」(センター2001年)④


補充記述問題(リモート添削)

設問「歪んだ、こわれやすい、透明なひとつのかたまり」とは、何をこのように表現しているのか。六十字以内で記せ。



S君より

「夫との別居で娘との生活に責任を持ち続けなければいけない不安がある一方、その生活が崩れることなく平穏が続いている生活。(58字)」

 自分でも答えと照らし合わせると、最後で無理矢理終わらせた感じがしました。(一応、「平穏」云々自体は49行目〜51行目から取り出しました)
 思考の順としては、「歪んだ、壊れやすい」=不安、これからの怖れ ↔「透明な一つの塊」=新しい生活が根付き、平穏? といった具合で、取り出しました。
 その思考に間違いがあれば教えてください。
 主人公↔世間 の関係は解答に盛り込んだ方が良かったでしょう



返信1

傍線部を説明するには、
 ①傍線部そのものを見る
   → 求められているのは何か? 何を言い換えればいいのか?
 ②傍線部の前後を見る
   → 指示語、SVO、係り受けなどに注意
 ③傍線部を含む段落・場面を見渡す
   →「=」「←→」のひとかたまりがないか
 の三つが大事です。これは評論、小説まったく同じですね。
 ○○くんは、①の意識はあり、言い換えるべき「要素」をおさえています。
 ③も意識できてます。
 ②は、補問の傍線部だけならとくに問題になりませんが、「=」部分のもう一つの「かたまり」には「愛着を持」つとつながっているのはチェックでしょう。

「歪んだ、壊れやすい」
 →言い換えるとして「不安定」はすぐ見つかるけど、もう一声ほしくないですか?
「透明なひとつのかたまり」
 →=「新しい生活」のことだけど、もう一声ほしくないですか?

「歪んだ」は、世間からは認められにくい家族の形式であると、「私」が意識していることを表現しているのでしょう。
 これを思いつくには、やはり「私←→世間」の意識があるといいと思います。
「透明」って、もう少し「+」にしたいです。まして「かたまり」は「愛着」だし。
 周りからは認めがたいものであればあるほど、人はそれにこだわってしまうこともありますよね。

 ○○君の答案を直すとしたら、「+」「-」の方向性をもっと強く出すということになります。
 解法①の意識はあるのですが、言葉のニュアンスを解答にもっと表したいと思って、これから勉強したらいいと思います。

夫との別居で娘との生活に責任を持ち続けなければいけない不安がある一方、
 → 夫の別居という、周りからは認めてもらえない、不安定な生活でありながら
その生活が崩れることなく平穏が続いている生活。
 → 娘と二人だけの平穏で大事にしていきたいと願ういまの生活。



S君より(2)

 ありがとうございます。改めて傍線部内の対立関係(マイナスとプラス)の相互関係を見直しました。
 主人公の葛藤の中核、主人公の心中のプラスマイナスは、傍線部に集約されている感じがしますが、だからこそ、答えはプラス、マイナスの差異→でも娘との生活に愛着がある、大事にしていきたいという、言葉のニュアンスをしっかり出さなければいけない解答が求められている。
 プラスを強く出す、マイナスを強く出す。そうするために、もう少し強い調味料=ニュアンス を考えてみる。
今後意識してみることとして、こんな理解で大丈夫でしょうか。



返信2

 そうですね、そんな意識をもち、とにかく傍線部をしっかり説明しようすべきなのでしょうね。
「傍線部」には、出題者の強い気持ちが表れてます。
 いろいろ出題したい箇所のなかから、やっぱここかな、この言葉のニュアンスをどの程度読み取ってくれるのかな、と考えるものです。
 試験問題というのは、書かれた文章と読む人の二方向ではなく、出題者という存在を意識しないといけないのでしょう。

解答例
 夫との別居という周囲からは認めてもらえない不安定な生活だが、
 娘と二人だけの平穏で大事にしていきたい今の暮らしの形のこと。

80字パターン
 母と娘だけで生きていくという、不安定で、世間から受け入れ難い形ではあるが、
 自分の気持ちに素直に従い大切にしていきたいと感じられる今の暮らしぶりのこと。
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堀江敏幸「送り火」(センター2007年)③

2020年05月21日 | 国語のお勉強(小説)
  堀江敏幸「送り火」(センター2007年)③


 陽平さんにそれを話すと、墨はね、松を燃やして出てきたすすや、油を燃やしたあとのすすを、膠(にかわ)であわせたものでしょう、膠っていうやつが、ほら、もう、生き物の骨と皮の、うわずみだから、絹代さんが感じたことは、そのとおり、ただしい、と思いますよ、と真剣な顔で言うのだった。生きた文字は、その死んだものから、エネルギーをちょうだいしてる。重油とおなじ、深くて、怖い、厳しい連鎖だね。


 大人になれば、ものの見方は変わります。
 さまざまな経験を積み、新しい知識を手に入れるからです。
 陽平さんは、絹代さんにとって、ものの見方を変えてくれる存在です。
 「主役(主人公)」と「対役」は、敵対関係でとらえるよりも、主役を変化させうる存在、主役に影響を与える存在が「対役」だととらえるといいと思います。
 物語のパターンで説明すると、陽平さんは「賢者」とか「贈与者」とよばれる存在なのです。
 対役によって主役が変化することを、基本的に「成長」とよびます。


 なぜだろう、絹代さんはそのときはじめて、陽平さんのこれまでの人生を、あれこれ聞いてみたいとつよく思った。ほとんど毎日顔を合わせて食事をしているこの不思議な男の人の過去と未来を知りたい気持ちがどんどんふくらんで、それを押しとどめることができなくなっていった。どこで生まれて、どこで育って、どんな子ども時代、どんな青年時代を送ったのか。教室を閉めたあと、無理に頼んで持ってきてもらった古いアルバムを居間で開きながら飽きもせずに質問を重ねていると、これまで陽平さんを知らずにいたことがとても信じられなかった。絹代さんの横顔にときどき視線を投げながら、陽平さんは遅くまで、質問のひとつひとつに、あまりにまじめすぎて逆にはぐらかされているのではないかと聞き手が不安になるほど丁寧な説明をくわえた。そういう陽平さんの顔を、今度は絹代さんが見つめているのだった。


 自分にないものをもっている存在、自分にないものを与えてくれる存在に、人はこころ惹かれます。
 惹かれはじめると、もっと知りたくなります。
 西田幾太郎という、日本で一番えらいクラスの哲学者が、「愛は知の極点である」と言いました。「愛と知は決して別種の精神作用ではない」と。
 誰かのことが気になる、もっと知りたい、どんなことでも知りたいという思いが愛につながる感覚は理解できますね。


 絹代さんの気持ちが固まったのは、翌年、あんなに楽しそうに子どもたちと接していた母親が心臓発作で急死して、その喪が明けたさらに翌年の正月のことだ。全員参加の書き初め大会が教室で開かれ、四文字以内で好きな言葉を清書し、それをみんなに披露しながらひとりずつ新年の抱負を述べたとき、陽平さんは最後にすっくと立ちあがって一同を見渡し、当時大変な人気があったテレビ番組にひっかけて「絹への道」と書いた紙を掲げると、シル、ク、ロード、です、これが、ぼくの、今年の、抱負、です、と例の口調でそう読みあげておおいに笑いを取ったのだが、子どもたちには洒落(しゃれ)にしか聞こえない話で陽平さんがなにを言おうとしているのか、「初日の出」だなんてありきたりな言葉でお茶をにごした飛び入り参加の絹代さんにはすぐに理解できた。頬(ほお)が少しほてった。D有名な女優さんとおなじだねえと大人たちからいくら褒められても嬉しくなかった名前を、陽平さんは、あたたかい、人肌に触れるために生まれてきたなめらかな布地に、一瞬で変えてくれたのである。


問5 傍線部D「有名な女優さんとおなじだねえと大人たちからいくら褒められても嬉しくなかった名前を、陽平さんは、あたたかい、人肌に触れるために生まれてきたなめらかな布地に、一瞬で変えてくれたのである」とあるが、ここに至るまでの「絹代さん」の心の動きはどのようなものと考えられるか。


 正解選択肢が、本文に直接書かれていない言葉が用いられているので、難しい設問と言えるでしょう。
 与えられた情報、つまり小説の描写から、主人公の心情を想定するという作業が必要です。
 「ここに至るまでの『絹代さん』の心の動きはどのようなものと考えられるか」という問われ方に注意してください。
 まず、「ここ」をまとめましょう。
 「絹代さんの気持ちが固まったのは … 正月のことだ」とありますね、何があったのですか。
 みんなで書き初めをする。
 陽平さんは「絹への道」としたため、「今年の目標だ」とみんなの前で宣言する。
 絹代さんは、自分への求婚だと一瞬にして気づく。
 そして、蚕を連想させるために、たとえ「田中絹代(知らないよね?)と同じじゃないか、素敵な名前だねぇ」と言われたところで、今ひとつ好きになれなかった「絹代」の「絹」が、なめらかな生地としての「絹」にイメージが変わったと絹代さんは感じるのです。
 もちろんそれは、この時点で、二人の間に愛情が育まれていたからでもあります。
 直前の部分の、墨の由来やら陽平さんの来し方を語り合っている場面でそれはわかります。
 自分にないものを与えてくれる人に人はひかれる。
 知りたいという強い思いが愛を生む、という場面。
 その前提がなかったら、「絹への道」が求婚だとは言い切れなくなりますよね。
 「勝手に何書いてんの? きもっ!」て。
 ちなみに、子供達は誰も気づかなかったのでしょうか。
 これはまったく想像にすぎませんが、普段から二人の様子を見ていて、「絹への道」という書き初めを見て頬を赤らめている絹代さんに気づいたら、小学校高学年の女子なら、「ははあん、やっぱりね」となるのではないでしょうか。男子はぜったい無理でしょうが。

 「絹への道」 … ぼくの、今年の、抱負、です、
   ↓
 自分への求婚だと気づく
   ↓
 頬(ほお)が少しほてった
   ↓
 気持ちが固まった
     ∥
「絹代」… 蚕に結びつく・有名な女優と同じと言われてもとくにうれしくない
   ↓
「絹代」… (あなたは)あたたかい、人肌に触れるために生まれてきたなめらかな布地
   ↓
 頬が少しほてった
   ↓
 気持ちが固まった

 という構造です。なので、非常にエロチックに解釈しようと思えば可能な表現でもありますね。
 さすがにそういう選択肢は書けませんが。

 ①「陽平さんが墨の由来とともに名前の意味を教えてくれ、 … シルクロードになぞらえた愛情告白をしてくれたため」×
 ② 墨の匂いに関連した生き物の死と人間の営みとのつながりを教えてくれた陽平さんから、
   書き初めに託された愛情表現を受けたことで、
   好きになれなかった名前とともに自分のことも肯定的に受け止められるようになり、
   陽平さんと一緒に生きていこうと考えている。〈 正解 〉
 ③「陽平さんの … 書き初めによって、悠久の歴史を想起させるシルクロードとも結びつくものだと気づき」×
 ④「陽平さんのまっすぐな生き方を知ることによって」×
 ⑤「ようやく自分の名前の意味を肯定的に受け止めることができるようになったので」

問5を間違える人は、次の3つが原因です。
 1、本文の因果関係を読み取れない場合
 2、選択肢の構文を把握できない場合
 3、言い換えがわからない場合


問6 この文章における表現の特徴について説明したものとして適当なものを、次の①~⑥のうちから二つ選べ。

 表現についての問いは、三つのチェックポイントがあります。
  a どのような内容が
  b 何という表現技法によって
  c どう効果的に表現されているか
 です。a・b・cのどこかがおかしければ間違いです。
 またはそれぞれのつながり方がおかしければ間違いです。

 ① 「比喩表現を用いて描写されることによって」b○、「『絹代さん』の特異な感性が」a×
 ② 「感覚に訴える表現が多用されることによって」b○、「絹代さんの実感が」a○、「巧みに表現されている」c○
 ③ 「かぎ括弧を用いずに会話の内容が示されることによって」b○、「現実感が生み出され」c×、「人物が生き生きと描き出されている」b→c×
 ④ 「回想の形で語られる中に現在形の表現が挿入されることによって」b○、「臨場感が強められ」c○、「登場人物の心理状態と行動との結びつきが明示されている」b→c×
 ⑤ 「読点で区切りながら陽平さんの話し方が描写されることによって」b○、a「その人物像が」「浮かび上がるように工夫されている」c○
 ⑥ 「人物同士がふだん呼び合っている名称」a×、「平仮名書きが多用されることによって」b△、「大人の世界に子どもの視点が導入され」c×、「物語が重層的に語られている』c×。

 よって、②と⑤を選びます。
 表現の問題を解くためには、表現技法の知識が必要です。
 たとえば「擬人法」とは何かを知らなければ、どういう効果があるのかもわからないですよね。
 次のような観点をまず意識してみましょう。
  1 視点・語り手  2 比喩・象徴  3 時系列  4 文体
 個々についてはこれから随時勉強していきます。
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