石井洋二郎「芸術作品に客観的価値はあるのか」(埼玉県高校入試2017年)⑤~⑧段落
⑤ 〈 となると 〉、〈 彼らの作品に高い価値が付与される社会的なメカニズム 〉がどこかで作用したと考えざるをえない。ここでピエール・ブルデューの議論を参照してみよう。彼は、次のように述べている。
⑥ 芸術作品の価値の生産者は芸術家なのではなく、〈 信仰の圏域としての生産の場 〉である。それが〈 芸術家の創造的な力への信仰 〉を生産することで、フェティッシュとしての芸術作品の価値を生産するのだ。
⑦ 文脈ぬきでいきなり読むと若干わかりにくいかもしれないが、「信仰の圏域としての生産の場」とは要するに、作品の作り手が組み込まれている人間関係や社会的制度の総体のことである。ブルデューによれば、芸術家自身がみずからの意志と能力だけで独自に価値を創造するわけではない。そうではなく、彼(女)が身を置いている「生産の場」の〈 さまざまな力学作用 〉の結果として、その芸術家が「創造的な力」に恵まれた特殊な存在であるという共通の認識(客観的な根拠をもたないがゆえに、ブルデューはこれを「信仰」と呼んでいる)が形成され、その作品が一種の「フェティッシュ」(無条件の崇拝対象)として〈 価値を付与される 〉というのである。
⑧ 絵画についていえば、この「生産の場」は画家以外に美術評論家、ジャーナリズム、絵画愛好家、画商、美術館、一般観衆、等々によって構成されている。たとえばゴッホは生前はまったく無名であったが、死後、一部の美術評論家たちがその作品を再評価しはじめると、絵画愛好家たちはこれを入手したいという欲求を抱く。すると画商たちが需要の増大に応じて彼の作品の値段をつりあげ、裕福な個人や権威ある美術館がこれを高額で買い取るようになる。その結果、ゴッホはそれだけの評価に値する偉大な芸術家であるという共通了解(信仰)が、一般観衆のあいだに形作られていく。そしていったん名声が確立すると、以上のような価値創造のサイクルが加速度的に拡大し、彼の絵は世界的な有名画家の貴重な作品(フェティッシュ)として認知されるに至る。もしかすると数万円でしか取引きされなかったかもしれない作品が数十億円で売買されるという手品のような現象は、このようにして可能になるのである。
Q14「となると」との「と」はどういうことを指しているか。60字以内で記せ。
A14 数十億円で売買される絵画だからといって、数十億円に換算できる客観的な価値が内在しているのではないと考えられること。
「彼らの作品に高い価値が付与される社会的なメカニズム」について
Q15「彼ら」とは誰か。5字で抜き出せ。
A15 著名な画家
Q16「メカニズム」の意味を記せ。
A16 仕組み
Q17 この「メカニズム」を、具体例を用いて述べている段落(形式段落)はどの段落か。その最初の五字を書き抜きなさい。
A17 絵画につい
Q18 このことを、筆者は比喩的にどう表現しているか。8字で抜き出せ。
A18 手品のような現象
Q19「信仰の圏域としての生産の場」とは、端的にいって何のことか。二文字で抜き出せ。
A19 社会
Q20「芸術家の創造的な力への信仰」と同じ内容を次の7段落から30字以上35字以内で抜き出せ。
A20 その芸術家が「創造的な力」に恵まれた特殊な存在であるという共通の認識
Q21「さまざまな力学作用」をもたらす主体とは、具体的にどのような人たちか。該当する部分を抜き出せ。
A21 美術評論家、ジャーナリズム、絵画愛好家、画商、美術館、一般観衆
「価値を付与される」について
Q22 その元になるものは端的にいって何か。7字で記せ。
A22 芸術家への信仰
Q23 価値が付与される一連の流れを筆者は何となづけているか。9字で抜き出せ。
A23 価値創造のサイクル
⑤彼らの作品に高い価値が付与される社会的なメカニズム
⑥芸術作品の価値の生産者
芸術家ではなく
↑
↓
信仰の圏域としての生産の場
↓
芸術家の創造的な力への信仰を生産
↓
フェティッシュとしての芸術作品の価値を生産
∥
⑦ 芸術家自身がみずからの意志と能力
↑
↓
作品の作り手が組み込まれている人間関係や社会的制度の総体
↓
その芸術家が「創造的な力」に恵まれた特殊な存在であるという
共通の認識
↓
「フェティッシュ」(無条件の崇拝対象)として価値を付与される
⑧絵画について
ゴッホは偉大という共通了解(信仰)
↓
貴重な作品(フェティッシュ)として認知
↓
数十億円
∥
価値創造のサイクル
∥
手品のような現象
⑤ 〈 となると 〉、〈 彼らの作品に高い価値が付与される社会的なメカニズム 〉がどこかで作用したと考えざるをえない。ここでピエール・ブルデューの議論を参照してみよう。彼は、次のように述べている。
⑥ 芸術作品の価値の生産者は芸術家なのではなく、〈 信仰の圏域としての生産の場 〉である。それが〈 芸術家の創造的な力への信仰 〉を生産することで、フェティッシュとしての芸術作品の価値を生産するのだ。
⑦ 文脈ぬきでいきなり読むと若干わかりにくいかもしれないが、「信仰の圏域としての生産の場」とは要するに、作品の作り手が組み込まれている人間関係や社会的制度の総体のことである。ブルデューによれば、芸術家自身がみずからの意志と能力だけで独自に価値を創造するわけではない。そうではなく、彼(女)が身を置いている「生産の場」の〈 さまざまな力学作用 〉の結果として、その芸術家が「創造的な力」に恵まれた特殊な存在であるという共通の認識(客観的な根拠をもたないがゆえに、ブルデューはこれを「信仰」と呼んでいる)が形成され、その作品が一種の「フェティッシュ」(無条件の崇拝対象)として〈 価値を付与される 〉というのである。
⑧ 絵画についていえば、この「生産の場」は画家以外に美術評論家、ジャーナリズム、絵画愛好家、画商、美術館、一般観衆、等々によって構成されている。たとえばゴッホは生前はまったく無名であったが、死後、一部の美術評論家たちがその作品を再評価しはじめると、絵画愛好家たちはこれを入手したいという欲求を抱く。すると画商たちが需要の増大に応じて彼の作品の値段をつりあげ、裕福な個人や権威ある美術館がこれを高額で買い取るようになる。その結果、ゴッホはそれだけの評価に値する偉大な芸術家であるという共通了解(信仰)が、一般観衆のあいだに形作られていく。そしていったん名声が確立すると、以上のような価値創造のサイクルが加速度的に拡大し、彼の絵は世界的な有名画家の貴重な作品(フェティッシュ)として認知されるに至る。もしかすると数万円でしか取引きされなかったかもしれない作品が数十億円で売買されるという手品のような現象は、このようにして可能になるのである。
Q14「となると」との「と」はどういうことを指しているか。60字以内で記せ。
A14 数十億円で売買される絵画だからといって、数十億円に換算できる客観的な価値が内在しているのではないと考えられること。
「彼らの作品に高い価値が付与される社会的なメカニズム」について
Q15「彼ら」とは誰か。5字で抜き出せ。
A15 著名な画家
Q16「メカニズム」の意味を記せ。
A16 仕組み
Q17 この「メカニズム」を、具体例を用いて述べている段落(形式段落)はどの段落か。その最初の五字を書き抜きなさい。
A17 絵画につい
Q18 このことを、筆者は比喩的にどう表現しているか。8字で抜き出せ。
A18 手品のような現象
Q19「信仰の圏域としての生産の場」とは、端的にいって何のことか。二文字で抜き出せ。
A19 社会
Q20「芸術家の創造的な力への信仰」と同じ内容を次の7段落から30字以上35字以内で抜き出せ。
A20 その芸術家が「創造的な力」に恵まれた特殊な存在であるという共通の認識
Q21「さまざまな力学作用」をもたらす主体とは、具体的にどのような人たちか。該当する部分を抜き出せ。
A21 美術評論家、ジャーナリズム、絵画愛好家、画商、美術館、一般観衆
「価値を付与される」について
Q22 その元になるものは端的にいって何か。7字で記せ。
A22 芸術家への信仰
Q23 価値が付与される一連の流れを筆者は何となづけているか。9字で抜き出せ。
A23 価値創造のサイクル
⑤彼らの作品に高い価値が付与される社会的なメカニズム
⑥芸術作品の価値の生産者
芸術家ではなく
↑
↓
信仰の圏域としての生産の場
↓
芸術家の創造的な力への信仰を生産
↓
フェティッシュとしての芸術作品の価値を生産
∥
⑦ 芸術家自身がみずからの意志と能力
↑
↓
作品の作り手が組み込まれている人間関係や社会的制度の総体
↓
その芸術家が「創造的な力」に恵まれた特殊な存在であるという
共通の認識
↓
「フェティッシュ」(無条件の崇拝対象)として価値を付与される
⑧絵画について
ゴッホは偉大という共通了解(信仰)
↓
貴重な作品(フェティッシュ)として認知
↓
数十億円
∥
価値創造のサイクル
∥
手品のような現象