3学年だより「弱者の戦略(2)」
自宅浪人しながら早稲田大を目指していた笠見未央氏には、過去問こそが勉強の指標だった。
過去問を解き、出題の形式や傾向を知る。自分の足りない部分を見つけ、それを必要な分だけ補っていく。
~ 弱者が合格最低点をGETするには、敵を知らなければならない。
長嶋茂雄が監督をやっていた頃の巨人軍は、他球団から4番打者を集め、最強の布陣をとっていた。その巨人軍に勝つために、相手の弱点を徹底的に分析する「ID野球」という弱者の戦法をとったのは、野村克也監督率いるヤクルトだった。
野村監督と古田敦也捕手は、相手を裸にするためにミーティングやビデオ分析を重ね、巨人と互角以上の戦いを進めた。過去問中心主義は、弱者のゲリラ戦法である。敵の分析こそが命だ。
偏差値は過度に信じないほうがいい。イチローはシーズン目標を打率重視の「首位打者」ではなく「200本安打」に置いていた。「首位打者」はつねに他人の成績を気にしなければならないが、逆に「200本安打」は数字の積み重ね、自分との戦いで、「首位打者」よりは安定した目標になる。打率は下がるが、安打数は減らない。
偏差値は他の受験者の動向に左右される数値である。受験生も、偏差値が基準になる模試の判定に左右されていては、精神が参ってしまう。「過去問で合格最低点を確実に取る」というシンプルな目標は、受験生に安心感をもたらす。 (笠見未央『難関私大・文系をめざせ!』高陵社書店) ~
反復練習で脳そのものを改良し、志望校の問題に応じた対策をとる――。
筋力や技を身につけて身体を改良し、試合に勝つための戦略を練る――。
勉強(趣味ではない)と運動とは、ほぼ同じ作業といえるのではないだろうか。
当然、何の競技に出場するか、どんな相手と闘うかで、トレーニングの方法や内容は変わる。
大谷翔平選手のような身体と運動能力をもっていれば、おそらくどんな競技でも一流になれるだろうが、われわれは何百年に一人の逸材ではない。
「ぎりぎり」勝つための戦略が必要だ。
弱者の戦略としては、練習量も大切だ。
「ランチェスター法則」という軍事作戦の戦略を公式化した考えがある。
その第二法則は、「攻撃力=兵力数2×武器性能」と表されるが、現在は企業活動の戦略にも応用されている法則だ。成果は、時間の二乗×能力で表されるという。
そして人生の成果を「y=ax+b」で表すとすると、
「y(人生)=a(素質)x(時間)2+b(過去の実績)」になる。
成果を出したかったら「倍の努力をしろ」という言い方がある。
この法則にのっとれば、時間は2乗して考えればいいので、たとえば2時間やっている人の倍の成果を出そうと思ったら、2×√2=2.828時間、つまり3時間弱やればいい。すると2時間やっている人の倍の成果が出ることになる。
3時間半やれば6時間分の、4時間やれば実は8時間分の成果があがっているのだ。