台風10号からかなり離れた近畿地方で線状降水帯が発達して大雨を降らせている。
お天気番組では、気象予報士がきちんと説明しているが、新聞などに掲載される地上天気図では、この線状降水帯の存在を確認できない。
言い換えれば、普通の低気圧や前線の雨なら、天気図が読めれば素人でも判断できる。
ところが、この現象は、素人と気象予報士の違いを見せつける格好の材料なのだ。
だから私を含めた気象予報士は、喜々としてこの現象を説明する。
この現象、上空5000mほどの「寒冷渦」が原因なのだが、それは地上天気図では小さな低気圧でしか表現されないのだ。
右に500hPaの高層天気図(気象予報士のアンチョコ)を示す。
できたら、新聞などの地上天気図と見比べてほしい。
図中の目立つ数値は高度で、5700mの太い等高線が目安になっている。
右下の小さめの円は、台風の上層部。そして左上の大きな楕円が、上空の寒冷渦。
すなわち、台風は地上で猛威を振るう擾乱(ジョウラン:大気の乱れ)だが、上空ではけっこう大人しい。
それに対して、地上では小さな低気圧でしかないが、寒冷渦は上空では台風の数倍の大きさだ(偏西風からの分離渦なので本来は偏西風の力)。
さて、線状降水帯の原因だが、風向に注目してほしい(風向を示す矢羽根は地上天気図と同じ)。
台風は反時計回りの風で、暖室な空気を南東から北西方向に運んでいる。
一方、寒冷渦は、上空の寒気を北西から南東方向に運んでいる。
地上付近の暖室空気(軽いから上昇する)と、上空にある寒冷空気(重いから下降する)が、水平的にも鉛直的にも、すなわち3次元的にぶつかっているのだ。
その衝突面の帯状の場は、大気が上が重たく下が軽い=不安定で激しい上昇気流(積乱雲)が発生し続けることになる。
これが線状降水帯(積乱雲の帯)で、紀伊半島がそこにあたる。
寒冷渦は停滞性なのだが、台風は北に移動を始めている。
なのでこの線状降水帯も、昨年の関東のように居座るすることはなく、じきに解消されるだろう。
それが救いだ。