「メンタリスト」と称する人が墓穴を掘って、世間からの逆風を受け、その”専門”知識の浅さまでやり玉に上がっている。
その彼、さすがに「サイコロジスト」(心理学者)とは名乗っていないものの、素人相手に心の専門家※を自称して、一世を風靡していたらしい(私も名前だけは聞き及んでいた)。
※:自称専門家には「心理研究家」と称する人もいる。
実際、臆面もなくハッタリかます性格傾向というのがあるが、ここではもっと一般的に、誰にでも該当しそうな心理として「クリューガー・ダニング効果」を説明したい。
これは、中途半端に詳しくなると自信過剰になり、さらに深く追究すると今度は自信がなくなってしまうという、逆説的な認知バイアスをいう。
まず、自分が知らなかった世界に入りこむと、「知らなかった、そうだったのか!」という感じで新鮮な知識がどんどん入ってきて、自分が今までとは一段違った、いっぱしの”通”になった気になる。
この段階で、周囲に得意げに知識を披露して、自信過剰が促進される。
心理学科の学生でいうと、フロイト理論なんかをある程度勉強した段階で、他人の無意識(本人が自覚していない深層の感情)とやらを頼まれてもいないのに解釈したりする(あるいは健常者をDSM-5※に当てはめようとする)。
※:アメリカ精神医学会の診断マニュアル第5版。日本でも使われている。
なのでこの段階の心理学科の学生は、他学部の学生から嫌われる。
この段階は、素人の物知りレベル以上ではない。
ところが、さらに専門の勉強が進み、大学院を経て、いっぱしの研究者になると態度が逆になる。
研究者というのはその学問領域を推し進める側に立つべき存在なので、勉強を重ねて既知の世界を通り抜けて、既知の世界の最先端に立つことになる。
同時に、今まで信じていた理論に、同じ研究者の視点に立って疑問をもてるようにもなる。
前を見れば未知の世界が拡がり、後ろを振り返れば、今まで信じていたものが信じられない状態。
こういう状態なので、自分の専門分野に対して、「これだ!」と自信を持って言えるものが無くなる。
研究者は研究対象が知り尽くされていないから研究を続けているわけだから、心理学の研究者は、人の心が解明されていないことを一番自覚している人たちだ。
ところが、世間は、自信たっぷりに断定的に話す人と、自信なさげに「まだよく解っていない」と話す人とでは、断然前者を信頼する。
というわけで、「メンタリスト」がもてはやされた現象は、本人の心理傾向だけでなく、世間もそういう人を支持する構造なので、今後も起きることは間違いない。
世間では、いわゆる既存の知識だけの”クイズ王”がもてはやされるから。
ちなみに研究者はひたすら解らない問題を解明することが生き甲斐なので、世間的信頼(人気)を得ることには関心がない。
でもこれでは最先端の知が社会に共有されないので、学術的世界をきちんと世間に説明できる仲介者が必要だ。
残念ながら、日本にはそれができる人が少なすぎる(立花隆はその一人だった)。
なので、私も、気象や防災について、学術的専門分野ではないが有資格者として、その一端をを担えればと思っている。