わが職場は実質春休み前半(3月中旬に集中的に仕事がある)、すなわち”年度末”に入ったので、慰労の温泉宿として、最近は東京からはここ一択になっている熱海の「ホテル大野屋」に泊まる。
前の記事(熱海の大野屋に泊まる理由)に示したように、熱海自体の価値とこの宿の価値が合わさっているため。
その記事で示し忘れた”理由”を1つ追加する。
JR東日本のジパング俱楽部に入っていると、その鉄道で往復200kmを越えると運賃が3割引となる。
片道100kmの熱海はこれにギリギリ該当するので(1つ手前の湯河原は非該当。1つ先の函南はJR東海なので対象外)、往復切符が使える1泊にすると、運賃が1300円ほど安くなるのだ。
これもインセンティブ(誘因)になる。
さて、その熱海に早めに着いたので、まずは街中を歩いて宿に向かう(Googleマップだとホテルまで所要18分)。
熱海の街は一時期の危機を脱しつつあって、あちこちの店に行列ができている。
熱海は規模のある繁華街と温泉宿が渾然一体となっている珍しい所で、旧温泉街の風情と新興の個性ある店が合わされば、街自体が観光対象となろう。
銀座通りを横断して、糸川遊歩道に出ると、そこは今が盛りの梅の木が並んで、内外の観光客が記念写真を撮っている。
さらに進むと市内の名所の1つ「起雲閣」に出る。
起雲閣は東武の創設者・根津氏などが所有した大正時代の別荘で、その後旅館となり、幾多の文豪が訪れた。
幾棟ある和洋建築と庭園が見学できる(610円)。
増築された旅館部分に行くと、ゆったりとした客室で庭に面した空間にソファがある。
もちろん風呂は温泉で、明るい部屋から広い起伏のある庭を望んでの滞在執筆に私もあこがれる。
ここに太宰治が滞在してあの『人間失格』を書いたという。
作品に通底する絶望感とそれを執筆した空間の明るさのギャップに戸惑うが、それがプロの作家なのだろう。
また三島由紀夫は新婚旅行で泊ったという。
そして、ここに元祖「ローマ風呂」がある。
そう今晩泊る大野哉のローマ風呂につながるそれ。
といってもこちらはこぢんまりした箱形の浴槽だが、内側は金色になっていた(写真)。
庭に出ると、和風建築と洋風建築がならんでその横に今晩泊る宿の看板が見える。
その宿にチェックイン。
今回は、最安値のビジネスルームではなく、さっきの「起雲閣」の大宰が泊った部屋と同じ感じのゆったりした和室。
1泊の私は、ここで執筆というわけにはいかず、このブログの記事を書く程度。
ここの宿の温泉は、成分の濃さが日本で珍しい”高張性”に達するレベルで、改めて計測でそれを確認(貸切風呂の黒い湯では電気伝導度が10000μSを超えた※)。
濃度が高いほど、浸透圧が高く、温泉成分が体内に吸収されるのだ。
実に入り甲斐がある。
※:日常使用の伝導度計だと針が飛んで計測不能となる濃度。ナトリウム系の温泉は、このような極端に高い値が出るが熱海でもそう多くない。宿の船室を確認しよう。
夕食は、アルコール飲み放題付きの食べ放題。
昼、熱海の街中を歩いている時は、食べる店がこんなに多いから、次回は素泊りにして食事は外の店という旅もいいかなと思ったが、少なくとも伊東園系列の宿で素泊りという選択肢は”愚行”でしかないことを痛感。
19日追記
翌日、チェックアウトして、近くの「熱海山口美術館」に立ち寄った(1400円)。
ここは体験型の美術館という。
住人がいるマンションの1−2階フロアを改装しての館内なので、真面目な美術館なのかどうか、一瞬入るのに戸惑った。
ところがコレクションは一流で、ルノアール、ピカソ、岡本太郎などの作品があり、重要文化財の仏像もある。
その中で驚いたことに、あの細川護煕元総理大臣が、今では立派な陶芸家となって作品を展示していた。
鑑賞が終わって受付に戻ると、小皿に絵付けの実技が待っていた。
しかも、人間国宝の作品でお茶を飲める(いずれも入館料に含まれる)。
白い小皿にペンで絵を描き、裏にサインを入れ、10分ほど間って(その間に喫茶)、仕上がりを受け取る(写真:思いつきで適当にヒョウタンとキノコを描いた)。
熱海の美術館といえば、まずは MOA美術館(→記事)だが、ここはその次に訪れるべき所だ。