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じい散歩 藤野千夜

齢90の老主人公の日常を描いた小説。その日常は妻の認知症の進行以外に事件らしい事件もなく、日々健康のために散歩をしてその途中で建物などの町の景色を眺めたり、行きつけの店によってちょっとしたものを口にするといった何とも平凡なのだが、それまでの本人の過去と家族の今が凄まじい。戦争、故郷からの家出、会社設立、バブル崩壊、事業の失敗といった本人の波乱に富んだ過去、引きこもりの長男、定職も定まらずお金にだらしない三男など独身中年の息子たち、妻の妄想や入院に伴う老老介護など現代社会の問題のオンパレードのような家族の記述が延々と続く。誰もが多少は巡り合うような困難を凝縮したようで、救いはそれぞれの人が持つべき諦観のみなのかなぁと身につまされる思いにさせられた。(「じい散歩」 藤野千夜、双葉文庫)
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