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クールキャンディ 若竹七海

長編小説というよりは中編小説に近い分量の1冊。女子高生の視点で語られる軽い感じの1編だが、最後に待ち受けるどんでん返しにはかなり驚かされた。これまでに読んだ著者の作品には色々驚かされてきたが、本書には2重3重の驚きがあって、しかもそれがこちらが読みながら少しだけ違和感を感じた部分の回答にもなっていて、やられた感が強い。まだまだ著者の本を読み続けたいが、これまでに読んだ本以外の作品は、ほとんどが「絶版」となっているようで、ネットでも入手が困難なものばかり。残された道は古本屋にいって探すしかないようで、そこまでするかどうかちょっと悩んでいる。著者の新作に大いに期待したい。(「クールキャンディ」 若竹七海、祥伝社文庫)

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さらば愛しき魔法使い 東川篤哉

軽い作品の多い作者の作品のなかでも、このシリーズは特に軽いシリーズというイメージだが、本書もそのイメージ通りの作品だ。魔女が登場するという設定の時点で、重たいテーマを扱うことは難しいだろうが、それを逆手にとって、魔法が使えるならばもっと活躍できるはずだとつっこみたくさせるところが、このシリーズの持ち味になっている。それにしても、本書の最後の作品の唐突な終わり方が大変気になる。続編を期待して良いのか、それとも本書の題名の通りなのか、何か作者と出版社の事情があるのだろうか、そのあたりはよく判らないが、幾つも並行して書かれているシリーズを少し整理していこうという作者の考えであれば、それはそれで良いことではないかとも思う。(「さらば愛しき魔法使い」 東川篤哉、文藝春秋)

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おくのほそ道殺人事件 風野真知雄

帯に時代劇エンターテイメント小説の有名作家の唯一の現代小説とある。著者の時代小説は、ミステリー要素のある江戸時代の奇譚集とも言うべき「耳袋秘帖」シリーズ全7冊を読んだことがあるが、江戸時代とはこういう時代だったのかという小さな発見が随所にあって面白かった。本書も、ミステリーとしては軽い感じだし、淀みない文章と変に凝らない展開で、肩の凝らない読書を楽しむことができた。途中、自分の別の時代劇シリーズのドラマ化の宣伝のような話が出てきて、思わず笑ってしまった。主人公は、歴史研究家と女性刑事のコンビだが、ぜひこれはシリーズ化してほしい作品だ。(「おくのほそ道殺人事件」 風野真知雄、実業之日本社文庫)

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自生の夢 飛浩隆

多分初めて読む作家。SFには詳しくないが、書評誌で「伊藤計劃」と並んで語られているのを見て、なんかすごそうだと感じて、読むことにした。読んでみて、様々な異世界の風景がぼんやりと現れたような錯覚に陥ってしまい、それにまず驚かされた。しかし、その異世界をイメージしようとするのに懸命になってしまい、何だか作品を心から楽しむ余裕を最後まで持てなかったのは残念だった。自分がこういう小説に慣れていないのか、想像力が乏しいのか、おそらく両方かもしれないが、自分の頭のなかでその異世界を再構築するのに忙しく、自分が空想するその異世界が作者が見ている者と同じなのかどうか、最後まで自信が持てなかった。最初の一編について、作者自身があとがきで「アニメの台本として書いた作品」とあったが、それならば初めから具体的なイメージが確定しているアニメをみれば手っ取り早い気がする。SF作家というのは、自分のイメージをあまり言葉で説明しすぎては興ざめだし、そうかといって読者の想像に任せすぎてもイメージが伝わらないから、そのあたりのさじ加減が難しいのかもしれない。そのあたりは、作家と読み手の阿吽の呼吸なのだろうか。SFを敬遠しているとますますSFから遠ざかってしまうと思いつつも、もう手遅れのような気もする。しかし、最後の一編の「人間が地球以外の知的生物に出会えないのは、知的生物というものが短命に終わるからではないか」という問いかけへの答えという作品。すごいことを考えるなぁお思いつつ、SFがその問いかけに対する1つの答えの出し方だとすれば、やはりこのままSFから遠ざかってしまうのは惜しい気がした。(「自生の夢」 飛浩隆、河出書房新社)

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雪の鉄樹 遠田潤子

これまで名前を聞いたこともないし、初めて読む作家だが、本書が少し前から話題になっているので、読んでみることにした。何か異常な家庭と暗い過去を背負った主人公が、何かに耐えながら何かを待っている。そうしたことがうすぼんやりと示されたまま、話は進む。彼は何をして何をされて、そこまで苦しむのか、読み進めるにつれて少しずつ分かっていくが、本当の意味で彼のことをそれなりに理解できるのは最後の最後だ。よくぞここまでと思うようなどろどろした愛憎劇だが、解説を読むと、それこそ著者の真骨頂だという。こうした作家の名前を今まで知らなかったことを恥じると同時に、自分の読書が狭いジャンルに偏っていることを思い知らされた気がした。(「雪の鉄樹」 遠田潤子、光文社文庫)

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冷たい太陽 鯨統一郎

著者の本は昔からちょくちょく読んでいる気がするが、大半は軽いユーモア・ミステリーだった記憶がある。ネットで本書を偶々見つけて久し振りに読んでみることにした。著者の作風をそれなりに知っているつもりなので、最初からどこかに読者を騙す仕掛けがあるのだろうと警戒しながら読み始めて、中盤くらいで「なぜ?」という部分は大方予想がついてしまったが、「誰が?」については最後に謎が明かされるまで全く見当がつかず、完全に作者にしてやられてしまった感じだ。途中、地の文が全くなく会話文だけになる箇所があり、この辺は特に怪しいなどと考えながら読んだのだが、それでもだまされてしまった。事件そのものはごく普通の話だし、取り立ててすごい話ではないのだが、とにかく「誰が?」という部分に関しては作者に脱帽、良い意味で楽しい時間つぶしができたことは良かった。(「冷たい太陽」 鯨統一郎、光文社文庫)

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楽譜と旅する男 芦部拓

出張先で立ち寄った本屋さんで購入した一冊。そのため、全く予備知識もなく、どんなジャンルの本かもわからずに読み始めた。内容は、色々な時代の色々な国の歴史的なエピソードにある音楽が絡んでいたという設定で、その楽譜を巡る不思議な話が語られている。不思議な話ではあるが、何となくありそうな気もする話で、そのあたりの現実と空想のバランスが良いからか、最後まで面白く読むことができた。こうした空想話は、ミステリーと違って、最後の落としどころをきっちりとさせる必要性が弱いので、とにかく読んでいて面白いかどうかがその本の評価の鍵になる。その点、本書は音楽にさほど興味がなくても読ませる内容になっていて良かったと感じた。(「楽譜と旅する男」 芦部拓、光文社)

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骨を彩る 彩瀬まる

書評誌などで、著者の評価や作品ごとの評価が色々分かれているようなので、自分で確かめたくなって、初期の作品を読んでみた。本書を読んで感じたのは、この作品を評価したり、その良さや欠点などを説明するのはとても難しいということだ。本書には5つの短編が収められていて、登場人物が少しだけ重複しているが、話の内容に繋がりはない。5編の共通点は、主人公のそれぞれが、自分が他の人と違う点を意識して、それにどう向き合えば良いのかまだ折り合いをつけないままでいる、ということだ。自分と他者との違いをそのまま受け入れようとする彼らの心の内が静かに読者に迫ってくる。そうした作業を淡々と続ける著者に対して、読者が面白いとか、心を動かされるといった評価をして何かを言うのは、それだけで何だか場違いな気がしてしまうし、ある意味その衝撃度はものすごく大きい。これまでに自分が読んだ著者の作品は全て「東日本大震災」後に書かれたものだったが、本書は震災前に書かれたものだ。その書かれた時期の違いで、明らかに著者の読者への対峙の仕方が変化している。書評の評価のばらつきは、こうした初期の作品に衝撃を受けたかどうかで変わってくるのかもしれないと感じた。(「骨を彩る」 彩瀬まる、幻冬舎文庫)

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シルバーデモクラシー 寺島実郎

団塊の世代の代弁者として団塊の世代を内部から総括する著者の姿勢は、色々な意味で大変参考になるし、次世代への貴重なアドバイスとなるだろう。本書では、1980年、2008年、2015年以降の現在と、3つの時期に書かれた著者の論文を比較しながら読み進めることができるようになっているが、全ての時期に共通しているのは、団塊の世代を「私生活主義」「経済主義」という2つの特性を軸に考察し、その特性が時代の流れにどのように作用し社会を形成してきたかが語られていることだ。民主党政権や猪瀬・舛添都政の失敗は団塊世代の失敗であり、団塊世代はそれを反省も総括もできぬまま、日本は有権者の多くが高齢者の「シルバー・デモクラシー」の時代に突入していく。一貫して、団塊世代の代弁者として次世代に何を残すかという一心で書かれた文章と、このままで良いのかという警鐘が心を打つ。(「シルバーデモクラシー」 寺島実郎、岩波新書)

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ポトスライムの舟 津村記久子

昨年来ファンになってしまった著者の初期の作品。「芥川賞受賞作」とあるので、おそらく著者自身の原点ともいうべき作品だと思うし、出世作でもあるのだろう。これまで読んだ作品は、物語・文体、両方に確かさを感じるものばかりだったし、とにかく読んでいて面白かった。著者の原点には果たして何があるのだろうかと期待しながら読み始めた。本書には2つの中編が収められていて、受賞作は最初の一編で、こちらは仕事での挫折と軽いうつ病を経験したと思われる主人公の再生の物語だ。物語と言っても、ほぼ文章は主人公の一人称のような内容が三人称の形式で語られるという感じで、どちらかというと私小説に近い気がする。この作品自体は、そうした内容が飄々と語られているので、これまでに読んだ作者の作品に近い内容だと感じたのだが、2つ目の作品を読んでビックリした。後の方の作品は、まさに1つ目の作品の前の仕事への挫折の模様が描かれている。挫折というよりは壮絶な会社でのいじめで、しかもその張本人は、それほど極端な人物ではなく、どちらかと言えばどこにでもいそうな人物に過ぎない。そういう状況のなかで、いじめられているのは自分にも責任があるのではないかと、心理的な苦痛をため込んでいってしまう主人公の内面が克明に描かれている。いじめられている子供に「大人になったら」という慰めが何の意味もないことを突きつけられる。こうした壮絶なものが著者の原点にあったのかと思うと、これまでに読んだユーモアの裏に深い悲しみを秘めた作品が一層貴重なもののように感じた。(「ポトスライムの舟」 津村記久子、講談社文庫)

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2017年本屋大賞 反省

今年の本屋大賞が恩田陸「蜂蜜と遠雷」に決定。直木賞とのダブル受賞。芥川賞・直木賞受賞作は圏外と思っていたので、また予想は外れてしまった。自分の一押し作品は6位と振るわなかったが、次点の作品が2位と7位、大穴とした作品が4位と5位でまずまずの評価だったのは、まあ良かったかなという感じだ。受賞作品の様々な音楽を言葉で表現した圧倒的な技量が、全てのことを凌駕したのだろう。この1年は、男性作家が結構頑張ったという気がしたが、結果的には1位から8位まで、3位以外は全て女性作家と、相変わらずの女性優位。今や、時代小説も女性作家の活躍が顕著だし、多少男性優位のSFは読んでいて詰まらない作品が多いし、この傾向は当分続きそうだ。

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血縁 長岡弘樹

著者の最新刊。著者のいつもの作品と同じく、ちょっとしたアイデアを核にした物語のなかで、人間の行動の裏に隠された意外な一面をあぶりだすという独特のスタイルの短編ミステリーが収録されている。本書を読んでいると、「教場」のような大好きなシリーズはあるものの、著者の真骨頂は、物語の展開の意外性ともう一つ、シリーズ化と対極にあるバラエティの豊富さにもあるという気がしてくる。夫々の短編の主人公は、介護に追われる人、警察官、元刑務官など色々な人々だが、夫々に対する眼差しは、温かいと同時にそういう一面もあるんだなぁと思わせるような深さを感じさせる。次の作品を読むのがますます楽しみだが、最近立て続けに作品が刊行されたので、しばらくは新刊が出なくても待っていられる気がする。(「血縁」 長岡弘樹、集英社)

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か「」く「」し「」ご「」と「 住野よる

著者の作品は4冊目。人の心の動きを少し変わった形で察知する能力を持った、あるいは持っていると信じている高校生たち5人の視点で描かれた彼らの日常。これまでの作品の中では、最も青春群像小説というテイストの強い作品で、年配の自分などには戸惑うところも多いが、人の心の中を知りたいと切望しながら行動する彼らの独白には、言いようもない切なさを感じる。「KY」という言葉が知れ渡り、空気を読んで行動することでしか自己表現が出来ない若者の心情が伝わってくる。スクールカースト、いじめといった大きな問題の根底にあるもの、それに囚われた若者の息苦しさ、自分を偽ってキャラクターを演じながらそれを上手にやった後の悲しい気持ち、それらが彼らの信じる特殊能力の源泉だ。いじめといった表面的な社会問題よりもさらに根深いこうした状況を目の当たりにすると暗澹たる気持ちになるが、ふと、最近のアドラー心理学ブームの理由の一端を見たような気がした。(「か「」く「」し「」ご「」と「」 住野よる、新潮社)

 

 

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警察手帳 古野まほろ

警察庁のOBという肩書の著者が書いた警察という組織の解説書。警察官にとっての警察手帳の意味とは何か、警察庁・警視庁・県警本部との関係とはどういうものかなど、一般人が知りたい事柄がほぼ網羅的に取り上げられているので、読んでいてとても面白い。本書を読んで最も驚いたのは、これまで色々な警察小説やミステリーを読んで得た知識をひっくり返すような事実がほとんどないということで、驚くような事実がないということに逆に驚かされた。当然、話を面白くするために色々な誇張はあるのだろうが、やはり警察小説を書く作家は、ちゃんと下調べをして現実に即した記述をしていることに改めて気づかされた気がする。一つだけ、記述のなかでへぇと思ったのは、警察の現場では「所轄」という言葉がほとんど使われないというくだりだ。警察小説やミステリーにはあんなに頻繁に出てくるのに、実際にはほとんど使われない言葉だというのには驚かされた。(「警察手帳」 古野まほろ、新潮新書)

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クローバーナイト 辻村深月

一言でいえば子育て世代の奮戦記だが、父親の育児参加、加熱する保活・お受験・お誕生日会など、最近のテーマを扱っているのがみそで、とても参考になるなぁと一生懸命読んでしまった。おそらく著者自身の子育て体験が執筆の動機になっているのだろう。これを読むと、はた目には異様な世界のようにも見えるし、自分のところはそこまではひどくないと少し安心するようなところもあるのだが、異様だと判っていてもいざ当事者になるとそれに絡め取られてしまうことも良く理解できる、というのが多くの読者の感想なのではないかと思う。はるか昔に育児を終えて、孫のことを心配するような自分にとっても、こうしたびっくりするような実態を知っておくことは決して損にはならないだろうと感じる。自分の家も日本全体ももっと貧しくて、しかも3人兄弟の3番目という境遇の自分にはあまり大切に育てられたという実感がなく、どこか別の世界の話という気がするが、今の世代の人たちが大きな流れに抗えずに苦しんでいるのを目の当たりにするのは辛いものだ。(「クローバーナイト」 辻村深月、光文社)

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