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透明人間は密室に潜む 阿津川辰海

これが著者初めての単行本ということだが、すごい作家が現れたなぁというのが正直な感想だ。突飛な設定と本格ミステリーの組み合わせという短編4つが収められているが、全部の作品とも読んでいて新しい才能に出会っているということを強く感じた。作品の最初に示された過去の名作からの引用文と著者自身によるあとがきによって、著者は作品が出来るまでの手口をあからさまに披露しているが、これは著者の並々ならぬ自信の現れだろう。この作家、色々な才能がありすぎて、これからミステリー作家として活躍してくれるだろうかという心配すらしてしまう。個人的には、裁判員制度とアイドルオタクをコラボさせた「6人の熱狂する日本人」が一番面白かった。(「透明人間は密室に潜む」 阿津川辰海、光文社)
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パリの砂漠、東京の蜃気楼 金原ひとみ

初めて読む作家のエッセイ集。芥川賞を受賞して話題になった時も、何か自分には合わないジャンルのような気がして読まなかったのだが、書評誌で2020年の年間ベストランキングの2位になっていたので、読んでみるチャンスかもしれないと思って読んでみた。内容は、著者のパリでの生活と日本に帰国してからの日々を綴ったエッセイで、自分の精神を削りながら文章を書くことに救いを求める様が胸を打つ。著者が今の世の中の流れに身を委ねることに強い違和感を持つ様は感受性の強い人という言葉だけでは済まないものだし、それを的確に文章で見せてくれる様は理性だけでは文章を書くことができない領域があることを教えてくれる。(「パリの砂漠、東京の蜃気楼」 金原ひとみ、集英社)
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オンライン漫談 月刊ワンコイデ第4号

大好きなパフォーマーダメじゃん小出がオンラインで配信する「月刊ワンコイデ」。彼の横浜にぎわい座の公演は年に数回しかないので、もっと見たいなぁということで先月から見始めて今回が2回目の視聴。先月は「家で発見した昭和のレトロ玩具」を再生させる話、今回は来年廃線になる宗谷本線の冬の姿をとどめる為の取材旅行の顛末記と、緩くて何が飛び出すかわからない内容が楽しい。時間は30分と短くてアーカイブ視聴も可、料金もワンコインなので、とにかく気楽に楽しめるのが嬉しい。今回は、宗谷本線取材の時期が記録的な大寒波と重なってサバイバル感満載、無事で何よりでしたという一言に尽きた。月一回だが次もどんな話が聞けるのか楽しみだ。
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星をつなぐ手 村山早紀

桜風堂ものがたりシリーズの第二作目。若者の本離れやネットショッピングの隆盛によって苦境に喘ぐ出版業界やリアルな本屋さんを舞台にしたお仕事小説で、辺鄙な町の小さな書店で一生懸命に働く若い主人公の奮闘とそれを暖かく支援する様々な人たちが織りなす物語。終始一貫心温まる話なのだが、主人公を支援する近くの文具店やカフェのオーナーが偶然にも出版業界の出身者で、それに加えてその町の町長までもが出版業界出身者という設定はあまりにも出来すぎていて、そういう奇跡でもないとリアルな書店は生き残れないと言っているようで逆に悲しくなってしまう。それでも、小さな書店には思い通りの配本がなされない業界の仕組みとか、書店でサイン会をやることに大変さなど、色々な業界知識やその問題点が物語の中に散りばめられていて、とても為になる一冊だった。ところで、自分もリアルな本屋さんが好きなので、急いで読みたい本でなければなるべく近くの本屋さんで買うようにしているが、小さな本屋さんの店頭には話題の新刊がすぐに並ばないことが多かった。ところが最近のコロナ禍で複合商業施設に入っている大型書店の休業などが相次いだせいか、最近は小さな書店に話題の最新刊が置かれているのを見ることが多くなった気がする。そう考えると、読者としては、やはり町の本屋さんの苦境を救うためにも、本書で書かれているような独特の商慣習とか配本システムを見直して欲しいと思う。(「星をつなぐ手」 村山早紀、PHP文芸文庫)
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ワトソン力 大山誠一郎

近くにいるだけで何故か周囲の人々の推理力を飛躍的に高めてしまういう特殊能力「ワトソン力」を持った主人公という設定の連作短編ミステリー。ひとりの人間がこんなに色々の事件に出くわすというのも不自然な気がするが、すでに「ワトソン力」という設定そのものが荒唐無稽なので、その特殊能力とは別に「事件を引きつける能力」も併せ持っているということなのかもしれない。こうした荒唐無稽な設定とは裏腹に、一つ一つの事件とその真相解明までの推理合戦はとても緻密な本格ミステリーで、推理力が高まった関係者が次々と繰り出す自己流の仮説と、別の関係者によって披露されるそれをひっくり返す新しい仮説の畳み掛けがひたすら楽しい。最後に続編の予告みたいな部分もありこれからまだ色々楽しめそうだ。(「ワトソン力」 大山誠一郎、光文社)
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ブラックショーマンと名もなき町の殺人 東野圭吾

好きな作家の最新作。本業は手品師らしいが癖が強くて謎の多い人物とその姪のコンビが殺人事件の真相を追いかける。畳みかけるような謎の提示とその謎解き、テンポの良い展開は著者の魅力全開といったところ。初めは軽い内容でサクサク読めるかと思ったが、読み始めると予想以上に濃密な文章で、著者の細部へのこだわりも見えてさすがだなぁと感心してしまった。このキャラクターの続編を期待したい。(「ブラックショーマンと名もなき町の殺人」 東野圭吾、光文社)
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落語 三遊亭白鳥独演会

コロナで延期になっていた5月16日独演会の待ちに待った代替公演。会場は横浜にぎわい座。コロナ前の販売チケットがそのまま有効ということで久しぶりに間隔を開けずの公演だったが、いつも以上に厳しいコロナ対策のおかげで、何とか安心して観ることができた。演目は、当初予定は「流れの豚次」の第8話、第9話ということだったが、第1話から第5話までのダイジェスト、第7話の変形バージョンと最終話という3本立てに変更されていた。自分としては、どれも聞いたことのある話だったが、全話の流れをおさらいした後にエンディングを聞くという内容がとても有り難かったし、気分的にも豚次伝を聞き終えたという満足感に浸ることができた気がする。また、第7話の変形バージョン(オスカル目線)は「他では絶対にやらない特別サービス」とのことで、お得な気分にしてもらえた。
①オープニング(第1〜5話ダイジェスト)
②流れの豚次伝 第7話 悲恋かみなり山 オスカル目線
③同 最終話 金毘羅代納 獣の花道
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英国ロックダウン100日日記 入江敦彦

ロンドン在住日本人によるコロナでロックダウンになったロンドンでの暮らしを綴った一冊。記述の半分くらいがその日の食事のメニューの紹介というたわいのない内容だが、それがかえってロックダウン下のロンドンのありのままの状況を伝えてくれていて面白い。著者が関西人なので時々関西弁になってしまうのと、著者がいわゆるゲイということでその辺りの記述が散見されてそちらの方が気になってしまうという難点はあるが、総じて当時のロンドンの様子や外から見た日本のことが分かるので、コロナ禍という状況を多角的に理解するのに役立つ内容だった。(「英国ロックダウン100日日記」 入江敦彦、本の雑誌社)
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香港デモ戦記 小川善照

2014年の雨傘運動から現在までの香港での民主化運動を克明に伝える取材レポ。雨傘運動の挫折からコロナ禍での現状、運動の主力となっている若者への取材、それを背後から支援する一般市民の動向などを非常に丁寧に解説してくれる決定版のような一冊だ。「和理非(平和、理性的、非暴力)」「689(前行政長官の蔑称)」「エアコン参謀(デモの現場には赴かずエアコンの効いた部屋でパソコンで運動を支援するオタクたち)」といった独特の用語の解説も多くとてもためになった。特に印象的だったのが香港の民主化活動における日本のアニメファンたちの活動を記した章で、中国を「進撃の巨人」の巨人、自分たちを「調査兵団」に見立てて明るく活動する若者たちのところが面白かった。(「香港デモ戦記」 小川善照、集英社新書)
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落語 風間杜夫の落語会

初めて聴く俳優風間杜夫の落語会。ゲストは柳家喬太郎と寒空はだかの2人。開口一番、柳家喬太郎の1席、風間杜夫の2席すべて古典落語でしかも聞いたことのある話ばかりだったが、今回は風間杜夫の落語を聴くというのが最大の目的だったので残念という感じではなかった。それにしても風間杜夫の落語はある意味本職の落語家以上に落語の面白さを感じさせるものだったし、寒空はだかの漫談もとても緩い感じで絶妙な面白さだった。また、風間杜夫の蒲田行進曲の裏話もへぇそうだったのかという内容で大変面白かった。
①林家やまびこ 転失気
②柳家喬太郎 蒟蒻問答
③風間杜夫 火焔太鼓
④寒空はだか 漫談
⑤風間杜夫 湯屋番
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カラット探偵事務所の事件簿3 乾くるみ

シリーズ3作目ということで、本書には前の2作でこの探偵事務所が解決した事件に関する言及が時々あるのだが、前作を読んでから随分と時間が経っているし、短編集の話一つ一つを覚えているはずもない。でもその言及される過去の事件は現在進行している事件とは直接つながりがないし、その言及も登場人物の説明で使われているだけなので問題なく楽しめる、とそう思っていたら最後の事件のところで、そうした甘い考えを覆す事態に。ええっそうだったっけ?ということで、シリーズの前の2冊を最初から読まなければとこのモヤモヤは解消できないなぁと思うのだが、あいにく手元には第1巻も第2巻もないし。シリーズものの巻をまたぐ仕掛けというのは、著者らしいといえば著者らしいサプライズだが、記憶力の低下している高齢者にはどこまでが今回にサプライズなのかすら判然としないという妙な体験をしてしまった。(「カラット探偵事務所の事件簿3」 乾くるみ、PHP文芸文庫)
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「池の水」抜くのは誰のため? 小坪遊

自然と人間の関わりについて、様々な事例を紹介しながら解説してくれる一冊。良かれと思ってしていることが実は生態系の破壊につながってしまっている事例や、動物愛が強すぎて冷静な判断ができなくなってしまっている行動などが次から次へと紹介されていて、こんなことがあるのかという驚きの連続。庭に鳥のための餌台を置いて餌をやると野鳥同士の細菌の伝染がおきて生態系に良くないとか、SNSに生物の写真をアップする時にはその場所を特定出来ないようにしなければいけないなど、知らなかったことも多かった。また、生態系を守るためには、可哀想といった感情だけでなく、冷静な科学的考察や的確な情報収集が大切だということも教えてくれる。色々な主張がぶつかる問題について、バランス良く冷静に考えさせてくれる内容だった。(「『池の水』抜くのは誰のため?」 小坪遊、新潮新書)
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