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ネコの本音の話をしよう 服部幸

飼い猫の生態に関する蘊蓄本だが、内容のほとんどは、まあそうだろうなぁというレベルの話で驚くようなものではない。ある意味、ネコ好きが自分の感覚を再確認するための一冊という感じだが、それがかえって読んでいて気持ち良い。それでも、キトンブルーとか、ヘミングウェイキャットなど、知らなかった話もいくつかあって、それも楽しめた。文章の間に挿入された子猫の写真は、可愛すぎて反則技に等しい。(「ネコの本音の話をしよう」 服部幸、ワニブックス)

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イスラム国~テロリストが国家を作る時 ロレッタ・ナポリオーニ

イスラーム国に関する本はこれで3冊目。1冊目がジャーナリストが書いたごく最近の話に絞った啓蒙書、2冊目が学者が書いたイスラムの歴史から今を紐解く教養書で、3作目の本書は、少し解説書とは違う本を読んでみようと思って手に取った本だ。内容的には、前に読んだ2冊に比べると理路整然とはしておらずまとまりに欠ける感じだが、「イスラム国」という対象の見方に日本の前冊の本と大きく違う点があるように感じられた。それは、イスラム国の将来について、著者がイスラム国をあまり特別視せず、その可能性について論じている点だ。それを楽観的というのか悲観的というのかわからないが、前の2冊には、いずれも「イスラム国は長い目で見れば消滅する運命にある」「大きな問題ではあるが世界を根底から覆すものではない」という暗黙の了解、イスラム国というのは非常に特殊な存在だという前提のようなものがあり、それに沿って話が進められていた気がする。それに対して、本書は、歴史的にみてイスラム国は決して特殊なものではない、という部分が強調されているように思われる。本書の中で著者は、イスラム国について、「イスラエルの建国と同様の動き」「PLOが国際社会で認められたのと同じように国際社会の一員になる可能性」「古代ローマの周辺諸国への動きとの類似性」「モンゴルのオスマン帝国侵略との類似性」などを論じている。こうした問いかけは、ある程度イスラム国というものを特別視せず肯定的に見ない限りでてこない視点だろう。「カリフ制度」に対するムスリムの夢と期待という視点からの考察も本書ではうまく説明してくれている。また、欧米諸国が、あるテロリストを捕まえるために「最重要人物」として指名手配すると、それがその人物のカリスマ性を高め、その人物の周りに資金が集まり始めるという悪循環があるという考察も、なるほどと思う。また本書を読んでいると、イスラム世界における内紛への他国の干渉は結果的に事態をこじらせるだけに終わっていることが痛感され、やりきれない気持ちになると同時に、「イスラムの内紛はイスラム世界のなかでしか解決できない」ということではないかと思われる。最後に「第3の道」に言及しているが、その部分があまり具体的でないと批判するのはやはり酷だろう。いずれにしても、イスラム国という対象物について、色々な地検を与えてくれると同時に、様々な見方が必要だと思わせてくれた1冊だ。(「イスラム国~テロリストが国家を作る時」 ロレッタ・ナポリオーニ、文芸春秋)

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ヴァンショーをあなたに 近藤史恵

フレンチ・レストランを巡る小さな謎解きミステリーの第2弾。前作もそうだったという記憶があるが、謎の小ささと文章の簡潔さがマッチしていて、読んでいて気持ちが良い。小さな日常の謎にふさわしい本当に掌のようなサイズの文章であるのも良い感じだ。それでいて、短編にありがちな出し惜しみのようなものや、わざと最後を曖昧にして余韻を残すような姑息なこともない。あまりマニアックな薀蓄ではなく、おそらく現実のレストランでも日常的に起こっていることを題材にしている点も好感が持てる。さらに本書の後半では、探偵役の登場人物の過去が描かれた短編が掲載されていて、シリーズとしての面白さも満喫できる。良いところをいくつも挙げられる1冊だが、こうした長所は、作者の物語を紡ぎだすことへの情熱と自信があればこそだ。読者にとって、内容の濃い短い文章を読むことは、それだけでかなり贅沢なことだと実感できる。ただ残念なのは、こうした良本は、その良さゆえにすぐに読み終わってしまうことだ。(「ヴァンショーをあなたに」 近藤史恵、創元推理文庫)

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本屋大賞 予想

昨日の「サラバ!」でノミネート作品を全て読み終えたことになるので、恒例の大賞の予想をしてみたい。今年のノミネート作品をみると、直木賞受賞作品、このミス大賞作品が入るなど、、この賞の性格が「世の中の評判にかかわらず良いと思う作品を発掘する」という当初の趣旨から少しずつ離れてきているように思われる。私自身、今年はノミネート作品10作品のうちノミネート作品発表時に既読が3冊、入手済みで未読が2冊で、ノミネートに促されて読むことになった作品は5冊に止まった、比較的楽に全作品を読めそうな感じで嬉しい半面、本屋大賞を通じて、知らなかった作品や作者に出会うという楽しみが少なかったということで、少し残念な気もした。以下は、それぞれの作品の、大賞候補という観点からの感想。

「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎 それぞれが緩いつながりを持った連作短編集。軽い作品なので、この作品が作者の代表作になるかと言えばそういう気がしないし、過去の作者の受賞しなかったノミネート作品と比較すると、受賞の可能性は低いだろう。

「怒り」吉田修一 いくつものストーリーが並行して語られるよくあるパターンの小説だが、無理やりそれらをまとめあげるというようなこともなく、それでいてある1つのことを強烈に語っている。内容、形式ともに多くの人の心に残る1冊だと思う。

「億男」川村元気 ノウハウ本を読んでいるようで、個人的には好きになれなかった。

 「キャプテンサンダーボルト」伊坂幸太郎 ストーリー・構成・文章、いずれも最高級のエンターテイメント小説だと思う。有力候補に挙げたい。

「サラバ!」西加奈子 忘れられない人物(僕)を創造したという点では素晴らしい傑作だとは思うが、こうした男子の話は少し食傷気味。

「鹿の王」上橋菜穂子 それなりに面白かったが、ストーリーが実際の医学的な知見に縛られ過ぎていて、自由な想像の世界を堪能できなかった。

「土漠の花」月村了衛 リーダビリティーではぴか一の作品。但し、好き嫌いもありそう。

「ハケンアニメ」辻村深月 全く知らなかった世界を垣間見させてくれた点ではこの1冊という気もする。ベスト3には入れたい。

「本屋さんのダイアナ」柚木麻子 この作品というよりも、作者の作品全体に惹かれるものがある。個人的に応援したい1冊。

「満願」米澤穂信 大きな話題になった作品で、よくまとまっていると思うが、個人的には、抜きん出た傑作、1年間の最優秀作品、というところまではいかないと思う。

心に残った作品という意味では「怒り」と「サラバ!」だが、 この2冊の印象の強さは多分に「大作」であるということが関係している気がする。。「サラバ!」は直木賞受賞作なので、やはり本屋大賞にはなじまないだろう。一方、素直に自分の好みを言えば、本命が「キャプテンサンダーボルト」で、次点が「本屋さんのダイアナ」「ハケンアニメ」の2冊だ。キャプテンサンダーボルト」は自分としては本命だが、作者の本は既に受賞しているし、毎年ノミネートされていて、あえて受賞する意義のようなものが感じられない気がする。それらを加味して、例年以上に当たらない気はするが、「怒り」「本屋さんのダイアナ」「ハケンアニメ」の3冊をベスト3としたい。

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サラバ! 西加奈子

一人の人間・家族の半生がここまで精緻に書かれた小説というものを久し振りに読んだ気がする。本書を読んでいて、自分の読書傾向が、どちらかというと「人間」ではなく「事件」とか「出来事」を追いかけることに片寄っていることに、改めて気がつかされた。こうした「人間」中心の本をたまに読むと、それだけで新鮮に感じる。小さな事件の積み重ね、家族の中でどのように自分を位置づけていくか、学校や社会の中でどのように周りとの関係を構築するか、全ては自分にまかされている一方、どうしても逃れられない立ち位置というものもある。登場人物たちの心の葛藤は、おそらく作者自身のコンプレックスを投影したものなのだろうが、読み終えて、もう一度「自分の信じられるものは何か?」「信じられるものを誰かに依存していないか?」を自問自答したくなる1冊だ。(「サラバ!」 西加奈子、小学館)

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怒り(上・下) 吉田修一

冒頭にある殺人事件が記述されていて、その中の犯人がある「漢字1文字」を現場に残す。そこから順番にいくつかの話が立ち上がり、最初のうちは、全くそれぞれの話の関係性が全く見えない。関係のなさそうな話が4つ交互にでてきて、「これがどう最後につながるのだろうか」といぶかしく思いながら読み進めるしかない。ようやく上巻のかなり後の方で、ある一人の人物が別の話の別の人間と同一人物らしいという記述がさらりと出てくる。しかし残りの2つがどのように繋がっていくのかは依然として判らないまま上巻が終わる。ここで一息ついて振り返ると、もしかしたら4つの話は並行して起こっているのではなく、かなり時間的な隔たりがある話が前後しながら書かれているのではないかという気もしてくるし、この話の誰ととこの話の誰が実は一緒の人物なのではないかといったことは、当然ながら考えるのだが、どうもうまくピースが繋がらない。下巻にはいっても、相変わらずそのもやもやした関係がしばらく続き、最後の最後にようやく全体像が明らかになる。最初の犯人が残した1文字がどのような意味を持つのかははっきりとは書かれていないが、全編を通じて書かれているのは、その感じ1文字とは対極にあるものだと判る。「人を信じる」ということがどのようなことなのか、恐ろしい話の中で、その大変さ、大切さがじわりと心にしみてくるような作品だ。(「怒り(上・下)」 吉田修一、中央公論新社)

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猟犬 ヨルン・リーエル・ホルスト

海外ミステリーに詳しい人に薦められて読んだ北欧ミステリーの一冊。緻密な警察小説だが、これが滅法面白かった。真相らしきものは、途中で薄々予想がつくのだが、追い詰められていく主人公が制限の多い環境下で一つ一つ積み上げていく捜査にハラハラしながら、最後まで読んでしまった。錯綜するいくつかの事件が一つにつながった時に、ああこれは北欧ミステリーだったと合点がいく。これが日本のミステリーであればご都合主義ということになるのだろうが、これこそが、人口も少なく、凶悪な事件も少ない北欧だからこそ成り立つミステリーなのだと感心させられた。(「猟犬」 ヨルン・リーエル・ホルスト、ハヤカワ・ミステリー)

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虚像の魔術師 東野圭吾

著者の本は新刊をみつけたら中身を見ずに反射的に買ってしまうという感じだが、本書については、既刊の単行本と内容が一緒で、題名だけが変わっているとは知らずに買ってしまった。帯の部分に「単行本2冊分」という文字は見えたのだが、それが既刊の単行本2冊の内容をそのまままとめたものということだとは全く思わず、ただ抽象的な分量の話だとばかり思ってしまった。悔しいので、文庫化にあたって初出の短編が1つでもないかと思ってみたが、残念ながらそうしたおまけは1つもついていないようだ。中身を見ないで買ったこちらが悪いのは承知の上で言わせて貰えば、文庫化や出版社の都合などで題名を変えるような場合は、「フォントいくつ以上の文字でその旨を記載すること」という業界ルールか何かを作って欲しい。読んだことのある本なので感想は書かないが、「新しい作品が読める」とカラ喜びしてしまった無念だけはここに記しておきたい。(「虚像の魔術師」 東野圭吾、文春文庫)

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寄生獣(1)~(8) 岩明均

20年以上前のマンガが、最近になって、文庫として刊行され、映画化もされたという。どうして今頃になって見直されているのかは判らないが、月に2冊ずつのペースで全8巻が講談社文庫から刊行された。昔読んだことは確かだが内容を全く覚えていないので、4か月かけて読んでみた。ストーリーはやはり古めかしいところもあるが、着想そのものは今読んでも面白い。もしかすると、映像技術の発展が本書の映画化のきっかけとなり、その原作が注目を浴びるようになったということかもしれない。そういう目で、古い作品を色々探してみるのも面白いだろうなぁと思った。(「寄生獣」 岩明均、講談社文庫)

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ラスト・ワルツ 柳広司

大好きなシリーズの3作目だが、今回はやや不満が残った。短編2つに中編が1つということで、そもそも収録された作品が少ないのと、内容的にもこれまでの2作品に比べて衝撃度が小さい気がした。収録作品の少なさは、営業的な理由があるのだろうが、もう少し作品数が充実してから刊行して欲しかった。内容の方は、途中まで凄腕のスパイが活躍するのだが、さらにその上をいく暗闘を見せつける「D機関」のスパイ達、という根幹はこれまでと変わらないが、きれいなお話にまとめあげようとして最後の切れ味の部分が鈍ってしまっているように感じられた。また、3冊目ということで読者としてはどうしてもマンネリを感じてしまうという要素もあるかもしれない。最後の切れ味を保ちつつ、マンネリを防ぐためにこれまでと違うシチュエーションを取り入れるという両立しがたいものを何とか折り合いをつけて、これからも読者を楽しませてほしいと思う。(「ラスト・ワルツ」 柳広司、角川書店)

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土漠の花 月村了衛

非常にスリリングな小説で、寝る前に最初のところをちょっとだけと思って読み始めたのだが、なかなか本を置いて寝る気になれず、困ってしまった。圧倒的に不利な状況のなかでの主人公達の奮闘がとにかく面白く、主人公達と一緒に緊張したりホッとしたり、喜んだり悲しんだりという、まさに小説を読んでいるなぁという実感が満点の作品だ。最後の最後までその緊張感が途切れないところがすごい。こうしたご時世なので「政治的なメッセージ」を読み取ろうとする書評もあるが、本書は純粋に「極限状態に置かれた人間の尊厳」ようなものを描いた作品として、心に残る。(「土漠の花」 月村了衛、幻冬舎)

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億男 川村元気

今年の本屋大賞にノミネートされた1冊で、話題になった処女作「世界から猫が消えたなら」の後の第2作目。作者は、もともとは小説家ではなく、映画のプロデューサーとしては新人どころかすでに有名な大物プロデューサーらしい。手がけた映画のタイトルをみると、小説やマンガを映画化した作品がずらりと並んでいて、知っているタイトルばかりなので驚いてしまった。放送作家の小説など、ジャンルを超えた作り手による小説が流行っているように思うが、そうした作家で好きになれる作家はそんなには多くない。実際、作者の「世界から…」も、世間で話題になるほどには心に響かなかった気がする。そういうことでややハードルの高い心理で本書を読み始めた。読み終えた感想としては、こうした本は小説としてではなくノウハウ本として読んだ方がよいのではないかということだ。確かに小説仕立てにはなっているが、内容はいろいろ書かれているノウハウ本のようなものを、1つの寓話のように小説仕立てにしているように思える。しかもそのノウハウもかなり直接的で、判りやすいと言えば判りやすいのだが、どうも普通の小説を読んでいるという感じではない。良い悪いの話ではないし、話自体も面白く、読んで良かったという気分にしてくれるのだが、こうした本を小説と呼ぶのはやはり抵抗を感じる。作者にとっても読者にとってもジャンルなどどうでもよい話なのかもしれないが、ある意味これこそ新しいジャンルの本なのかと思う。(「億男」 川村元気、マガジンハウス)

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約束の森 沢木冬吾

本書も色々話題になっている作品だ。単行本で刊行された時はさほど話題になったようでもないが、おそらく文庫化をきっかけに話題になっているということなのだろう。内容的には完全なハードボイルド作品で、警察特殊部隊と闇の組織の手に汗握る攻防に終始しているのだが、終盤になるまで、誰が味方で誰が的なのか、どちらが善でどちらが悪なのか、さっぱり判らない。見方によっては最後までどちらが善でどちらが悪なのか判然としないまま終わる。そうした全篇を貫く緊張感のあるサスペンスのなかで、主人公の1人と1匹の犬、もう1人の主人公とオウム、3人の主人公、主人公達と老人2人など、様々な心の温まる交流がちりばめられていて、それがまた面白い。硬軟がうまく融合した記憶に残る1冊だ。(「約束の森」 沢木冬吾、角川文庫)

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透明カメレオン 道尾秀介

色々なところで取り上げられて話題になっている作品。作者の作品はいくつか読んでいるし、どちらかと言えば好きな作家にあげても良いような感じなのだが、何故か強い印象が残っている作品にはこれまで出会ってこなかった。本書は、これまでに読んだ作品の中では出色の出来栄えというか、本当に面白かった。人をだましたり、人にだまされたり、嘘だと判っていてその嘘に付き合ったり、話は結構複雑なのだが、そのあたりは何故かすっきり混乱なく話を追うことができる仕掛けになっていて。良く練られた話だなぁと感心もした。読んでいて楽しいというのはこういう小説を言うのだろう。(「透明カメレオン」 道尾秀介、角川書店)

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アイネクライネナハトムジーク 伊坂幸太郎

本書に関しては、本屋大賞候補作ということだけで、全く予備知識なしで読み始めたのだが、長編だと思って読んでいたら、途中で登場人物ががらりと変わり、短編集だったのかと思ったら、前の作品の登場人物が少しだけ出てきたりで、ようやく3分の1くらい読んで本書が連作集なのだということが判った次第だ。そうなると、短編同士のつながりの強弱はどのくらいなんだろうとか、最後に全てがつながるのだろうか、といった興味もわいてくる。そのあたりの見事さが作者の真骨頂だと思っているので、それだけで読んでいて楽しかった。(「アイネクライネナハトムジーク」 伊坂幸太郎、幻冬舎)

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