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2015年のベスト10

 2015年は177冊と、2011年以降で最も少なかった(2007年180冊、2008年136冊、2009年129冊、2010年132冊、2011年189冊、2012年209冊、2013年198冊、2014年205冊)。今年は父親の死亡で色々時間が取れなかったのと、2回ほど体調悪化で長期間読書ができなかった。読書の傾向としては、ライトノベルのような軽めの本が多く、手に取りやすいシリーズものの比率がかなり高かったような気がする。重厚な本や新しいシリーズに挑戦することが減ってしまっているようで、それが反省点だ。恒例の今年のベスト10は年の前半に読んだ本のなかに印象に残る本が多かったように思う。

1:特捜部Qカルテ番号64(ユッシ・エズラ・オールソン):鉄板の面白さ。なんとなく文庫で読むことに決めているのだが、次の作品を単行本で読みたくて、それを我慢するのが大変。

2:私の話(鷺沢萌):たまたまだが、久しぶりに作者の本を読んだ。改めて作者の死をしみじみ悲しく思った。

3:沖縄の不都合な真実(大久保潤):今年読んだ新書のなかでも特に面白かった。題名が看板倒れでないところがすごい。

4:人の砂漠(沢木耕太郎):かなり前の本だが良い本に出会えたという感慨が強かった。

5:笹の舟で海を渡る(角田光代):今年読んだ小説のなかでも特に感銘を受けた作品。

6:王とサーカス(米澤穂信):既に様々な賞やランキング1位などに輝いているので言うことはないが、充実した読書時間を満喫した。

7:本にだって雄と雌があります(小田雅久仁):今年一番の不思議な物語。楽しかった。

8:悲しみのイレーヌ(ルメートル):前作同様、驚愕の結末にしびれた

9:ドゥームズデイ・ブック (コニー・ウィルス):ライトSFだが、SFにはまっていた昔を思い出させてくれた。

10:小林カツ代と栗原はるみ(阿古真理):最初から最後まで面白かった。

(番外) 

・掟上今日子(西尾維新)シリーズ:今年に入ってシリーズ5冊を読んだ。最速の探偵の物語、刊行スピードも最速。

・盤上の夜(宮内悠介):久しぶりに面白かったSF。但し、作者の次の作品には全くついていけず。

 

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掟上今日子の退職願 西尾維新

シリーズ5作目。第1作目の刊行が昨年の10月とのことなので、1年強で5冊という驚異的なスピードでの刊行だ。あまりの執筆の速さに、表紙を書くイラストレーターの絵の作成が追い付かないという話を聞いた。本当かどうかは判らないが、そうした都市伝説のようなものさえ真実味があるほどの執筆スピードなのは確かだろう。前作が長編だったのに対し、本書はいつものような短編集で、しかもその1つ1つのミステリーとしての面白さもびっくりするほどで、大満足の1冊だ。最後の作品の最後に、シリーズが終わってしまうような展開があるが、その数ページ後には、しっかり次回作の題名と刊行予定まで載っている。特に本署の中では、最初の1編のトリックというか真相には驚かされた。こういうすごいトリックをしれっと書いてしまう才能というのは、まさにカリスマにふさわしい気がする。これまでのワトソン役の隠館青年が登場せず、警察の女性刑事が各短編交代で登場するという嗜好も面白いし文句のない1冊だ。(「掟上今日子の退職願」 西尾維新、講談社)

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小林カツ代と栗原はるみ 阿古真理

本の雑誌の2015年ベスト10に新書として唯一ランクインしていた本署。見方によっては、本年の新書ベスト1ということにもなる。読んだ感想だが、これは確かに面白い。あらゆる記述が「なるほど」と感心してしまうほど内容が濃くて面白いのだ。史上初の料理研究家論というキャッチフレーズの通り、料理研究家の系譜を、社会における女性の役割の変化、家電製品の発達、食材の多様化、国際化など、様々な要因から説き起こしてくれている。同じ「料理」のそれぞれの料理家のレシピを比較することで、それぞれの考え方や基本の違いを浮き彫りにする手法等は、奇を衒ったものではないが非常に説得力がある。読み終えて、何冊か料理のレシピ本を買ってきて、自分で作ってみたくなった。そして次の日に、新しいフライパンを買いに行った。引退して時間ができたらいろいろ試してみようと思い、今から色々情報収集を始めたくなった。今年一番、自分自身に直接的な影響を与えた1冊かもしれない。(「小林カツ代と栗原はるみ」 阿古真理、新潮新書)

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郵便配達人花木瞳子が盗み見る 二宮敦人

本屋さんでサイン本を見つけて、どういう話なのか全く予備知識なしで購入した1冊。最初のうちは、緩いお仕事小説のような感じなのだが、次第にそこに描かれている事件が、非常に陰惨なものであるということが判ってくる。ここで描かれている郵便配達を巡るシステムは、性善説にのっとったもので、悪用しようとすればいくらでもできてしまう危険を孕んでいるということを教えてくれる。社会の日常に潜む怖さというのは、郵便物を受け取る人々だけではなく、逆に郵便配達を仕事としている人にも襲いかかるかもしれない。本署を読むと、世の中の大半の「お仕事小説」というものが、物事の良い面を強調したお気楽な小説だということがよく判る。メインストーリーの間に語られる、主人公が郵便配達の仕事を自らの職業として選んだ理由のエピソードも実に良い。既に第2作目も刊行されているようなので、読むのが楽しみだ。(「郵便配達人花木瞳子が盗み見る」 二宮敦人、TO文庫)

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バビロン1 野崎まど

注目している作家の新刊、講談社文庫の新しいレーベルの第一弾、書評誌で早くも2015年のベスト10に入っている作品ということで、期待して読んだ。内容としては、大きな物語の序章という感じで、大きな謎が謎のまま終わるのは仕方のないことだが、普通に始まった物語があるページから突然「野崎ワールド」に突入する。そのページとは、ある事件を追う主人公と思しき検事が、事件の押収品のなかからあるメモを発見するところだ。印刷された本であるということを最大限に利用した非常にショッキングな1ページが、この作者が只者でないことを雄弁に物語る。物語は始まったばかりで、全貌は全く見えないが期待は高まるばかりだ。(「バビロン1」 野崎まど、講談社文庫)

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黒百合 多島斗志之

年末恒例の年間ベスト本で2015年の文庫本第2位(実質は第1位との注釈つき)の作品。文庫としてこれほど高い評価をうけるということは、単行本が刊行された時にもかなり話題になった作品のはずなのだが、全く記憶にない。単行本の時には話題にならなかったが文庫化された時に話題になる本というのも時々あるのでその類の本なのかもしれないと思いながら、とにかく読み始めた。内容としては、「ミステリーと文学の融合」というキャッチフレーズの通り、読んでいる最中は文学作品を読んでいるような感じだった。正直言うと、ミステリ-の部分は、読み終わっても少し釈然としない部分が残る。小説の語り手である主人公にも、謎の全容が解明できていないと思われる部分があるからだ。これはミステリーのお約束を逸脱している気がするが、本書の本領はミステリ-とか謎とかの部分でないところにあると考えれば合点がいく。早い話が、本書は、ミステリーとか純文学とかそういうジャンルにこだわらずに読むのが正解なのだろう。(「黒百合」 多島斗志之、創元推理文庫)

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ボートの三人男 ジェローム・K・ジェローム

すぐにも読みたいと思っているある本が、大昔のイギリスの小説である本書のオマージュで、本署を読んでおかないと、その作品の面白さが十分に味わえないというアドバイスがあり、まずこの本を読むことにした。大昔の古典なので、なかなか本屋さんでは見つからず、ネットで取り寄せて入手した。舞台は19世紀のロンドン、内容は3人の男と一匹の犬が数日かけてテムズ川を旅するというものだ。読んでいて、これがイギリス流のユーモアだなぁと感心したり、単純に大笑いしたりと、笑いというのはいつの時代でもどこの国でもあまり変わらないんだということを、実感させられた。とにかくとぼけたようなユーモアが満載で、読んでいて全く飽きるということがなかった。これからそのオマージュ作品を読むことになるが、3人の男と一匹の犬と言われているが、イヌの登場場面が思ったよりも少なかった。このあたりがオマージュ作品ではどうなっているのか、それも楽しみの1つのような気がする。(「ボートの三人男」 ジェローム・K・ジェローム、中公文庫)

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世界は解らないことだらけ、なので調べてみた 阿部亮

宇宙から日常生活まで、様々な疑問を判りやすく解説してくれる本書。本書の特徴は、1つ1つの知識がためになるということよりも、今のネット社会だと、こうした日頃の疑問を解決する方法が色々あることを気づかせてくれ、それでどこまで判るかを例示してくれているという点だろう。昔であれば、百科事典でまず概要を調べて、そこに出てくる新しい言葉をさらに調べて、という作業が、ネット社会では、検索ででてきた内容をいくつかクリックするだけで、その言葉の単純な意味から、背景にあるもの、世間的な評判やとらえ方などを、多面的に知ることができる。題名にある通り、現代社会において、「解らないこと」を「調べること」の意味を考えさせられる1冊だ。但し、本書に並んでいる疑問が、章立てはあるもののほとんど脈絡がなく、その解説が頭に残らないことも、ネットの特徴を表しているようで面白い。(「世界は解らないことだらけ、なので調べてみた」 阿部亮、扶桑社新書)

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ガール・オン・ザ・トレイン ポーラ・ホーキンス

書評などでは、「心理サスペンス」の傑作という感じで紹介されている本署だが、普通の現実にありうるサスペンスなのか、超常現象のようなものがでてくるスリラー小説、ホラー小説の類なのか、そのあたりも分らないままに読み始めた。上下巻の上巻はその辺りが良く分からないこともあってなかなか話に集中出来なかったが、典型的なサスペンスだとわかった下巻に入ってからは、一気に読み終えた。話の舞台はロンドンだが、何となくニューヨーク勤務の時に利用した通勤電車の記憶がダブってしょうがなかった。読み終えて、結局、登場人物で、まともな人は一人もいなかったのではないか。電車に乗り合わせた人、近所の住人、周りの人たちが全員、何となく皆病んでいるように思えてくるのが、本当に怖い。(「ガール・オン・ザ・トレイン」 ポーラ・ホーキンス、講談社文庫)

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言霊たちの反乱 深水黎一郎

著者の作品は3作目だが、前の作品で作者はある1つの理由からとんでもない工夫を作品全体に仕掛けていた。前作を読んだ時にはそのことに半信半疑だったのだが、本書を読んでそれが嘘偽りのないこの作者の凄さであることが理解出来たようなきがする。全体としては、ユーモア作品のような体裁だが、こうした作品を書くことは、並大抵の作業ではないはずだ。最初に読んだ作品のトリックと合わせて考えると、作者の真骨頂はとにかく大仕掛けのトリックを仕掛けることにあるのだろう。こうした作品ばかり読んでいてはいられないが、こういう作家が一人いても良いし、それが読書を面白くしてくれることは間違いない。(「言霊たちの反乱」 深水黎一郎、講談社文庫)

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芥川賞の謎を解く 鵜飼哲夫

「謎を解く」という題名だが、特に「謎」とされていることを解明するという内容ではなく、芥川賞という文学賞の歴史を判りやすく丁寧に解説してくれる啓蒙書だ。作家が作家を評価して受賞者を選ぶとういうことで、そこには作家対作家という様々なドラマがある。それを選者である作家が残した「選評」という文章を通して読み解いていくという姿勢が大変面白くてためになる。記述はおおむね時代順になっているが、各章が「太宰事件」「女流作家」「該当者なし」「新旧作家の対立」といった大きなテーマに分類されていて、戦中戦後の日本文学史の流れや日本の社会の雰囲気が自然と判るようになっているのも構成として見事だ。巻末についている候補作・受賞作・選者の年表も、それを見ているだけで面白い。芥川賞などの文学賞には、賛否両論があるのは確かだろうが、本書は首尾一貫してそれを肯定的にとらえているのも、公正を欠くというよりはブレのない記述という感じで好感が持てた。ずっと手元に置いておきたいと思えるた良書だ。(「芥川賞の謎を解く」 鵜飼哲夫、文春新書)

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物乞う仏陀 石井光太

非常に重たいノンフィクションである。アジア各国の障害者の状況を伝えるルポルタージュだが、そこにあるのは、発展途上のアジア各国における障害者たちの厳しい現実だ。しかも、本署を読むと、アジアの国々の障害者は、貧困と障害という各国共通の厳しさに加えて、それぞれの国の事情によるもう1つの厳しさを抱えていることがわかる。それは、それぞれの国の障害者が、それぞれの国の事情、例えば、戦争、貧富格差、宗教、少数民族問題、麻薬の横行、政治情勢、といったもう1つの問題を抱えて、我々には想像もできないような多様な困難に直面しているということ、しかも「、この3つ目の困難が、それぞれの国の問題を一律に語ることができない複雑さを生んでいるということだ。読んでいて溜息ばかりが出てしまうような内容だが、そこには人間として目をそらしてはいけないものがあることを教ええくれる良書だと感じた。(「物乞う仏陀」 石井光太、文春文庫)

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境遇 港かなえ

本屋さんの文庫本の新刊コーナーで本書を見つけたのだが、読んだことがあるかどうか記憶が定かでなくて困った。作者についてはデビュー作品から知っているし、作者の本は新刊本コーナーで見つけるとたいていは入手するようにしているので、既に読んだ可能性は高いはずなのだが、巻末に「本署の作中に登場する絵本を特別掲載」とあって、絵本がモチーフになった作者の作品というのがどうしても思い出せない。結果的には記憶通り未読だったのでよかったが、どうして新刊書が出た時に入手しなかったのかという疑問は残る。いくら、新刊本を見かけたら反射神経的に入手してしまう作家でも、題名とか裏表紙のあらすじなどをみて、感覚的に入手しないという結論をだすようなことはあるだろうが、本署の場合、その時何が気に入らなかったのか今となっては判らない。多作な作家なので、他の作品と重複して新刊コーナーに並べられ、もう1冊の方の新刊を入手し、本書は次の機会に買おうと考えていて忘れてしまった、というのが一番ありそうなシナリオだが、定かではない。そんなこんなで読み始めたのだが、内容的には、ミステリーとしてのインパクトはそれほどでもないが、「人は境遇を選べない」という重い問題を作者なりに問題提起している点で、作者らしさを強く感じる作品だ。彼女のファンには満足な作品だろうし、ファン以外の人にも(ハードルをあまり高くしなければ)広く支持される作品だと感じた。(「境遇」 港かなえ、双葉文庫)

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ぼぎわんが、来る 澤村伊智

色々なところで評判になっている「怪奇小説」。あまり体調がすぐれない状況で読んだせいもあってか、何だかうなされそうなほど怖かった。人の心のスキ、家族の間の隙間に、魔物はやってくるという。そもそもほとんどの魔物とか妖怪というのは、世の中の理不尽なところ、人間の弱いところに入り込んでくるものかもしれない。体の調子が悪くて弱気になっているというのもその1つだと思うと、無性に怖くなってしまった。(「ぼぎわんが、来る」 澤村伊智、角川書店)

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空に牡丹 大島真寿美

著者に関しては、「ピエタ」以来のファンと自認はしているが、そうかといって、「ピエタ」以前の本を読み漁るということもせず、新刊を見つけたら読んでみるというパターンで来ている。既に刊行されている本はどうしても、どこから読んだらいいのかわからない面があり、どうしてもそうなってしまう。本書は新刊コーナーで見つけて、しかもサイン本なので迷わず入手した。サイン本は、それほど積極的に集めている訳ではないが、それでも自然と増えて、現在50冊くらいにはなってきている。サイン本専用の棚を作ってあるのだが、それがちょうどいっぱいになりそうなところで、これからどうしようかと考えている。棚を増やすか、箱にしまって保管するか、悩ましいところだ。さて本書は、幕末から明治にかけて、花火を道楽に現をぬかしたある人物の伝記で、お金とか名誉といった価値観とは無縁の生き方が、暖かい筆致で描かれている。そうした価値観が、単なる昔に対する郷愁ではなく、人間の普遍的なものとして描かれている。最初に書いたように、私自身作者の作品を網羅的に読んでいるわけではないが、何か作者の新境地に触れたような心もちで読み終えた。(「空に牡丹」 大島真寿美、小学館)

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