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魔女と過ごした7日間 東野圭吾

人気作家の最新作。帯に『少年冒険小説+警察小説+空想小説」とある通り、様々な要素が盛り込まれたエンターテイメント小説だ。父親を殺された少年が不思議な力を持つ女性主人公の助けを借りながら犯人を追い、それと同時並行で警察の地道な捜査が進展して真相に迫っていく。最近のミステリーにしては話の展開の時系列も一直線だし、登場人物も腹蔵なく心情を吐露し合うので、ストレートに物語に入り込め、読んでいてとても気持ちの良い作品だ。その分、結末も著者の作品にしてはあまりひねりがない感じだが、その分を「もしこんなことが現実に進行していたら」という「空想小説」要素が補っている感じで納得できた気がする。(「魔女と過ごした7日間」 東野圭吾、KADOKAWA)
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タクジョ 小野寺文宜

新卒でタクシー会社に就職、タクシードライバーとして一歩を踏み出した女性主人公の半年間の物語。この職業ならではのこういう苦労があるんだというエピソード満載のお仕事小説だ。自分自身はタクシーに乗って運転手さんに話しかけたり話しかけられたりということは滅多にないが、色々なお客さんがいるんだなぁと、その辺りが面白かった。半年間で一通りの経験をした主人公が、これからどのように成長していくのか、またどんな新たな試練が待っているのか、続編が楽しみだ。(「タクジョ」小野寺文宜、実業之日本社文庫)
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密室黄金時代の殺人 鴨崎暖炉

2年前に「このミステリーがすごい文庫グランプリ」を受賞した作品とのこと。「見破れない密室はアリバイと同等の価値を持つ」という判例がでたことで、世の中が一変、密室作りにこだわる犯罪者、密室を崇める宗教、密室専門の探偵が出現という特殊設定のミステリーだ。外界から隔絶された山荘で次から次へと密室殺人が勃発し登場人物たちが推理合戦を展開、密室の細かい分類、ノックスの十戒などの見立てもあったりで、とにかく密室てんこ盛りのストーリーが楽しい。自分自身は密室主役のミステリーにさほど魅力は感じないし、そもそもなぜ密室にこだわる犯罪者が存在するのか不思議に思う方だが、そうした読者の考えの逆手を取ったような内容がとても新鮮だった。(「密室黄金時代の殺人」 鴨崎暖炉、宝島社文庫)
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東京ロンダリング 原田ひ香

人生色々あって事故物件に短期間居住することを職業にするようになった主人公の物語。お仕事小説というにはやや特殊すぎる職業だが、世間の様々な思惑があって成り立っている仕事だし、主人公に関わる人々もクールではあるが筋を通している感じで誰もやさぐれておらず、読んでいて心地よい。仕事を通じて知り合った人に支えられながら、仲間のピンチを機転を効かせて助けたりして、主人公は着実に立ち直りさらに成長している。続編も出ているので、主人公の成長を見守りたい。(「東京ロンダリング」 原田ひ香、集英社文庫)
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落語 弁財亭和泉ヨコハマサロン

二つ目三遊亭粋歌の時から横浜で開催されている独演会の第10回。自分自身はこれが4回目だが、いつも通り古典落語、創作落語、落語の仮面シリーズをそれぞれ1席ずつという構成で、彼女の多面的な才能を堪能した。創作落語は彼女らしい日常を切り取ったお話でめちゃくちゃ面白かった。落語の仮面シリーズは、ヨコハマサロンで毎回1話ずつ演じてきて今回が最終話の第10話。このシリーズは飛び飛びにしか聴いたことがないが、彼女が語る大団円の最終話は圧巻の出来栄えだった。この横浜での独演会、若手育成枠の小ホールでやるのは今回が最後とのこと。次は大ホールで聴けるのを楽しみにしたい。
(演目)
①寿限無
②冷蔵庫の光
中入り
③走れ元犬–真打への架け橋(落語の仮面最終話)
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カビの取扱説明書 浜田信夫

カビの研究者によるカビに関する解説書。カビについてこんなに色々な情報があったんだと驚くほどトリビア満載でびっくりした。カビ・キノコと細菌、ウイルスの違いから始まり、自然界におけるそれらの生態、楽器、家電、住居に取り付くカビ、カビの健康被害など、様々な観点からカビが語られ飽きることがない。それらを分かりやすく教えてくれる著者のカビに対する知識の源泉である好奇心はすごいと思うし、研究のために鍾乳洞や洞窟を探検したり、山火事直後の離島に現地調査に行ったりとその知識の原動力ともいうべき行動力にも脱帽だ。菌類には腐生、寄生、共生の三種類あること、松茸やトリュフが高価なのは共生種だからということ、種無しブドウの生育にカビが重要な役割を果たしていること、カビが細菌と違って熱に強いこと、家電製品に対する有効なカビ対策など、どれも読んでいてためになるし面白いしで、非常に充実した一冊だった。(「カビの取扱説明書」 浜田信夫、角川文庫)
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ボブディラン 北中正和

ボブディランの音楽面の軌跡に特化した解説書。我々の世代は、反戦や反権力を歌詞に込めたメッセージ性の強いフォークシンガーだったボブディランがある時急に退廃的なロックに日和ったと大騒ぎになったのを間近で見てきた世代だ。実際、78年に彼が初来日した時、大学の授業をサボって日本武道館でのコンサートを聞きに行き、エレキギターを手に自身の曲を何とも軽い感じにアレンジして演奏する彼を見て大いに戸惑った記憶がある。そうしたこともあり、それからの40年以上にわたって彼がどのような音楽活動をしてきたのか、あまり関心を持ってこなかったというのが正直なところだ。本書を読んで、何度かの活動休止期間を除き、様々なミュージシャンとコラボしながらひたすらコンサートを続けていたということを知り、とても驚かされた。実際、彼の曲で思い出せるのは、「風に吹かれて」「激しい雨が降る」「戦争の親玉」「ライクアローリングストーン」「ミスタータンブリンマン」など初期の数曲しかないが、その後の曲も聴いてみたくなった。(「ボブディラン」 北中正和、新潮新書)
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財布は踊る 原田ひ香

お金にまつわる問題で苦労している人々が何人も登場して複層的に話が進んでいく連作小説。犯罪に手を染めてしまう人、それに加担してしまう人、犯罪寸前のところで踏みとどまる人、逆に犯罪の被害にあって事態をさらに悪化させてしまう人、投資の知識で乗り越えようとする人など顛末は様々だが、登場人物全体に占める割合としては逆境から抜け出せない人の方が多いのは現実がそうだからなのだろうか。そうした彼我の差が利己的な欲望とか運とか決断力とかだけでは説明できない現実があるのか、色々考えながら読み終えた。(「財布は踊る」 原田ひ香、新潮社)
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ニッポン47都道府県正直観光案内 宮田珠己

名所旧跡といわれる観光スポットやご当地グルメなどではなく、とにかく見た目のインパクトの強さを基準にして、47都道府県の変わった場所を紹介してくれる一冊。これまでの経験で「〇〇発祥の地」「〇〇生誕の地」「歴史的景観」などを訪れて良かったと思うことはまずない、日本三大〇〇などは3つあるという時点で既に大したことはない、という著者の考えには全面的に賛成で、とにかく面白かった。見た目のインパクトが大切ということなのにそれらの写真は皆無、著者自身の描いたイラストだけなので、観光スポットの名前が出るたびにネットで画像検索をしながら読んだが、その作業自体もどんなかなとワクワクしながら読むことができた。最近、海外も国内も旅行というものに完全に飽きてしまっていたが、本書を読んで色々行きたいところができてしまった。(「ニッポン47都道府県正直観光案内」 宮田珠己、幻冬舎文庫)
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名探偵のいけにえ 白井智之

初めて読む作家。帯に「どんでん返し」というベタなキャッチフレーズが書いてあるが、まさにその通りの一冊だった。最初の数10ページ、どんな作品なのか見当がつかないまま読み始めると、登場人物がどんどん増えていくし、何か超常現象みたいな話にもなってきて、話の設定そのものがよく分からなくなってくる。我慢してさらに読み進めていくと、後半を少し過ぎたところで全く予想外のことが起こって衝撃を受ける。そこからが本書のハイライトで、どんでん返しの連続、更に最後の後日談が二つあってその内容に決定的な衝撃を受ける。昨今、信教の自由とマインドコントロールによる精神的束縛の境界についてのあり方が問題になっているが、それを先取りしたような内容、それを逆手に取ったような展開に驚かされた、すごいミステリーだった。(「名探偵のいけにえ」 白井智之、新潮社)
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猟犬探偵 谷口ジロー、稲見一良

書評誌で推薦図書になっていたので購入したら、小説ではなく、作画が「孤独のグルメ」の漫画家、原作は初読の作家という漫画だった。迷子や行方不明になった猟犬捜索が専門のハードボイルド調の探偵が主人公。よく知らないが、猟犬というのはしょっちゅう迷子になるのかもしれない。内容は2冊の原作小説を漫画にしたもので、いずれも本職である猟犬探しに加えて、盲導犬、競走馬を探すというイレギュラーな依頼についての主人公の活躍を軸に描かれている。絵も綺麗だし、原作がしっかりしていることがわかってとても面白かった。なお、作者紹介をみると作画家も原作者も故人とのこと。新作を期待できないのが残念だ。(「猟犬探偵」 谷口ジロー作画、稲見一良原作)
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