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パフォーマンス ダメじゃん小出

少し涼しくなってきたので、久しぶりに横浜にぎわい座の公演を楽しんできた。演目は体験レポート2つが中心で、前半は前回から続きの「葬儀屋さん」でのアルバイト体験。1年間続ける予定が激しいパワハラにあって半年で退職してしまったとのこと。続きが聞けないのが寂しい。後半は、北海道の知人の農家でのとうもろこしとミニトマトの収穫体験。トマトの立場でのミニコントなど笑いながらも農作業の大変さが伝わってくる内容が秀逸だった。

①時事川柳
②葬儀屋さん体験談
 パワハラにより半年で辞めるまで
中入り
③台風7号顛末記
  北海道〜東京までいかにして移動したか
④農業体験談
 北海道でのとうもろこし、トマト収穫体験
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じい散歩 藤野千夜

齢90の老主人公の日常を描いた小説。その日常は妻の認知症の進行以外に事件らしい事件もなく、日々健康のために散歩をしてその途中で建物などの町の景色を眺めたり、行きつけの店によってちょっとしたものを口にするといった何とも平凡なのだが、それまでの本人の過去と家族の今が凄まじい。戦争、故郷からの家出、会社設立、バブル崩壊、事業の失敗といった本人の波乱に富んだ過去、引きこもりの長男、定職も定まらずお金にだらしない三男など独身中年の息子たち、妻の妄想や入院に伴う老老介護など現代社会の問題のオンパレードのような家族の記述が延々と続く。誰もが多少は巡り合うような困難を凝縮したようで、救いはそれぞれの人が持つべき諦観のみなのかなぁと身につまされる思いにさせられた。(「じい散歩」 藤野千夜、双葉文庫)
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書いてはいけない 森永卓郎

著者がマスコミとの付き合いを通じて見聞きしたことやメディア活動の中で得た知見をもとに、ジャニーズ事件、財務省批判、日航機123便墜落事件という3つのタブーについて語った一冊。発行元は「〇〇日記シリーズ」で人気を博している三五館シンシャだ。ジャニーズ事件については、著者自身の体験も交えた内容で大手メディアの「たかが芸能スキャンダル」という奢りからくる問題軽視を痛烈に批判。 財務省批判については、減税をするべき時に実施しようとしない政治家と財務省との力関係の解説 。日航機123便墜落事件については、公表されている記録、住民や生存者の証言などから、元ネタになっている青山透子氏の「日航123便墜落の新事実」の妥当性を検証。自分も青山氏の本を読んで相当闇の深いタブーの存在を感じていたので、なるほどなぁと思った。なお本書の真骨頂はここからで、著者はこの3つのタブーを関連づけてさらに一つの仮説というかストーリーを提示していて、こういう繋がりもありうるなと何となく腑に落ちる感じだ。(「書いてはいけない」 森永卓郎、三五館シンシャ)
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ナポリタンの不思議 田中健介

全国のレストランや喫茶店での実食、古いレシピ本などを頼りに「ナポリタンスパゲティ」のあれこれを教えてくれる一冊。横浜が発祥の地らしいとか、同じ料理が名古屋や関西では「イタリアン」と呼ばれているとか、店によって味付けに工夫があるとか、よく言えば緻密、悪く言えば知っていてもどうということのないトリビアが満載で結構楽しい。トマト味のパスタがレストランのコース料理の付け合わせではなくアラカルトの一品として供されるようになり、さらに一般家庭で普通に食べられるようになったのはそう古い話ではないというのにはちょっと驚いた。著者については、巻末略歴に「日本ナポリタン学会」の会長とだけ書かれていて本職などは不明だが、横浜出身の横浜育ちとあり、横浜の人の「発祥地自慢」が随所に見られたり、日本ナポリタン学会認定のお店のほとんどが横浜の店だったりでなんとも微笑ましい感じ。また、本書を読んでいて、昔よく通った浜松町駅内のナポリタンの店が美味しかったなぁと思い出してネット検索したら閉店になっていた。著者の「ナポリタンが危機にある」という記述、もしかしたら本当なのかもしれないと思った。(「ナポリタンの不思議」 田中健介、マイナビ新書)
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科捜研の砦 岩井圭也

警視庁科捜研の若きエース技官を主人公とする連作短編集。物語の本筋は、私情や警察内部の組織力学などを極力排除して科学的であらんとする主人公が、微細な手がかりを駆使して事件の隠された真相にたどり着くという王道のミステリーなのだが、読み進めていくとそれとは別の重いテーマが浮かび上がってくる。各短編は、警視庁科警研の技官、鑑識官、大学の研究者など主人公でない人物の目線で描かれている。別の物語というのは、彼らが主人公と歩調を合わせて事件の解明に努力する過程とそこから色々なことを学んでいくという成長物語になっていることだ。最終話のかなりびっくりする展開も含めて、科学に忠実であることの苦悩や厳しさが描かれているのが胸に刺さる作品だった。(「科捜研の砦」 岩井圭也、角川書店)
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菜の花食堂のささやかな事件簿 人参は微笑む 碧野圭

長く続いていて本書が6冊目のシリーズ作品ということを知らずに本屋さんで見かけて買った一冊。これまでの出来事や登場人物間の関係などが分からなくてついていけるかどうか少し心配だったが、あまり問題なかった。食堂を営む店主とその従業員が日常のちょっとした謎を解き明かしていくという連作短編集で、題名通りその謎がとてもささやかで、事件とかミステリーと呼ぶのもためらわれるほど。色々な食材についての薀蓄が話の味付けになっているのと、大麻クッキー、コロナ、ヴィーガン、カスハラなど最近話題のキーワードをストーリーに取り入れているのが特徴的。大きな山場らしきものもなく淡々と読み終えてしまったが、シリーズをずっと読み続けている読者だと、登場人物への思い入れなどもできていて、別の読み方をしているのかなぁなどと考えてしまった。(「菜の花食堂のささやかな事件簿 人参は微笑む」 碧野圭、だいわ文庫)
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落語の人、春風亭一之輔 中村計

ノンフィクションライターによる人気の落語家春風亭一之輔の解説本。一之輔本人、師匠、同僚、弟子などのインタビューを中心に、著者本人の経験を交えて再構築した内容。落語の用語解説、落語協会、落語芸術協会、立川流など落語家の団体の説明、前座二つ目真打ちという落語家の成長過程、歴代の名人と呼ばれる落語家の特徴など、落語に関するうんちくを通じて落語界の大きな流れを理解できるようになると同時に、春風亭一之輔という落語家がその中でどのような立ち位置にいるかがよく分かってとても面白かった。本人へのインタビュー部分を読むと、飄々としているようで色々考えながら落語に取り組んでいる様子がわかってそれも面白かった。春風亭一之輔は、自分が古典落語を聞いて唯一面白いと感じる落語家だが、その理由もなんとなく理解できた気がした。(「落語の人、春風亭一之輔」 中村計、集英社新書)
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冬期限定ボンボンショコラ事件 米澤穂信

著者の代表作の1つ「小市民シリーズ」 の最新作。前作「秋期限定‥」が刊行されてから15年振りとのことで、その間にスピンオフ的な短編集があったとは言え、そんな前だったかなぁとちょっと意外な感じだ。主人公の高校生が受験前に交通事故に遭ってしまい、病院のベッドの上で中学生だった時に同じ場所であったひき逃げ事件のことを回想するという内容。主人公が被害にあった事故と昔のひき逃げ事件に関連があるのかどうかが大きな焦点なのだが、最後に解明される真相の意外さにはかなりびっくりだ。全体的に妙に描写が細かいなぁと感じた部分があったり、主人公の病院生活にちょっとした謎があったりして、それが単純な伏線ではなく本編の核心部分だったりして、とても新しいミステリーを読んだ気分になった。前作から15年振りの新作ということだし、主人公も高校を卒業してしまうし、シリーズ完結編という雰囲気は濃厚だが、どんな形でも良いので次の作品を是非期待したい。(「冬期限定ボンボンショコラ事件」 米澤穂信、創元推理文庫)
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今日も怒ってしまいました 益田ミリ

初めて読む作家の軽いエッセイ集。人気があるらしく、ネットで調べるといっぱい著作が出てくる。日常生活の中の軽い違和感のようなものを上手く言葉にしてくれていて共感する部分が多いので、人気があるのだろう。数ページのエッセイの間ごと
に四コマ漫画もあって楽しい一冊だった、特に印象的だったのは、コンビニで100円玉を落としたお婆さんと店員さんのやりとり。最後の締めがほのぼのとしていていいなぁと感じた。(「今日も怒ってしまいました」 益田ミリ、文春文庫)
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死んだ石井の大群 金子玲介

先日読んだ作品がとても面白かったので、同じ著者の最新作を続けて読むことにした。前作同様、不思議な設定と軽妙な語りが秀逸で、最後まで楽しく読むことができた。物語は、大勢の石井さんが登場する意味不明のゲームバトルと、失踪してしまった舞台俳優の行方を探す探偵という現実世界の話が交互に描かれていて、一向に先が見えないのだが、最後にその2つが繋がって、そういうことだったかと驚かされる。読んでいて、謎が深すぎるモヤモヤが続くが、それを飽きさせずに読ませるのが軽妙な語りという構造だ。前作同様、巻末に次回作に告知があるので、楽しみにしたい。(「死んだ石井の大群」 金子玲介、講談社)
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神社の見方 外山晴彦

神社について宗教施設ではなく歴史的建造物という観点に重きを置いて解説した一冊。内容は、神社と寺院の違い、神社に不可欠な施設などの解説で、図版や写真がたくさん収録されていてとても分かりやすかった。神社特有の施設としては、鳥居、狛犬、神の使いとしての眷属、手水舎、拝殿と本殿などが紹介されていて、どれもなるほどという内容。また、神社と寺院の違いについては、掲載された写真を見ても思った以上に似通っているが、千木や鰹木の有無が決定的な違いということが新しい発見。軽い一冊だが今度寺神社に行った時に色々確認するのが楽しみになった。(「神社の見方」 外山晴彦、小学館)
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惣十郎浮世始末 木内昇

書評誌激推しの一冊。著者は芥川賞の時代小説作家だが読むのは初めて。読んだ感想としては、これまでに読んだ時代小説の中で一番面白かったと思えるほど面白かった。幕末の江戸を舞台に、手柄よりも犯罪の未然防止に努めたいとする北町奉行所の同心服部惣十郎がいくつかの事件の謎を追いかけていく。基本的には江戸で起こった不可解な火事騒動とそこで見つかって正体不明の遺体の謎という事件だが、それに、当時の漢方医と蘭学医の軋轢、主人公の上役、部下、家族などとの人間関係などが織り込まれ、更には江戸の行事や風物、幕府内での政争など、実に様々な要素が絡み合って話は進む。その全てが結びついたびっくりするような結末はお見事の一言だ。著者の本はまだ沢山あるし、本作の続編も期待したいし、これからが本当に楽しみだ。(「惣十郎浮世始末」 木内昇、中央公論新社)
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