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かがみの孤城 辻村深月

色々なところで耳にする「あらすじ」のようなものにはあまり興味を持てる感じではなかったが、とにかく評判が大変良いので、とりあえず読んでみることにした。内容は、中学校のイジメ問題を取り扱っているが、読んでいてそれだけではない気もするし、これを読んで実際に被害に会っている若者に勇気を与えてくれるようでもあり、何とも表現しにくい大きさを感じさせる作品だ。物語の最終日とエピローグの展開は、忘れ難い経験だった。(「かがみの孤城」 辻村深月、ポプラ社)

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スフィアの死天使 知念実希夫

現時点で短編が5冊、長編が3冊でている本シリーズ。本書は、短編5冊を続けて読んだあと最初に読む長編だ。本書を読み始めて、話が完全に最初に出た短編集のそのまた最初に戻ってしまったような記述があってまずびっくりした。長編から読み始めた人への配慮なのかと思ったら、時系列としてはこちらの方が先ということらしい。第一短編集の第一話の前に、シリーズの舞台になる病院でこんな大事件があったと知ってさらに驚いた。内容的には、短編集のテンポの良さはないものの、その分重厚で凝ったストーリーを楽しめた。ただ、主人公のキャラクターなどを考えると、重厚なストーリーは別のシリーズに任せて、本シリーズは軽快なテンポの話に徹した方が良い気がする。(「スフィアの死天使」  知念実希人、新潮文庫)

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ヘンな論文 サンキュータツオ

本書は、強いて言えば日本版「イグノーベル賞」」候補の研究論文の紹介本というところだろう。イグノーベル賞について詳しいわけではないが、本書はあくまでイグノーベル賞のような「世界的な広がりを持った」「学術的な価値」ではなく、「ほとんど他に研究者がいない」「ニッチな分野」であることを基準にしている。しかしそれが却って「研究者の情熱」が人類の英知の本質を突いているように感じられる気がする。かつて「イグノーベル賞」について知りたくて解説本を探したが良い本がなくて、ウィキペディアで色々調べた経験がある。言い方を変えると、「イグノーベル賞」について概略を知りたければウィキべディアである程度事足りるのかもしれない。本書はそうした検索では得られない「ニッチ」であることの「面白さ」も色々味わえる1冊だ。 本書で紹介されている「あくびが移るメカニズム(あくびの原因は酸素不足ではないらしい)」「しりとりはどこまで続くのか」「古今東西の湯たんぽの形状の考察」など、奇想天外さがとにかく楽しい。(「ヘンな論文」 サンキュータツオ、角川文庫)

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ヴィラ・マグノリアの殺人 若竹七海

著者の本は、見つけた時に買わないとなかなか入手ができないので、シリーズを順番通りに読むことが難しい。本書は、シリーズ作品の第1作目だが、入手の順番の関係で読むのが最後になってしまった。舞台は以前読んだ後続作品にもチラリと出ていた「ヴィラ・マグノリア」。この頃の著者の長編作品は、細かな描写が長く続く傾向にあり、どこが謎のポイントなのか、どこが解決の糸口なのか、読んでいて油断できないという特徴がある。大きな事件を追っていると、その近くで小さな事件が起こり、それが事件全体解決の糸口だったりする。そうした感じなので、読書の時間が細切れの時は、何となく著者の本に手を出したくないという気持ちが働く。著者の本は、肩肘張らずに読めるミステリーだということは判っていても、読む段階では結構気合を入れて読む必要がある。本書も時間が細切れの時に不向きな作品という意味では、これまでに読んだ中でもその筆頭というような作品だ。とにかく登場人物が多く、それぞれが一癖二癖ある人物ばかり。さすがに警察官と子どもは容疑者ではないとしても、20人近い怪しい人物が登場する。記憶力が衰えてきた自分のような年配の読者には、その理由だけで、著者の作品は短編が合っている気がする。(「ヴィラ・マグノリアの殺人」 若竹七海、光文社文庫)

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伊藤博文邸の怪事件 岡田秀文

明治の元勲、伊藤博文の屋敷を舞台にした本格ミステリー。予想よりもミステリーの度合いは大きくないが、歴史的な出来事と時代の雰囲気を上手く取り入れた読みごたえのある作品だ。このシリーズの特徴を測りかねながら読み進めたので、最後のトリックはちょっと意外だった。次の作品がネットで在庫切れになっているので、いつ読めるか未定だが、次を読むのが楽しみだ。(「伊藤博文邸の怪事件」  岡田秀文、光文社文庫)

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ピオレタ 寺地はるな

今注目の新進作家の作品。内容は、傷心の女子が色々な人と関わり合いながら少しずつ変わっていくというよくある物語だが、読んでいて明らかに作者の大きな才能を感じる。雰囲気的には、初期の津村紀久子に似ているが、彼女ほど「突き詰めた深刻さ」や「危なさ」はなく、どこか軽い感じだ。とにかく色々な才能の作家が出てくるなぁと感心してしまう。この作家の本当のところはどうなのか、もう1冊読んでみないと判らない気がするが、既に多くを読んでいる書評家が推しているということはそのあたりもチャンとクリアしているんだろうと思われる。(「ピオレタ」 寺地はるな、ポプラ文庫)

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ラーメン超進化論 田中一明

最近ミシュランで星を取得した日本のラーメン屋さんが2件あるという。本書は、世界的にも認知されつつあるという日本のラーメン界の新しい潮流など、ラーメンに関する様々な情報をコンパクトに解説してくれる一冊だ。自分の住んでいる横浜はかなりのラーメン激戦区で、名の知れた名店がいくつかあるのだが、お気に入りの店が突然閉店になっていたり、違う名前の店になっていたりと、とにかく厳しい業界であることは間違いない。本書のような「グルメ本」の最大かつ致命的な欠点は、ただでさえ混んでいるであろう店が、本で紹介されることでさらに混んでしまうことだ。本書に「ミシュランで星を取得した店は6時間待ち」と書いてあるが、この本が刊行されて一体どうなってしまうのか。本書が「行ってはいけない店ガイド」のように思えてしまった。(「ラーメン超進化論」  田中一明、光文社新書)

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ツノハズホーム賃貸二課におまかせを 内山純

不動産会社の賃貸関係の営業担当者を主人公とするお仕事小説。「大家さん」「入居者」「入居申込人」などの章別に賃貸仲介における細かいエピソード満載で、それだけで十分楽しい。ミステリー部分は、不動産仲介ということで「借りる人の生活を出来るだけ詳細に知っておきたい」というプロ意識と、「個人の事情にどこまで踏み込んで良いか」というコンプライアンス意識の葛藤が、うまく謎とその解決に絡んでいて巧みな設定になっている。続編が期待できるような終わり方なので、それが大変楽しみだ。(「ツノハズホーム賃貸二課におまかせを」 内山純、東京創元社)

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京都ぎらい 官能編 井上章一

一昨年の大ベストセラーの続編。ベストセラーが出た後に著者が書いた別の本を読んで、ちょっと肩すかしをくったような記憶があり、本書もそんな感じではないかという疑念は強かったが、1冊目、2冊目とも「面白さ」という点では文句なかったので、本書も読んでみることにした。内容は、女性史、色街としての京都について考察したエッセイ。前作の補足のような部分もあれば、洛中洛外という区別にあまり拘らない普通の京都論的な部分もあって、最初の作品のようなインパクトと密度はないが、京都の別の一面を教えてくれるという意味では前作と同じくらい面白かった。肩肘張らない著者の文章が結構好きになってきた。(「京都ぎらい 官能編」 井上章一、朝日新書)

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幻夏 大田愛

年末に読んだ書評本で紹介されていた1冊。遠い昔の思い出話から始まる物語は、いくつもの謎に包まれていて混沌としている。主人公である警察官と探偵コンビが昔の事件を追いかけていくなかで、驚くべき事実が次々と明らかになっていく。遠い昔という時間の壁もあって、一つ謎が解けたと思ったらまた別の謎が浮かび上がる。それでも事実を丁重に追いかけていくことで、ようやく全体像がうっすらと見えてくる。「冤罪」というテーマをこれほど真正面に扱った小説を読むのは初めてだし、これだけ見事な構成のミステリーもめったにないなと感じた。(「幻夏」 大田愛、角川文庫)

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ねじの回転 ヘンリー・ジェイムズ

120年も前に書かれたイギリス・ゴシックホラー小説。大昔に読んだ記憶があるが、新訳が出たということなので改めて読んでみることにした。語りは精緻で首尾一貫しているにもかかわらず、語り手の見たこと考えたことをどこまで信じるか、最後の結末をどのように解釈するかなど、物語の殆ど全てが読者の判断に委ねられている。前に読んだ時にどの様に感じたのか全く記憶がないのだが、今回読んでみて、全てが語り手の妄想のような気がした。これはこの「新訳」だからなのだろうか。現在のミステリーのような論理的な思考による謎解きの爽快感はないが、読んでいる間のワクワク感はそれとあまり変わらない。(「ねじの回転」 ヘンリー・ジェイムズ、新潮文庫)

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老後地獄 朝日新聞経済部

本書を読むと老後の不安を抱かざるを得ない。2年前の本なので、情報は少し古いかもしれないが、本書の中で指摘されている様々な状況、社会が抱える問題は大きくは変わっていないだろう。自分のこととして何とかしなければということよりも、子どもたちや孫の世代にどうなるのか、あるいは社会としてどうなのかという思いがつのる一冊だ。(「老後地獄」  朝日新聞経済部、文春新書)

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天久鷹央の推理カルテ5 知念実希夫

天久鷹央シリーズの短編集として5作目、まだ読んでいない長編2作を含めると7作目となる本書。ここまでくると、固定層のファンも形勢されて安定期という見方もできるが、その一方でマンネリ化という弊害も着実にはびこり始める。既に第3作目で主人公2人の関係性の危機があったり、短編集の間に長編を織り込んだりと色々な工夫がされているが、そろそろ何らかの大きな話の進展など、飽きさせない工夫が必要だろう。本書では、医療と宗教というシリアスな問題がテーマになっていて、それがアクセントになっているが、盛り上がりとしてはやや物足りない気がする。未読の長編2冊は楽しみだがその後が心配だ。(「天久鷹央の推理カルテ5」 知念実希夫、新潮文庫)

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サーチライトと誘蛾灯 櫻田智也

昆虫マニアが探偵役のミステリーということで、昆虫に関する蘊蓄満載の話かと思ったがが、それほど昆虫愛一色の本ではなかった。確かに謎解き部分で昆虫好きらしい発想が決め手になるような展開が多いものの、それがあまり前面には出ていない。主人公は、事件を解き明かす探偵でも刑事ではなく通りすがりの傍観者という立場で登場し、颯爽と事件を解決するのではなく、さり気なく解決のヒントや糸口を示す役割を担う。後書きで著者自身が本書を「泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズ」へのリスペクト作品だと述べていて、そういうことだったのかと強く納得した。(「サーチライトと誘蛾灯」 櫻田智也、ミステリー・フロンティア)

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インサートコイン(ズ) 詠坂雄二

いつもの本屋さんで、作者の名前も作品名も知らず、どのような内容かも短編ミステリーだということぐらいしか確かめずに買ってしまった本書。装丁や他の作品の題名をみると、ライトノベルっぽい作家という感じだ。もしこれが面白ければまたライトノベル風の作品を何冊か楽しめる気がして、試しに読んでみることにした。内容は、ゲームに関する蘊蓄を絡めたミステリー仕立ての連作短編集といったところだが、その蘊蓄が面白い。自分自身は、ブロック崩しは得意だったがスペースインベーダーは全くやらなかったし、家庭用ゲーム機器を使うゲームはドラゴンクエスト以外はほとんどやったことがないという程度の人間だが、それでも本書で語られるスーパーマリオの動きに隠された謎、ぷよぷよの色に関する裏話などを読むと、ゲームという世界の奥深さにびっくりさせられる。ゲームセンターに置いてある格闘型のゲームがお客さん同士の対戦方式になっている理由などは言われてみればなるほどという感じだし、とにかく今まで知らなかったこと考えもしなかったことが盛りだくさんで、著者の別の本も読んでみたいと思わせてくれる一冊だった。(「インサートコイン(ズ)」 読坂雄二、光文社文庫)

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