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紅城奇譚 鳥飼否宇

戦国時代の九州を舞台にしたミステリー連作集。著者の本はこれで3冊目になるが、どれも色々な趣向が凝らされていて大変面白い。今回の作品でも、リアリティーよりも不可思議な謎をどう解明するかということを重視した本格派のテイストを堪能できた。現代の常識では計りきれないであろう戦国時代を舞台にすることで、リアリティーの弱さが気にならないように工夫がされているし、もしかすると、常に命の危険にさらされながら戦って生き抜くしかない戦国時代というのは、ミステリーと相性が良いのかもしれない。最後のどんでん返しは少しおざなりだが、そこに至るまでのいくつもの謎が面白いのでそこもあまり気にならなかった。(「紅城奇譚」 鳥飼否宇、講談社)

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世界の鉄道紀行 小牟田哲彦

世界の様々な「鉄道」の体験をつづったエッセイ集。表紙と帯以外に、すなわち本文中に写真が1枚も掲載されていないのは読み手にとっては残念という他ないが、これは著者自身の「乗り鉄」ではあるが「撮り鉄」ではないという矜持の表れなのかもしれない。20のエッセイのうち、特に面白かったのは、カンボジアのおんぼろ列車とボリビアのボンネットバスの2つ。世界には色々な鉄道があるのだなぁととにかく感心してしまった。著者の略歴を見るとまだまだ若い方のようだ。この歳でこれだけの経験をしてしまった著者がこれからどのような方向に向かうのかも興味深い気がする。(「世界の鉄道紀行」 小牟田哲彦、講談社新書)

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Y駅発深夜バス 青木知己

書評誌に期待のミステリー作家とあったので、迷わず読んでみた。短編集の本書を読み終えて、色々な雰囲気の作品が並んでいるのに先ずは驚かされた。どちらかというと本格派に近い作風と言えそうだが、明らかにそうしたジャンル分けでは収まりきらないバラエテイさを持った作家だ。そこに謎の鍵があったのかとビックリすることもしばし。著者の持ち味が活かされるのは多分短編だろうが、本書のような質を維持した短編を書き続けるのは至難かもしれない。長岡弘樹の最初の短編集を読んだ時と同じような感覚だ。次の作品集が待ち遠しい。(「Y駅発深夜バス」 青木知己、ミステリフロンティア)

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闇に香る嘘 下村敦史

本屋さんで表紙が黒一色の本が置いてあり、手に取ってみたら面白そうだったので読んでみた。著者の本をこれが2冊目だが、本書が江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作とのこと。最初に読んだ作品も凄いと思ったが、本書はそれを上回る凄い作品だと思う。盲目の主人公が、自分の兄を本当の兄弟かどうかと疑うところから話は始まり、自分に降りかかる危機を躱しながら真実に迫って行く。前半で幾つもの謎が提示され、これらの謎に本当に納得のいく解答があるのだろうかと思うのだが、終盤にきて、びっくりする事実が立て続けに明らかになり、全ての謎が綺麗に解決する。これほど見事な結末はこれまで読んだ沢山のミステリーの中でも稀有な気がする。ネットで調べると、著者の本はまだというかもうというか何冊もでている。これから一冊ずつ読んでいくのが楽しみだ。表紙の黒一色は、主人公が盲目であることや題名の「闇」に由来するのだろうが、もし真っ黒でなかったら、手に取ることもなく、読む機会もなかっただろう。この大胆な表紙を思い付いた人に感謝したい。(「闇に香る嘘」 下村敦史、講談社文庫)

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猫大好き 東海林さだお

いつも通りで期待通りの著者の本だが、本書は何だか何時もより面白い気がした。ずっと前から読んでいるので、著者もかなりなお歳だと思う。それで一時期取り上げるテーマや文章の感じが少し古いかもと感じたこともあったが、本書を読んでいて、そうした古臭さを感じなくなっていることに気が付いた。こうした感覚は、読み手との相対的な立ち位置に左右されるだろう。著者が追いついてきたのか、それとも文章を読んでいる自分が著者に追い抜かれてしまったのか。もしかしたら後者の理由かもしれない。でも、それでまた著者の本を読むのが今まで以上に楽しくなるのなら、別に悪いことでもない。読書の好みが変わるというのはこういうことなのだろう。(「猫大好き」 東海林さだお、文春文庫)

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BUTTER 柚木麻子

残念ながら受賞はならなかったが、直木賞にノミネートされた本書。読み始めてすぐに、著者のこれまでの作品とは明らかに違う雰囲気の作品であることに気付かされる。冒頭から、これまでの軽いタッチの小説とは打って変わって重苦しい内容が続く。読み終えて思ったのは、本書が実に様々な問題提起を含んでいることだ。人間の外見に対する先入観の問題、人間にとって孤独とは何か、あるいは食とは何か、こうした様々な問いかけを通じて、読み手それぞれにどういう生き方をすべきかを問題提起しているように思える。著者の今までとは全く違う作品に出会って、これからどういう作品を読ませてくれるのか、とても楽しみになった。(「BUTTER」 柚木麻子、新潮社)

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シニアひとり旅 下川裕治

シニアのためのアジアひとり旅指南本と思ったら、少し違った。体系的に旅に必要な情報が記載されているわけではないので、指南本というよりは、旅行記に近い。文章は雑駁だが、何となくためになるような気がする。ここのお店がお勧めという情報よりも、こんなことに苦労したという情報の方がありがたいことがある。例えば、本書の中で語られている、ひとり旅の場合、美味しい中華料理を見つけることが難しいという話にはなるほどなぁと感心させられた。別にひとり旅をしたいとは思わないし、むしろ本書を読むと、自分はひとり旅には向いていないと痛感する。妻に同伴を断られてしまって、止むを得ずひとり旅ということもあるかもしれないが、そんな時は、我をはらずに、妻の行ってくれそうなところに行き先を変えるのが賢明だと感じた。なお、巻末の航空運賃の相場表は、文章の雑駁さを補うためのものかもしれないが、本文だけで充分ためになったので、明らかに蛇足だろう。(「シニアひとり旅」 下川裕治、平凡社新書)

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書店ガール6 碧野圭 

本シリーズは全部読んでいるが、それほど熱烈なファンというわけではない。これまでに何冊読んだか記憶は定かではなく「書店ガール6」とあるのでシリーズ6冊目なんだろうなぁだ判る程度だし、前の作品がどんな話でどのように終わったのかも覚えていない。それでも読み続けているのは、期待を裏切られたという記憶もないからだ。本シリーズは、書店員をはじめとする本に関わる様々な人達のあまり知られていない面を色々見せてくれるのがなにより楽しい。本書では、小説のアニメ化、アニメのノベライズ化に携わる人々の色々な苦労が描かれていて、期待を裏切らない面白さだった、(「書店ガール」 碧野 圭、PHP文芸文庫)

 

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ヤバい現場に取材に行ってきた 石原行夫

ネット書店で「カンボジア」で検索して面白そうなので購入したのだが、現物をみて驚いた。この著者、どれだけのリスクを負っているのだろうかと他人事ながら心配になるほど、物理的にも法律的にも危険な現場取材ばかりが並んでいる。ある意味、読むのも憚られるような内容と言って良いだろう。お目当てのカンボジアのところも読んだが、自分の知っているカンボジアとのあまりの違いに驚かされた。1,2日だけの出張でその国の本当のところを知ることができるとは思わないが、それにしても何度も訪れているカンボジアという国に対するイメージとあまりにもかけ離れている。どちらも本当と言ってしまっては実も蓋もないが、これからは出張するときにもう少し気を付けた方が良いなぁと思った。(「ヤバい現場に取材に行ってきた」石原行夫、彩図社)

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三つの悪夢と階段室の女王 増田忠則

人間、ちょっとしたことから他人の恨みを買ったり、不運に巻き込まれたりする。不条理な話と言えば不条理な話だが、本書にはそうした嫌な感じの話が4つ収録されている。4つの話は全く別の話だが、その嫌な感じがまさに粒ぞろいで、それだけで連作集というような雰囲気を醸し出しているのがすごい。本作がデビュー作とのことだが、この著者これからどういう方向に向かっていくのかとても気になる。(「三つの悪夢と階段室の女王」 増田忠則、双葉社)

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ポーの一族・春の夢 萩尾望都

40年振りの「ポーの一族」の新作。読み始めた最初の印象は、登場人物のアランの顔や絵のタッチが昔と随分変わってしまったということだ。主人公エドガーの顔は変わらない気がするが、アランの顔やその他の人物達の全身の描き方などはこんな感じだったかなぁと少し違和感がある。それからさらに読み進めていって絵に慣れてくると、やがて昔の話がどんなだったかが少しずつ記憶が蘇ってきた。ずっと姿形が変わらないバンパイアの「子どもを仲間にしない」という不文律に反した存在の主人公達の物語だった。エドガーとアランの関係も大体思い出した。しかしメリーベルがなぜもうこの世に存在しなくなってしまったのかは思い出せない。もう一回最初から読み直さなくてはいけないような気もするし、この話の先がどうなるのかも気になる。しばらくはさらに新作が出るのかどうか注意しておきたい。(「ポーの一族・春の夢」 萩尾望都、小学館)

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猫が見ていた 湊かなえ他

著名なミステリー作家たちによる「ネコ」をテーマにした作品集。執筆者の顔ぶれから「華麗な謎解き合戦」のようなものを期待したが、内容はどちらかというとミステリー色のほとんどない作品ばかりが並んでおり、読み終えた感想としては「やや期待外れ」という感じは否めない。しかも個々の作家たちも、ここぞとばかり日頃封印しているであろう純文学のようなものにチャレンジしていて、逆に何だか没個性的な作品ばかりが並んでいるようにも感じられた。名前を伏せられて「この作品は誰の作品」と当てられる気がしない。さらに巻末には個々の作品に対する解説ではなく、「古今のネコを題材にした傑作紹介」が掲載されているのも如何かと思う。と、色々難点はあるものの、とにかくこれだけ著名な作家を一編に読める有難さだけで十分と考えれば納得の1冊ではあるだろう。(「猫が見ていた」 湊かなえ他、文春文庫)

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流されるにもほどがある 北大路公子

怠け者を自認する著者による「流行通信」ということで、著者も、「自分自身が流行の最先端について云々することは自己矛盾に近い」というようなことを言っている。確かに、これまで読んだ著者の本の内容からすると果たして大丈夫かと一抹の不安がよぎるが、読んでみると何のことはないいつも通りの著者であり、いつも通りの文章だった。本書の白眉は「走れハロウィン」。これは、今までに読んだどんな「流行通信」にも勝る大傑作だと思う。(「流されるにもほどがある」 北大路公子、実業の日本社文庫)

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みんなの朝ドラ 木俣冬

NHKの朝の連続テレビ小説の歴史と各作品の時代背景などがよく判る解説本。それぞれの作品が、その時々の時代を反映していたり、何かにチャレンジしていたりで、それを見たころのことを懐かしく思い出したり、意外なウラ話にびっくりしたりもさせられた。また、巻末に各作品の視聴率が掲載されているが、放映当時の話題性と視聴率が必ずしもパラレルでないということにも驚かされた。さらに時代時代によって視聴者の属性や見られ方が少しずつ変化しているというのも面白い。見た当時のことを思い出しながら楽しく読むことができた。(「みんなの朝ドラ」 木俣冬、講談社現代新書)

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英語コンプレックスの正体 中島義道

英語の論文を書いたり読んだりするのが仕事のような大学教授で、翻訳や日本語学校の先生もしたことがあるという著者が自らの英語に対するコンプレックスを吐露し、その本質を分析する本書。西洋人のような身振り手振りをして、マナーまで迎合しようとする人々への嫌悪感、最近の若者のコンプレックスの無さなどの分析は、とても共感が持てる。日本人は日本人らしく英語を話せば良いのだということを強く感じ、少し気が楽になったような気がした。(「英語コンプレックスの正体」 中島義道、講談社文庫)

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