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神様のビオトープ 凪良ゆう

今年本屋大賞を受賞した作家の過去の作品。ライトノベル出身の作家ということだが、過去の作品の中でライトノベルっぽくない感じの本書を一冊選んで読んでみた。読んだ感想としては受賞作に劣らず良い一冊だった。話の設定は、「若くして死んだ夫の幽霊と暮らす美術教師」を主人公とする連作短編集ということで、設定自体何となく荒唐無稽でライトノベルっぽいのだが、内容は色々考えさせられるし、この設定でよくここまでかけるなぁと著者の力量のようなものに舌を巻く内容。決してミステリーではないし、扱うテーマはかなり重たいのだが、短編ひとつひとつにちょっとしたサプライズ的な種明かしもあり、その辺りのセンスもすごいなぁと思った。(「神様のビオトープ」 凪良ゆう、講談社タイガ文庫)
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反日種族主義と日本人 久保田るり子

韓国の民族主義的な歴史観を見直す動きをまとめた「反日種族主義」という本を土台にして、韓国の歴史観とその変遷、「反日種族主義」という本の韓国人に与えたインパクト、歴代の韓国大統領の対日政策あり様とその背景などを日本人にも分かりやすく解説してくれる一冊。自分はこの「反日種族主義」という本を読んでいないので、細かいニュアンスが今ひとつ分からなかったが、言えることは、本書が、今両国の軋轢となっている「徴用工問題」「従軍慰安婦問題」の根本に「日韓併合が国際法上違法だったかどうか」「終戦後の大韓民国の成立が韓国人にとって正当なものだったかどうか」という歴史認識の問題があるということをきっぱりとした文章で教えてくれていることだ。徴用工問題について言えば、そもそも徴用工には時期によって「募集」「官斡旋」「徴用」の3段階あったこと、どのような搾取や強制があったのかなど、基本的な事実が分かりやすく述べられている。一方、歴代大統領の対日政策の変遷などは読み終えても頭の中で上手く整理出来なかったが、今の文政権の日本にとっての危うさは強く伝わってきた。いずれ「反日種族主義」そのものををじっくり読んでみたいと思った。(「反日種族主義と日本人」 久保田るり子、文春新書)
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もっとヘンな論文 サンキュータツオ

テーマはユニークだが執筆者は至って真面目という論文を、お笑い芸人ならではのツッコミを入れながら紹介するという「ヘンな論文」シリーズの第二弾。前作も面白かったが本作も期待通りの面白さ。紹介されている論文も、一見冗談のようなテーマの奥に深い意図が隠されているもの、著者自身変だと認識しつつ楽しんでいることが分かるもの、とにかく調べたいから調べましたという感じのものなどバラエティに富んでいて楽しい。「縄文時代の栗サイズ」「カブトムシ観察」などは、一見馬鹿馬鹿しいようだが、良く読むと何だかとても大切な研究だと思えてくる。一方で、「かぐや姫のお爺さんは何歳か」とか「坊ちゃんと瀬戸内航路」はとにかく研究者の熱意が全てという内容。あとがきに著者自身まだまだ続けるとあるので、第三弾を気長に待ちたい。(「もっとヘンな論文」 サンキュータツオ、角川文庫)
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検事の死命 柚月裕子

佐方検事シリーズの第三作目。短編2編、中編1編が収められているが、短編の一つは短いけれども、ある人物のちょっとした言葉から主人公が悪を追い詰めるこ気味良い作品。もう一つの短編は、佐方検事自身の物語で、彼がどのようにして清廉な職業意識を持つに至ったのかが明らかになる作品。また2部構成の中編は、使命感全開の主人公の熱意、行動力、頭脳の明晰さがが際立つ法廷サスペンス。どれも面白かったがやはり最後の中編はこれまで読んだ法廷ミステリーの中でも白眉の面白さだった。このシリーズすでにもう一冊刊行されているようなので、読むのが本当に楽しみだ。(「検事の死命」 柚月裕子、角川文庫)
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須賀敦子の方へ 松山巖

須賀敦子の生涯を、彼女の遺した文章の断片や関係者へのインタビューを通じて考察する一冊。彼女の作品はほとんど読んでいると思うし、その作品の中でも自分自身のことを色々書いているのだが、何故彼女が戦後すぐにイタリアに行ったのか、何故帰国後ボランティア活動に身を投じたのか、何故かなりの年齢になって文章を書き始めたのか、色々不確かな部分があるように思われたし、その部分については本人自らがなんだかはぐらかしながら語っているような感じでもあった。本書を読んでそのあたりかなりの部分が分かったような気がする。彼女を敬愛するあまり、ちょっと勇み足的な部分もあるような感じだが、須賀敦子という文章家を理解する上で大いに参考になる一冊だと思う。。(「須賀敦子の方へ」 松山巖、新潮文庫)
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怖いクラシック 中川右介

クラシック音楽の歴史を少し捻った視点から解説してくれる一冊。題名に使われている「怖い」という言葉は、聴き手を楽しませたり心地よくさせることを第一義とする音楽と対極にある、作曲者自身の心情の吐露や聴き手に緊張感を与えることを目的とした音楽の系譜を指していて、そうした音楽がモーツァルトから始まるという歴史観を象徴する言葉として使われている。モーツァルト以前の作曲家は、誰かの依頼で作曲したり何かの目的で集まった人々に心地よさを与えることを目的に作曲をしていたが、モーツァルト以降、誰からの依頼でもなく、自らが演奏の場をアレンジして披露するという新しい形の音楽が誕生したという。そうした音楽は聴き手の心地よさを優先しないため、よりダイナミックにより強烈に音楽というものの多様性を我々に提供してくれるようになったということだ。本書ではそうした視点で近代の西洋音楽史が語られているのだが、それでいて非常にわかりやすい音楽史の解説になっているところがすごいと感じた。、
(「怖いクラシック」 中川右介、NHK出版新書)
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今日も町の隅で 小野寺史宜

著者の本を読むと、世の中には色々な人が色々な考えで行動しているなぁと感じる。結果としての行動はそれこそ人によって様々だが、それでいてその人が誠実である限りはよく理解できるし、また何となく応援したくなる、そんな気持ちにしてくれる10の短編が収められた一冊だ。それぞれの短編はあるひとつの架空の都市を舞台にしていること以外に共通点は見当たらないのだが、読み進めていくと、主人公の年齢が少しずつ上がっているということに気づく。それぞれの年齢の時に確かにこういうことで悩んでいたなぁといった感覚もあり、全体を通してひとりの人間の成長の軌跡のようにも思えてくる。派手な作品ではないが、著者らしい暖かな読後感をもたらしてくれるのが素晴らしい。(「今日も町の隅で」 小野寺史宜、KADOKAWA)
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検事の本懐 柚月裕子

先日読んだ本でお勧めと書かれていた一冊。著者の本は何冊か読んでいてどれも面白かったと記憶しているが、紹介された本が未読だったので読んでみた。この作者の本は一応フォローしているつもりで、この本の題名も何度も見て知っていたが、念のために調べてみたら未読だったのでびっくり。多分、似たような名前の本が多いので読んだと勘違いしていたようだ。本書はシリーズ第二作目とのことだが、第一作目は既読だった。内容は、正義感、使命感に溢れる新人検事の活躍を描いた連作短編集だが、どの作品も、秀逸なアイデア、小さなサプライズ、緻密な描写が散りばめられていて飽きさせない。主人公の検事には色々な謎が残っているようなので、既に刊行済のシリーズ第三作目が楽しみだ。(「検事の本懐」 柚月裕子、角川文庫)
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オンライン落語 心技体20

20年ほど続いている落語会とのことで、メンバーは扇辰、彦いち、喬太郎の同期落語家3人。先日オンラインで視聴した3人の同期会と同じ構成だった。前回の三人の会が、古典落語、新作落語のバランスが良くて話も面白く、これまで聞いたオンライン落語の中でも一番良かったような気がしたが、今回も大変面白かった。扇辰の古典落語も聞き応えがあったし、彦いちの新作落語はこれまでに聴いた落語の中でも一二かと思うほど面白かった。トリの喬太郎も迫真の語りを堪能。この3人の落語会、コロナ自粛、オンライン配信がなければ出会わなかったはずで、落語の世界、気が付いていないがまだまだ面白いものが色々あるんだろうなぁと思った。
①林家きよひこ 狸札
②入船亭扇辰 鮑のし
③林家彦いち つばさ
④柳家喬太郎 怪談牡丹灯籠-本郷刀屋
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それでも読書はやめられない 勢古浩爾

普段あまり読書論のようなものは読まないが、これまで読んだ著者の本が面白くて共感することが多かったので、何となく読んでみた。本の前半は、著者の読書歴のような感じで、全集を読破することが多い著者の忍耐力の強さが自分とは違うなぁという程度の感想。強いて言えば、哲学書にハマったりというところは自分にも同じような時期があったので共感したが、それ以外、読み方も読む分野もあまり共通点はなかった。本当に面白くなってきたのは後半。著者によれば名著とか名作と呼ばれる本を読んで面白くないと思った時、ある時からそれを自分のせいにしてもしょうがないと思うようになったとのこと。それは私もかなり早い時期からそう思った記憶がある。それにしても、読書の質とか中身とかは、人によって本当に違うもんだと改めて思った。昔気の合う友人と最近読んで面白かった本を10冊ずつ披露しあったことがあったが、全く被らなかったのでお互いびっくりした記憶がある。現在の著者は、時代小説にはまっているとのこと。自分には未知の分野なので、少し読んでみたいと思うようになった。また、著者のオススメの本が20冊くらい列記されていて、これからの本選びの指針になるのでありがたいと思った。(「それでも読書はやめられない」 勢古浩爾、NHK出版新書)
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オンライン落語 柳家喬太郎独演会

オンラインでの喬太郎独演会は二回目。前回は古典落語のみ二席だったので、今回は新作が聴けるかもと期待しつつ視聴したが、今回も古典落語二席。特に最初の「コンニャク問答」は、古典落語をほとんど聞いたことがない自分でも知っている有名な話だが、それでも聞いていて結構面白かった。前に聞いた時の落語家が誰だったのか覚えていないが、もっとゆっくり喋っていたように思う。柳家喬太郎という落語家がとても人気があるのは、このテンポの良さなのかもしれない、テンポが早いと言えばかつてのベルリンフィルのカラヤンを思い出すが、そんな共通点があるのかもしれないと感じた。とにかく古典落語を楽しく聞けたのは良かった。
①こんにゃく問答
②禁酒番屋
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パラスター(side百花&宝良) 阿部暁子

「本の雑誌」で2020年上半期のベストワンに選ばれた作品。車いすテニス選手である親友のために車いすメーカーで奮闘する百花の視点で描かれた「side百花」、百花に助けられながらトッププレーヤーを目指す宝良の視点で描かれた「side宝良」という2分冊。「本の雑誌」によれば最初から最後まで涙、涙とのことだが、それほどではないにしてもとても丁寧に描かれた文句のない良い話だった。とにかく読んで良かったと思える一冊。2人の話は、東京パラリンピックの出場をかけた戦いの途中で終わる。本書刊行後に東京パラリンピック延期が決定したわけで、その後主人公2人がどうなっていくのか、現実を取り込んだ続編を期待したい。(「パラスター」 阿部暁子、集英社文庫)
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