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痛みかたみ妬み 小泉喜美子

最近復刊された著者の短編集2冊のうちの一冊。埋もれていた昔の人気作家の作品がこのような形で色々読めるのは嬉しい。内容は、前に読んだもう一冊と同様、短編らしいひねりがあるオーソドックスなミステリーで、安心して楽しく読めるのが最大の魅力だ。著者は若くして不慮の事故(階段からの転落死)で亡くなったというのには驚かされた。昔の文士のような話が時代を感じさせる。まだまだ名作と言われている作品があるようなので、これからもどんどん復刊してほしい。(「痛みかたみ妬み」 小泉喜美子、中公文庫)

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ミャンマー紀行 柴川清二郎

ネット書店で「ミャンマー」と検索してヒットした1冊。体裁も内容も「自費出版」のような感じで、あまり期待していなかったのだが、読んでみて何だかとても面白かった。内容は、定年を迎えた(あるいは定年間近の)中年男性によるミャンマー8日間の紀行文。日本のミャンマー大使館にビザを貰いに行ったら「クリスマス休暇」だったとか、今日は少し疲れたので早めに寝たといったまさにゆるい紀行文だが、とにかく掲載された写真のきれいさと記録に残すことに徹した自然さが際立っている。本当にただのおじさんたちの旅行の記念写真なのだが、ここまできれいで自然体だと、何故かそれを眺めているだけで楽しくなる。本書を読むと、ミャンマーに行きたくなるというよりは、写真を趣味にしたくなるというちょっと不思議な1冊だった。(「ミャンマー紀行」 柴川清二郎、東洋出版)

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午後からはワニ日和 似鳥鶏

著者の本は何冊か読んでいるが、面白そうなシリーズを見つけたので、第一作目から読んでみることにした。シリーズのなかで最初に読む作品だったので、短編集なのか長編なのかも分からないまま読み始めた。シリーズを読み進めていくと、登場人物のなかで犯人ではない人物というのが少しずつ見えてくるが、最初の1冊というのは、どこに犯人が潜んでいるかわからないというちょっとした緊張感がある。また、日常の小さな謎なのか、殺人事件のような大事件なのかというのも読んでみないと判らないし、そもそも誰が探偵役なのかもよく分からない場合がある。こうした新しいシリーズを読み始める時の醍醐味のようなものを久しぶりに味わうことができて、これはこれで面白いなぁと感じた。(「午後からはワニ日和」 似鳥鶏、文春文庫)

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5まで数える 松崎有理

題名だけを見て購入、内容をよく確かめずになんとなく「数学が絡んだミステリー短編集」だと思い込んで読み始めたところ、最初の作品で「実験医」という不思議な職業の主人公が登場、本書が近未来SFだと判ってビックリした。動物保護の精神が行き過ぎて動物実験が出来なくなってしまった未来、怪しげなオカルトブームが蔓延する未来など、ひょっとしたらこうした未来もあるかもしれないと思うような話が並んでいる。たわいのない話と言えばたわいのない話だが、作者が1から作り上げた世界ではないので、最近SFが苦手という感じになってしまった自分にも抵抗なく物語を楽しむことができた。(「5まで数える」 松崎有理、筑摩書房)

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カンボジア孤児院ビジネス 岩下明日香

東日本大震災以降のボランティアへの関心の高まりもあって、最近「ボランティアツーリズム」という言葉をよく耳にするが、本書はそのような風潮に大きなリスクがあることを指摘する。日本では最近カンボジア等の発展途上国に行って孤児院を慰問したり短期間のボランティアを体験するツアーが盛んで、大手の旅行会社によるパッケージツアーもあるらしい。こうした体験ツアーに参加することについて、日本人はほとんど無条件で良いことと思ってしまうが、そこには孤児院という看板を掲げた悪意や冷たいビジネスの影がちらついている。日本からのツアー参加者を受け入れる孤児院では、子供たちによるカンボジアの民族舞踊で歓待しつつ、わざとみすぼらしくした環境を見せることで寄付を募るビジネスやひどいところでは売春行為などもまかり通っているとのこと。カンボジアでは既に戦争や内戦が終わってからかなりの年月が経ち、孤児の数は減少している。にも関わらず、近年カンボジアでは孤児院の数が急増しているそうだ。事実、孤児院で暮らす子どもの8割は実際には孤児ではないという。しかしそれでは、そうした孤児院が完全に子どもを食い物にした悪かというと、話はそう単純ではない。子どもたちに売春行為を強制するようなところは論外だが、非常に貧しい家庭の子どもにとって孤児院は曲がりなりにも食事に困らず教育も受けさせてもらえるという意味で意味のある存在になっている面もあるらしい。日本人としては、自分のしていることが本当に貧しい子どもたちやその国の将来の役に立っているのか、何かに利用されているだけなのか、もう一度よく考えてみる必要があることを教えてくれる一冊だ。(「カンボジア孤児院ビジネス」 岩下明日香、潮出版)

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殺意の対談 藤崎翔

著者の本はこれで2冊目。本書の存在をどこで知ったのか、面白いという情報をどこで得たのかあまり記憶にないのだが、自分のネット書店の「お気に入りスト」に入っているのを見つけて購入した一冊。本書は全編が対談と対談者の心の内が交互に記述されている独特の文章。本書の最初に「そうした形式が最初のうちは読みにくいと思うが慣れるまで我慢して読んでほしい」という著者からの文章が添えられている。しかし実際に読んでみると、対談で喋っている人物がその後の独白の本人という関係がきちんと保たれているので、読んでいる部分が誰の視点の文章かがすぐに分かって、むしろ変に視点が変わる文よりも読みやすい気がした。話は、人の本心なんてこんなものかという程度の話からどんどん逸脱して登場人物全部が犯罪者という様相になり、さらに二転三転、最後は自分自身よく整理できないくらいにはちゃめちゃになって終わる。これで良いのかという疑問も受け付けないくらいのドタバタ劇だ。ツッコミどころは沢山あるが、面白かったので全く文句はない。(「殺意の対談」 藤崎翔、角川文庫)

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古典名作・本の雑誌 本の雑誌編集部

毎月愛読している書評誌の別冊で、夫々のジャンルについて一人の選者が古典的名作と考えるオールタイムベスト20の作品について解説する書評集。ジャンルによっては半分以上読んだというものもあれば、ほとんど読んだことがないというジャンルもある。また、直ぐに読みたくなるという訳ではないが、リタイアして時間ができたら読んでみたいと思う作品がいくつも見つかった。それこそ何千何万という作品のなかから選者が個人的に選ぶベスト20作品ということなので、どうしても選者の好みが前面に出るのはやむを得ない。逆に「自分の好みとは違うが一般的には名作なので入れておく」という中途半端なことをされると、こちらとして少し腹が立つ。書評というのは、それを書いた著者への信頼関係の上に成り立っていて、著者が持っているバイアスも含めて楽しみ、参考にするものだと思う。選者には思いっきり自分を主張してもらい、それをどう受け止めるかは読み手に任せてもらう、それが本来の書評と読者の関係だろう。その点でいうと、本書は、自己主張を目いっぱいしてくれていて気持ちが良い選者と、無難に学校の推薦図書のようなラインアップしかしない選者が半々といったところ。今度こういう企画があったら、選者を各ジャンル1人ではなく、複数にして「独自性」を求めるような体裁にして欲しいなぁと感じた。(「古典名作・本の雑誌」 本の雑誌編集部)

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レバ刺しの丸かじり 東海林さだお

著者の丸かじりシリーズは、いつも買う時に「すでに読んだ本ではないか」という疑念が頭を去来するのだが、まあいいやということで買ってしまう。文庫になってから買うとか、新刊が出たらすぐに買うとか、買い方を決めておけば良いのだが、文庫を買ったり単行本で買ったりしていると本当に訳が判らなくなる。前にこのシリーズを読んだのはいつ頃だったかを考え、奥付の発行日付をみて、読んだいるかいないかのあたりをつける。この方法は単行本には有効だが、文庫本は定期的にチェックしているわけではないので確実とはいえない。実際に既読だったことは1度しかないのでまあ大丈夫だろうということと、このシリーズなら2度目でも多分面白いだろうということで買ってしまう。さらに、読んでも既読だと気づかないで読み終えてしまうかもしれないと思って読むことができるというのもこのシリーズの良いところと言えば言えなくもない。本書は、結果は無事未読だったし、面白かったので良かった。(「レバ刺しの丸かじり」 東海林さだお、文春文庫)

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因業探偵 小林泰三

変わったキャラクターの女性探偵が活躍する連作ミステリーというのは数多いが、本書もその中の一つ。そうした中で本書が際立っているのは、叙述トリックが多用されていることだ。探偵小説でありながら、誰が探偵で誰が依頼人なのかもトリックの一部という形で読者を翻弄する。また本書で面白いのは主人公の思考回路と首尾一貫した屁理屈とも言える発言。著者の作品は何冊も読んでいるが、最近読んだ作品はややトリッキーなものが多く、それがだんだん癖になってきた気がするが、本書はそうしたトリッキーさに加えて、ブラックなユーモアも堪能出来る。(「因業探偵」 小林泰三、光文社文庫)

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騙し絵の牙 塩田武士

俳優「大泉洋」あてがきということで話題になっている本書。大泉洋は「水曜どうでしょうーベトナム縦断」を見てからすっかりファンになってしまった俳優なので、読んでみることにした。本書では、ある雑誌編集長が廃刊の危機に立ち向かう様が、出版業界の様々な問題をストーリーに絡めながらスリリングに描かれている。とにかく面白いし、さらに最後のアクロバティックなどんでん返しにはかなりビックリさせられる。一方、主人公のイメージに大泉洋というキャラクターはあまりマッチしていない気がする。この小説は「大泉洋当て書き」というキャッチフレーズがなくても十分に魅力的だし、そもそもそのキャッチフレーズが本書にとってプラスなのかマイナスなのかも微妙だと思う。(「騙し絵の牙」 塩田武士、KADOKAWA)

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殺さずにはいられない 小泉喜美子

出張先の本屋さんで、細切れの時間に読もうと思って購入したミステリー短編集。名前を聞いたことのない作家だなぁと思ったのだが、巻末の解説の著作リストを見てびっくりした。本書の著者が何十冊も作品のあるベテラン作家であることに先ず驚き、さらに最近読んだ記憶のある作品がこの著者の本で、それが40年前の作品の復刻版だったことが判明してもう一度驚いた。解説によると、私の読んだその復刻版の売れ行きが好調で、その後短編集が二冊再刊され、その内の一冊が本書とのこと。内容は、少しひねりの効いたオーソドックスなミステリー。もう一冊の短編集も読むのが楽しみだ。(「殺さずにはいられない」 小泉喜美子、中公文庫)

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猫島ハウスの騒動 若竹七海

著者の昔の作品は、簡単に入手できる作品はかなり読みつくしてしまっていて、まだ読んでいない作品は、ネットで調べても「絶版」「在庫なし」と表示されるものばかりになってしまった。それでも時々検索するとそれまで「在庫なし」だった作品が「在庫あり」になっている事がある。本書もずっと「在庫なし」だったのが最近「在庫あり」と表示され、やっと購入できた1冊。どういう理由で「在庫あり」になったのか、出版業界の事情はよく判らない。もしかすると、作者の最近の作品が話題になったのでたくさん「お気に入りリスト」に登録され、その情報が重版を促したということなのだろうか。個人情報的には少し怖い面もあるが、ネットを通じて世の中の関心の度合いが測られて、それで入手しにくい本が入手できるようになったり、埋もれていた作品が脚光を浴びるようなことになったのだとすれば、それはそれで嬉しいし、出版業界にとっても良いことだと思う。本書の内容は、著者らしい伏線一杯のコージーミステリーの典型のような作品。驚くような意外性はないが、読めただけで嬉しい。(「猫島ハウスの騒動」 若竹七海、光文社文庫)

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東大助手物語 中島義道

前に読んだ著者の本の中で、若い時に色々苦労したというような話が書いてあったが、著者の作品リストを見ていたらそれに関係するような題名の本書を見つけ、読んでみることにした。大昔に、東大で教授と折合いの悪い研究者が陰湿ないじめを受けているという話は聞いたことがあったし、「東大解体論」という東大批判の本を書いた人が教授陣から嫌われて「万年助手」という扱いを受けたことは有名な話だった。今のように「パワハラ」という言葉のなかった時代の出来事だが、いままでそうした話が本当なのか誇張された話なのか、確かめることもなくきてしまったが、この本を読んで、そうしたことが良くあるとは言わないまでも実際にありえる話であることを知った。文章の中には、私のゼミの先生も実名で登場する。本当に陰湿ないじめの描写に気が滅入るが、救いは、奥さんや周りの人々のサポートとその後の中島先生の活躍。それにしても本書に登場する「教授」、一応仮名になっているが、ネットで調べるとすぐに本名が特定できてしまう。ご高齢だが御存命のようで、本書が「亡くなってから書かれた」といういやらしい話ではなくてよかった。確かに、本書にもあるように、この教授、著書や論文などがネットでもほとんどみつからない。(「東大助手物語」 中島義道、新潮文庫)

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妄想女刑事 鳥飼否宇

著者は自分が最近気に入っている作家。テレビドラマの脚本なども手掛けているらしい。自分自身はテレビの脚本家が書いた小説というだけで何故かどうしても好きになれないのだが、この作家だけは例外という感じになっている。最近の作品を3冊ほど読んでいずれも大変面白かったので、ネットで調べてみると、著者の作品はまだまだ少なくとも20冊くらいはあるらしい。、「……的」シリーズとか色々なシリーズものが既に書かれていて、次に何を読もうか迷ったが、シリーズもののなかで最も冊数が少なくてとっつきやすいシリーズの1冊目ということで選んだのが本書。内容は、何かのきっかけで妄想状態に陥る性癖のある女性刑事の活躍を描いた連作短編ミステリーだが、その妄想が事件の解決に役立つのかと思うと、話はそう単純ではない。事件解決に役立つこともあるのだが、全くピントはずれだったり真相は別だったりと、その辺から既に意表を突いた内容になっている。ひとつ正直に言うと、自分は本作品の最後のオチがよく判らなかった。ずっと読みながら、作品のなかでほとんどストーリーに関係のない登場人物の名前がやけにしっかりと表記されているのが気になっていて、途中のオチはなんとか判ったのだが、最後のオチだけはどういうオチなのかよく判らなかった。(「妄想女刑事」 鳥飼否宇、角川文庫)

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風味さんのカメラ日和 柴田よしき

少しだけミステリーの味付けがされたいわゆる薀蓄ミステリー小説。様々なジャンルの薀蓄小説が氾濫しているが、本書のように写真とかカメラを扱ったものは初めてのような気がする。写真を趣味とする人は私の周りにも何人もいて、多分カメラを趣味にする人は団塊の世代を中心に大勢いるはずで、これまでこうした小説にお目にかからなかったのが不思議なくらいだ。内容は、初心者向けのカメラ教室に通う人々が撮った写真に潜む撮影者自身の隠された秘密を、その教室の講師が、カメラ技術の知識を生かして解き明かすという薀蓄ミステリーの王道。それぞれの短編に面白い趣向が凝らされてて楽しいし、役に立ちそうな知識も得られて、少しだけカメラを趣味にしてみたくなる。シリーズは始まったばかりという印象だ。カメラ技術というものには色々な薀蓄があるはずなので、まだまだ続編が期待できる気がする。(「風味さんのカメラ日和」 柴田よしき、文春文庫)

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