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正欲 朝井リョウ

今年の本屋大賞ノミネート作品。今年のノミネート作品は重厚な作品揃いで、本書もダイバーシティ、ネット社会という現代社会でクローズアップされている問題を真っ向から扱った重厚な一冊だ。今の日本社会については、同調圧力とかKYといった言葉でその生きにくさが指摘されるが、本書を読むと、この問題は現代日本の特殊性にとどまらないもっと奥深い深刻さを孕んでいることがよくわかる。またSNSといったネット社会の深化については、ダイバーシティの考え方からもはじかれるような孤独を軽減してくれる可能性を持つ一方で悪意や犯罪に晒される危険性を併せ持つことも教えてくれる。(「正欲」 朝井リョウ、新潮社)
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オンライン落語 古今亭駒治新作噺の会

今回も鉄道ネタの巨匠古今亭駒治のオンライン落語を視聴。短めの演目4本立て。最初の2席は6年振りとのことでいずれも初見だったが、短くまとまっていて駒治らしさの滲み出る楽しいお話。3席目は2週間前のネタおろしの時に聞いたのと同じ演目だったがその時よりもブラッシュアップされていたような気がした。最後の4席目は上野駅を仕事場とする伝説のスリを主人公にした人情噺で一応鉄道新作落語の括りだと思うがしみじみとするお話。今回の彼の鉄道落語は鉄道ファン特有の細かいネタや自虐で笑いを誘うものとは少し違っていて、ただただ鉄道が好きで鉄道ファンとしての活動中に思いついたんだろうなぁという内容だった。
①ガールトーク(?)
②We are イデオッツ
③海芝浦駅物語(正式な題名は不明)
④最後の雪
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星を掬う 町田その子

昨年の本屋大賞受賞作家の受賞後第一作とのこと。今年も本書が本屋大賞にノミネートされている。本書の主人公は、元夫のDVから逃れるため幼い時に自分を捨てた母親を含むいずれも色々な困難を抱える5人の女性と共同生活を始める。その中で色々気付いたり考えさせられたりしながら少しずつ前に進もうとしていく。再会した母親が若年性認知症になったり、ネットを使った犯罪にあったりと、本書も前作同様現代日本社会の問題点や闇が登場人物たちに容赦なく降りかかる。100%のハッピーエンドでないにもかかわらず、読後感がそれほど重たくないのも前作と同じで、これがこの著者の持ち味なのかなと思った。(「星を掬う」 町田その子、中央公論新社)
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夜が明ける 西加奈子

本屋大賞ノミネート作品。様々なハンディキャップや心の傷を抱えた2人の青年の半生を描いた作品。帯には著者自身の「当事者でないものが書いて良いのかという葛藤があった」という趣旨の言葉が載っており、読者側としても全く同様の気持ちで当事者でないものが安易に感想を述べるのがためらわれる作品だ。この物語はフィクションであり、フィクションというものは著者にとっては「書いたものが全て。評価は読者に委ねる」というもののはず。それにもかかわらず「ためらわれた」ということは、著者に「書いたものの評価を読者に委ねる」のとは別の思いがあったからに違いない。フィクションは往々にして現実を先取りする。この物語は「夜が明ける」という題名ではあるが、明るさを見ることができるのはまだまだ先の話だろう。そういう意味でこのフィクションは現実を先取りしている予感が題名に込められている。(「夜が明ける」 西加奈子、新潮社)
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負ける技術 カレー沢薫

著者の本は3冊目。本書もこれまでの2冊同様にかなり下品な内容で、家族や知り合いはもちろん知らない人にもおすすめするのが憚れる内容だが、独特の文章の面白さは相変わらずだ。おそらく読者の大半は面白いと思っても人に勧めることができないだろうから、人知れず大ブームになっているのかも知れない、著者の本職は漫画家とのことで本書にもイラストが沢山載っているが、老人には小さくて読みにくい。(「負ける技術」 カレー沢薫、講談社文庫)
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ミャンマー金融道 泉賢一

民政化が進められた2010年代のミャンマーで金融システムの整備に多大な貢献をした日本の銀行マンの自伝。ちょうど自分が毎年1〜2回ミャンマーに行っていた時期と重なっていて、色々懐かしい話が多かった。その当時から、何人ものミャンマーの銀行員から三井住友銀行の駐在員で凄く面白い人がいるということは聞いていた。とにかくミャンマーの金融制度整備やミャンマー語習得に熱心でつい応援したくなると口々に言っていたのを思い出す。読んでいて共通の友人も何人かいるようだが、軍事クーデター後自分もミャンマーの知り合いに危害が及ぶといけないので連絡するのを控えているので、ミャンマーの将来を案じる著者の気持ちが痛いほど分かる気がした。(「ミャンマー金融道」 泉賢一、新潮新書)
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黒牢城 米澤穂信

今年の直木賞受賞作。著者の作品は学園ものミステリーなど何冊も読んでいるが時代小説は初めてだ。読み始めると、時代小説特有の耳慣れない言葉が多いのだが、そのあたりに関する地の文の説明が多すぎず少なすぎず、時代小説の世界に慣れていない自分にギリギリついていけるという実に微妙な配合になっていて、それだけですごいなぁと感心してしまった。話は織田信長に反旗を翻して立て籠もるお城の中で起きる、城内の人質の殺害、首実験の首すり替え、茶道具の大名品盗難などの事件を城の主人である武将荒木村重とそのお城に幽閉されている黒田官兵衛の2人が解決していくというもの。このような狭い設定でいくつものミステリーが成り立つことにも驚かされたし、それぞれの事件が1つの統一した意志で繋がっていると分かった時には心底すごいなぁと思った。今年の本屋大賞にもノミネートされているが最有力候補であることは間違いないと思う。(「黒牢城」 米澤穂信、KADOKAWA )
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山手線探偵 七尾与史

事務所の家賃が払えないという理由で山手線内で営業している自称「山手線探偵」の主人公が、山手線駅構内やその周辺で起きた痴漢詐欺事件、迷子犬捜索を解決、さらにそこから過去に山手線駅で起きた転落事故の真相をあぶり出す。真相にたどり着くまでのプロセスがかなりの御都合主義だし登場人物のキャラクターが極端だったりで、リアリティよりも楽しさ重視が鮮明。本書の感想とは関係ないが、読んでいて山手線に関する疑問が2つ湧いた。1つ目は山手線に乗ると車両を乗り換えずにそのまま何周もできるのか。2つ目はその時の料金はいくらなのか。1つ目の疑問は、長年山手線を利用していてホームで車庫に入るとか回送車を見かけたことがほとんどないので多分何周もできるんだろうなぁと思ったが、案の定始発からほとんど終電まで運行している車両があり、最大10何周もできるらしい。2つ目の疑問は、ネットで調べたが完全にこれが正解という答えにはたどり着けなかった。電車運賃は乗車駅から降車駅の最短ルートで決まるのだが色々例外規定があり、そのどれをどのように適用するかで答えも違うようだ。多数意見としては「乗り放題切符」の料金を払わなければ何周もしてはダメ、犯罪になるということのようだ。(「山手線探偵」 七尾与史、ポプラ文庫)
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オンライン落語 古今亭駒治独演会

無事手術を終え退院し、今日から自宅でのリハビリへ。早速、鉄道落語の名手、古今亭駒治の独演会をオンラインで視聴。こういう時に自宅で寝ながら楽しめるオンライン視聴は本当に有り難い。内容は新作落語3席でうち1席がネタおろし作品とのこと。ネタおろしでない2席はすでに聞いたことのある演目。ネタおろしの作品は、改札から出られない駅として全国の鉄道ファンに人気の「海芝浦駅」を舞台にした人情噺で、演者らしい作品。全般的に笑いよりも聞かせる内容、鉄分少なめだったが、笑うと切ったお腹に響く今の自分にはぴったりの内容だった。
①生徒の作文
②鶯の鳴く街
③題名不詳(新作ネタおろし、海芝浦駅もの)
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国語入試問題必勝法 清水義範

名前は知っているが作品を読んだことのない作家の特集が書評誌に載っていたので、近くの本屋さんに行き一冊だけあった本書を読んでみることにした。学習参考書のような題名だが中身は短編小説集。奥付けを見ると40刷を超える超ロングセラーだ。表題作をはじめどの短編も文体とアイデアが絶妙にマッチしていてものすごく面白かった。著者についてネット検索すると、名古屋出身の著者が作品を数多く書いていた頃と自分が名古屋に住んでいた時期とが重なっていた。地元でこんなにすごい作家が活躍していたのに全く読んでいなかったことにびっくりした。名古屋ならではのものを含めて面白そうな作品を数多く出しているようなので、これからじっくり楽しむことができそう。特集を組んでくれた書評誌に感謝したい。(「国語入試問題必勝法」 清水義範、講談社文庫)

手術入院のため、10日ほど更新をお休みします。
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赤と青とエスキース 青山美智子

今年の本屋大賞ノミネート作品。1枚の絵画を巡る5つ話が収められた連作短編集だが、それぞれ別の話のように描かれながら、1つの話の主人公が別の話の脇役だったという感じで最後に全部がつながるというある意味お決まりのパターンだ。一方、登場人物は全員が善人なので大きな事件は起きないが、それでも相手を思いやりすぎたり、頑張りすぎたり、我慢しすぎたりして色々悩んだりする様が描かれる。ささくれ立った現実から少し距離を置きたいような時にちょうど良い一冊かもしれない。(「赤と青とエスキース」 青山美智子、PHP研究所)
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