goo

あなたが誰かを殺した 東野圭吾

お馴染みの加賀恭一郎シリーズの最新刊。読み始めて最初に驚いたのは次から次へと人物が登場すること。最初の20ページまでに4家族15人の老若男女が登場するが、何故か登場人物一覧がない。止むを得ず手書きの一覧表を作りそれをしおり代わりにて読み始めることにした。事件は別荘地で起きた連続殺人事件。犯人はすぐに捕まりあっさり自供もするのだが、今ひとつ動機が曖昧、残された証拠も一貫性がなく、地元警察も事件の全容解明に苦心している。そこに登場するのが休暇中の加賀恭一郎で、最初に登場した15人のうちの生き残った10人とのやりとりを通じて見事に真相を解き明かす。本書の一番の魅力は、真相の意外性もさることながら、加賀恭一郎の冴えわたった思考と、それを克明に伝える文章だ。著者の名作のような人間味溢れる感動作とは違ったミステリーの醍醐味を堪能した。(「あなたが誰かを殺した」 東野圭吾、講談社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

オンライン落語 つくば駒治会

古今亭駒治師匠の独演会をオンラインで視聴。演目は3席で全て彼の新作落語、3席のうち中入り後の最後の1席は4度目の視聴となるお馴染みのネタ、中入り前の2席は初めて聴く演目(オンライン視聴なので2席の題名は不明)。最初の一席は35年前の文通相手ダニエルを探すローカル列車の旅、中入り前の2席目は新幹線B席の話で、いずれも鉄分多めの師匠らしい内容。若手新作落語の旗手本領発揮という感じの一時間半だった。
①題名不詳 ダムに沈んだ町
②題名不詳 新幹線B席の悲哀
③鶯の鳴く町
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

旅のつばくろ 沢木耕太郎

ノンフィクション作家による旅のエッセイ集。内容的には、旅先で出会った人、景色、食べ物、お酒、出来事などが書かれた普通の旅エッセイだが、収録された40編ほぼ全部に共通しているのが旅というものを通じて過去と現在の繋がりが記述されていることだ。再訪した場所の場合は、若い時に訪れた時の印象との違い、過去に訪れた時にあったものがなかったり、なかったものがあったり、という変化が描かれている。一方、初めて訪れた場所では、何故若い時に訪れようとしなかったのか、何故訪れることができなかったのか、あるいは昔訪れていたら何を感じただろうかなどが語られる。自分は一度訪れた場所にまた行くよりも行ったことのない新しい場所に行く方が断然面白いと思う方だが、本書を読んで、昔行った所を再訪するの悪くないかもと少し思うようになった。(「旅のつばくろ」 沢木耕太郎、新潮文庫)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ちぎれた鎖と光の切れ端 荒木あかね

江戸川乱歩賞最年少受賞者による受賞後第1作という本書。二部構成になっていて、第1部ではクローズドサークルにおける本格ミステリテイストの連続殺人、第2部ではそれから3年後に起こる全く背景の違う街中での連続殺人事件が描かれている。第2部に入ってすぐには第1部と第2部の関係が分からず、読み進めていくと2つの事件の「殺された被害者の第一発見者が次の犠牲者」といった類似性が見えてくるものの、事件の全貌、特にその動機についての謎は深まるばかり。徐々にその関係が明かされていくスリル感に引き込まれる。最年少受賞者ということで文章も今時の言葉が随所にあって面白いし、色々な楽しみ方ができる一冊だった。(「ちぎれた鎖と光の切れ端」 荒木あかね、講談社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

落語他 ただの鉄道好き 古今亭駒治、ダメじゃん小出

鉄道ネタでお馴染みの古今亭駒治とダメじゃん小出の二人会。駒治師匠の落語は、青春18切符の利用者が熱海で浜松行きの列車に乗り換える時の座席争奪戦、和歌山の「駅長たま」にまつわる話、の2席でどちらも大変面白かった。特に熱海での座席争い「熱海ダッシュ」は全くの作り話だと思うが、妙にリアリティがあって笑えた。ダメじゃん小出のコメディは、ミュージックソーによる列車車内チャイムのモノマネと鉄道オタク親子の保護者面談の話の2つで、特に保護者面談の話がめちゃくちゃ面白かった。一番笑ったのは、話の中で出てきた「猫を連れて乗ることができる電車は?」というなぞなぞ(答えは多摩モノレール)。ミュージックソーのモノマネは最近の小出の公演で毎回聴いているが、これまでのような音楽演奏よりも今回のようなチャイムのモノマネの方が断然面白く、「このネタ進化しているなぁ」と感じた。あっという間の2時間を堪能した。
(演目)
①ミュージックソー ダメじゃん小出
②走れ青春 古今亭駒治
③トーク 小出&駒治
仲入り
④駅長たま 古今亭駒治
⑤鉄道保護者面談
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

カブトムシの謎をとく 小島渉

カブトムシ研究者による解説書。カブトムシに限らず、昆虫については、愛好家が多いにも関わらず分かっていないことが多いらしく、その最先端の研究成果を垣間見ることができる楽しい一冊。カブトムシに関しては、硬い殻が鳥からの捕食回避にどのくらい役立っているか、生息地の緯度(気温)と幼虫の成長速度の相関、大きなツノの効用などが特に面白かった。また、カブトムシ以外では、アゲハチョウの毒の有無と逃避開始距離の関係の調査が興味深かった。正直言って「そんなこと調べてどうするのかなぁ」というものもあったが、結構既に先行研究有りというのが笑えた。こうした話の面白さもさることながら、本書の真骨頂は研究者の論理的な思考と熱量を実感できるところだと感じながら読み終えた(「カブトムシの謎をとく」 小島渉、ちくまプラマー新書)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

失われた30年を取り戻す 雨宮処凛 白井聡

知人に勧められた一冊。就職氷河期世代いわゆるロスジェネ世代の2人が対談形式で自分を含む同世代の人々の現状や展望を解説してくれる内容。一人は政治学の研究者、もう一人は社会活動家で、それぞれが自分の研究成果や活動成果を持ち寄って分かりやすく教えてくれるのだが、とにかく知らなかったことが満載で非常に為になった。就職氷河期世代の状況について語られた言葉として「年越派遣村」とか「ネットカフェ難民」という言葉は知っていたが、正直その後の彼らがどうしているのかどうなっているのかについては関心が薄れていたし、メディアによる報道も断片的だったように思える。この本を読むと、思ったような就職ができず、低収入のため結婚や子どもを諦めざるを得ず、それに追い打ちをかけるような福祉切捨て政策、SNSによる相互監視、自己責任論の強まりなどによって困窮や孤立の度合いを強めていく彼らの実情が見えてくる。彼らに関する言葉として紹介されている「ミソジニー」「インセル」「高齢者ヘイト」「フェミサイド」などは、どれも初耳で知らないことばかりだった。かつての「カウンターカルチャー」が彼らの世代になって過去の世代と対峙すらしない「サブカルチャー」へと変わっていったという指摘も印象的だ。そうした状況は現在進行形で悪化しており、その次の世代はさらに悪化しているという。彼らの親世代が高齢化して親からの支援も期待できないし逆にその介護の負担が彼らにのしかかってきている。また彼らが団結して社会を動かす可能性についても、同世代で破局を免れた者とそうでない者が自己責任論や妬みで分断されているため悲観的にならざるを得ない。そうした状況下、中国の「寝そべり主義者宣言」、韓国の「ペクス(ニート)連帯」、シンガポールの「BBA」、日本の「NO LIMIT」といったアジア各国の動きが少しずつ連帯をしつつあるとのこと。ある政党の宣伝のような部分が少し気になったが、全体として非常に多くのことを教えられた一冊だった。(「失われた30年を取り戻す」 雨宮処凛&白井聡、ビジネス社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

82年生まれ、キム・ジヨン チョ・ナムジュ

主人公の女性の生い立ちから30年余の出来事を男女の不平等という観点から見つめる韓国の小説。数年前に大いに話題となり、その後の様々な社会運動の起点となったとのこと。先日読んだ韓国SFの感想でも述べたが、男女の不平等、受験戦争、出生率低下などの社会問題を、韓国の小説は真正面から問題として提起する。本書においても、一人の女性が直面した困難や違和感を数限りなく列記した上で、それを裏付ける統計資料なども織り交ぜながら明確に社会の問題として提起している。これは韓国の方がそれらの問題がより深刻だという側面もあるだろうが、その一方で文芸作品が社会に及ぼす影響への思いの違いもあるのだろう。解説を読んで初めて気付かされたのだが、本書では登場人物の女性に対しては固有名詞が明記されているのに対して、男性の登場人物には彼女の父親とか彼女の弟といった女性の登場人物との関係を示す呼び名しか与えられていない。まさに一個人であるはずの女性が結婚したり出産した途端に「誰それの妻」「誰それの母親」となって個人が埋没することを強いる韓国や日本の社会問題への明確な反撃の狼煙のような驚くべき作品だ。(「82年生まれ、キム・ジヨン」 チョ・ナムジュ、ちくま文庫)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

でぃすぺる 今村昌弘

著者の本は4冊目。既読の4冊はいずれもホラーと謎解きが合体したような特殊設定ミステリーだったので、今作もそうなのかなぁと思いながら読み進めた。物語は、小さな地方都市に住む小学生3人が学校の壁新聞を作るために地元に伝わる怪談話を調べていくうちに、何人もの犠牲者を出した凄惨な過去の歴史に遭遇、その裏に隠された謎を解いていくというもの。読みながら感じたのは、最近読んだホリー・ジャクソンの「自由研究には向かない殺人」シリーズ三部作との類似だ。小学生と高校生という違いはあるが、いずれも学校活動の一つとして身近な謎を追いかけるうちにその地域に潜む意外な黒歴史にたどり着くというストーリーだし、主人公たちの謎解きに邁進するモチペーションが仲間の一人の身内の死の謎であることや、警察のような捜査権を持たない子ども達がSNSを駆使して情報を集めるといった設定も共通だ。最後に見える景色や着地点は、如何にも著者ならではのものという感じで堪能した。(「でぃすぺる」 今村昌弘、文藝春秋社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ソース焼そばの謎 塩崎省吾

B級グルメの定番「ソース焼そば」の発祥、伝搬の謎を追う一冊。「ソース焼そばは戦後大阪で生まれた」という俗説を覆し、「大正末期に東京の浅草近辺で生まれた」という自説を展開する。「ソース焼そば」だけでよく一冊の本が書けるなぁと驚くばかりだが、それ以上に膨大な資料の収集と論理展開の緻密さに舌を巻く内容だ。参考にする資料は、文学作品、様々な業種の社史、作家のエッセイなど多岐にわたり、またソース焼そばを子どもにも買える値段で提供できる条件として安価な小麦粉の入手や中華料理の一般化などが必要と考え、そこから様々な論考を進め、昭和初期にはすでに浅草を中心とする一帯でソースで味付けされた焼そばが複数のお好み焼き屋などで供されていたことを突き止める。とにかく著者のソース焼そば愛が満載で、全国各地のソース焼そばのカラー写真が60も掲載されていたり、味付けのソースがどのタイミングでかけられるのかの論考があったりして面白い。ちなみにハヤカワ新書を読むのは初めてだが、本書は電子書籍で出ていたものを早川書房の人が見つけて出版に至ったとのこと、こういう面白い企画の本がたくさん刊行されるのを期待したい。(「ソース焼そばの謎」 塩崎省吾、ハヤカワ新書)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

山の不可思議事件簿 上村信太郎

静かな「山と渓谷社」ブームはまだ健在のようで、本書もそうした流れで書評誌に紹介されていた一冊。本書は30年前に書かれた本が最近になって文庫化されたもので、最近購入したにも関わらず奥付けを見ると初版本なのでびっくりした。鉄道とか山登りとか、そういった少しニッチなテーマの入門書はマニアでなくても楽しく読めるものが多い気がする。本書は、山に関する奇妙な現象、神秘的な伝説や怪談、山にまつわる謎の生き物の話などを網羅的に解説してくれる内容。紹介されているエピソードの中には、マルローのエベレスト初登頂の謎、ブロッケンの妖怪、雪男などお馴染みのものもあるが、大半は初耳でとても面白かった。読後の第一印象は、語られる出来事の不可解さもさることながら、とにかく山に関しては不思議なことがすごく多いなぁ、しかもそれをよくこれだけ集めたなぁということ。山での出来事は、目撃者や関係者が単独の場合が大半で、それが事実なのか極限状態における幻覚なのかという客観的検証が困難なことがその一因だろうが、これだけ色々あると実際未知のことも多いんだろうなぁという気になってくる。山の遭難について、世界で最も遭難犠牲者が多いのは日本の谷川岳だという事実には驚かされた。また本書には「遭難からの奇跡の生還」の事例が数多く書かれているが、著者の「大半は自力での生還」というコメントが印象的だった。(「山の不可思議事件簿」 上村信太郎、ヤマケイ文庫)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

どれほど似ているか キム・ボヨン

書評誌で紹介されていた初めて読む韓国のSF作家の作品。量子論や宇宙科学などをベースにした近未来の出来事を描いた短編が並んでいるが、どの作品も科学的知見と社会のあり方に対する問題提起の融合の凄さに圧倒された。解説に「可能性の文学」と書いてあったが、まさにその通りの内容だ。時間旅行のパラドクスや不確実性原理になぞらえて世代間の不信を描いた物語、人体の義体が現実化し男女比が極端に歪んでしまった社会、脳波信号をそのままネットにアップできる技術の開発が選挙や政治にもたらした影響、人体の義体に埋め込まれたAIなど、物語の発端となるアイデアもすごいが、本書の真骨頂はそこから始まる緻密な思考によるストーリー展開と、その物語がいずれも過酷な受験競争や性差別問題などの現代社会とりわけ韓国社会の問題点を厳しく糾弾していることだ。巻末の訳者あとがきや広告ページを見ると、韓国では本書のような世代や属性による社会の分断、競争社会の歪みなどを扱った小説が色々なジャンルで書かれていることが分かる。日本では、そうした社会の分断や生きにくさを個人の問題として描く小説が多いと感じているが、彼我の違いを認識しつつ両方に目を向ける必要があると感じた。(「どれほど似ているか」 キム・ボヨン、川出書房新社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

絵画展 虹のアート展

15年以上通っている病院主催の絵画展を診察までの待ち時間を利用して鑑賞。展示されているのは絵画と織物で、展示作品数は多くなかったものの、絵画の方は鮮やかな色使いの現代アート、織物の方はよく分からないが確かにこれもアートだなぁと感じさせる見応えのある内容だった。最近、以前よりも診察までの待ち時間が長くなってきていて困っていたが、それを払拭して余りある楽しい時間を過ごすことができた気がする。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )