書評、その他
Future Watch 書評、その他
八秒で跳べ 坪田侑也
初めて読む作家の小説。書評誌で取り上げれていた本書を本屋さんで見つけたので読んでみた。内容は、高校のバレーボール部を舞台にしたコテコテの青春スポーツ小説。才能はあるが今ひとつバレーボールに情熱を注げない主人公が、天真爛漫に競技を楽しむエース、チームの纏まりに苦慮するキャプテン、冷めた主人公をライバル視するチームメイトらとの交流の中で物事に打ち込むことの楽しさに気づいていく展開は正に青春物語だし、漫画家を目指す女子の同級生との交流もお決まりのシチュエーションだ。個人的には、ちょうど孫が中学生になってどんな部活に入るのか見守っている時だったこともあり、大昔の部活時代を思い起こしながらの楽しい読書だった。(「八秒で跳べ」 坪田侑也、文芸春秋社)
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まくらが来たりて笛を吹く 春風亭一之輔
人気落語家によるエッセイ集の第2弾。前作同様、軽妙な語り口のエッセイを満喫。今回個人的に特に面白かったのは、「県境移動(あつ森の話)」「アライアンス(妄想さるかに合戦)「新○○(擬人化新大阪駅)「神頼み(神棚購入顛末)」など。本書ではエッセイが125編(前作は100編)も収録されていてお得ではあるのだが、もう少し少なくてもいいような気がした。今回強く感じたのは、著者の言葉の選び方のセンスの良さと言葉に対する鋭い感覚。著者が子どもの受験に付き添った時の場面で、係の人の「雨で足元が濡れているのでご注意を」という言葉に「滑る」という言葉を避けていると気づくあたりなど、随所でそれを強く感じた。(「まくらが来たりて笛を吹く」 春風亭一之輔、朝日文庫)
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あいにくあんたのためじゃない 柚木麻子
SNSによる誹謗中傷、コロナ禍で浮き彫りになった他人への不寛容などに立ち向かう人たち、何かに閉塞感を抱きながらもそれを乗り越えようとする人たちを描いた短編集。YouTuberに写真を勝手にアップされて被害を被ったお店とお客さんを描いた「めんや 評論家おことわり」は単なる復讐劇でないのが面白かった。一方、コロナ禍でリモートワークが浸透、子どもの遊び場がなくなってしまった状況下で「子どもの声がうるさい」と言われてしまった親たちがとった行動を描いた「パティオ8」は痛快な復讐劇。また、「商店街マダムショップは何故潰れないのか」はちょっと不思議なテイストの作品で、個人的には6つの収録作品のなかで最も印象的だった。その他の作品もとても面白く、しかも一口ではくくれないような色々な短編が収められていて、とても充実した一冊だった。(「あいにくあんたのためじゃない」 柚木麻子、新潮社)
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道化師の退場 太田忠司
本屋さんで見つけて面白そうなので読んでみた。著者の本は何冊も読んでいるが、本書に登場する探偵が主人公の作品を読んだ記憶がないので、これがシリーズ作品の1つなのかどうか今ひとつ分からない。題名から考えてその探偵が主人公と思いきや、その探偵は余命半年を宣告されていてほとんど寝たきりで、実際に謎を解く鍵となる情報を集めるのは別の青年。ストーリー的には完全にこちらが主人公だし、話全体を魅力的にしているのもこの青年の方という不思議な設定だ。話の大筋は、その青年が自分の母親にかけられた殺人犯の汚名をはらうために彼女の過去を探っていくというものだが、調べていくうちに彼女の周りでいくつもの事故死や殺人事件が起きていたことが判明、さらに青年が謎を追う中で新たな殺人事件が勃発したりする。最後に行き着く真相は、まあ普通の謎解きミステリーと言っていいのだが、本書の最大のびっくりは、余命宣告された探偵に関わる最後の謎。この部分はミステリーの謎解きとは無関係なので、ミステリーのルール違反とかではないが、あまりにもとんでもない結末らしきもの(?)に正直唖然としてしまった。(「道化師の退場」 太田忠司、祥伝社文庫)
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定食屋「雑」 原田ひか
今大人気の著者の新刊。夫に離婚を切り出された主人公が近くの定食屋さんでアルバイトとして働き出すことになり、そこでの体験や出会った人たちとの交流を通じて新たな一歩を踏み出すという物語だ。大きな事件は起きないが、ほのぼのとしたお仕事小説、お料理小説だ。その定食屋さんで供されるのは普通の食材を使った奇を衒わない定番料理で、それを作る際のちょっとしたコツが、面白くて為になる。重苦しい小説が多いなか、少しホッとする一冊だった。(「定食屋「雑」」 原田ひか、双葉社)
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いちのすけのまくら 春風亭一之輔
雑誌に連載された人気落語家のエッセイを書籍化した一冊。題名通り落語のまくらのようなノリで書かれた短いエッセイが100編収められていて、まさに落語のまくらを聴いているような情景描写の妙、読んだ側からどんどん忘れていって良いような気軽さがとても楽しい。どの編もとても面白かったが、一番傑作だと思ったのは文庫化にあたって掲載された落語家本人の息子による解説文。お世辞でなく父親を凌駕するような文章の上手さ、絶妙なユーモアにとにかくびっくりしてしまった。(「いちのすけのまくら」 春風亭一之輔、朝日文庫)
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クスノキの女神 東野圭吾
著者の最新刊。ある人が新月の夜に思いをクスノキに託し、満月の夜にその思いを誰かが受け取るという設定の前作「クスノキの番人」の続編。本書で登場するのは、ヤングケアラーで自作の詩を書く女子高校生、即興で物語のストーリーを絵画化するのが上手い難病の中学生など困難に直面している人たちだが、読んでいて不思議と心温まる気持ちになれるストーリーだ。最近読む本が押し並べて閉塞感の強い現代日本を映した陰鬱なものが多い中、こうした本を読むと気持ちがとても和む。前作で主人公以上に存在感の強かった主人公の叔母に大きな変化が見られ、このシリーズに続編を期待して良いか難しいところだが、このシリーズのシチュエーションを活かしたファンタジー、まだまだ読んでいきたい気がする。(「クスノキの女神」 東野圭吾、実業之日本社)
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日本人は、どんな肉を喰ってきたのか? 田中康弘
本書は、著者が30年にわたって礼文島から西表島まで南北3000キロ、日本人の肉食について調査した結果を解説してくれるノンフィクション。狩猟文化については、狩猟民の生活、生態系の変遷、自然保護など色々な観点からの考察があると思うが、著者は「肉食」という点にフォーカスして、捕獲動物の生態、捕獲方法、捕獲後の捌き方、料理方法、肉の味など様々なことを克明に教えてくれる。そうした解説の中に散りばめられた蘊蓄、例えばシカの肉は加熱するとすごく硬くなるとか、イノシシは足が短いので豪雪地帯では生きていけないとか、そうした話がとても面白い。また、文章と同じくらい充実しているのが様々な現場や料理の写真で、絶妙に文章と補完しあって読み手の理解を助けてくれているのが有り難かった。(「日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?」 田中康弘、ヤマケイ文庫)
イノシシ 激増,美味い,一頭あたりの肉が多いので貴重
シカ 激増,加熱すると固くなる,場所季節性別で味が違う
アナグマ ものすごく美味しい,賢い,脂は薬になる
ハクビシン 牛肉より美味しい
クマ 仕留めた後の回収,運搬が大変 カレー.鍋等料理法多彩
ウサギ 激減,美味しい(特に春,童謡ふるさと),肉少量→2羽必要
トド 冷凍してから切る(ふにゃふにゃ)
イノシシ 激増,美味い,一頭あたりの肉が多いので貴重
シカ 激増,加熱すると固くなる,場所季節性別で味が違う
アナグマ ものすごく美味しい,賢い,脂は薬になる
ハクビシン 牛肉より美味しい
クマ 仕留めた後の回収,運搬が大変 カレー.鍋等料理法多彩
ウサギ 激減,美味しい(特に春,童謡ふるさと),肉少量→2羽必要
トド 冷凍してから切る(ふにゃふにゃ)
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山ぎは少し明かりて 辻堂ゆめ
著者の作品は単独本2冊とアンソロジーに収録された短編2編の合計4作品が既読で、いずれもミステリー作品だったが、本書はミステリー要素のない内容。それでがっかりかというと全く逆で、これまで読んだ作品の中でも圧倒的に面白い一冊だった。高度成長期のダム建設に沈んだ山村を舞台に、昭和を生きた祖母、平成、令和という時代を生きる母娘の3代に渡る物語で、それぞれの世代が、戦争と戦後復興、高度成長とその挫折、現代日本の閉塞感という時代の波に翻弄されながら生きる様が描かれる。特に物語の大半を占める第3章「祖母」の物語は、その細やかな描写と緻密な展開が圧倒的だ。また、第1章でぼんやりと語られる3世代の女性の微妙な人間関係、第2章の最後に出てくる謎の一言、第3章の最後に明かされる第2章の謎の一言にまつわる真実、それらが見事につながるところもすごいなぁと思った。(「山ぎは少し明かりて」 辻堂ゆめ、小学館)
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世界最強の地政学 奥山真司
地政学研究者による一般向けの啓蒙書。地政学に関するキーワードの解説、地政学の観点から読み解く米中露の外交戦略、現在進行形のロシアウクライナ紛争、イスラエルのガザ地区攻撃の解説など盛りだくさんの内容だ。本書では、国土を海に囲まれた国(英米日)をシーパワー、隣国との国境が長い国(中露独)をランドパワーと定義づけ、前者が他国との衝突を回避するリベラリズム(協調モデル)、後者が隣国との衝突を前提としたリアリズム(衝突モデル)を志向すること、さらにランドパワーが面(領土の拡大)を重視するのに対して、シーパワーがルート、チョークポイントを重視することなどを分かりやすく解説してくれる。トピックとしては、温暖化で日本とヨーロッパを結ぶ「北極海航路」が注目されていてそれに伴って北海道の重要性が高まる可能性があること、南米大陸横断回廊の開通で世界の物流などが激変する可能性があるといった話が興味深かった。びっくりしたのは「宇宙にもチョークポイントがある」という記述で、宇宙ロケットの打ち上げには出来るだけ赤道に近い場所の方が自転の遠心力でエネルギーを節約できる(日本の種子島)とか、将来的に月と地球の重力の均衡点(ラグランジェポイント)の争奪戦が起きるかもしれないとのこと。色々なことを教えてくれる一冊だった。(「世界最強の地政学」 奥山真司、文春新書)
イギリス
シーパワー、協調的なのは平和志向とか民主的とかとは別問題、その方が国家永続という目標に適っているから。
ヨーロッパに大国を作らせないが国是、パックスブリタニカでなくなってもそれだけは死守
アメリカ
シーパワー、モンロー主義(南米に介入させない)、冷戦ではロシアの海路を断つ戦略(封じ込め政策)
中国
ランドパワー、現在は陸の脅威がない稀な状況、中華思想に囚われているのがネック
ロシア
ランドパワー、国境線に緩衝地帯がないと許せない、プーチンの失政で現在海への出口をどんどん失っている
イギリス
シーパワー、協調的なのは平和志向とか民主的とかとは別問題、その方が国家永続という目標に適っているから。
ヨーロッパに大国を作らせないが国是、パックスブリタニカでなくなってもそれだけは死守
アメリカ
シーパワー、モンロー主義(南米に介入させない)、冷戦ではロシアの海路を断つ戦略(封じ込め政策)
中国
ランドパワー、現在は陸の脅威がない稀な状況、中華思想に囚われているのがネック
ロシア
ランドパワー、国境線に緩衝地帯がないと許せない、プーチンの失政で現在海への出口をどんどん失っている
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