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かにみそ 倉狩聡

日本ホラー大賞の優秀賞受賞作の表題作と、書き下ろし作品1編を収録した1冊。表題作の方は、奇妙奇天烈な話だが、何故かストーリーの中に引き込まれてしまうちからのある作品だ。「大賞」ではなく「優秀賞」に止まったのは、審査員の評価が分かれたためとのことだが、確かに好き嫌いの分かれる作品だろう。著者があとがきのなかで、「読まれるのが恥ずかしい」というようなことを書いている。ホラー小説とミステリー小説の違いが「最後に合理的な解釈がなされるかどうか」ということだとすると、恥ずかしいくらいに荒唐無稽であることは、ホラー小説にとっては命脈のような重要な要素なのではないかと思う。それとおまけのような形で収録されているもう1つの作品だが、こちらも著者が何を目指しているのかがうかがえる印象的な作品だ。。(「かにみそ」 倉狩聡、角川書店)

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ミャンマーの柳生一族 高野秀行

いつもの冒険談とはやや趣が異なり、ミャンマーのディープな情報を戦国時代・江戸時代にかけての日本、徳川幕府とその隠密である柳生一族になぞらえて解説してくれる本書。なぞらえること事態を目的としたパロディではなく、不思議なくらいにその比喩がミャンマー理解のために効果的に使われている。軍事政権=武家社会という比喩もそうだし、中央政府と少数民族の対立関係=幕藩体制というのも、目からうろこのように判りやすい。判りやすさから犠牲にされたディテールというものももちろんあるのだろうが、そのあたりが全く気にならないのは、その比喩が深いところで本質をついているからに違いない。いくつも読んできたミャンマー関連本のなかで異色かつ出色の1冊だ。(「ミャンマーの柳生一族」 高野秀行、集英社文庫)

海外出張等のため、10日程、更新をお休みします。

 

 

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疾風ロンド 東野圭吾

この文庫の東野圭吾の文庫書き下ろしシリーズの第2弾。スキーゲレンデを舞台にした軽めのアクションストーリー、先の読めないミステリーのテイスト、程よい感じのドタバタ振りが売り物のシリーズだ。話としては、最初の方で、事件の張本人があっけなく死んでしまうという、びっくりするような展開。ストーリー全体の現実感はかなり乏しいし、主人公の親子の関係などもベタな感じだが、とにかく読んでいて楽しい。最後にお馴染みの2転3転のサプライズが用意されているのもお決まりのパターンだが、しっかり騙されてしまった。全体に無駄のない展開で、編に話を引っ張るようなところがないのも嬉しい。さらに、中年層の読者を意識しているのだろうが、昔のスキー場と今のスキー場の違いとか、スキーブームの大きな波の谷にある現在のスキー場事情などがかなり詳細に描かれていて、それを読んでいるだけでも得した気分になれる。(「疾風ロンド」 東野圭吾、実業之日本社文庫)

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ももクロの美学 安西信一

本書は「ももいろクローバーZ」というアイドルグループに心酔してしまった中年男子の大学教授が書いた本。メンバーの名前も顔も歌っている曲もほとんど知らない私には、内容的に良く判らず共感しようにもできなかった部分も多かったのだが、それでも本書を読んでいると、これを書いている著者の熱のようなものが迫ってくるのが感じられた。読んでも読んでも延々と似たような話が続くのだが、それでもかなり引き込まれてしまった。文章自体は冷静な分析という体裁なのだが、内容の納得性というのもどこかに吹き飛んでしまうような迫力だ。それにしても、こうした芸能ジャンルの真面目な本はどれもそうだが、写真が全くないので、困ってしまう。本書で力説されている「えびゾリ」というのも本書に写真がないので、ネットで検索して見るしかなかった。そのあたり、肖像権の問題なのだろうが、これだけ深く分析を行っているのならば、数枚くらいは写真を掲載する許可を貰う努力をして欲しいと感じる。(「ももクロの美学」 安西信一、廣済堂新書)

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竜が最後に帰る場所 恒川光太郎

著者の本は大半は読んでいると思っていたのだが、読んだことのない本書の帯に「著者の最重要短編集」とあったので、とにかく読んでみた。かなり初期の作品集とのことで、1つ目の作品を読んで「こんな作風だったっけ?」と戸惑ったが、読み進むにつれて「こんな感じだったなぁ」と思い出しながら読むことができた。本書のあとがきにもあるとおり、著者のことを「ホラー作家」と呼ぶのは間違いではないが、あまり当たっていない気がする。ファンタジー作家とも違うし、やはりこの雰囲気は独特のものだと強く感じた。(「竜が最後に帰る場所」 恒川光太郎、講談社文庫)

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大人のための恐竜学 土屋健

我々が子どもの頃に得た恐竜の常識が今色々覆されているという話は良く聞くが、それがどの程度のものなのかを体系的に教えてくれそうな題名の1冊。全体がQ&A形式になっているのは少しお手軽な感じで残念だが、それでも「今はこんなことになっているのか」という驚きがいくつも見つかる1冊だ。最後のところで「世界に恐竜学者というのは何人くらいいるのか?」という質問の答えには「そんなに少ないの?」とびっくりした。(「大人のための恐竜学」 土屋健、祥伝社新書)

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探偵部への挑戦状 東川篤哉

「放課後はミステリーとともに」シリーズの第2弾。高校が舞台のミステリーなので、深刻な事件はないのだが、それでも使われているトリックや謎はなかなか凝っていて面白いし、同じシリーズの短編なのに謎を解き明かす人が話によって変わるというのも少し変わっていて面白い。深刻でないということは即ち犯人にあまり悪意がないということなので、トリックや謎に偶然性が作用しているのはやむを得ないところで、これをご都合主義といってしまっては身も蓋もない。「とにかく面白いから良い」といういつもの1冊だ。(「探偵部への挑戦状」 東川篤哉、実業之日本社)

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銀河に口笛 朱川湊人

著者の本を読むのは久し振りのような気がする。本書の語り手は小学生時代を思い出して文章を書いている主人公で、読者は自分が小学生だった頃を思い出しながらそれを読むと言う構図はこれまでの作品でもおなじみのような気がするし、そのセピア色で覆われたような思い出の世界が何となく不思議な世界であるというのもこれまで通りのお約束事だ。ただ、語り手が呼びかける「キミ」の正体を巡る謎に関しては、これまでの作品に比べて答えが明確なような気がするのは、気のせいだろうか。久し振りに読んだので、そのあたりの自分自身の感覚がよく判らなくなっているのかもしれない。(「銀河に口笛」 朱川湊人、角川文庫)

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階段途中のビッグノイズ 越谷オサム

ベタな部活動・青春もの。最後のおちの部分などは、全くのお決まりのような展開で、却ってびっくりしてしまったくらいだ。それでいて、最後まで一気によんでしまったのは、やはり著者の文章がクリアなのと勢いがあるからだろう。薀蓄ネタなども色々工夫がされているようだが、残念ながらそのあたりは、こちらに予備知識がないので、あまり響いてこなかった。(「階段途中のビッグノイズ」 越谷オサム、幻冬舎文庫)

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苦い雨 樋口有介

本書の著者の本は「ピース」に次いで2冊目。前作は、最後のどんでん返しに驚かされたが、本書ではそうしたトリックのようなものはなく、重苦しい雰囲気で淡々と主人公の目線で、物語が語られる。直線的な展開にもかかわらず、物語そのものはかなり複雑な様相で、先の展開がなかなか読めず、最後に明かされる謎解きには説得力があって感心する。ストーリー自体は、ある日本の時代を色濃く反映したもので、その時の社会の雰囲気を知らない人にはその面白さが判らないのではないかと思うが、私などには「そういえばあの時代はそうだったかも」と、妙に納得してしまった。直線的な展開と主人公の造形に好感がもてる。そんな良作だと感じた。(「苦い雨」 樋口有介、中公文庫)

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修業論 内田樹

非常に読みごたえのある1冊。武道における修行とは何か、瞑想とは何か、武道が目指すものとは何か、これらが本書のテーマだが、ここまでその本質のようなものが「文字」「文章」になっているのを読むのは全く未知の体験だった。先日読んだ「日本人全てが消費者=損得勘定でしか物事を判断できない人=幼児性を残して大人になってしまった人」という論調の作者の本などは、本書が言わんとするところのごく一部、本書で書かれた考えを日本社会に当てはめた簡単な応用問題のようなものだということが良く判った。こういう本を知的な本と言うのだろう。今までに読んだ新書の中でも飛びぬけた名著だと思う。(「修業論」 内田樹、光文社新書)

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隣人 永井するみ

本書を読んでいると、思いがけないどんでん返しが最後に待っていたりして、誰が悪い人で誰がそうでないのか、だんだん訳が判らなくなってくる。結論から言うと「世の中あまり良い人はいない」ということに尽きるのかもしれない。著者の本は、おそらく4冊目だと思うが、最初に読んだ「カカオ80%の夏」とそのあとに読んだ「レッドマスカラの秋」の2冊が、特に非常に強く印象に残っている。その2冊で描かれた若い主人公の行動や考え方のリアリティには、心底衝撃を受けた。本書は、それらとはかなり違う印象で、作者名がなければ同じ作者とは思えないほどだが、よんでいて面白いという感覚は、いずれにも共通している。本当にすごい作家だなぁと感心してしまう。なお、先jの2冊の題名からすると当然読者は「冬」と「春」を期待しているのだが、出版社が「理論社」ということなので、出版されるかどうかは微妙かもしれない。(「隣人」 永井するみ、双葉文庫)

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