書評、その他
Future Watch 書評、その他
妻は忘れない 矢樹純
書評誌の「新時代のミステリー作家特集」で著者のことを知り、そこに書かれた著者の代表作、お薦め本としてあげられていた一冊。著者の本は2冊目だが、本書も前作同様、読者や語り手の思い込みを利用して予想外の結末を見せるミステリーが並ぶ短編集だ。読者をミスリードする記述の巧みさやひねりの利いた意外性は、最初に長岡弘樹の短編集を読んだ時のことを思いださてくれた。特に表題作の「妻は忘れない」と最後に収録された「戻り梅雨」の2編では、完全に著者の術中にはまって翻弄される感覚を堪能した。(「妻は忘れない」 矢樹純、新潮文庫)
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パフォーマンス ダメじゃん小出vol.47
大好きなダメじゃん小出の独演会。横浜にぎわい座での彼のパフォーマンスは、もう10回くらい観ていると思うが、今回はこれまでで最高というくらい面白かった。これまでは昼夜2興行だったが今回は夜公演のみということで満席。お客さんも常連が多いようで舞台との一体感も感じられた。内容は、前日の安倍元総理の国葬、東京五輪のキャラクターなど時事ネタもあれば、彼の本職であるジャグリングネタ、ご当地神奈川県ものと多彩で、あっという間の2時間弱だった。特に神奈川県の最東最西最南最北をめぐる話、ロシアの小咄などは最高に楽しかった。2週間後には同じ横浜にぎわい座の演芸ホールで彼の鉄道ネタを聞く予定。もうチケットも入手済みなので体調を整えて臨みたい。
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鉄道ビジネスから世界を読む 小林邦宏
本屋さんで題名を見て、世界の鉄道事情とか鉄道ファンに関する軽い本かと思ったのだが、読んでみて全く違うとても濃い内容の一冊だった。インドネシアやアフリカ諸国の高速鉄道の受注競争で日本企業が中国企業に負けたというニュースは何度か見た記憶がある。そうしたニュースに対して、自分自身あまり深く考えずに、中国のダンピングや賄賂戦略に負けた、安全よりも経済が重視された、短期的な損得だけが考慮された結果安物買いの銭失いになってしまうのでは、などといったイメージを持ってしまっていたが、深く考察するとそんな単純な話ではないことを本書は説得力を持って教えてくれる。中国企業躍進の背景には、発展途上国の鉄道需要の本質、為政者の思惑に対する冷徹な考察がある一方、欧米や日本企業には、技術への過信、安全神話の絶対視、グローバルスタンダードの縛りなどがある。こうした彼我の差が端的に現れるのが、鉄道敷設と競技スタジアム建設の2事業なのだという。スタジアム建設については、北京オリンピックの新設競技場の建設費が500億円だったのに対して、東京オリンピックの新国立競技場はレガシーとか云々しているうちに3500億円まで膨れ上がり、後に高すぎるとの批判があって減額となったがそれでも1500億円だった。これだけ違えば勝負にならないのは明らかだ。本書では、ロシアのウクライナ侵攻でも中国の鉄道ビジネスが潤う可能性があることなども指摘している。今年読んだ新書の中でもとりわけ面白い一冊だった。(「鉄道ビジネスから世界を読む」 小林邦宏、集英社インターナショナル新書)
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ななみの海 朝比奈あすか
初めて読む作家。児童養護施設から高校に通う主人公の高校生活を描いた作品。ごく普通の高校生で、大きな事件もといえば、親友の2泊3日のプチ家出騒動とか、後輩の中学生が警察に補導されたりといったところ。そうした日々の中で、周りの人間の行動や言葉に動揺したり怒ったり励まされたりしながら、自分の将来を見つめ進路を決めていく様が克明に描かれていく。非常に静かな小説だが、重く心に残る一冊だった。(「ななみの海」 朝比奈あすか、双葉社)
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オンライン落語 つくば駒治落語会
オンラインで古今亭駒治師匠の独演会をライブ視聴。内容は新作3席と古典1席。中入り前の創作落語2席は初めて聞く演目で師匠らしい噺を堪能。中入り後の1席は古典落語「子ほめ」は以前別の落語会の前座噺で聞いたことがあった演目。最後の4席目は駒治師匠ならではの野球ものの創作落語だが、途中で回線が1分近く切れてしまうアクシデントが何回も発生。前に聞いたことのある噺だったので話にはついていけたがそれでもやはり残念だった。この落語会は隔月で開催されているとのことなので、次回も楽しみにしたい。
(演目)
①初めての自転車
②レモンの涙
仲入り
③子ほめ(古典落語)
④ビール売りの女
(演目)
①初めての自転車
②レモンの涙
仲入り
③子ほめ(古典落語)
④ビール売りの女
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死体埋め部の悔恨と青春 斜線堂有紀
初めて読む作家。書評誌に紹介されていたので読んでみた。「死体埋め部」というサークルに所属する大学生2人が主人公のミステリーだが、とにかくその設定が奇抜すぎてびっくりする。冗談のような名前のサークルだが、活動内容はそのものズバリ殺人者からの依頼を受けて死体の処理だけを請け負うこと。依頼を受けるにあたってはいくつかルールがあるらしく、その一つが殺人に至った経緯や動機は一切問わないし聞かないということだ。話の中心は、主人公たちが、暇つぶしという感じで預かった死体を観察して敢えて聞かなかった殺人までの経緯や犯行の動機を推理するというもので、その部分はまさにミステリー小説だ。短編4つが収録されているが、個々の話はそれぞれ密接に繋がっていて、最終話で明かされる第1話に関する真相にはかなり驚かされた。最終話の終わり方を読むと続編があるとは思えない感じだったが、すでに続編が刊行されているとのこと。読むのが楽しみだ。(「死体埋め部の悔恨と青春」 斜線堂有紀、ポルタ文庫)
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見つけたいのはのは、光 飛鳥井千砂
初めて読む作家だが、書評誌で絶賛されていたので読んでみることにした。読んで最初に感じたのは、こんなすごい作家のことを今まで全く知らなかったのは何故だろうということ。これまでにどんな作品を書いているのか巻末の作者紹介欄を見るが確かに知っている題名はなかった。書評誌に5年ぶりの新作とあるので寡作な作家なのだろう。内容は、出産後に雇い止めにあい保育園が決まらずワンオペ育児に疲労困憊する女性、同僚や部下が立て続けに出産や育児のための休暇を取りそのしわ寄せで仕事が回らなくなってしまった女性、働きながら2児を育てるシングルマザーという3人の女性が出会い、本音を語りながら閉塞状態からの出口をそれぞれが模索するというお話。少し前に読んだ本も男子の頼りなさ不甲斐なさに申し訳ない気分になったが、本書はその何倍もその感が強い一冊だ。こうした力強い本を男性目線で書くことのできる作家がいるだろうかと考えるが、全く思いつかない。主人公たちの未来には光がさしているように思えるし、この本を読んで不甲斐ない自分と対峙しながら、小説には何かを変える力があるだろうと感じた。(「見つけたいのは、光」 飛鳥井千砂、幻冬舎)
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落語会 弁財亭和泉独演会
創作落語の第一人者弁財亭和泉の独演会。三遊亭粋歌の時からのファンだが、コロナ禍で久しぶり、真打昇進後初めての鑑賞となった。古典落語、自前の創作落語、三遊亭白鳥作の落語、それぞれ一席ずつという内容で、どれもとても面白かった。自前の創作落語「匿名主婦只野人子」はまさに彼女ならではの世界。三遊亭白鳥の落語は全10話のうちのクライマックスとも言える大作だが、この作品自体彼女のために作られたのではないかと思えるほどで、今まで聞いた創作落語の中でも最高に面白かった。
(演目)
①古典落語 「つる」
②創作落語 「匿名主婦只野人子」
中入り
③三遊亭白鳥作「落語の仮面」第9話「二人の豊志賀」
(演目)
①古典落語 「つる」
②創作落語 「匿名主婦只野人子」
中入り
③三遊亭白鳥作「落語の仮面」第9話「二人の豊志賀」
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聖女の毒杯 井上真偽
「その可能性はすでに考えた」シリーズ第2弾。あらゆる可能性を推理しつつ人知を超えた奇蹟の存在を追い求めると豪語する探偵、その弟子である名探偵コナンのような小学生、探偵に1億円以上を貸し付けている違法貸金業の中国人女性という3人組が、摩訶不思議な事件の解決に奔走する。今回の事件は、婚礼の盃を回し飲みした両家の親族と一匹の犬が飛び石のように毒殺されるというもの。前作同様、様々な登場人物たちが事件の真相について仮説を提示したりそれを反論しあったりという展開が延々と続く。文中には、その仮説の要点、それまでに分かったことを時系列にまとめた表、登場人物たちの位置関係を表した図や行動表などが盛り込まれているが、それを全て理解しようという気にならないほど細密で、そこに思考の漏れがあるかどうかなどを検証する気にもなれない。それでも何となく何を言わんとしているのか、何を否定しているのかはわかるので、その流れだけを楽しむことができる。何となく分かったことにして読み進めても面白いし、じっくり時間をかけて検証しながら読んでも多分面白いだろう、読者によって色々な読み方ができる一冊なんだろうと思った。(「聖女の毒杯」 井上真偽、講談社文庫)
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とんこつQ&A 今村夏子
著者の本は2冊目。書評誌に「待望の新作」と紹介されていたので読んでみた。前に読んだ作品は話の展開の面白さとか結末の意外性などではなくそこに書かれた人物の心の綾のようなものに焦点が当てられた作品だった記憶があるが、本作も何か不穏な人々の心境や行動が丹念に描かれた短編集だ。無邪気さが度を越していて逆に怪しい人、倫理的規範を大切にしているように見えてどこか道を踏み外しているようにしか見えない夫婦など、他人の内面を正しく理解することが想像以上に難しいということを教えてくれる作品が並んでいる。表題作の終盤に何気なく書かれた10桁の数字を見たときは、「えぇ?」という驚きと共に、こんなところにこんな仕掛けをする心底怖い作家だなぁと感じた。(「とんこつQ&A」 今村夏子、講談社)
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ノヴァーリスの引用/滝 奥泉光
著者の初期作品を2編収録した本書。著者の本はこれで3冊目だが、前に読んだ作品と同じ作者とは思えないようなガラリと違った雰囲気にびっくりさせられた。巻末の解説を読んで、著者の処女作が「虚無への供物」の流れをくむ幻想ミステリーだったということ、その後の作品で芥川賞を受賞していることなどを知ってこれにもびっくり。もう何冊か著者の本を読んだ上で、それらを書かれた時系列に並べてみると著者の進化ぶりというか変化の過程が見えてくるかもしれない。本書に収められた表題作は、中年男性が酒を飲み交わしながら学生時代のある事件を回想するという内容。それぞれの人物が事件当時の記憶を辿り真相を推理していくのだが、それぞれの記憶が曖昧だったり、記憶同士に齟齬があったり、さらには酔っ払って夢うつつに語り出したりで、とにかく一筋縄ではいかない不思議な物語だ。もう一つの「滝」という作品は、かなり衝撃的な作品だ。ある宗教団体の夏季合宿で行われる「山岳清浄行」という修行での出来事を綴ったものだが、こちらも最後の着地点がなかなか見えてこないなか、最後の1ページに至って、予想を上回る結末の悲惨さと理不尽さに驚かされる。それにしても、最後の手紙が善意なのか悪意なのか、そもそもその答えが重要な要素なのか、「誰か教えて」と言いたくなってしまった。(「ノヴァーリスの引用/滝」 奥泉光、創元推理文庫)
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オンライン落語 駒治羽光二人会
オンサイトのチケットを予約しようとしてもなかなか出口に近くて通路に面した席がとれないので、オンライン配信の落語を探していたら、2日前に行われた面白そうな新作落語会を見つけたので久しぶりにアーカイブ鑑賞することにした。演者は、新作落語で活躍している古今亭駒治と笑福亭羽光による新作落語2席ずつという内容。駒治師匠の2席はいつもの鉄道ものや野球ものでない初めて聞く演目。それぞれ軽い内容だが期待通りの面白さ。羽光師匠の2席は得意のSFやアニメのオマージュ的な内容でこちらも演者の面白さを堪能した。(①②③は正式な題名不明)
①笑福亭羽光 (偽落語家)
②古今亭駒治 (推しの世界)
③古今亭駒治 (駐車場にて)
④笑福亭羽光 「アニメ小僧」
①笑福亭羽光 (偽落語家)
②古今亭駒治 (推しの世界)
③古今亭駒治 (駐車場にて)
④笑福亭羽光 「アニメ小僧」
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早朝始発の殺風景 青崎有
書評誌にミステリー新時代の代表として取り上げられていた著者による登場人物の会話を中心に話が進む日常の謎を巡るミステリー短編集。皆小編という感じの短さだが、短い記述の至る所に伏線があり、しかも話自体がとても面白い内容で、これまでに読んだ著者の作品の中でも文句なく一番の楽しさだった。特に公園に捨てられていた子猫を巡る兄妹の話、最終話の卒業式に休んだ級友の家を訪ねる話の2編は何気ない会話から意外な景色が立ち昇り、グサリと心に刺さる印象に残る作品だった。(「早朝始発の殺風景」 青崎有吾、集英社文庫)
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ディズニーキャストざわざわ日記 笠原一郎
三五館シンシャの「◯◯日記シリーズ」の5冊目。このシリーズは色々な職業の舞台裏や体験談を赤裸々に吐露するというものだが、これまでの4冊はいずれも実際に勤めていた会社の実名は伏せられていて、特定の会社のブラックさを暴くというよりは、職業特有の苦労話を面白く読めるというものだった。本書は、東京ディズニーランドの清掃スタッフだった著者による夢の国の裏話なので、読む前から、もしかしたら宣伝文句のような建前ではなくブラックさを暴く告発的な話が聞けるかもという期待と、企業名が特定されてしまっているのであまり過激な暴露話はできないだろうという不安が交錯する。実際に読んでみると、その辺りはちゃんと上手に良いところと悪いところが公平に書かれていて、裏話に関しても「ミッキーマウスの中には人が入っている」というのが秘密の暴露にあたると腹をたてる人もいないだろうという感じで何となく気持ちよく読むことができるように配慮されていた。ただし、夢の国、魔法の国というコンセプトを重視するあまり職場環境がブラックになっては本末転倒という著者の考えはちゃんと伝わってきた。(「ディズニーキャストざわざわ日記」 笠原一郎、三五館シンシャ)
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突然の奈落 レヴィンソン&リンク
レヴィンソン&リンクという二人組の作家による軽いタッチのミステリー短編集。初めて読む作家だが、解説によると、コロンボ刑事シリーズなど数多くのテレビドラマの脚本を数多く手がけたアメリカではかなり知られた作家とのこと。短編が10収められているが、いずれも真面目に生きてきた人物がふとしたことで悪事に走るものの最後には思わぬどんでん返しでとんでもない目にあうというパターン。とにかく短くてストーリーも一直線なので細切れの暇な時間を埋めるのにちょうどいい感じの一冊だった。(「突然の奈落」 レヴィンソン&リンク、扶桑社ミステリー)
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