書評、その他
Future Watch 書評、その他
放課後推理大全 城平京他
副題の通り、学園ミステリーの短編7つが収録されたアンソロジー。著者は城平京、友井羊、初野晴、米澤穂信、有栖川有栖、金城一紀、栗本薫と全員大御所的な作家、収録作品は彼らの代表的なシリーズ作品の中の最初の方の短編が中心という豪華でかつ有名シリーズを楽しむのに最適な手引きになるものばかりだ。既読の作品も3つあったが、それでも改めて読んでも面白く、編者のセンスの良さが際立つ一冊だった。やはり作者の核心的なところは最初の作品に表れるということが再確認できた気がする。(「放課後推理大全」 城平京他、朝日文庫)
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転がる珠玉のように ブレイディみかこ
イギリス在住の著者のエッセイ集。書かれた時期がちょうどコロナ禍の時期と重なっていて、題材の多くは自身や家族の闘病日記、彼の地のコロナ関連の騒動だ。以前の作品の主役だった息子さんはカレッジ生に成長し、ドタバタする家族をユーモアと冷静さで支える存在になっている。全編を通して強く印象に残るのは、コロナ禍でのイギリス人の芯の強さ。諦める時はあきらめてユーモアで乗り切る、怒るべき時はデモなどでしっかり主張する、色々な本で紹介されている第二次世界大戦下などでのイギリス人のこうした逞しさを改めて教えてくれる内容だった。(「転がる珠玉のように」 ブレイディみかこ、中央公論新社)
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死んだ山田と教室 金子玲介
書評誌で2024年上半期のベストワンに選ばれた一冊。クラスの人気者の高校生山田くんが不慮の事故で帰らぬ人となった数日後、何故か彼は所属していた2年E組の教室のスピーカーに憑依してしまい、クラスメイトとの音だけの不思議な交流が始まる。誕生会を企画して成仏できない彼を励ましたり、逆に前向きな彼に励まされたりしていくが、どんなに明るく振る舞っても彼我の違いは時間と共に大きくなっていく。予感される悲しい結末の中、最後まで明るさをまとった展開に心を揺さぶられる。巻末に早くも次回作の告知が載っていて、今から読むのが楽しみだ。(「死んだ山田と教室」 金子玲介、講談社)
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実は、拙者は。 白蔵盈太
新聞の広告で見て面白そうだったので読んでみた。時代小説を読むのは久し振りだが、今までにこんな面白い時代小説読んだことあったかなぁと思うくらい面白かった。時代は江戸中期徳川吉宗の世。舞台は謎の言葉を発する辻斬り、鼠小僧のような庶民から喝采を浴びる義賊、悪徳な金貸しや商人、それらとつるんで私欲に走る腐敗した役人などが跋扈する江戸の町。そこにノホホンと暮らす存在感の薄い棒手振りの22歳の若者が主人公。その主人公が冒頭でいきなりとんでもない場面を目撃し、そこから怒濤のようにとんでもない事件に巻き込まれていく。6つの章立てだが、それぞれの章に驚きがあり、途中からは次は誰だと予想しながら読むのが楽しい。次から次へと起こる事態が意外過ぎて途中からは笑いながら読むしかないような展開だが、それでいて全ての謎が最後に全部繋がり、しかもハッピーエンドという離れ業に唖然とさせられる。完全にエンタテイメントに徹した快作を堪能した。(「実は、拙者は。」 白蔵盈太、双葉文庫)
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ぶらり世界裁判放浪記 原口侑子
世界中でNPO活動を行なっている著者が訪れた国々で街を観察したり、裁判所を傍聴したりした経験を綴ったエッセイ集。訪れるまで名前を知らなかったという国にバックパックを担いで行ったり、言葉の分からない国の裁判を傍聴したりと、内容はかなり大胆。各国での裁判の傍聴では、裁判の内容や日本との法律の違いなどだけではなく、裁判所の建物の佇まい、裁判関係者の服装や態度などを観察するのだが、これが意外なほど様々なことを教えてくれる。著者の些細なことから本質を読み取る洞察力、観察力、それ以上にその背後にある行動力には脱帽だ。裁判所という社会の歪みとか問題が如実に現表れる場所だけにその内容は極めて重い。トルコでの裁判所を見学するまでの係員とのやりとり、ブラジルの裁判の完全公開など面白い記述も満載の楽しい一冊だった。また、かつて欧米の植民地だった国の司法制度が、欧米流の司法と現地の伝統的な規律の2層構造になっているという点について、日本でも司法の場や判決文で「社会通念に照らして」とか「社会的制裁を受けている」といった表現の中にそうした仕組みが内蔵されているとの指摘はとても面白かった。欲を言えば、訪問した国にアジアの国が少ないので、続編として「アジア編」を是非とも期待したい。(「ぶらり世界裁判放浪記」 原口侑子、幻冬社)は
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ドーナツを穴だけ残して食べる方法 大阪大学ショセキカプロジェクト
書評誌のノンフィクション特集で紹介されていた一冊で、発行されたのは5年ほど前。学生たちに書籍作成のプロデュースをさせる「ショセキカプロジェクト」という大阪大学の授業によって作られた書籍とのこと。学生たちの話し合いで「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」というテーマが決まり、大阪大学の先生たちにそのテーマで自由に執筆して欲しいという依頼をして集まった文章を集めたもの。内容は大まかに言って、この題名に関する話を比較的真正面から取り組んだ第1部と、題名とは殆ど無関係な内容の第2部からなっているが、特に印象的だったのは第2部の「公-共-私の問題を歴史的に考察した地域社会圏について」と「国家や個人の領有、所有の概念の変遷」などを扱ったエッセイ風の章。これらを含めいずれの文章も、学生からのよく言えば「哲学的な問い」、悪く言えば「一見洒落ているように聞こえるだけの問い」に対して、何とか答えてあげたいという教師側の親心が感じられて微笑ましかった。(「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」 大阪大学ショセキカプロジェクト、日経ビジネス人文庫)
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裁判官爆笑お言葉集 長嶺超輝
裁判官が判決文以外で補足した言葉を集めた一冊。題名に「爆笑」とあるが、内容は笑いとは程遠い裁判官が判決文の中で表現できなかった心情や被告人へ伝えたかったことを表す至って普通の言葉ばかりだ。人の一生を左右する判決をしなければならない人としての苦悩、法律が絶対ではないと思いつつもそれに従って結論を出す難しさがヒシヒシと伝わってきて、裁判官という職業の尊さを感じられる一冊だった。(「裁判官爆笑お言葉集」 長嶺超輝、幻冬社新書)
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