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エコールドパリ殺人事件 深水黎一郎

著者の本を刊行された順番と無関係に手当たり次第読み進めているが、本書は初期の長編で、これまでに読んだ作品に登場するフリーターの素人探偵、その叔父の警部補、警部補の上司にあたる変人の警部、この3人が初登場したのが本書だという。その後の作品でこの3人はそれぞれさらにキャラを鮮明にしていくのだが、その端緒がこの作品にあると知ると、かなり感慨深いものがある。作品の内容は、ごくごく普通の密室殺人だが、半分以上読み進めても、読者にとっては、動機、トリックなど全くと言ってよいほど判らず、そのヒントすらつかめない状態で話が進む。どこかにヒントがあったり、何かの伏線が潜んでいるはずだと思うのだが、なかなかこれだというものが見当たらない。そうこうしているうちに「読者への挑戦状」があり、話は二転三転するが、落ち着きどころは比較的穏当だ。事件の被害者が書いたという書物の断片がストーリーの合間に挿入されているが、その中にも微妙に事件解明の手掛かりが潜んでいるという構成には感心してしまった。(「エコールドパリ殺人事件」 深水黎一郎、講談社文庫)

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かなしみの場所 大島真寿美

地味で短いが強く惹かれるものを持った作品だ。かなり沢山の人物が登場するが、それぞれが魅力的で、色々な読み方ができる。ごく普通の感覚の登場人物が、それぞれ少しだけ頑張って結構大胆な行動にでるさまを読むと、これくらいの思い切りも良いかなと勇気付けられる。短い時間だったが、静かに読書の時間を過ごすことができた。最後まで大きな事件もなく終わってホッとしたという読後感は、なかなか体験できないものだ。(「かなしみの場所」 大島真寿美、角川文庫)

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山と食欲と私 信濃川日出男

ネットで注文してみたら小説ではなくコミックだった。本書は、「単独登山女子」を自称する主人公の登山とそこで食する食事を紹介する内容だが、いわゆる「山ガール」よりも少し本格度の高い登山を志向していることと、登山中にとる食事が登山ならではの工夫が凝らされている点に面白さがある。好評のようで、8月には続巻が刊行されるらしい。なお、自分の本の購入経路は感覚的には本屋さんとネット注文で半々位だったと思うが、最近はネット注文が増えている。ちなみにこの5月6月はネット注文が4回で冊数は35冊だった。これに対して本屋さんでの購入はおそらく15冊程度だったと思うので、明らかにネットでの注文が多くなっている。2か月で50冊購入していることになるが、全部を読み切れているわけではなく、おそらくネットで注文する冊数が増えた分(たぶん10冊くらい)が読めずに積読になってしまっているのではないかと思う。要するにネット注文のせいで自分で読み切れる以上の本を買ってしまっているということになる。このままではどんどん積読の本がたまってしまうので、何とかしなければいけないと思う。(「山と食欲と私」 信濃川日出男、新潮社)

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安達ヶ原の鬼密室 歌野晶午

全く関係のないような3つの話が融合して一つの長編になっているという趣向にビックリすると同時に、なるほどと感心させられた。最初の謎解きのあたりではそれに全く思いが至らず、二つ目の謎解きのところでようやくこの作品の意図がわかり、最後の謎解きは、思った通りの展開。読者を完全に煙に巻くだけでなく、最後に少し優しい謎を自力で解いてもらうという気配りもある。これこそ、ただただ困難な謎解きを読者に提示するだけの本格ミステリーとは一味違う、高度なエンターテイメントだと思う。(「安達ヶ原の鬼密室」 歌野晶午、祥伝社文庫)

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殺したい蕎麦屋 椎名誠

蕎麦屋に関する文句と言えば、名店と呼ばれる蕎麦屋さんの異常なまでの量の少なさだろう。本書を手に取ってまず書名になっている一文を読むと、案の定、名店と呼ばれる蕎麦屋の量の少なさに関する内容だった。著者のように何本あるか数えたことはないし、もちろん「殺意」を抱くほどの感情を持ってはいないが、苦々しく思っていたのは自分だけではない、この作者はやはり何かを代弁してくれるのだと感じた。「あとがき」を読むと、題名に関する話が書かれていた。「殺したい」というのはやはりどぎつすぎるので「コロしたい」と茶化す感じにしてはどうかという意見があったそうだが、作者自身の意見で「殺したい」のままになったとのこと。こうしたこだわりと覚悟が読者にはうれしい。内容は、車や旅に関するエッセイが雑多な感じで収録されている。週刊誌の連載が2本、月刊誌の連載が数本、その他スポット的な原稿の締切が数本で、毎月20本くらいの締切に追われる毎日とのこと。そうしたなかで本書のような多方面に話を書き続けるのは、とにかく大変だなぁという感じだ。(「殺したい蕎麦屋」 椎名誠、新潮文庫)

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世界で1つだけの殺し方 深水黎一郎

作者の本を立て続けに読んでいるが、これまで1冊も期待外れに終わっていない。1つ前に読んだ本は、ビックリするようなトリックもなく、オーソドックスなミステリーだと思っていたら、最後に大きな仕掛けが待っていた。本書は、2つの中編が収録されていて、最初の1つを読み始めたら、何とも奇妙な世界なので、今度はこうしたSFのような話で驚かされるのかと思ったら、全く別の意味での驚きが待っていた。もう一つの中編は、探偵ガリレオのような趣きの作品だがそこで語られるのは音楽の薀蓄だ。本当にすごい作家であることが再確認できた一冊だ。未読の作品はあと数冊だが大切に読んでいきたい。(「世界で1つだけの殺し方」 深水黎一郎、南

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虹の歯ブラシ 早坂吝

シリーズ第2作目。前作同様、とても人に勧められる本ではないが、最後のどんでん返しには、前作以上にビックリさせられた。7編が収められた短編集だが、あと3つ残して残りページが僅かになり、どうしたんだろうと思っていたら、最後の一編にこんな展開が待っていたとは・・・。この作者には、自分自身に変なレッテルを貼らず、色々なジャンルのミステリー作品を書いて欲しいと思う。(「虹の歯ブラシ」 早坂吝、講談社ノベルス)

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遠くの声に耳を澄ませて 宮下奈都

本屋大賞を受賞して注目されている作者の短編集。大賞受賞に合わせて特設コーナーが作られていて、そこに平積みになっていた1冊。本書には、統一的なテーマのようなものはみあたらないが、人とのつながりに少しだけ悩んでいる人々の視線で静かな日常が描かれた短編が収められている。自分を大切にしながらも、人とどう向き合っていくかということの難しさというのは、人間いくつになっても変わらないんだなぁとしみじみ思う。静かに心をゆすぶられる作品だ。ひとつだけ難を言うと、この短編集は、それぞれの作品の登場人物が複雑に絡み合っていて、この作品の主人公は別の作品の誰それという緩い関係がいくつも施されている。こうした関係性は、それを見つけて楽しむということもできるのだろうが、その関係自体はそれぞれの短編の内容とは直接関係ないように思われる。登場人物が重なる「小さな世界の出来事」ということを示す効果があるのかもしれないが、小さな世界であると示すことはむしろ各短編の普遍性をそこねてしまうだろう。あえて関係性を見つけようとしなくても何の問題もないので、あくまで作者のサービスと考えれば良いだけの話だが、少しだけ気になってしまった。(「遠くの声に耳を澄ませて」 宮下奈都、新潮文庫)

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名古屋の商店街 大竹敏之

名古屋の身近な商店街を写真付きで紹介してくれる本書。大須商店街を除くと掲載されている店の大半が飲食店なので、ほぼ地域別グルメ本と言って良いだろう。良く利用している店もいくつか載っているが、こんな店だったっけ?という感じであまりピンとこない。そもそも新しい店を発掘したいという動機で読んでいるのに、いざ知らなかった良さそうな店を見つけたら見つけたで、こんな感じで紹介されてしまったら行っても混んでいるような気がして逆に足が遠のいてしまう。これでは何のために読んでいるのか分からない。これがグルメ本を読んだ時のいつもの感想だが、このジレンマ、何とかならないだろうか?やはり良い店を安直に見つけようというのが虫の良い話で、苦労してこその良い発見なのだろう。(名古屋の商店街」 大竹敏之、PHP研究所)

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幻想古書店で珈琲を2ー青薔薇の庭園へ 蒼月海里

シリーズものの第2作目。第1作目を読んだ感想として、物語になかなか入り込めなかったと書いたが、第1作目を読んでから日が浅かったせいか、今回は比較的すんなりと読むことができた。シリーズものを読むときは、読むタイミングも重要なのだと感じた。内容としては、題名の通り、幻想的な世界と現実の世界が錯綜していて、そのあたりが本書の面白いところなのだが、それに更に世界的に有名な小説の世界観が重なっている構造になっているのは、さすがに少し読者へのサービスが過剰なのではないかと感じた。特に、「不思議の国のアリス」の世界が重なっている一編は、自分の頭がこうしたファンタジーを楽しむには固くなりすぎてしまったからなのかもしれないが、上手くその世界をイメージできないまま読み終えてしまった。次の作品を読む気になるかどうかは微妙なところだが、本書の表紙のイラストがなかなか魅力的で、それをみるとまた次も手に取ってしまうような気もする。(「幻想古書店で珈琲をー青薔薇の庭園へ」 蒼月海里、ハルキ文庫)

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ハーメルンの誘拐魔 中山七里

大きな社会問題を扱ったミステリー。著者の本はかなり読んでいるが、こうした社会問題を正面から扱った作品は珍しいような気がする。作者を知るきっかけになった「音楽」を扱ったシリーズはもちろん印象深いが、それ以外の作品でも独特の暗さを持った作風が印象的で、もともとジャンルに関係なく好きな作家だけに、こうした新境地ともいえる作品は大歓迎だ。病気に苦しむ若い女性が、それを利用したような誘拐事件の犠牲者となる。それから連続して起こる事件は、起こるたびにその様相を変え、犯人の意図が全くつかめないまま、話はどんどん意外な方向に展開し、それだけで話に引き込まれていく。最後に待っている結末はほほ予想の範囲で、意外性はないが、読みながら色々考えさせられたことで、読後の充実感も大きかった。(「ハーメルンの誘拐魔」 中山七里、角川書店)

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ブラック葬儀屋 尾出安久

昨年父親の葬儀を出したばかりで、その時は葬儀屋さんに感謝こそすれ何か文句を言うということは全くなかった。値段についてもほぞ想定通りだったし、こちらの希望を上手に汲んで色々な気遣いをしてくれた。この本を読んでいると、それがかなりラッキーなことだったような気がしてくるし、自分の葬式の時には家族に迷惑をかけないように、最低限の準備や情報集めはしておきたいと思うようになった。ブラックの境目がどこにあるのか曖昧だし、ブラックと言われる業者の割合のようなものが本当に心配するほどのことなのかはよく判らないが、少しの準備でそのリスクが軽減されるのであればその労力を惜しんではいけないと感じた。言いにくい話を聞かせてくれたとても有難い1冊だった。(「ブラック葬儀屋」 尾出安久、幻冬舎新書)

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秘密のミャンマー 椎名誠

2006年に刊行された本署。私が最初にミャンマーを訪れたのが2010年で、それから毎年訪れているが、その間の変化には目覚ましいものがある。本書が、そうした変化の前のミャンマーを知りたいという思いに、著者独特のひねりをきかせながらも色々答えてくれるだろうと期待して読んでみることにした。結論から言うと、著者独特のひねりは十分に楽しめたが、変化の前のミャンマーを知りたいという点についてはもともと無理な注文だったようだ。この本を読む限り、人々の生活や心は10年そこらでは何も変わらないし、それは政権が変わったり民主化が進んでも同じだという気がしてくる。十分な準備をして、複数のチームを組んでのミャンマー取材で見えるものは、やはり仕事の出張で2,3、日滞在し、仕事の空いたせいぜい1,2時間で垣間見ることのできるものとは大きく違う。それでも、本書を読みながら、大きくうなずくことばかりだったし、自分の感覚がそれほどずれてはいないことが判ったような気がして少しうれしかった。巻末のカラー写真のページは、さすがにプロの作品なのだろうが、目を見張る美しい写真ばかりで、本文同様に大変楽しめた。(「秘密のミャンマー」  椎名誠、小学館文庫)

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ハーバードで一番人気の国・日本 佐藤智恵

今評判の本書。高齢化などの問題に直面し、アジアの国々からも追われていて、何となく元気のない日本だが、本書を読むと少しだけ元気になれる気がする。日本の良さと課題としてよく知られてものから、へぇそうなんだという意外なものまで盛り沢山だ。トヨタの話やソニーの話は有名だが、新幹線の掃除会社とかアベノミクスとかが世界で注目されているというのは知らなかった。高齢化の進展がイノベーションを生み出すきっかけになるかもしれないとか、若者や女性が活躍していない社会はそれらが活躍できる余地が大きいという考えなど、課題を逆手に取ったプラス思考もためになる。本書の難を言えば、色々盛り沢山、網羅的過ぎて、一つ一つの事例を詳しく知ることが本書では出来ないことだろう。一冊の本にそこまで期待するのは無茶な要求で、本書で興味を持った事例についてほかの本を読んでみるというのが正しい姿勢なのだろうが、もう少し最近の話や意外に知られていない事例に絞っても良かったのではないかと感じた。(「ハーバードで一番人気の国・日本」 佐藤智恵、PHP新書)

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倒叙の四季 深水黎一郎

倒叙ミステリーの短編集。綿密に計画された殺人事件がちょっとしたことからほころびるという内容の話で、最後のエピソードを読むまでは、これまでに読んだ作者の作品の中では最もオーソドックスな内容だなぁと思っていたのだが、最後のところで、やはり作者らしいビックリするような仕掛けが待っていた。ミステリーの部分のオーソドックスさと全体を覆う仕掛けの意外性、まさにこの2つが作者の真骨頂だと確認した1冊だ。(「倒叙の四季」 深水黎一郎、講談社ノベルス)

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