goo

2014年のベスト10

 

 

今年読んでこのブログに掲載した本は205冊。今年は、長期出張が多かったり、体調が悪くて本が読めない時期があったりで、読書環境としてはあまり芳しくなかった気がする。冊数としてはそれほど前年比でマイナスになっていないが、読み飛ばせるシリーズ物の割合が高くなっているので、あまり充実していたようには思われない。但し、年の終盤になって、急激に面白そうな本が目白押しになり、まだ全部は読み切れていないが、正月休みから当分はどんどん読んでいけそうは気がするし、そうこうしているうちにも恒例の「本屋大賞」ノミネート作品が発表になるので、そのあたりを楽しみにしたい。今年のベスト10は以下の通り。

 

  ①「2」 野崎まど 作者のこれまでの作品の集大成

 

  ②野崎まど劇場 野崎まど 度肝を抜く1冊

 

  ③HHhH ローラン・ピネ 今年一番重かった本

 

  ④ランチのアッコちゃん 柚木麻子 お仕事小説+?lt;/p>

  ⑤セブン 乾くるみ 著者復活?

 

  ⑥天の梯 高田都 感動の完結編

 

  ⑦フェッセンデンの宇宙 エドモンド・ハミルトン 読みそびれていた古典的名作

 

  ⑧ハンナ・アーレント 矢部久美子 とにかく色々考えさせられた

 

  ⑨妖談うつろ舟 風野真知雄 飄々とした完結編

 

  ⑩その女アレックス P・ルメートル 何も言いたくなくなる作品

 

 

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

魔法使いと刑事たちの夏 東川篤哉

シリーズの2冊目。相変わらず軽いタッチのユーモアとハードな事件がドタバタのなかで見事に解決というパターンで、読者を楽しませてくれる。最近の著者の本は色々なシリーズで色々な主人公がでてくるので、主人公への愛着というものは感じにくいが、根底にあるミステリーのトリックの斬新さは、本書においても流石だなぁと思う。前にも述べたが、こうしたシリーズの乱発を、新しいスタンダードを見出すための試行錯誤と考えれば納得できるが、粗製乱造にならないようにしてもらいたいと思っている読者にとって、本書は「そうした心配は御無用」と答えてくれているようでうれしい。(「魔法使いと刑事たちの夏」東川篤哉、文藝春秋社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

探偵の探偵2 松岡圭祐

シリーズの2冊目。2冊に入っても、冒頭から、暗くて陰惨、他人を信じない主人公の孤独な戦いが始まり、最後まで全くその暗さやテンポが変わらずに続く。ここまで暗くて陰惨だと、もはやエンターテイメントではないなぁ、ノンフィクションでもないのにここまで暗くする意味がはたしてあるのだろうか、などという疑問を抱きつつも、最後まで読まされてしまう。そうした作者の手腕には脱帽だが、こんなに暗い本を読むということ、一体読書というのは何なのだろうかという疑問さえ感じてしまう。そんなことを思いつつも、多分完結編どと思われる3巻目が待ち遠しいのが不思議だ。(「探偵の探偵」、松岡圭祐、講談社文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

創価学会と平和主義 佐藤優

作者自身はキリスト教徒とのことで、「本書は創価学会のプロパガンダではない」と再三述べているが、全体の8割以上が創価学会を高く評価する内容になっている。平和主義という点に限って言えば、著者の言う通りなのだろうが、学会等の歴史を語る部分は、少し公平な批評家としての視点を逸脱しているようにも思われる。そうはいっても、こうした本がなければ、イメージ先行で毛嫌いしてきた創価学会とか公明党について、ここまで深く知ることはなかったと思うので、その点は大変有難い本だと思う。(「創価学会と平和主義」佐藤優、朝日新聞出版)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

最貧困女子 鈴木大介

「貧困女子」や「リヤ充」の影に隠れてますます不可視になってしまっている「最貧困女子」というものの実態を暴く本書。「血縁・地縁・公的支援」の全てが失われ、「精神障害・発達障害・知的障害」の様相を呈するこ彼らの実相を訴えつつ、全篇を通じて自己が壊れてしまっている人への「自己責任」という言葉の虚しさを強く訴える。具体的な事例を克明に記述しながら、大変説得力のある内容。これぞノンフィクションという1冊だ。(「最貧困女子」 鈴木大介、幻冬舎新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ドキュメント御嶽山大噴火 山と渓谷社編

本書は、御嶽山噴火という未曽有の大災害の「10日間のドキュメント」、「関係者の証言集」、「専門家の意見」の3つで構成されている。緊急出版ということで内容的には考える材料の寄せ集めということは否めないが、私のように、ほとんど山には近付かないし、山が好きでも嫌いでもないがひょっとすると将来そうした山に行くことがあるかもしれないという程度の人間として、今後の在り方を考える材料は十分にそろっているような気がする。多少でも危険があるのであれば、危ない山を全部立ち入り禁止にしてしまえば良い、その方が色々な安全対策を施すよりも安上がりではないか、という極論もあるだろうが、それも何だかおかしい気がするし、かといって、自分の身に万一災いが降りかかってきた時に不運だったと考えられるほど腹が据わっているわけでもない。自然を完全に凌駕できないとしりつつも、出来る限りのことをせざるを得ないだろうなぁ、ということを考えながら読み終えた。(「ドキュメント御嶽山大噴火」 山と渓谷社編、ヤマケイ新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

やってはいけない相続対策 大村大次郎

ノウハウ本や仕事関係の本のことは、このブログにはあまり書かないようにしているのだが、本書はある意味で大変面白かったので書いておくことにした。内容は、一般に流布している相続税対策の間違いや落とし穴の実例紹介、相続対策の基礎知識など。知識を羅列したり、関連した話を詰め込むのではなく、判りやすさを重視しているためか、あっという間に読めてしまうが、相続税対策の落とし穴の実例野部分の内容の新鮮さは、これまでの類書にはみられないもののように感じた。著者の前歴が国税庁の職員だからといって、作為的な節税を諌めることに主眼が置かれているわけではなく、ちゃんと冷静にバランスよくく書かれているように思う。読後に心に残るのは「正直が一番」「良き納税者になろう」という感想で、完全に著者のペースにはまってしまったような感じがした。ノウハウ本に読後感というのも変な話だが、大変読後感の良いノウハウ本だった。(「やってはいけない相続対策」 大村大次郎、小学館新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

最後のトリック 深水 黎一郎

題名が「最後のトリック」、帯には「読者全員が犯人」とあり、書評でも「究極のトリック」などと書かれている。ミステリー読者としては、看過できない。当然、興味の中心は、読み終わった時に、帯の言葉通り「自分が犯人だ」と思うかどうかの一点だ。結論から言うと、自分が犯人だと思うかどうかは別にして、論理的に考えるとこれしかないなぁと納得した。本格物とは言い難いが、この論理性は、明らかに本格物の流れを汲んでいると思われる。(「最後のトリック」 深水 黎一郎、河出文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

満願 米澤穂信

今年度の色々なミステリーランキングで一位を獲得している、日本の作者による本のなかでは今年最大の話題となっている作品だ。6つの短編が収められているが、読んでみると、意外な動機がメインの作品あり、ホラー的な要素の強い作品ありで、それぞれの作品の共通点よりも、作者の領域の広さが際立つように感じられる。強いて共通点をあげるとすれば、切れの良い文体だ。控えめの感情表現、流れるような文体は、それぞれの作品の「意外性」や「怖さ」を際立たせている。色々なランキングや審査で高い評価を受けているのも、そうした「領域の広さ」と「文体」なのだろうと想像される。これまでに読んできた作者の作品とはかなり趣の違う作品であることも、今後の期待を高める要素になっていると思われ、今後の躍進を予感させる。(「満願」 米澤穂信、新潮社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

その女アレックス ピエール・ルメートル

今年最大の話題作ということで読んでみた。期待を裏切らない傑作だと思うが、少し残念なのは、あまりにも世間の評価が高いので、こちらもついハードルを上げてしまったような気がするし、多少のことが起きても驚かないという心境で読んでしまったことだ。この本はとにかく全く事前の知識なして読むのが最善、できれば傑作だということも聞きたくなかった。傑作だということが判らなければ読んでいたかどうか判らないので、言っていることが矛盾しているような気もするが、とにかく本書は、読む前に誰かと本書について聞いたりしない方が良いし、読んだ後も誰かと本書の話をしてはいけない、そんな気が強くする作品だ。(「その女アレックス」 ピエール・ルメートル、文春文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

あまからカルテット 柚木麻子

著者の本を新刊本で3冊読んで、どれも面白かったので、少し古い本に遡って文庫を読んでみることにした。この本を読んでようやく判ったような気がするのだが、著者の作品においては、「食」という者が特別な存在であるということである。これまでに読んだ3冊とも、何らかの形で「食」が大きな意味を持っている作品ばかりだったが、それは自分が読んだ本がたまたまそうだったという偶然ではなく、著者自身がそれに拘った作品を書き続けていることの証だということだ。本書には全部で5編の短編が収められているが、予定調和的、ご都合主義な話ばかりかと思っていると、真逆の話が出てきたりで、そのあたりがしゃれているし、読んでいてわくわくさせられるところだと感じた。(「あまからカルテット」 柚木麻子、文春文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

探偵少女アリサの事件簿 東川篤哉

また作者の新刊本が出ていたので、読むことにした。前に読んだ本の感想として、新しいシリーズにする意味が良く判らないというようなことを書いた記憶があるが、本書にも全く同じことが言える。少し設定を変えれば、これまでのシリーズの中に組み込むことができると思うのだが、わざわざ新しいキャラクターを次々と作る意味とは何なのだろうか。うがった見方をすると、出版社の事情かもしれないし、ドラマ化するのに色々な設定があった方が、飽きられないということかもしれない。作者としての事情を考えると、これまでのシリーズのイメージを損なうことがないようにという配慮かもしれない。色々な事情が考えられるし、それらが複合的に重なり合った事情があるのかもしれない。一方読者として言えることは、新しいシリーズに登場する探偵役のキャラクターが、いずれも既存の「探偵」という固定観念を壊すようなキャラクターになっているということだ。一人の読者としては、あまりシリーズが増えるのは有難くない面もあるが、それぞれが面白く、既存の「探偵」という概念を壊してくれる爽快感を味わえるのであれば、それも良いかなと思ってしまう。(「探偵少女アリサの事件簿」東川篤哉、幻冬舎)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

連城三紀彦レジェンド 連城三紀彦

蓮城三紀彦をリスペクトするミステリー作家4人(伊坂幸太郎、綾辻行人、小野不由美、米澤穂信)が選ぶ連城作品短編集。掲載された6作品のうち2作品は既読だったが、この機会に通読してみた。こうして読んでみると、著者が様々な形で次の世代の作家たちに影響を与えてきたことが良く理解できるような気がした。著者自身は「本格もの」とか「社会派」とかいうミステリーのカテゴリーにあまり関心がなかったのは明白だが、読み手の側がそれぞれの立場で何らかのシンパシーを感じていたのだろうなぁと想像される。著者の死後の刊行はそろそろ一段落で、これからは本書等を参考にした落ち穂拾いのような形になる一方、これまでの読んだ本のいくつかを再読してみるのも悪くないような気がした。(「連城三紀彦レジェンド」 連城三紀彦、講談社文庫)


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

日本ミステリー小説史 堀啓子

日本のおけるミステリーというジャンルの小説の歴史を詳しく教えてくれる本書。松本清張や仁木悦子あたりまでの歴史なので、最近の本格ミステリーの系譜といったところまでは記述されておらず、これからどういうミステリーを読んだr面白いかといった問いに答えてくれる内容ではなかったが、それなりに面白かった。特に、戦後になって「当用漢字」が制定された際、「偵」という漢字が当初当用漢字に入らなかったため、「探偵小説」という代わりに「推理小説」という呼称が使われたという話は面白かった。日本でミステリーというジャンルが大きな地位を占めている理由も、明確には書かれていないが何となく判ったように思う。最後のあとがきを読むと、科研費の助成を受けた論文とのことだが、どこかでこうした研究をしている人がいると判ると、一般読者はそうしたことを気にしないで純粋に読書を楽しむことができるような気がして何だか少し嬉しい。(「日本ミステリー小説史」 堀啓子、中公新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

白から始まる秘密 太田紫織

シリーズものと言っても、次が待ち遠しくて入手したら間髪をいれずに読みたくなるものもあれば、次をなかなか読む気になれないものもある。この作品は、シリーズ第6作目になるが、入手してすぐに読たくなる1冊だ。こうした違いは、もちろん作品の質にもよるが、それ以外に、作品と次の作品までの間隔という要素もあると思う。あまり間隔が長すぎると、登場人物のキャラクター等を思い出すのが面倒で、読むのも面倒になってしまう。一方あまり短すぎると飽きてしまうということがあるかもしれない。本シリーズなどは、そのあたりの間隔がちょうど良いのかもしれない。本書の場合、内容としては、第1巻の前の話がはいっていたり、主人公と相棒役の高校生の関係が若干変化してきていたりして、ストーリー自体がやや転換点にあるようだが、作品の間隔という点ではぴったりという感じになっていて、スムーズに前を思い出して読めたし、次もまたスムーズに読めそうな気がする。(「白から始まる秘密」 太田紫織、角川文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ