goo

ホルモン焼きの丸かじり 東海林さだお

このシリーズは、ずっと読み続けているが、しばらくマンネリ感でやや中だるみの後、最近になってまた何となく面白さが戻ってきたような気がする。この感覚の原因を考えていて思い当たったのだが、ここまで長くシリーズが続くと、どうしても取り上げるテーマや食材がニッチなものになりやすい。それが面白さを増している原因ではないか、要するにこのシリーズはテーマがニッチなものマイナーなものの方が断然面白いということではないかと思う。さらにシリーズが続いて、テーマがさらにマイナーになっていくとどうなるのだろうか、そう考えるのも面白い。(「ホルモン焼きの丸かじり」 東海林さだお、文春文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

リバーサイドチルドレン 梓崎優

書評で賛否両論がある本書。要するに、日本人の少年がカンボジアでストリートチルドレンになって暮らしているという設定の不自然をどう考えるかによって、評価が大きく分かれてしまっているのだ。読んでいると、本書のすごさは主人公の少年が日本人であるかどうかにはあまり依存していないようにも思える。そうだとすると、逆になぜ作者がそのような設定にしたのかという点が、私としては大いに気になるところだ。一つ言えるのは、その少年が日本人であるということや、カンボジアが観光立国として打ち出した政策がこの話の展開の大きな要素になっているという事実がが、我々の日常生活とここに描かれた物語の距離感を小さくしているということ、それによってえもいわれぬ恐怖のようなものを読者に感じさせる効果があるいということだと思う。そう考えると、不自然ともいえる設定こそがこの小説の本質であり、それでこそすごい小説だといえるのではないかと思う。(「リバーサイドチルドレン」 梓崎優、東京創元社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

里山資本主義 藻谷浩介

大量生産、効率といったこれまでの資本主義に対するアンチテーゼではなく、現在の資本主義のサブシステムという位置づけで、自然の恵みを人間の生活の豊かさの実現に組み込もうという考え方を、事例やデータを交えて説得力を持って教えてくれる。「自然に帰れ」という理想主義などとも一線を画し、世の中の全員がこうした主義になってしまったら却って困るのではないかという平素の疑問も「サブシステム」として併存させるということであればそれなりに納得出来る。著者の熱意の表れなのだろうが、記述が全体的にややテンションが高くて押しつけがましい感じがする部分があるような気もするが、それ以外は大変面白く読める好著だと思う。(「里山資本主義」 藻谷浩介、角川oneテーマ21)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

大人のクイズ 逢坂明

本屋さんのレジの横に「ナンプレ」の本と一緒に積んであったのを見つけて、いかにも流行っていますという雰囲気だったので、読んでみた。奇数ページに「問題」、その裏の偶数ページに「回答」という昔のベストセラー「頭の体操」と同じ構成のクイズ集。問題の半分は「複雑そうに見えるが少し工夫をすると比較的容易に回答がみつけられる数学の問題で、後の半分は「論理クイズ」という内容。数学問題の方は、もう少し歳をとると何かにメモしなければだめだろうという程度の難易度で、今回はあえてメモを使わずに頭の中だけで解こうとしてみたが、これが結構厄介だった。頭の老化度のチェックと老化の防止に役に立つ実用書という感じがした。(「大人のクイズ」 逢坂明、 PHP研究所)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ハルさん 藤野恵美

新聞の書評などでも大きく取り上げられていて話題の本書。娘の結婚式に出席した父親が、娘と過ごした日々のなかでおきた小さな謎とその結末について、白昼夢のように思い起こしていくという構成の連作ミステリー集。それぞれのエピソードにも不自然さがなく、ミステリーとしても楽しめ、全体としてハートウォームな話になっているという、後味の大変良い作品だ。全体の構成、作品の雰囲気、ミステリーのレベルなど、1つ1つは良くある作品だし、びっくりするようなどんでん返しがある訳でもないのだが、それらのバランスがしっかりしているのが高い評価に繋がっているのだろう。類似作品が多くても、質が高ければ面白いものは面白い、ということが本書を読むと良く判る。(「ハルさん」 藤野恵美、創元推理文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ミャンマー経済で儲ける5つの真実 小原祥嵩

最近ブームになっているミャンマーの基礎知識を解説した入門書。記述のほとんどは既に見聞きした内容で真新しいものはないが、投資に関する法整備の情報などは最新のものが紹介されていて役にたつ。ミャンマーの将来性についても、良い点と問題点がバランスよく記述されていて、冷静に判断するための有益な情報源という感じだ。ミャンマーの国民性等については、ややおざなりの感じがするのと、もっと実際の事例を使った解説になっていればさらに良かったような気がする。(「ミャンマー経済で儲ける5つの真実」 小原祥嵩、幻冬舎新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

わたしをみつけて 中脇初枝

著者の作品は本書が2冊目だが、いずれも親を選べない子ども、厳しい立場にいる子どもに暖かく接する人の存在というものが細やかに描かれていて胸を打つ作品だ。本書の語り手である主人公の心情の吐露は、読んでいて本人にしか判らないような内面に気づかされるようで何ともやるせないが、それでもそれを乗り越える強さを感じてホッとするし、全体として変に凝ったストーリーにしたりせず、ストレートにそうした子ども達を描く姿勢に大変共感をもつ。素晴らしい作品だと思う。(「わたしをみつけて」 中脇初枝、ポプラ社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

つぎはぎプラネット 星新一

著者の単行本未収録の作品を集めた作品集。あとがきによれば、本の余白を埋めたような小文ももれなく収録されているとのことで、大変な労力がかかった1冊ということが良く判る。本書には、作者が人気作家になる前の初期の作品、子供向けの作品が数多く収録されている一方、なぜ単行本に収録されなかったのかが良く判らない作品も散見される。作者は、自分自身に対して「性描写をしない」というルールを課していたというのは有名な話だが、それに該当するわけでもないので、単に作者自身がその出来栄えに満足していなかっただけということかもしれない。そうは言っても、本書については、そうしたいわくとかを抜きにして、単純にこれまで読んだことのない著者の作品を読むことができるという、何者にも代えられない喜びを感じずにはいられない。(「つぎはぎプラネット」 星新一、新潮文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

三月 大島真寿美

20年ぶりの同窓会を契機に集まる6人の女子のその間の人生を描く連作短編集。設定自体はよくある話だが、社会問題の縮図のような夫々の話の心理描写は、さすがに著者らしい細やかさで、登場人物に対する強い共感をもたらす。「三月」という題名から、ひょっとして東日本大震災が物語に関係してくるのではないかと想像したが、やはり話の最後に登場人物全員がそれに巻き込まれるという話になっていた。日本人は誰しも、震災に対してどのようなスタンスをとるのかを心に決めなければいけないという状況で、本書を読むと、震災を語るのにこういうやり方もあるなぁ、小説家らしいやり方だなぁと感じる。震災に直接巻き込まれなかった多くの人々にも、震災を通じて何を思うべきかを教えてくれるような作品だ。(「三月」 大島真寿美、光文社)

コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )

晴れた日は図書館に行こう 緑川聖司

図書館好きの小学生の視点から本にまつわる小さな謎を追いかける本書だが、語り手が小学生であるにもかかわらず全く小学生らしくないのがどうしても気にかかってしまった。本に関わる職業とその謎という今流行のシチュエーションなのだが、なぜ主人公を小学生にしてしまったのかが良く判らない。子供向けというわけでもなさそうだし、多感な年頃ということでもないし、邪推すると内容が子どもっぽいところに合わせただけの話かもしれないと思ってしまう。それに、いかに心温まる話に仕立て上げようとしている作為が透けて見えてしまうのもいただけない。話としては面白いところもあるので残念な気がした。(「晴れた日は図書館に行こう」 緑川聖司、ポプラ文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

大人のいない国 内田樹・鷲田清一

本書は、戦後日本について、「成熟していない人ばかりでも統治していけるシステムを高度に発達させた国」という逆説的な定義付けを行い、そこから出発して、クレーマー、自己責任論の蔓延、勝ち組負け組という単純化された価値観といった、現代の日本社会の諸相を見事に分析していく。色々な場面で見かけるちょっとした違和感や不快感に横たわる、日本社会のかなり深い病巣を抉り出してくれているが、自分自身にも身の覚えのある指摘に耳が痛い半面、自分自身の成熟とは何かについて考えさせられる本だ。(「大人のいない国」 内田樹・鷲田清一、文春文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ヒトの心はどう進化したのか 鈴木光太郎

ヒトが人である所以について、深く解説してくれる本書。人の特徴として、大きな脳、直立歩行、言語の使用、道具の使用、火の使用、文化の形成等をあげたうえで、それらについて様々な観点から多くの知識を開陳してくれるが、とりわけ、それぞれの特徴間の関連の記述が面白い。例えば「火の使用」については、その火を絶やさないために「長く息を吹きかける」という動作が必要であり、その「長い息」というのが直立歩行を始めた人にしか出来ない動作であるということ、その直立歩行や息の仕方で得られた喉の構造が、言語を発する際に不可欠な機能であったことなど、どちらが原因でどちらが結果なのか判らないような因果関係が錯綜していることが本書を読むと良く分かる。まさに人という種族の稀有な面を色々みせてくれる。(「ヒトの心はどう進化したのか」 鈴木光太郎、ちくま新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

危険な世界史 中野京子

18世紀19世紀のヨーロッパを中心とした様々な歴史のエピソードを綴った本書。時代や地域が限定されたなかで、よくもこんなに面白い話が沢山あるなぁと感心してしまった。時間の流れが行ったり来たりしており、本書を通読しても通史として理解することは難しい。読者の便宜のために話毎にマリーアントワネット誕生から何年目という表示があるが、それはどちらかと言うと時代の流れを理解する助けになるというよりも、「つい最近の出来事だと思っていたらマリーアントワネットの時代とこんなに近い時代の話なのか」という感じで読んでしまう。ハプスブルク家の異様な血脈の話など、著者の本でおなじみのテーマの話以外に、様々な話が読めて面白かった。(「危険な世界史」 中野京子、角川文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

最後のおでん 北大路公子

本書を読了し、刊行されている著者の単行本6冊を全て読んだことになる。立て続けに読んだので最後のほうはやや惰性で読んでしまった感じだが、全て満足のいく面白さだった。こうなると、雑誌に掲載されたがまだ単行本になっていない作品を探さなければ著者の作品は読めないが、そこまでは出来ないので、しばらく著者の作品はお預けということになるが。致し方ないことだ。未読の本が手元に何十冊もあり、すぐにも読みたい本が何冊もあるなかで、こうして同じ作者の本を一気に読んでしまうというのは、最近あまりなかったことのように思う。問題は、これから著者の本を他の人に薦めるかどうかだが、誰が読んでも面白いだろうとは思うが、自分が薦めてよいものかどうか、少し迷ってしまう。複雑な心境だ。(「最後のおでん」 北大路公子、寿郎社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

爪と目 藤野可織

今年の芥川賞受賞作他2編の話題作。受賞作である表題作は、書き捨てるような独特の短い文章と、しっかりした内容に惹きつけられる魅力的な小説だが、おまけのように掲載された他2編の方も、独特の文体ではないが、作者が何を書きたかったのかがはっきり判るようで、自分には合っているような感じの作品だ。受賞は表題作でも、作者の魅力という意味では、3編を全部読むのと表題作だけを読むのとでは、全く違う印象を持つのではないか。これらの作品や著者に対する受賞前の評価がどうだったのかは知らないが、やはりこれからどういう作品が出来上がってくるのか、そこが一番気になる作家だと思う。(「爪と目」 藤野可織、新潮社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ