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放課後レシピで謎解きを 友井羊

人見知りだが頭脳明晰、猪突猛進だが正義感が強い、という二人の料理クラブ所属の女子高生が学校内で発生する食にまつわる事件を解決するという学園ものミステリー短編集。事件といっても、大半はレシピ通りに作ったのに不味かったとか、人数分用意していたフルーツが少なくなっていたといったたわいのないもの。普通であれば、「つまみ食いしました」と一言言えば許されるような話なのだが何故か大事になる。その背景には色々な現代日本の深刻な問題があり、それがこの作品の重要なテーマになっている。本書には既刊の姉妹編があるようなので、順番は逆になるが読むのが楽しみだ。(「放課後レシピで謎解きを」 友井羊、集英社文庫)
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夫の骨 矢樹純

初めて読む作家。書評誌でミステリー新時代を担う作家の代表作として紹介されていたので読んでみた。短編が9つ収められているが、いずれもドロドロした人間関係がテーマ、読者をミスリードするような叙述トリックの要素の強い内容という共通点があり、どれもとても面白かった。悪人と思わせておいて実は良い人だったり、犯行の標的が全く違うものだったりと、とにかく読者のある種の思い込みのようなものが前提になっているミステリーで、読む方も騙されてしまったという感覚を単純に楽しむことができる。短編というのは、長編と違って話の進行が早いので、こんなこと実際にできるのかなということも一行で書かれていたりする。長編ならばそこで色々ボロが出てしまったりご都合主義になってしまうこともあり得るのだが短編なので読者はそうした詳細を突っ込むことができない反面そこで興ざめということもない。短編の面白さがそうしたところにもあるということに気付かされた一冊だった。(「夫の骨」 矢樹純、祥伝社文庫)
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落語会 ただの野球好き

体調不良でずっといけない日が続いていたが、ようやく体調が戻ってきたので事前に痛み止めを多めに服用して、去年12月以来久しぶりの落語鑑賞。横浜ベイスターズファンの三遊亭ときん、ヤクルトスワローズファンの古今亭駒治が野球に関する新作落語2席ずつと2人のトークショーという野球づくしの2人会。お客さんの入りは3分の2くらいだが、後ろの方の通路側を予約していたので、前後左右に人がおらずゆっくりみることができた。毎年開催で今年が3回目とのことだが、私自身は2回目の参加だった。普段は、野球を全く観ない、好きな球団も特になし、両球団の選手の名前は一人も知らないという完全な門外漢だが、野球好きのオタクな話とそれを聞いて盛り上がるファンたちの反応を見るのが何とも楽しい。話によると、現在ヤクルトとベイスターズがセリーグのトップ争いをしていて、しかもこの落語会が開催された日が両チームによる首位攻防戦の3日目というすごい偶然。聞いている人の半数くらいはどちらかのチームのユニフォームを着ていて、落語会が終了後に横浜スタジアムに観戦に駆けつける人も多いとのこと。肝心の落語の方は、新作落語の名手駒治師匠の2席は安定した面白さ。一方のときん師匠は、古典落語を野球風にアレンジした題目と完全な新作が一席ずつだが、新作落語の「オーマイディアナ」は久々にすごい落語を聞いたなぁと思う名作だった。
(演目)
①三遊亭ときん まんぶりこわい 
②古今亭駒治  夏 
中入
③トークショー 皆で選ぶベストナイン
④古今亭駒治  作文コンクール野球部門編
⑤三遊亭ときん オーマイディアナ
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出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 宮崎伸治

本書は、若い頃から翻訳家という仕事に憧れていた著者が、ベストセラーの翻訳本で晴れて翻訳家として成功するまでの苦労話、束の間の売れっ子翻訳者としての成功談、その後の出版社不信に陥って引退するまでの顛末などを赤裸々に語った一冊。多くの出版社が「業界の慣習」や「出版不況」という言葉を盾にして、あらゆる理不尽を翻訳家側に押し付けているということが、様々な自身の経験談から語られる。印税の事後カット、納期の理不尽な短縮、翻訳作業終了後の出版中止など目を疑うような行為が公然とまかり通り、挙げ句の果てに翻訳者の名前を本に掲載しないといった詐欺まがいの行為まで横行しているらしい。海外の情報、映画、文学などの文化を自分で様々な原語のソースから全て入手している人など皆無だとすれば、「翻訳」という仕事の重要性は計り知れない。それがここまで軽んじられているということに驚きを感じる。引退したからこそここまで暴露できるという意味で著者ならではの一冊。この本を出版した出版社にもエールを送りたい。(「出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記」 宮崎伸治、三五館シンシャ)
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彼女の家計簿 原田ひ香

終戦前後に1人の女性によって書かれた数冊の家計簿を媒介として三代に渡る母娘の歴史が語られる一冊。主要な登場人物全員が女性で色々迷いや困難に直面しつつも気丈に生きようとしているのに対して、脇役の男性は俗物中の俗物や体裁ばかり気にする偏屈男ばかりで、読んでいて何だか申し訳ないような感じだ。戦時中の困難、その後の女性の職場進出、ジェンダーを巡る様々な偏見などいくつもの社会問題が扱われていて、その中から世の中で変化したものと依然として残っているもの、大切なものは何かといったことを考えさせられた。(「彼女の家計簿」 原田ひ香、光文社文庫)
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ゆるキャラの恐怖 奥泉光

著者の作品は本書で2冊目。最初に読んだのは10年以上前になるが、とにかく格調の高い文章とミステリーとしての面白さに圧倒された記憶がある。その時の記憶があったのと軽そうな題名が面白そうだったので何気なくネットで注文したのが本書で、「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」というシリーズ作品の第三弾。中編2つが収められているが、読んでみて前に読んだのとは少し違う意味でとても面白かった。ミステリーとして面白いのは前作通りだが、本書の文章は前作のような格調の高さではなく登場人物の会話から地の文まで全てがギャグに終始していてびっくりだ。2編の内容は、教育や教育で実績をあげられない主人公クワコーが大学の広報活動としてお手伝いをしたり、大学の勢力争いに巻き込まれたりする中での珍事件を文芸部員の力を借りて何となく解決してしまうというもの。特に二つ目の作品に登場するあるキャラクターの発言の面白さには唖然とした。順番が逆になるが、シリーズの第1作、第2作も読んでみたくなった。(「ゆるキャラの恐怖」 奥泉光、文春文庫)
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écriture新人作家杉浦李奈の推論Ⅱ 松岡圭祐

著者の新シリーズの2作目。本作も前作同様、小説家という職業や出版界にまつわる慣習やミステリーの古典に関する知識が散りばめられたミステリー作品だ。物語は、当代一の人気作家が実際に起きた悲惨な事件を題材にしたミステリーを執筆、その彼がその本が刊行される直前に謎の死を遂げ、しかもその本には事件の犯人しか知り得ない事実が記載されていたという内容。その人気作家が犯人という以外に真相はないように思われたが、主人公がたどり着いた答えは全く予想外のものだった。作品自体は軽い読み物風だが、意外性という点では最近読んだミステリーの中でも図抜けていると感じた。なお、第1作目を見つけて読んだのが先々月だが、ネット書店を検索したら2月に一冊のペースで新作が出ていてこの8月にはもう第6作目が刊行されるとのこと、著者の量産ぶりにも改めて驚かされた。(「écriture新人作家杉浦李奈の推論2」 松岡圭祐、角川文庫)
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フクロウ准教授の午睡 伊与原新

著者のこれまでに読んだ科学知識とミステリーが融合した作品とはかなり趣の違う一冊。ある地方の国立大学に突然ひとりの准教授が赴任してくる。その彼が次々と大学を舞台にした不正を暴いたりや不祥事を解決したりしていくという連作集だ。具体的には、学内のアカデミックハラスメント、大学案内パンフレット発注を巡る印刷業者からの収賄、大学祭でのトラブル、学長選挙での不正疑惑など、大学という組織の色々な面を見せてくれる内容だ。本書の特徴は、それぞれの事件自体に謎があるというよりも、その准教授が何故突然大学にやってきたのか、彼が次々と事件を収束させていく動機は何なのか、要は彼の存在そのものが最大の謎だということ。一つ目の事件を解決したところでは、大学内の不正を正す世直し的なヒーローかと思ったのだが、次の事件でそういう単純な話ではないことがわかる。最後の最後に明らかになる全ての事件とその収束の背後にある全体像は当初のイメージと全くかけ離れたもので、全ての登場人物が実は自分の損得勘定だけで動き利害関係だけで繋がっていたという真相には笑えた。(「フクロウ准教授の午睡」 伊与原新、文春文庫)
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六法推理 五十嵐律人

法学部4年と経済学部3年の学生コンビが「無料法律相談所」という大学の自主サークルに持ち込まれる事件やトラブルを法律知識と推理で解決していく連作ミステリー。法曹の資格を持たない学生2人が主人公で相談者たちも学生なので、相談や事件の内容は今時のものが多い一方、相談に来た学生が数日後に謎の死を遂げたり校内で放火事件が発生したりで事件の内容はかなり深刻だ。さらに、学生が主人公ということで、ちゃんとした弁護士などとは違う大きな制約があり、必ずしも事件がスッキリ解決しないこともある。短編5つどれも法律知識のトリビアが満載で面白かったが、特に「認諾」と「親子関係の法律」を扱った作品は、法律というものの意味を深く考えさせられる内容だった。(「六法推理」 五十嵐律人、角川書店)
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あの夏の正解 早見和真

コロナ禍によって高校野球の甲子園大会が春と夏の2回続けて中止になった時、当事者である高校球児たちがどのような思いを持ったのか? 高校時代にベンチ入りこそしなかったものの甲子園に出場したという著者が、夏の甲子園中止決定の直後に石川県と愛媛県の2つの強豪高校を取材した内容をまとめた一冊だ。個人的には高校野球にあまり興味がないので正直「頑張ってきたのに可哀想だなぁ」くらいの感想しかなかったが、本書を読むと色々な思いがあることがわかる。中止になったことへの思いと言っても、高校生くらいにもなれば何かについて意見を求められれば大人や世間が期待する模範解答を口にするだけの分別があり本音を言わないものだと分かっているが、それでもコロナ禍といった未曾有の出来事に直面して大人や世間の期待する「正解」を誰も知らない、大人自身や世間自体もそれを分かっていないという状況で、どうやって彼らの本音を探るのかが興味深かった。本書では、中止が決定した後の、強豪校同士の交流試合、県独自の代替大会、甲子園での交流試合などに彼らがどう向き合ったかでそれを探ろうとする。そうした試合に対して、あくまで勝負にこだわった1、2年生を含めた最強チームで臨むのか、完全燃焼する場を奪われた卒業していく3年生主体のチームで臨むのか、それらの方針が示された後の選手たちのモチベーションはどうか、それらに本音が見えるだろうということだ。どちらを選択するのかさえも本音ではないと考えれば結局は堂々巡りのようなものなのだが、それを知りつつ正解に近づこうとする著者の熱意が溢れた一冊だった。(「あの夏の正解」 早見和真、新潮文庫)
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残された人が編む物語 桂望実

行方不明者捜索を行う団体に音信不通の人の捜索を依頼する人々を主人公に据えて描いた連作短編集。主人公達は、遺産相続のため家出した弟と会いたい、有料配信の同意をもらうために学生時代にバンドをやっていた仲間を探して欲しい、突然失踪した夫に似た人を警察のHPで発見したので相談したい、上司だったベンチャー企業の社長に昔借りたお金を返したいといった理由で捜索を依頼する。題名からも察せられるように捜索の対象者はいずれも既に故人になってしまっているのだが、音信不通の間に故人と関わった人々の話を聞くうちに、行方不明になった深い理由やその後の生活を断片的ながら知ることになる。残された人々がそれぞれ何を思い、どのようにして空白の時間を埋めていくのかが克明に語られる一方、行方不明者の側の事情がそれぞれ現代社会の生きにくさを背景にしたものであることに、著者の強い意図を感じた。(「残された人が編む物語」 桂望実、祥伝社)
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「読んだ本」について

自分のこのブログを何気なく見ていたら、カテゴリーの「読んだ本」がちょうど「2600冊」とキリの良い数になっていた。2007年に始めたブログなので、単純計算すると一年間に173冊ということになる。仕事で読んだ本と読んだが面白くなくて書くと悪口になってしまう本はブログに書かないと決めているのと、上下本や全何巻という本はひとまとめにして書いているので、読んだ冊数は年平均200冊くらいだろうと思う。かなり多い方だとは思うが、速読の技術があるわけではないし、読んだそばから内容を忘れてしまうことも多いし、もっとすごい読書家はいくらでもいると思うので自慢にもならない。更に、読書の時間は座ったり寝転がったりしているので、読書の時間を別のことに当てていればもっと健康に良かっただろうし、別の面白いことができたかもしれないと思うと複雑な心境だ。前にも書いたが、自分の本の選び方は、書評誌で取り上げられていて面白そうだと思った本をネットで購入するのと本屋さんで見つけて購入するのが半々くらい。読書傾向としては、歳のせいか巻数の多い長大作や登場人物の名前が覚えにくい海外作品、何となく舞台をイメージしにくいSF作品などが少なくなっている気がする一方、細切れの時間で読むことのできる短編集やあまり記述の細部を意識しなくても読み進められるノンフィクションが増えている気がする。新刊が出たら迷わず購入する作家は10人強。購入したが積ん読になっている本が100冊以上あるし、もう一度読んでみたいと思う昔読んだ本や読んでみたいと思う大作も数多いが、どうしても新刊を優先してしまう。もっと時間があればと思うが人生の残り時間も限られているし、その辺りが悩みと言えば悩みだ。
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ケアマネジャーはらはら日記 岸山真理子

色々な職種の当事者が日記形式で日常の苦労を語る人気の「○○日記」シリーズ。今回はケアマネジャーという職種の苦労話。ケアマネジャーというと、介護が必要な高齢者の個別事情を聞いてその人にあったケアプランを考える人というイメージで、人と面接したり介護プランを作成したりというデスクワークを勝手にイメージしていたが、日常業務の多くが困っている人の現場に駆けつけたり、応急的な手助けをしたりという現場仕事であるということに驚かされた。助ける側の人の苦労話ということで、当然ながら非常に手間のかかる高齢者の話のオンパレードで、自分に重ね合わせて考えると本当に大変だし人ごとではないと思うような事例ばかりだ。著者の職場は市役所の委託を受けた民間の支援センターというところ。緊急事態が起きた場合に一般人が最初に頼るのは市役所などの公的機関だが、市役所は市民から支援要請があるとまずはそうした委託先のセンターに取り次ぐことになるので、市役所とのやり取りもケアマネジャーの重要な仕事だ。更にセンターにはケアマネジャーの他、看護師、社会福祉士、介護職員、契約医師など様々な専門職種の人がいて、内部での人間関係や関係者との板挟みなどもあって苦労の連続。とにかく家族を含めて人に迷惑をかけないようにするにはどうしたらいいのかそればかり考えさせられた。(「ケアマネジャーはらはら日記」 岸山真理子、三五館シンシャ)
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歪んだ名画 松本清張他

松本清張、連城三紀彦、泡坂妻夫など8人の作家による美術をテーマにした短編ミステリーを集めたアンソロジー。著者も多彩なら、登場人物も芸術家本人・美術品コレクター・画商などと多彩、テーマも純粋な犯罪ミステリー・SF的なディストピア小説・ミステリー色の薄い叙情的な物語などとバラエティ豊かだ。そんな中で各編に共通しているのは、登場人物が美術品の魔性のようなものに取り憑かれた人間であり、美術品が時には人間に思わぬ行動をさせてしまうという設定で、登場する作品も一般的な名画名品というよりは知る人ぞ知るという怪しげな作品だということ。この作家がこんな作品を書いていたんだと驚かされることの多かった一冊だ。(「歪んだ名画」 松本清張他、朝日文庫)
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ルポ川崎 磯部涼

2016年から17年にかけて月刊誌に掲載された川崎という都市についてのルポをまとめた一冊。2015年に川崎で立て続けに起きた凄惨な中学一年生殺害事件と簡易宿泊所放火事件をきっかけに書かれたという。多文化が交錯する町、行政や法律の及ばない裏社会がはびこる町としての川崎、あるいは底辺から音楽を通して這い上がろうとする若者たち、どうしようもない日常の閉塞感から逃れられずに真っ当な道を諦めてしまった者たち、リーマンショックや東日本大震災のストレスを発散させるかのようなヘイトデモとそれに抗う者たちなど、そこに関わる人々が克明に書かれている。本書を読むと、ルポルタージュとはあくまで「現場からの状況報告」であり、話の落とし所、物事の真相に迫るようなノンフィクションとはかなり違う報告者の個性が浮かび上がるジャンルだということに気づかされる。(「ルポ川崎」 磯部涼、新潮文庫)
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