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2022年のベスト10

今年は面白いミステリーやノンフィクションに色々出会った気がする。ミステリーでは「方舟」「此の世の果ての殺人」が断トツに面白かった。両方とも初めて読む作家だったが、これからどんなミステリーを書いてくれるのか期待が膨らむ。ノンフィクションでは、恐竜絶滅の謎に迫る「ダイナソーブルース」、ウクライナ戦争に関する何冊かの解説書、「◯◯日記シリーズ」などが印象に残った。また、最近あまり読んでいなかったSF小説では柞刈湯葉の作品が衝撃的で、SFをまた色々読んでみようかなという気にさせられた。全体の読書量は平年並みという感じだが、最近は読みたい本と読める冊数の乖離がどんどん広がり、積ん読の量とネット書店の買いたい本リストの量が多くなりすぎて本当に悩ましい。以下、今年のベスト10。

①「方舟 (夕木春央 )」
今年一番面白かったミステリー。よくある「陸の孤島」ものと思っていたら、ラストの衝撃が凄かった。
②「まず牛を玉とします (柞刈湯葉)」
久しぶりに面白い日本のSFに出会った。発想の面白さとそこから話を自在に紡いでいく著者の才能に脱帽。
③「同志少女よ、敵を打て(逢坂冬馬)」
今年の各賞を総なめにした一冊で、期待通りの傑作。本書を書くのにどれだけの資料を読む必要があったのか、そのリアリティに感動
④「ダイナソーブルース (尾上哲治)」
恐竜絶滅の謎解きも面白かったが、自分の学説に固執する科学者たちの壮絶な争いが凄かった。
⑤「ウクライナ戦争の200日 (小泉悠)」
今年はウクライナ関連の本を何冊か読んだが、軍事面の解説では抜きん出た内容だった。
⑥「出発翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 (宮崎伸治)」
何冊か読んだ◯◯日記シリーズの中で最も印象に残った一冊。
⑦「遺体 震災・津波の果てに (石井光太)」
東日本大震災直後に現地で何があったのかを教えてくれたノンフィクション。
⑧「此の世の果ての殺人 (荒木あかね)」
近未来歴史改変ミステリーだが、ハラハラドキドキしながら読み終えた。
⑨「見つけたいのは、光(飛鳥井千砂)」
凄い作家に出会ったと思えた一冊。この本を読んで不甲斐ない自分と対峙しながら、小説には何かを変える力があるだろうと強く感じた。
⑩「鉄道ビジネスから世界を読む (小林邦宏)」
鉄道好きのための軽い本かと思ったら、色々考えさせられる内容の凄い本だった。


2010年132,2011年189,2012年209,2013年198,2014年205,2015年177,2016年218,2017年225、2018年211、2019年155、2020年128、2021年163、2022年158

2022/12/31
読んだ本 2657
観劇など 224
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落語 落語三銃師

約2か月ぶりの落語会。昨年も年末に参加した落語三銃師の会(三遊亭白鳥,林家彦いち,桃月庵白酒)。白酒師匠の古典落語、白鳥師匠,彦いち師匠の新作落語の落語3席と、落語三銃師の会の活動報告という構成で、それぞれの持ち味を十分に堪能した。噺の中に、色々な古典落語、他の落語家が出てきて、全部を理解することは出来なかったが、それでもオンサイトならではの内輪話満載で楽しかった。来年も楽しみにしたい。
[演目]
①オープニングトーク
②桃月庵白酒 「時そば」
③三遊亭白鳥 「それ行け落語決死隊コロナ退治」
 仲入り
④地方公演報告会(岐阜,福井,京都)
⑤林家彦いち 「ごくごく」
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統一教会 何が問題なのか 文藝春秋編

これまでに文藝春秋に掲載された旧統一教会に関する記事をまとめた一冊。この問題を長く追っていた各氏の文章や対談をまとめて読むことができる有難い一冊だ。昔と変わらない極端な違法体質、家庭崩壊に見舞われている2世信者の苦悩、合同結婚式で韓国に渡った日本人女性の悲惨な待遇など、同教会の異常な内情が次々と明らかになる。同教会の「教義」の解説を読んでいると、ここまで支離滅裂で矛盾だらけの教義を何故信じてしまうのか不思議な気持ちになるが、一旦心に隙に入り込んでしまうとあとはどんな内容でも信じ込ませられる、いわゆるマインドコントロールの恐ろしさということなのだろう。旧統一教会問題の浮上で他の宗教団体も迷惑しているだろうが、とにかく旧統一教会に関しては宗教とは全く関係のない異常さが問題なのだと改めて思った。(「統一教会 何が問題なのか」 文藝春秋編)
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変な家 雨穴

本屋さんで本書とその姉妹編が2冊並んで平積みになっていたので、とりあえず先に出た方の本書を読むことにした。内容は、家の間取りに隠された謎にまつわるミステリーだが、単にどのような仕掛けが隠れているのかという謎だけではなく、何故そのような仕掛けにしなければならなかったのかということも謎解きの大きなポイントになっている。暴かれる真相は非常に悲惨でおどろおどろしい。すでに次の姉妹編も購入済みなので読むのが楽しみだ。(「変な家」 雨穴、飛鳥新社)
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魔法使いと最後の事件 東山篤哉

刑事と魔法使いがコンビを組んで難事件を解決するシリーズの4作目。刑事や探偵の役割には、動機や犯行の手口の解明、アリバイ崩しなどが重要だと思われるが、本シリーズはそのうちのどれかが魔法によって分かってしまうというお手軽なミステリーだ。さらに、犯人を含めて登場人物の殆どがどこか抜けている人物だし、真相にたどり着くまでに何度も偶然に助けられたりで、とにかくユーモア最優先の内容。それでいて謎の究明には結構鋭い考察があったりする。帯にシリーズ完結編とあるのでこれでシリーズ終了らしいが、内容的には完結感があまりないので、新シリーズに続くという気もする。(「魔法使いと最後の事件」 東川篤哉、文春文庫)
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SF作家の地球旅行記 柞刈湯葉

著者の本は3冊目。最新作を読んでとても面白かったので既刊本を探しに自宅から一駅歩いたところにある本屋さんに行ったら平積みになっている本書を発見。前に読んだ小説と立て続けに刊行された一冊だった。本書の内容はごく普通の旅エッセイで、特に変わった場所とか珍しい絶景とかではないごく普通の旅行体験を綴ったものだが、それでも文体、表現、理科系らしい視点などがユニークでとても面白かった。おまけのような形で巻末についている月ツアー、南樺太ツアーという2つの架空の旅行記も、最新刊の面白さに通じる新しいSFを感じさせる内容。著者は、元々は理科系の研究者だったが最近専業の小説家に転身したとのことで、これから著者の本がたくさん読めそうなので嬉しくなった。(「SF作家の地球旅行記」 柞刈湯葉、産業編集センター)
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皮肉な終幕 レヴィンソン&リンク

著者の本は2冊目。本書も前作同様、一見普通に見える登場人物がとんでもないことをしでかしたり、ちょっとした偶然で大事件に巻き込まれるといった感じのショートショート集だ。どの話も「皮肉な終幕」という表題通りどんでん返しが用意されていて面白い。解説を読むと、このコンビの作家は刑事コロンボの原作者で、本書にはTVシリーズ第1作目の原作も収納されているとのこと。TVシリーズ第1作の詳しいストーリーはよく覚えていないが、全体的に、ちょっとしたほころびで完全犯罪が破綻してしまうところなど、確かにテイストが似ていると感じた。(「皮肉な終幕」 レヴィンソン&リンク、扶桑社文庫)
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長生きは老化の元 土屋賢二

このブログで検索したら著者の本を読むのは本書でちょうど20冊目。相変わらずの土屋ワールドだが、本書では大学教授の職を辞して老人ホームに入居した著者の日々の考察が中心。初期の頃の「ツチヤ師」に代わって「元教え子」ものが増えていてそれが面白い。いつまでも続いて欲しいシリーズだ。(「長生きは老化の元」 土屋賢二、文春文庫)
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さよなら、野口健 小林元喜

今年の本屋大賞ノンフィクション部門ノミネート作品ということで読んでみた。野口健という登山家について、若い時から専属スタッフとして彼の近くにいた著者が書いた評伝。野口健については、山に登ってゴミを拾ってくる登山家というくらいしか知らなかったが、子供の頃からの境遇や政治的な野心などが赤裸々に語られていて、一般にはあまり知られていないような彼の人物像が見事に浮かび上がってくる内容。全編を通じて本人しか知らないような負のエピソードやかなり複雑な人間関係が述べられていて、どうやって調べたのか不思議に思ったが、実は彼自身が本に書いていたり長年の付き合いの中で著者が直接聞いたことで、彼自身がそうしたネガティブな話も隠さない人間だということらしい。本書を読んでいると、世界7大陸最高峰無酸素単独制覇に挑みながら、エベレスト登山中に事故死した登山家栗城史多のことが常に頭に浮かんできた。登山家の世界ではほとんど評価されない目標を掲げてマスコミへの露出や話題性を重視する姿勢などが似ていて、栗城史多に影響を与えた先駆者であり、栗城史多のマイルドバージョンということらしい。大賞受賞はならなかったが、とても読み応えのある一冊だった。(「さよなら、野口健」小林元喜、集英社)
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オンライン落語 三遊亭白鳥 お直し猫ちゃん

久しぶりに三遊亭白鳥師匠のオンライン落語をアーカイブで視聴。古典落語を改編した約1時間の人情噺が一席と、プロデューサー広瀬氏との対談という2本立て。元ネタの落語がどういうものかよく知らないが、今の時代にやるのは内容的にかなり問題があったり聞く人を不快に思わせてしまうような話のようで、それを緩和する意味もある改編とのこと。いつも通り「無観客ならでは」と演者自身が語る登場人物が乗り移ったような熱演を満喫した。今回も中入り後の対談がとても面白かった。落語協会のパワハラ問題については、落語の世界、演じられる演目が大きく変わる可能性があるとのこと。また、今の落語家の評価、今後の落語の方向性、白鳥師匠のこれからなど、興味深い話をたっぷり1時間聞けた。「次は『しじみ売り』という演目をオンラインで」という予告もあったのでそれを楽しみにしたい。
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自民党の統一教会汚染 追跡3000日 鈴木エイト

安倍元首相の暗殺事件をきっかけに浮かび上がってきた宗教集団と政治の関係について、10年近くこの問題を追いかけてきたジャーナリストが書いた一冊。著者のようなジャーナリストや多くの弁護士たちが、長年にわたって両者の関係の問題を指摘してきたにもかかわらず、問題の所在すら知らなかった自分の至らなさを痛感しながら読み進めた。本書で浮かび上がってくるのは、強い問題意識や危機感を持たず、選挙に勝つことを優先してこうした宗教集団を利用しようとしてしまう一部政治家の姿勢、自分たちの保身や利益のために政治家の権威や力を取り込もうとする団体の思惑、そして様々な困難や脅迫に立ち向かって問題を追い続ける著者の信念だ。宗教と政治というのは難しい問題だが、本書は、この事件の本質が信仰の自由のあり方などではなく、その宗教団体の違法性や反社会性にあるということを教えてくれる。(「自民党の統一教会汚染 追跡3000日」 鈴木エイト、小学館)
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一橋桐子(76)の犯罪日記 原田ひ香

同居していた友人に先立たれて今後に不安を抱える老女が、刑務所を介護付き高齢者住宅と考えて犯罪を繰り返す老人がいるという話を聞いて、自分も他人に迷惑をかけずに刑務所に入る方策はないかと試行錯誤するという内容の小説。主人公はこれまで無縁だった危ない人々とあえて関わることにより、知らなかった闇の世界を垣間見る。個人的には、他人に迷惑をかけない犯罪など存在しないことにもっと早く気づくべきだとは思うが、話を読み進めていくうちに、普段気がつかなかったり知らなかったりした社会の問題について色々考えさせられた気がする。(「一橋桐子(76)の犯罪日記」 原田ひ香、徳間文庫)
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豪球復活 河合莞爾

書評誌で絶賛されていたミステリー。プロ野球の記録を次々と塗り替え天才と謳われた投手が絶頂期に突然失踪、その後ハワイで記憶喪失のホームレスになっている彼が発見される。彼が失踪前に残した「消えるボール」「人を殺した」などと書かれたメモ、そもそもの失踪の理由など多くの謎を残したまま、球界復帰をかけた物語が展開。その物語だけでもハラハラドキドキなのだが、最後のエピソードで明らかになる全ての真相には正直驚かされた。随所にヒントはあったなと後から思う分、そういうことだったのかという驚きが強かった。野球に関するウンチクも多く、彼の投球フォームの描写を読んで何となく高校野球で活躍した当時の江川卓を勝手に思い浮かべてしまった。(「豪球復活」 河合莞爾、講談社)
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