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密室蒐集家 大山誠一郎

書評誌で「今年度最高のミステリー」と大絶賛されていた本書。密室殺人が発生し、警察が捜査を開始、その捜査が行き詰ったところで、「密室蒐集家」と自称する謎の人物が突然現れて、一瞬にして事件を解決してしまうというやや奇妙な設定の連作短編集だが、論理的な思考のみで難事件を解決してしまう様が余りにも見事だ。特に、書評で「驚愕の1篇」と表現されている「理由ありの密室」という作品には本当に驚かされる。奇妙な設定とあくまで論理的な謎ときのバランスが絶妙で、私も「これはすごい」と唸ってしまった。まだもう少し続編がありそうな感じだが、本書の品質を維持したままでもう1冊というのはかなり高いハードルだろう。過度に期待しないようにして続編を待ちたい。(「密室蒐集家」 大山誠一郎、原書房)

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主よ、永遠の休息を 誉田哲也

解説を読むと、本書について、「姫川シリーズ」の原点ともいうべき作品とある。確かに、目を覆いたくなるような凄惨な事件、犯人を追い詰めていく主人公の執念といった点は、同シリーズと類似している。但し、それを「警察」の目ではなく、「ジャーナリスト」の目で描かなければならなかった作者の意図は良く理解できる。本書で強く感じるのは、IT技術の発達がもたらす現代社会の危うさだ。最近の現実社会で起きているITがらみの怖い事件と呼応して、本書の怖さは尋常ではない気がする。(「主よ、永遠の休息を」 誉田哲也、実業之日本社文庫)

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万能鑑定士Qの短編集Ⅰ 松岡圭祐

本シリーズは、読者へのアピールの仕方が、「手を変え品を変え」というのがぴったりくるような感じがする。全12話で一段落させる一方、新しいシリーズが第1巻から刊行されるし、そうかと思えば別の主人公の新シリーズがスタートしてそのなかに脇役として本シリーズの主人公が登場したりする。さらに、攻略本のようなものが刊行され、そして本書の短編集だ。本書の中では、新シリーズの主人公と本書の主人公がタッグを組んで事件を解決させる話まである。この短編集も「Ⅰ」となっているので、シリーズ化される気配だ。とても全部つきあってはいられないと思うのだが、何故か今のところ全部付き合ってしまっている。(「万能鑑定士Qの短編集Ⅰ」 松岡圭祐、角川文庫)

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大発見の思考法 山中伸弥・益川敏英

本書を入手したのは、10日くらい前だったと思うが、驚いたことに、著者の略歴の欄に「2012年ノーベル賞受賞」と書かれていた。受賞のニュースを受けて、即座にカバーを新しくしたのだろうが、それにしてもその素早さに驚かされる。内容は、山中教授の話が6割、益川教授の話が4割という感じで、どちらかというと山中教授の比重が大きくなっている。やはりiPS細胞の話の方が判り易くて面白いからだろう。山中教授に関しては、受賞後のTVで色々見ていたので、本書に書かれたエピソードなども既知のものもあったが、やはり本人の語りを読むと、迫力があって段違いに面白い。iPS細胞を命名する際に「I-Phone」を参考にしたというのは有名な話だが、聞き役に回った益川教授が、山中教授以上に面白い名前を付ける名手だということを、本書を読んで知った。益川教授が「これこれこうしたことを私は「○○」と呼んでいる」と言う箇所がいくつもある。記憶にあるだけでも「科学疎外」「へたな鉄砲原理」「秀才病」「眼高手低」「積極的無神論者」などなどだ。本書の中でも「プレゼン」の大切さが語られているが、2人の大科学者が揃って「ネーミングの名手」というのが大変面白い。受賞後の益川教授は「頑固だが意外におちゃめ」という印象を日本中に与えたが、本書でもそのキャラクターは変わらず、山中教授に質問するところなどは、ほとんど一般人のインタビュアーのようで、偉ぶらず子どものような好奇心で聞いているなぁという感じだ。(「大発見の思考法」 山中伸弥・益川敏英、文春新書)

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貧相ですが何か 土屋賢二

著者の作品を立て続けに読んでいてもう何冊目かも判らないが、相変わらずの自虐ネタは読んでいてとにかく面白い。それに今回も解説が秀逸だ。本作の雰囲気を真似ながら、それでいて解説者の個性のようなものが感じられる。また、いくら本作を真似ても真似しきれていないのが判り、やはり本作はいい加減に書かれているようで、誰にも真似できない語り口なのだということを図らずも教えてくれる。そうしたことを教えてくれる「解説」は、書き手の思惑通り、第一級の賛辞になっているところがまた面白い。(「貧相ですが何か」 土屋賢二、文春文庫)

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塔の断章 乾くるみ

著者の本を読む時、どうしても「イニシエーションラブ」を読んだ時の衝撃が頭に残っていて、どうしても、色々警戒しながら読んでしまう。そうした小説ばかりでないことは、その後に読んだいくつかの作品で判っているはずなのだが、どうしてもそうした読み方になってしまうのは、やはりその時の衝撃をもう一度味わいたいという期待が大きいからだ。そんな感じで本作を読むと、やはり少し失望は禁じえない。帯には「驚愕のクライマックス」とあるが、正直言って、ミステリーでは良くある程度のどんでん返しだし、そもそもクライマックスに至るまでの話の流れが判りにくすぎて、そのクライマックスを心から楽しめない。要するに「驚愕のクライマックス」を楽しむためには、読者がそれまでに提示された全ての情報を完全に理解できているという確信が重要で、その確信があって初めて、その確信を裏切る結末にびっくりするのだ。ストーリーにあいまいなところがあって、全貌を掴めていないような感じのままではそういうことにはならないし、逆に話の構成の悪さに苛立ったりする。本作も、時間が前後する語り口がどうも判りにくい。そうしたことを考えずに、最後にすっきりとびっくりしたいという期待は次の作品に持ち越しという結果に終わった。(「塔の断章」 乾くるみ、講談社文庫)

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「なぜ?」から始める現代アート 長谷川祐子

現代アートをどう見たら良いのかを様々なテーマで解説してくれる本書。最初の2章くらいまでは、現代絵画に関する内容なので、馴染みのある「現代アート」という感じだが、読み進めるうちに、これもアートなのかと思うような作品、あるいはこれがアート作品と呼べるものなのかと思うような作品の紹介になり、そもそも自分にとってアートとは何なのかということが問われているような気分になってくる。目の見えない人のインタビューを基にしてそれを具体化させた絵画などは、間違いなくアート作品と言えるだろうが、「紛争地帯の国境に勝手に緑色のペンキを塗る行為」「友人に『元気だよ』という手紙を送り続ける行為」をアート作品として紹介されると、その定義そのものが揺らいでくる。要するに、そうした自己表現の背後にある、人を驚かせたい、「へぇ」と思わせたい、作品を通してコミュニケーションを図りたい、それら全てがアートということになるのだろう。こちら側が「なぜ?」と問いかけることが、そうしたアーチィストの意図に呼応することだと本書は教えてくれる。(「『なぜ?』から始める現代アート」 長谷川祐子、NHK出版新書)

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涼宮ハルヒの溜息 谷川流

有名なライトノベルのシリーズ第2作目。正直に言って、こうした本を読むのはかなり気恥ずかしく、電車で読むのがはばかられる。第1作目を読んだのは数年前で、それから随分時間が経っているので、話についていけるかどうか不安だったが、そのあたりは何となく判るような記述になっていて助かった。前作では世界そのものが大変な危機になり、語り手である「俺」が世界を救うというような話だったが、本作は、その片りんは見せるものの、やや小ぶりの作品になっている。とにかく設定が奇想天外で面白いので、大きな話でも小さな話でもそれなりに楽しめそうな気がする。次に第3作目を読むのがいつになるか判らないが、結構楽しみな感じだ。(「涼宮ハルヒの溜息」 谷川流、角川文庫)

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ふくわらい 西加奈子

著者の本はこれが3冊目だと思うが、これまで読んだ2冊はいずれも、子供を主人公にしたほのぼのとした家族小説、すこし変わっているが愛らしい子供がでてくる小説だったので、本作を読んで正直びっくりした。主人公は少しどころかかなり変わった人間で、それを取り巻く人々も大いに変わった人間ばかりだ。そしてその変わっている理由が、子どもの頃の極く普通の体験をその子どもがどう感じたかというところに根ざしているということで、何とも不思議な感じがしてしまう。かなり異様な世界のはずだが、読んでいて不快にならないというのも不思議な感覚だ。著者の作品の奥深さを味わうことのできる作品だと思った。(「ふくわらい」 西加奈子、朝日新聞出版)

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空はきんいろーフレンズー 大島真寿美

ほのぼのとした子ども時代の風景を思い起こさせてくれる掌編。大変短い作品だが、2人の主人公の子どもの心情やその周りの世界がしっかりと心に残る作品だ。文庫版のために書かれたという後日談も、「この2人はそのあとどうなったのだろう?」という読者の思いにぴたりと答えてくれているようで、心地よい。直接その2人が登場するのではなく、2人のうちの1人がシンガポールから送ってきたというお土産のことがさらりと書かれているあたりは、絶妙というか、本当に「うまいなぁ」と感心してしまった。(「空はきんいろーフレンズー」 大島真寿美、ポプラ文庫)

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号泣する準備はできていた 江國香織

短編集というより掌編集という感じだが、続けて読んでいくと、とても充実感がある作品だ。読み始めてすぐに、こうした作品は、速読気味の自分には向いていないのではないかということに気付いた。いつものペースではなく、少しじっくり読んでみようと心掛けると、そうした読書も良いなぁという気分になってくる。それでも読み終えた後、どうしてもこの作品に対する共感のようなものが感じられないことに気づく。短編集ということであれば、何かそれぞれの短編に通低するテーマとか世界観のようなものがあるはずなのだが、それが一向に見えてこなかったからだ。自分では、読書の守備範囲は広い方だと思っていたのだが、それでも何だか自分には捉えどころのない作品のような気がして仕方がなかった。何か、統一したテーマのようなものを探すということも一度捨ててみないと読めない作品なのだろうか?不満とは違うざわざわした感覚の残る作品だった。(「号泣する準備はできていた」 江國香織、新潮文庫)

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ピカソは本当に偉いのか? 西岡文彦

「ピカソの絵は本当に美しい(上手い)のか?」「どうしてこんな絵が偉大だとされるのか」「どうしてピカソの絵はそんなに高価なのか」という素朴な疑問に、真正面から答えてくれる本書。「目からウロコ」と帯に書かれているがその通りの本だ。考察される範囲は、ピカソが登場し巨匠となっていった時代、例えば商工業の発展、金融市場の発達といった社会情勢、アメリカの台頭といった世界情勢、画商・美術館・オークション会社など美術を取り巻く仕組みの変化、ダーウィンの進化論、など実に広範囲に及ぶ。本書の素晴らしいところは、そうした広範囲からの考察にあると思うが、最も素晴らしいのは、最後の章で、最初に提示した3つの疑問に対して、曖昧に逃げることなく、ちゃんと答えを出してくれているところだ。最後の章を読めば、難解でも全体を読んだかのように著者の論旨を思い出すことができる。全ての啓蒙書はこうあってほしいという見本のような良本だ。(「ピカソは本当に偉いのか?」 西岡文彦、新潮新書)

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ツチヤの貧格 土屋賢二

著者の作品をだいぶ読んできて、いつも気になっていたのは、作品の巻末に掲載されている「解説」の面白さである。著者の本を読む楽しさの1つが、本文を読み終えて解説を読むときだ。本毎に、著者の作品のファンと思われる有名人やそうでもない人がその面白さを色々披露してくれていて、同じファンとして、こういう読み方もあるなぁと共感したり感心したりできるのだ。。著者の作風が非常に独特なのでそれに負けないように個性的な文章にしたいという解説者の意気込みが伝わってくる。また、著者の作品がユーモアたっぷりなので、もちろん堅苦しい解説は似合わないし、むしろユーモア満載でなければファンとはいえない。しかも、これまでに書かれた解説と同じような論旨ではいけない。著者の本の解説を書くのは本当に大変なことで、それだけに名文が多いような気がする。著者の本の解説だけで1冊の本になるのではないかという気さえする。そうした多くの解説のなかでも、本書の解説は大変印象に残る名文であるような気がした。(「ツチヤの貧格」 土屋賢二、文春文庫)

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殺人現場は雲の上 東野圭吾

本書は、作者がブレイクするかなり前の作品で、書評等で良くみかける「器用貧乏」の時代とされていた頃の作品ということになるのだろう。本書では、著者のこの時期の特徴である軽いユーモアミステリーが存分に披露されているのだが、やはりきらりと光るものがあるような気がする。2人の対象的なキャビンアテンダントが主人公で、本書を読んでいると、どんな設定でもそれなりの面白い話にしてしまうような著者の器用さが強く感じられる。私の知る限り、本書の続編は書かれていないと思うが、こうした面白い設定ですらシリーズ化せず、使い捨てにしてしまうあたりが、著者のすごさでもあり、書評で「器用貧乏」と称された原因だと思われる。(「殺人現場は雲の上」 東野圭吾、光文社文庫)

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謎007 桜庭一樹選

東日本大震災以降、何故か桜庭一樹の小説を読む気持にならなくなってしまったというようなことを以前書いたが、未だに彼女の本が2冊読めずに積んである。そうはいっても、別に作品に飽きたとか、面白くなくなったということではないのは確かで、今でもやはり一番気になる作家の1人であることは変わりない。「桜庭一樹選」という本書を見たときは迷わずに入手したし、他に何十冊も読む本があるのに本書を最優先で読んだことからも判る。本書を読んでいると、いかにも選者が好きそうな作品だなとか、こういうのが好みなのかという具合に、どうしても選者と作品の関係という目線でばかり読んでしまっているのに気づく。そうした眼で見すぎたせいかもしれないが、内容としては、予想以上に地味な作品というかオーソドックスな作品が並んでいて、選者の個性のようなものが感じられなかったという感じがしてしまった。(「謎007」 桜庭一樹選、講談社文庫)

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