書評、その他
Future Watch 書評、その他
夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦
「京風恋愛幻想活劇」「確信犯のご都合主義」など、ほめ言葉かどうか微妙な表現で評されるにもかかわらず、この小説は、そうした表現が正にほめ言葉としか思えない独特の体験をさせてくれる。勘違い、希望的観測、楽観的解釈、盲目的信頼、そうしたものを全て肯定していく主人公の2人の究極のご都合主義こそが、この小説の真髄だと思う。物事は合理的に考えましょう、リスク管理をしっかりしましょう、楽あれば苦ありのゼロサム社会です、といったバブル崩壊後にますます幅をきかせる現代の金科玉条が、何故かとても色あせて見える。著者の「太陽の塔」を読んだ時、主人公はそのご都合主義をもてあまし気味だったが、そうした逡巡が本作ではきれいに消滅している。そこが、例えば個人情報の悪用におびえつつも現代社会の利便性を捨てられず息苦しさに苛まれる、そうした閉塞感のようなものを感じざるを得ない我々の心を打つのではないか。(「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦、角川書店)
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サッチャー元英首相
結局1時間くらいかかったが、無事、サッチャーと握手をし、買ったばかりの彼女の自叙伝に、本人から目の前でサインをしてもらった。書店の説明では写真撮影は禁止となっていたが、そんなルールもお構いなしに、一緒に肩を組んでもらい、世界共通のピースマークをしながらツーショット写真を撮ってもらっている人もいた。この大物のサイン会の様子は、翌朝のNYタイムズでも記事になり、記事に依れば、今回の出版記念で、ロンドンで500冊、NYで500冊のサインをしたということだった。なお、このバーンズ&ノーブルでは、その他にも、ブッシュ元大統領(パパ・ブッシュ)の奥さんのバーバラ・ブッシュ、テニスの女王ナブラチロワ等、有名人のサイン会が時々開催されていた。
このサッチャー首相のサインが、私のサインコレクションの始まりである。その後は、やはりアメリカ駐在中に大好きだったNHL(北米アイスホッケーリーグ)の選手のサインを集め始めた。日本に帰ってきて、それまでESPNで見放題だったNHLの試合を見ることができなくなったことへの代償行為と言えなくもない。さらには大リーグの選手のサイン、その他スポーツ選手のサイン、更には映画俳優等のサインと手を広げ、現在に至っている。但し、既に物故した人物のサインは入手困難な場合が多いので、サイン以外の記念品でもよろしいと勝手にルールを作り、そうした記念品も集め始めた。例えば、ベーブ・ルースのサインは入手困難なので、彼の使ったバットの一部を埋め込んだ野球ファン向けのカードを入手するといった具合である。
今後、こうして集めた有名人のサインを少しずつ紹介していきますので、興味ある方は、暇つぶしにどうぞお読みください。
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「一瞬の風になれ」 佐藤多佳子、「風が強く吹いている」三浦しをん
ほとんど同時期に刊行されたこの2冊。短距離走、駅伝と種目は違うが、いずれも、学校の陸上競技をめぐる内容で、天才的なアスリートとそれを追いかける周りの者たちのドラマという設定も似ている。生物学におけるメンデルの法則の再発見、数学における積分法の発明など、同時期に偉大な業績がまったく別の場所や人物によって成し遂げられることがあるというのは、歴史の教えるところであるが、このような話の舞台が良く似ていて、かつすばらしい小説が、ほとんど同時に刊行されたということには、そうした何か特殊なものを感じてしまう。こうなると否が応でも、どちらが面白いか、と比較をしてみたくなる。本屋大賞2007では、「一瞬の…」が第1位、「風が強く…」が第3位と決着がついた形で、本屋を覗いてみても、大賞受賞の「一瞬の…」3部作の大きな扱いが目に付く。短距離走を題材とした「一瞬の…」では、登場人物がそれぞれの力量の中で感じる「ランナーズ・ハイ」であるとか、バトンの受け渡しによって生じるドラマとかがストーリーを盛り上げている。一方、駅伝を題材とする「風が強く…」は、各走者のキャラクターの面白さと走者同士の信頼という要素が話の中心だ。評価の分かれ目がどこにあるかは好みの問題だと思うが、私としては、読んでいる最中のわくわく感と、次の展開をどうしても知りたくなるというストーリーの面白さで、「風が強く…」の方を押したい。というよりも、両方とも読むというのが正解だろう。(「一瞬の風になれ」佐藤多佳子・講談社、「風が強く吹いている」三浦しをん・新潮社)
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ウェルカム・ホーム 鷺沢萌
今年1月に文庫化された際に改めて書かれた書評に惹かれて読んでみたのだが、読後のほっとするような気持ちはこれまでのどんな本でも感じたことのない特別のものだった。文庫にならなければその書評を読むこともなく、したがってこの本を読むこともなかったのではないかと思うと、文庫化で読者層を広げるという出版社の行動が素直にありがたいと思えた。著者は2004年に自殺しているが、yahoo検索してみると「ファンサイト」が今でも運営されていることが判る。暖かい洞察力で飾らない文章を書く能力を授かった著者に、神様は「長命」までは与えてくださらなかったということか。それでもかなり多くの作品が残されているようなので、これから読み続けていきたい。(「ウェルカム・ホーム!」鷺沢萌、新潮文庫)
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ジェネラル・ルージュの凱旋 海堂尊
話題になった「チーム・バチスタの栄光」、その続編である「ナイチンゲールの沈黙」に次ぐ、シリーズ第3弾の本書。私としては、この「ジェネラル」が最も面白かった。最新医療の現場が抱える問題の指摘も興味深いが、何といっても、田口・白鳥・姫宮トリオの活躍が楽しい。第1作から順番に読んでいる人が、本作を読み始めると、「おやっ?なんか変だぞ」と思う。しかし、その意味がわかると、「暇そうな田口医師も結構忙しいんだな」と納得。(「ジェネラル・ルージュの凱旋」海堂尊、宝島社)
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書評、NHL、エトセトラ
読んだ本の感想、10年来の趣味であるNHL(北米ホッケー・リーグ)、その他、少しづつ書き溜めて行きます。
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