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人体 NHKスペシャル取材班

映像技術の進歩とそれによって触発された人体に関する生化学の進歩を分かりやすく教えてくれる解説書。読んでいて新しい知見に驚きの連続だった。本書は、エピジェネティックス、バイオイメージングという2つの言葉に要約されるだろう。エピジェネティックスとは、生物が環境によって遺伝子で決定されたものとは違うものに変化していくという細胞レベルでの柔軟性のことで、最近そうした発見が相次いでいるという。いわば「獲得形質は遺伝しない」というこれまでの常識のアンチテーゼだ。もう1つのバイオイメージングとは、映像技術の進歩によって生物を細胞レベル分・レベルで観察・記録できるようになったこと、すなわち細胞社会の可視化だ。これにより、直接新しい発見があったと同時に、研究者達に対して目標の可視化を通じたモチベーション向上をもたらしたという。この2つにより、生物というものを細胞レベルで見た場合、これまでの常識とは全く次元の違う柔軟性を持って絶えず自分自身を変化させていることが明らかになってきているらしい。TV番組の製作者らしい視点・矜持だが、それが科学の進歩に大きな貢献をもたらしているであろうことが読者に伝わり、感銘を覚える。本書には図版が一枚もないので、とにかくその番組を見たくなる一冊だ。(「人体」 NHKスペシャル取材班、角川文庫)

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明日はいずこの空の下 上橋菜穂子

好きな作家のエッセイを読む理由はいくつかある。まずとにかくその作家の文章が好きで、何でもいいからその作家の文章を読みたくて読む。経験的にはこれが一番多いかもしれない。次に、その作家が好きなのはその作家の感性が自分と似ているからであろうと推察し、その作家の文章ならば多分面白いだろう、ハズレる確率が小さいだろうと思って読む。本書の場合はほぼこれに該当する。3つ目は、そのエッセイの中にその作家の創作の秘密が垣間見られるかもしれないと思って読む。これは多分に結果論になってしまうが、本書でもいくつかそんな記述を読むことができた。本書は、とても軽いエッセイ集だが、そうしたら3つの理由全てを満たしてくれる一冊だった。(「明日はいずこの空の下」  上橋菜穂子、講談社文庫)

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音楽会 夏川りみコンサート

夏川りみのコンサートは2回目。最初の時は200名前後のライブ会場だったが、今回は大ホールでの鑑賞。やはりこじんまりとした会場の方が迫力が違ったが、文句なく素晴らしいコンサートだった。窓を開けて閉めての沖縄流の踊り方の説明は何度見ても面白い。

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絶対安全剃刀 高野文子

ニューウェーブといわれる作家の作品集。先日TVを見ていたら、ある漫画家が、自分に影響を与えた一冊ということで本書を紹介していた。漫画界では、つげ義春などと並ぶ伝説的な存在とのこと。読んでみて、やはりその表現方法の多彩さ、非凡さに目を奪われた。ある作品について、あとがきに「階段を描く構図だけでそれを降りる人物の足元の不確かさが伝わってくる」とあったが、まさにそんな感じだ。しかも作品によって画風やタッチがガラリと変わる。漫画という媒体の可能性を果てしなく感じさせる作品群が多くの作家に影響を与えたんだろうなぁと思った。(「絶対安全剃刀」高野文子、白泉社)

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観劇 The Mist

ベトナムのパフォーマンス。とても洗練されていて、見ていて本当に楽しかった。色々な演目があるようなので、別の機会があれば是非また見に行きたいと思う。終演後に記念撮影にも応じてくれて、すっかりファンになってしまった。

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日本史のミカタ 井上章一他

ベストセラー「京都ぎらい」の著者と、テレビで見たことがある歴史学者の対談集。京大と東大、歴史を専門としない学者と歴史を専門とする学者という対照的な学者の組み合わせが面白そうなので読んでみた。歴史を専門としない学者が直感と推論から仮説を提示し、それを史料の検証を長年積み重ねてきたもう一方の学者が反論したり補足したりする。そのやりとりが、予想通り面白かった。東大と京大の戦いは、邪馬台国論争などでそういうものが歴史学会にあることは何となく知っていたが、他にも色々あることがわかった。素人の自分には、直感を大切にした仮説の方に与したいことが多かったような気がする。歴史学者の方は、学界では比較的派閥のしがらみを超えて発言している人のようなのだが、それでも師弟関係などからは完全に自由になれない、そんなことを感じた。いずれにしても、企画の勝利という一冊だ。(「日本史のミカタ」 井上章一他、祥伝社新書)

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鳥類学者無謀にも恐竜を語る 川上和人

先日読んだ「鳥類学者だからって…」があまりにも面白かったので、他の著書も読みたくなり、ネットで購入した1冊。本書も、とても為になるし、知的好奇心をくすぐられるようで、とにかく面白かった。最近の恐竜学の研究で、現存の生物で恐竜に近いのは、ワニなどの爬虫類ではなく、鳥類だということが分かってきたらしい。本書は、それを前提として、鳥類学の観点から、鳥について何が言えるか、恐竜について何が言えるかが書かれている。鳥に関しては飛行能力を獲得するまでの道のりで何が起きたのか、新しい見方、面白い見方が次々と提示される。また、発見された化石でしか語れなかった恐竜の姿や生態について、鳥類学の見地から様々な仮説が提示される。その1つ1つが新鮮な驚きの連続だ。例えば、翼竜の色は、その大きさ、生活環境などから白と黒だった可能性が高いという。その推理の過程が見事だ。また、表現の面白さも著者独特のもの。現在の鳥類が恐竜の子孫であるというところでは、美人の鳥類学者が鶏を抱いてティラノザウルスに向かって「あなたの子よ」とのたまう。鳥類の軽さを表現するのに、「だいたいチロルチョコくらい」と言う。著者自身は、本書の記述の多くはあくまで仮説、妄想だというが、妄想でも構わない、わからないところを推理で補っていく科学とは面白いものだなぁとつくづく感じさせてくれる。また、最後の章の恐竜が地球環境に与えた影響の考察も面白い。さらに本書は挿絵が抜群に洒落ていて面白い。著者の本はこれで2冊目だが、すっかりファンになってしまった。これから3冊目を探したいし、新しい著書を期待したい。(「鳥類学者無謀にも恐竜を語る」 川上和人、技術評論社)

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沈黙のパレード 東野圭吾

人気作家の最新刊。緻密な構成、破綻のないスピーディーな展開、現行法制の問題点の指摘など、どれをとっても文句のない一級品という感じの作品だ。強いて難を言えば、最後のどんでん返しが少しおざなりということぐらいだろうか。そんな文句のつけようのない本書だが、読んでいてワクワク感があまりなかった。「容疑者Xの‥」と比べてしまっては酷だが、登場人物の心理描写までをもトリックに取り込んでしまった作品を期待してしまう自分がいる。要するに、著者の作品に対する期待が他の作家に比べて高すぎるということかもしれないが、著者にはこれからも本当にあっと言わせるような傑作を期待したい。(「沈黙のパレード」 東野圭吾、文芸春秋)

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ソーメンと世界遺産 椎名誠

著者の軽いエッセイ集。読んでいていつも通り楽しいのだが、本書は何故か自分の文章は粗製乱造であるという類の自虐ネタと軽薄さを強調した武勇伝のような文章が目につく。これまでの本にも、謙遜するような文はあった気がするが、本書は特にそれが多いようだ。本当に書くネタがなくて困るようになってしまったという本音ではないだろう。歳を重ねていくと誰もがそうした話が好きになってしまうのか、読んでいて少し悲しくなった。(「ソーメンと世界遺産」 椎名誠、集英社文庫)

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つきまとわれて 今邑彩

最近立て続けに読んでいる作家の短編集。著者の短編集としては4冊目だが、その内容の幅広さと飽きさせないちょっとした工夫もあって、ますます他の作品が読みたくなる作家だ。本書の工夫は、それぞれの作品の登場人物が少しずつダブっていることで、日常のちょっとした謎と深刻な事件が入り混じった構成と相まって、身近にいそうな人物、ありそうな事件の背後にある暗い部分を感じさせる一冊になっている。読み終わってから、もう少し著者の短編集を堪能していきたいと感じた。(「つきまとわれて」 今邑彩、集英社文庫)

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ピープルズ 片桐雙観

以前にも書いたことだが、外国で日本人が見る景色は、観光旅行者、出張旅行者、現地に赴任している駐在員、実際に彼の地に住んでいる人、それぞれでかなり違う。さらに、観光都市や日本企業が進出している大都市と地方都市や田舎町で、全く違うことも往々にしてある。本書は、ミャンマーの中都市に暮らす日本人の伝えるミャンマーだが、この10年毎年ミャンマーを出張で訪問してきただけの自分の見たミャンマーとは全く違う国や人々の暮らしがそこにある。最近のミャンマーの迷走振りをみるにつけ、彼の「ミャンマーにとって急速な民主化は危険を孕む」という指摘は重い。(「ピープルズ」 片桐雙観、清風堂書店)

 

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映画 判決、2つの希望

本作の主眼は、人間の尊厳といったところにあるのだろうが、どうしても難民問題について考えざるを得なかった。最後に垣間見える希望は本当にささやかなものだが、それを大切にしなければいけないというメッセージが胸を打つ。

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竜の雨降る探偵社 三木笙子

初めて読む作家の作品。何かいわくのありそうな2人が日常にの謎を解くコージーミステリー4編が収録されている。時代設定は戦後の昭和だが、最終編で明らかになるその2人のいわくは重く、戦後の昭和ってそういう時代だったのかなぁと心に残る。各短編の謎は比較的分かりやすいが、それは著者が手がかりをキチンと記述しているからで、全く不満はない。楽しみな作家に出会えた気がして嬉しくなった。(「竜の雨降る探偵社」 三木笙子、PHP文芸文庫)

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落語 三遊亭一朝一門会

落語をライブで聴くのは恐らく学生時代以来。学生の時、池袋演芸場に良く行ったのを思い出す。演芸場のようなバラエティーはなかったが、久しぶりに落語を堪能した。

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お人好しの放課後 阿藤玲

初めて読む作家の作品。普通の高校生たちが自分の周りの小さな謎を解いていく話だが、交錯する友人関係やら恋愛関係が推理を助けたり逆に妨げたりで、かなり複雑な様相を見せるのが特徴的だ。年配者にはそれが少し煩わしい気がするのと、その関係性によって同じ人が名字で呼ばれたり名前で呼ばれたり愛称で呼ばれたりで覚えるのが大変だが、若い読者には苦にならないのだろう。ミステリーそのものはとても楽しいので、別の設定の作品を是非読んでみたい。(「お人好しの放課後」 阿藤玲、創元推理文庫)

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