書評、その他
Future Watch 書評、その他
2010年に読んだ本 ベスト10
今年読んだ本は132冊。2007年180冊、2008年138冊、2009年129冊と減少傾向だったので、冊数としては底を打った形だが、内容的には、今年はあまり骨太の本を読めなかった気がする。6月のベトナム出張の後と11月に体調を崩したのが響いたように思う。今年の単行本ベスト10は以下の通り。
①虐殺器官 伊藤計劃 題名はおどろおどろしいが、実にリリックで悲しい物語
②天地明察 冲方丁 著者一世一代の作品
③ルリボシカミキリの青 福岡伸一 これまでの著者の作品の集大成
④怖い絵1~3 中野京子 絵画鑑賞の楽しさを再認識
⑤小暮写眞館 宮部みゆき セピア色の懐かしさを満喫
⑥天と地の守人 上橋菜穂子 日本最高のファンタジーの完結編
⑦私家版ユダヤ人論 内田樹 論理思考の緻密さにひきつけられた1冊
⑧横道世之介 吉田修一 キャラクターの魅力
⑨ペンギンハイウェイ 森見登美彦 映画化を望むがどうやったら映像にできるだろうか
⑩ロスト・シンボル ダン・ブラウン やっと出た新作。次のテーマが楽しみ
その他文庫分では、次の2作
①永遠の0(ゼロ) 百田尚樹 太平洋戦争というものを改めて考えさせられた
②偏食的生き方のすすめ 中島義道 この後著者の本を何冊も読むことになった
最近は、フィクション部門の好きな作家の新作を追いかけるだけで大変だが、それでも、内田樹、中島義道、中野京子など、ノンフィクションの著者にいろいろ発見があった年だったように思う。
リタ・モレノ サイン 女優
夏光 乾ルカ
「女乙一」と言われる作家は何人かいるようだが、本書の著者もそのうちの1人だったような気がする。その著者の6つの短編が収録されている。前半の3作品が第1部、後半の3作品が第2部とされているが、この前半と後半で作品の趣ががらりと変わり、まるで別人の作品のような構成になっている。前半の3作品は、時代設定がかなり古く、内容も懐古的・叙情的な雰囲気なのに対して、後半では、時代は現在、不気味さが前面に押し出された作品が並んでいる。前半のような作品ばかりでは飽きるし、同様な作品を書く作者は何人もいる。逆に後半のような作品ばかりでは辟易だ。その辺がちょうど良いバランスで、飽きずに最後まで読めたような気がする。こうした話を書く作家はかなり多いので、著者としてこの作品のようなものばかりではすぐに飽きられるだろう。このあとどういうところへ向かっていくのかが楽しみな気がする。(「夏光」 乾ルカ、文春文庫)
ある日、あひるバス 山本幸久
武士の家計簿 磯田道史
映画化された新書という珍しさもあって、読んでみた。金沢藩の財政担当の武家の家計簿その他が、奇跡のように発見され、それを読み解きながら、江戸時代の武家の暮らし、幕藩体制の政治状況等が語られているのだが、それが驚くほど面白い。読み解くのはある家族の家計簿にすぎないのだが、そこから見える風景の大きさには驚かされる。何故明治維新の時に「特権を失う」士族の抵抗がそれほど大きくなかったのかが、家計簿から浮かび上がる「特権」から浮かび上がる。また、何故江戸時代に民衆の蜂起、下からの革命のようなものがほとんどなかったのかも、同様の手法で語られる。これらの論証が実に見事で小気味良い。読む人が読むとこんなにすごいことまで判ってしまうのだという好例のような気がする。このあたりの面白さが映画ではどのように処理されるのかも楽しみだ。 なお、古文書が発見されたのは偶然のようにみえるが、やはりそこにはそうした文書があればと思い続けてきた著者の執念のなせる業というものがあるのだろう。分析の鋭さもさることながら、その執念にこそ脱帽だ。(「武士の家計簿」磯田道史、新潮新書)
モルフェイスの領域 海堂尊
グレート生活アドベンチャー 前田司郎
「ゲーム世代小説の旗手」といわれる著者の中篇2つが収められた本書。1つ目の話は、ゲーム世代には「最後の1行に痺れる」ということなのだそうだが、私には正直言って良く判らなかった。小説の始まりは、有名なゲームの世界と現実の世界が連続したような記述が面白く、単純に面白いなという感じだが、途中からは普通の小説と変わらないという印象が強い。単純にゲームの世界と現実の世界が連続したような感覚で書かれているから「ゲーム世代」の小説なのか、そういうことで良いのか。2つ目の話を読んで気付いたのは、2つの小説のなかで流れている時間の感覚や、自分をとりまく世界と自分との関係というものが、我々と少しだけ違うのではないかということだ。時間の感覚のずれは、それ自体が2つ目の話のテーマなのでわかり易いが、それ以上に「自分」が「自分」にとって何者であるかという感覚が、少し我々と違うのかもしれない。ちなみに本書の133ページで数えてみたら、このページの15行に「わたし」という単語が15個も使われていた。現代の若者とは結局そういうことなのか。そういう理解でしか本書を読めないわたしがやはり古いのか。判らないまま読み終えてしまった。(「グレート生活アドベンチャー」 前田司郎、新潮文庫)
偽書「東日流外三郡誌」事件 斉藤光政
カリ・レートネン ジャージ NHL
NHLのゴールキーパー、カリ・レートネンのジャージ。今はダラススターズに移籍してしまったが、エクスパンションで設立されたアトランタの正ゴールキーパーとして活躍していた選手だ。新しいチームだけに、出場回数、勝利数、完封勝利数、セーブ数などほとんど全てのアトランタでのチームレコードを持っている。移籍したのは今年(昨シーズン)のことで、新しいチームでどのような活躍を見せるか、これから真価が問われると言ってよいだろう。
甲子園が割れた日 中村計
猫鳴り 沼田まほかる
一匹の猫を巡る3つの話からなる短編集。それぞれが猫好きにはつらい話の連続で、いたたまれない思いになる。ある書評を読んだら、第1話の途中で、「もうやめて」と絶叫して、読むのを中断したと書いてあった。第1話は、家の前に捨てられた子猫を捨てに行く話なのだが、何度捨てても戻ってくる子猫を性懲りもなく捨てに行く女性には、読んでいて心底「やめろ」と言いたくなる。それでも書評家のように途中でやめることはできなかった。この物語は面白いという確信のようなものがあったからだ。第2話も読んでいてつらい話だが、自分が一番つらかったのは最後の第3話。これでもかこれでもかと延々と続く衰弱していある描写が、自分にはこたえた。(「猫鳴り」 沼田まほかる、双葉文庫)
平成大家族 中島京子
ツナグ 辻村深月
私家版ユダヤ文化論 内田樹
著者の本は3冊目だと思う。どれも面白かったが、本書はまた格別面白い。著者の本を読んでいると、まずその思考の緻密さに惹かれる。小難しいのではなく、順を追って一枚ずつ皮を剥くように核心に迫っていく醍醐味がそのまま文章になっていて、読んでいてスリルを感じる。特に本書で頭に残ったのは、「ペニー・ガム法」という考え方だ。「自動販売機にペニー硬貨を入れるとガムが出てくるのを見て、銅がガムに変わったと結論づける思考方法」のことだそうだ。また、ロランバルトの「作者の死」による「幻想としてのオーサー」という考え方も面白かった。(「私家版ユダヤ文化論」 内田樹、文春新書)
季節風・冬 重松清
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