書評、その他
Future Watch 書評、その他
赤い部屋異聞 法月倫太郎
海外ミステリーへのオマージュ作品を集めた短編集。元になる作品をアレンジした話、犯人がその作品の中のトリックを模倣するという展開の話、その作品の続編のような話などオマージュの仕方は色々で、新しい作品自体を楽しむと同時に、次はどんな風に元ネタを料理しているのかということも読者の楽しみのひとつになっている。私自身は元ネタを知っている作品がひとつ(エラリークインの国名シリーズ)しかなく、それが最も面白かった。他の作品も知っていたらもっと楽しめたかもしれないと感じた。(「赤い部屋異聞」 法月倫太郎、角川書店)
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青と白と 穂高明
東日本大震災で多くの親戚を失った仙台出身で東京在住の小説家とその母親や妹の視点から震災前後の出来事や心のうちを丹念に描いた作品。これまでにも大震災を取り上げた小説は何冊か読んだが、この作品ほど当事者の目線で描かれた小説は初めてだ。震災直後のテレビニュースを見ていて「壊滅」という表現に違和感を感じたり、その後の「復興」とか「絆」という言葉に「何も変わっていない」と思わず呟いたりする主人公たち。自分自身、震災後に何故かある作家の本を読めなくなってしまったという経験がある。それは今でも変わらない。震災後に何かが変わってしまったという感覚を持つ人にとって本書は本当に胸に刺さる一冊だ。(「青と白と」 穂高明、中公文庫)
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写真展 ロベールドアノー展
フランスの写真家ドアノーの写真展。パリの風景と人々の暮らしを切り取ったような写真が並ぶ。ちょっとした一瞬を捉えた作品が多く、解説にも「ポーズを取らせたりせずありのままを映し出している」とあるが、現代の眼から見ると少しわざとらしいものもちらほら。世界大戦のさなかの写真にもかかわらずどことなくユーモアがあったりして、近現代のヨーロッパの人々のセンスとはこういうものだったのかと参考になった。
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写真展 報道写真展2019
報道写真を通じて2019年を振り返る写真展。かなりの数の写真を見ながら、つくづく色々なことがあったなぁという思いを強くした内容。平成から令和への改元、香港の騒乱、大規模な自然災害、渋野選手、八村塁選手の活躍、イチローの引退、そしてラグビーワールドカップなどの決定的な瞬間を見ながら、それをバッチリ撮影した記者さんカメラマンさんの存在が感じられてとても素晴らしい写真展だった。毎年この時期にやるようなのでこれからは是非毎年見に行きたいと思った。
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講演会 ラグビーWカップを取材して
ラグビーWカップを取材記者・カメラマンの立場で経験した方々の講演と座談会を拝聴。コロナの影響で開催されるかどうか心配だったが、ちゃんと開催された。第1部は、ワールドカップ開催中に撮った写真を見せながらカメラマン自身がそれを解説するというもので、これがめっぽう面白かった。何を狙って何を伝えたくて撮ったのか、意図通りの一枚もあれば偶然の産物もあり、写真撮影した本人ならではのエピソード満載で時間がたつのも忘れて聞き入ってしまった。背景にジャパンとか2019の文字が写るようにとかプレーを後ろから撮って観客の姿を写すとか、とにかく写真一枚一枚に様々な意図が隠されているのがよく分かった。第一部の終わりに時事通信社の方の改元に関する報道写真の話があり、宮中には報道全社を代表して一人しか撮影を許されない「代表撮影」という制度があるという貴重な話が聞けた。第2部の座談会は、講演者に対するカメラ撮影の技術的な質問応答が中心で、観客の多くが写真を趣味にしている高齢者であることがわかった。
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紙鑑定士の事件ファイル 歌田年
本年度の「このミステリーがすごい大賞」受賞作。紙鑑定士という職業の主人公が紙模型の伝説的な巨匠とタッグを組んで大きな犯罪と立ち向かうという異色のミステリー。そもそも紙鑑定士という職業が本当にあるのかどうかすら知らないが、紙と紙模型の知識を駆使して色々な推理を展開していく様は掛け値なく面白いし何となく為になる知識と感じがする。主人公が暴き出す犯罪の荒唐無稽と紙一重の物凄さに度肝を抜かれるが、面白いのでまあいいかという気になる。長いシリーズ化は無理かもしれないが、もう一二冊続編を読んでみたい。(「紙鑑定士の事件ファイル」 歌田年、宝島社)
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映画 キャッツ
ミュージカルとDVDで何回も観たキャッツの映画版。映像が大切だと思ったので、IMAXで上映している映画館を探してそこに見に行った。アメリカなどではこの作品の出来栄えについて賛否両論あるようだが、映像の迫力と音質はさすがで舞台で観るのとは違った良さが際立っていたし、お馴染みの曲のオンパレードで、とても満足した、ただ、あまりにも映像がリアルで、グリザベラが名曲メモリーを鼻水を垂らしながら歌っていて、やめて〜と思ってしまった、
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線は、僕を描く 砥上裕将
ちょっとした偶然から水墨画の巨匠に弟子入りした主人公が画家として成長していく様を水墨画の様々な知識や技法、心構えの説明などとともに描いた小説。読者は、師匠の教えを主人公と一緒に聴きながら学んでいく感じだ。主人公が画家を目指すきっかけがどうにも不自然で違和感が強いが、著者のプロフィールを見ると職業が「水墨画家」となっていて、この作品はまず書きたい内容が初めにあってそれに合わせてストーリーを作ったと考えればしょうがないし、ある意味きっかけなんてどうでも良いくらいの気持ちで読むのが良いのかも知れないと思った。日本文化の誇りとも言える水墨画の世界が、老人の趣味教室のようなところだけで細々と生き残っているという著者の嘆きが胸を打つ。(「線は、僕を描く」 砥上裕将、講談社)
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ライオンのおやつ 小川糸
本屋大賞ノミネート作品。若くして余命宣告を受けた主人公がホスピスに入所してからの日々を描く。どのように心の整理をつけて穏やかな気持ちで終末を迎えるようにできるのか、そうした状況でどうしたら悔いを残さずに生きられるのか、本当のところはそうなってみないと判らないのかもしれないが、深く考えさせられることの多い一冊だった。(「ライオンのおやつ」 小川糸、ポプラ社)
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上級国民下級国民 橘玲
世界中に広がる格差拡大社会について色々な角度から考察する解説書。日本の問題点として最初に取り上げられているのが、高齢社会の進展とともに顕在化している若者にとって生きにくくなっていること。著者は、この現象の原因を「全ての政策が団塊の世代のためになされているから」だと指摘する。何か手を打たなければこれからこの弊害がますます強くなっていくのではないかという懸念は確かにその通りだと思う。本書では、さらに依然として世界中に残る男女差別、日本以上に深刻化している世界中の資産格差について言及、それらの現象の本質がどこにあるのかを指摘してくれる。著者の「ユニバーサルインカム制度は失敗する」などの指摘は目からウロコの思いだ。(「上級国民下級国民」 橘玲、小学館新書)
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店長がバカすぎて 早見和真
今年度の本屋大賞ノミネート作品。書店に勤める女性契約社員の日常の苦労を綴る連作短編集で、書店という職場のブラックさがかなり浮き彫りになる。題名も書店で買いにくいほど挑発的だ。内容は、書店員が選ぶ本屋大賞などにも絡んだ内輪話そのもので、ノミネートされたこと自体が著者の思惑通りというところだろう。それについては、打算的すぎてイヤだと思う人も多い気がするが、自分自身は読んだ限りでそれほどイヤな感じはしなかったし、最後のどんでん返しも楽しく読めた。ただ、本屋さんの仕事の描写の毒が強すぎて、これを読んだら書店に勤めようという気が完全に失せてしまう感じで、帯に書いてあるような「本への愛」「書店員の矜持」などはあまり感じられなかった。(「店長がバカすぎて」 早見和真、角川春樹事務所)
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講演会 お城講演会
地域の歴史文化をテーマにしたイベントのひとつとして開催された講演会。イベントの発案者は近隣大学の学生とのこと。立派な若者だ。最初の講演は「戦国時代のお城」。戦国時代のお城は城主の財力や地形などによって様々で、江戸時代のお城よりも個性的なものが多いそうだ。お城の見方は、役割、連携、立地の3つとのこと。次の講演は「石垣の魅力」。石垣の種類は、野面、打ち込み、切り込みの3種類にそれぞれ乱積み、布積みがあって合計6種類とのこと。ひとつひとつの石を見て矢穴、化粧、刻印などを探すのが石垣の楽しみ方だそうだ。とにかく面白い講演だった。後半は座談会とのことだが、お尻が痛くなったのでここで退席。
①「戦国の城の楽しみ方」萩原さちこ氏
②「石垣の楽しみ方教えます」いなもとかおり氏
①「戦国の城の楽しみ方」萩原さちこ氏
②「石垣の楽しみ方教えます」いなもとかおり氏
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熱源 川越宗一
今年度の直木賞受賞作。ロシアによって祖国を奪われたポーランド人の人類社会学者と日本とロシアの間で翻弄される樺太生まれのアイヌの若者の2人を軸に、人間のアイデンティティ、それぞれの人が守るべきものとは何かを問う小説。主人公をはじめ沢山の実在の人物が登場し、まさに虚実皮膜の小説だ。個人の話を歴史の中に再構築させる語りが圧巻。多くの登場人物一人一人がそれぞれ自分の信念を持って人生を選択していく様に、善悪とか正誤という単純な認識を超えたものであることを痛切に教えられた気がする。(「熱源」 川越宗一、文藝春秋社)
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探偵さえいなければ 東川篤哉
脱力系ミステリー「烏賊川市シリーズ」。気負い過ぎたり、完全を目指し過ぎて墓穴を掘ってしまう間抜けな犯人達というのが基本的なコンセプトの短編集。いずれも軽いタッチの作品だが、使われているアイデアは意外性と納得性抜群で、特に「博士とロボットの不在証明」のあるものに関連した展開には正直驚くと同時にしばらくニヤニヤが止まらなかった。(「探偵さえいなければ」 東川篤哉、光文社文庫)
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定年夫婦のトリセツ 黒川伊保子
先日読んだ「妻のトリセツ」の続編。本書はのっけから面白いのと同時に怖い。著者は結婚生活を7年ごとに区切って、それぞれを「男と女期」「戦友期」「関心と無関心のゆらぎ期」「腐れ縁期」「阿吽の呼吸期」と名付ける。自分の場合は「阿吽の呼吸期」に該当するが、人によっては夫源病とか妻源病を発症する「絶望期」にもなり、そこをどう乗り切るか、ゲームで言えばちょうどラスボス登場のクライマックスに該当するという。著者の言い回しはいちいち怖い。本書はその「腐れ縁期」から上手く「阿吽の呼吸期」に軟着陸するための指南書。前作同様、男性脳女性脳の仕組みの違いを理解すれば不要な軋轢を生まずに済むということを色々な事例をあげて分かりやすく説明してくれている。(「定年夫婦のトリセツ」 黒川伊保子、SB新書)
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