goo

ハーバード日本史教室 佐藤智恵

ハーバード大学で日本史を教える教授達へのインタビューで構成される本書。これらの教授がどのような授業をしているのかを知ることによって、アメリカの学生が日本をどのように理解しているのか、日本人が気付いていない日本の特徴とは何か、これからの日米関係への示唆など様々なことがわかる。正に、目のつけどころの良い一冊だ。幻の貿易港十三湊、昭和天皇の終戦の詔から読み解ける天皇のリーダーシップ、岩手県の風の電話のエピソードに対するアメリカの学生の反応、トルーマン大統領の原爆投下の決断に対する3つの擁護論と3つの批判など、ためになる話が満載。、ジョゼフ・ナイとかエズラ・ヴォーゲルといった懐かしい名前が出てくるのも嬉しい。内容は思ったよりも軽いが読み応えのある読書だった。(「ハーバード日本史教室」 佐藤智恵、中公新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

螺旋の手術室 知念実希人

最近読み始めたシリーズとは違う単独作品の本書。シリーズものも含めて著者の本はこれで3冊目だが、どれも医学知識がふんだんに使われていて面白いのはもちろんのこと、どんな結末を迎えるのか最後まで息をつかせないミステリーの醍醐味も満載で唸らされる作品だ。また本書はシリーズものの作品に比べてさらにその特徴が際立っている気がする。これから著者の未読の作品を色々追いかけていくことになると思うが、同じ医療ミステリーでも少し軽めのものと重たいシリアスなものの両方を楽しめるような気がしてそれが有難い。(「螺旋の手術室」 知念実希人、新潮文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

僕はLCCでこんなふうに旅をする 下川裕治

先日著者の「シニア一人旅」という本を読んだばかりだし、今までにLCCを利用したこともないのだが、読み物として面白そうなのと、分かりにくい航空運賃の一般的な仕組みにも触れているようなので、読んでみることにした。読んでみて、予想以上の収穫があったような気がした。まず、LCCの定義について「機内食が有料」という記述を見て驚いた。LCCと一般航空会社(レガシーキャリア)の境界があいまいになってきて、現状ではこうした定義にするしかないのだという。一般航空会社に乗っても休憩を優先して機内食をほとんど断っている自分としては、何だか変な気がする。本書の特徴は、LCCの欠点を非常に明確に教えてくれているところだろう。LCCを何度も利用している著者ならではの苦労話の数々にそれでもLCCを利用する意味というのは何なのだろうと思ってしまった。さらに、一般航空会社でもLCCでも同じだが、海外で乗り継ぎをする時の注意点などもとても参考になった。航空業界事情を実体験で知り尽くした著者ならではの好書だ。(「僕はLCCでこんなふうに旅をする」 下川裕治、朝日文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

消人屋敷の殺人 深木章子

明治維新という騒乱の時代にあるお屋敷で起きた不思議な人間消失事件と、現代になって同じ屋敷で再び起こる怪事件。かなりおどろおどろしい設定だが、本編のミステリーは至って現代的な事件だ。ミステリーとして面白いので文句を言うつもりはないが、読者がある登場人物と一緒に叙述トリックの罠に嵌る仕掛けが施されているのはこれで良いのだろうか。一見アンフェアな気もするが、読んでいて何となくそうかもしれないと分かってしまう程度のトリックだし、別の登場人物がその登場人物を騙すことに必然性があることから、騙しているのは作者ではなく別の登場人物であるとも言えるので、まあ許容範囲だということかもしれない。(「消人屋敷の殺人」 深木章子、新潮社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

イギリス王家12の物語 中野京子

著者の本は、ある時期にある程度まとめて読んでしまっていて、最近では本屋さんで著者の本を見かけても、買おうという気にならなくなってしまった。どれも既読の本と少しだけ切り口を変えた同じような内容の本のような気がするからだ。そういう意味では、本書もなんか読んだことのあるような気もしたのだが、久しぶりに手に取ってみることにした。内容は、イギリス王家の歴史を当時描かれた絵画を手掛かりにしながら解説するという著者お馴染みのもので、色々な解釈があるだろう王家の人達の人物像を断定口調でズバズバ語っていくところが小気味よいし、解説に合致したカラー図版も楽しい。(「イギリス王家12の物語」 中野京子、光文社新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

重力波は歌う ジャンナ・レヴィン

2017年度のノーベル物理学賞が「重力波」に関する研究者3名に授与されたというニュースを見たすぐ後に本屋さんで本書を見かけたので購入、読んでみることにした。刊行が今年9月となっていて、ノーベル物理学賞の発表が10月だから、まさに絶好のタイミングだ。早晩受賞することは間違いないということだったようだが、読みが的中した出版社にとってこんな嬉しいことはないだろう。すでに本の帯には「今年度ノーベル賞受賞者3名への直接インタビュー」と書かれている。重力波を測定するということは、何もないところで伝わる微細な音を聞くことだという。そうした説明の後で、最初に登場する科学者が「子供のころからオーディオマニアだった」というエピソードが語られていて本書の題名の意味が納得できたり、またこうした科学史につきものの「間違ってしまった先駆者」なども登場したりして、わくわくする話の連続だ。内容は、科学的な解説はほとんどなく、研究に携わった人たちの人間模様が大半だが、これがものすごく面白い。大きな成功の陰に、研究の道半ばで失意のうちに亡くなった人、成果を上げる直前に研究チームから外された人、研究の中心にいながらノーベル賞決定の直前に亡くなった人など、様々な人たちの存在があったことがわかる。本書を読んでいると、ノーベル賞を受賞したのは3人だが、本当の功労者は何百人もの研究者全員で、少し不公平な気がする。物理学賞にも平和賞のように団体に送られるという制度があっても良いと思った。(「重力波は歌う」 ジャンナ・レヴィン、ハヤカワ文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

キラキラ共和国 小川糸

本屋大賞の上位にランクされ、タイミングよくNHKでドラマ化もされ、随分話題になった作品の続編。私が買った本屋さんでは、この本専用のブックカバーを付けてくれ、著者のサイン会をやるという張り紙もあって、書店の人の熱意が伝わってくるようだった。内容は、私生活に大きな変化のあった主人公が、代筆の仕事を続けながら周りの人たちや死んだ祖母との絆を強めていく話。一作目を読んだ時は話がこういう方向に進むとは思っていなかったが、流れとしてこちらの方が自然といえば自然で、予想外の展開を期待し過ぎて却って意外に感じてしまった。奇を衒わないことがこのシリーズの良さだろう。(「キラキラ共和国」 小川糸、幻冬社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

定年後 楠本新

現在の自分にどんぴしゃりの題名なので、何かこれからのヒントになるものはないか、自分だけうっかり知らずにいるようなことはないかと思いながら読み始めた。本書は、一応目次と章立てがあってそれに沿って語られているが、取り上げられている事例などは特に整然と並べられているわけではなく、むしろ著者の思いつくままという感じだ。やや不親切であるようにも思えるし、著者自身が読者に対して軽い読み物として読んでくれということかとも思ったのだが、そういうことでもないようだ。元々読む人それぞれで面白いなぁと思うところヒントになるところが違うノウハウ本というのは、整然と書くよりも逆に整然と順序だてて語らない方が親切だという可能性もある。本書では、自分だけうっかり知らずにいるようなことはなかったが、これからヒントになりそうなことはいくつか発見できた気がする。(「定年後」 楠本新、中公新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

天久鷹央の推理カルテ 知念実希人

本屋さんで面白そうな本を見つけたので買ったら、もう何冊も続いているシリーズ作品の最新刊であることが判明。その本はとりあえず置いておいて、そのシリーズの第1作目を読むことにした。それが本書で、表紙はライトノベルのノリ。内容は天才的な医者が、色々な謎を解明する医療系ミステリーで、主人公の女医さんはライトノベルのお決まりのように天才的でかつ周りの空気を読まない性格で、語り手の相棒である先輩医師をあたふたさせる。ミステリーの内容は、著者が現役の医師というだけあって本格的である。本格的な医療知識に基づいたミステリーを楽しく読ませてくれるこのシリーズ、本書はこれから全部読みたいという気にさせてくれるのに十分なほど面白かった。(「天久鷹央の推理カルテ」 知念実希人、新潮文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ニャン氏の事件簿 松尾由美

家族全員がネコ好きなので、題名だけ見てネットで購入した一冊。一応「ニャーニャー」と鳴きながら推理を披露するネコが探偵役ということになっているが、読み進めていくと登場人物の多くが少しずつ智恵を出しあって事件の謎を解くという感じになっていき、最後の短編などは探偵役が5人くらいになってしまっている。ネコという存在が家族などの人間関係の潤滑油になることがあるが、それを象徴しているような気がする。ミステリーとしてはかなり本格的な部類に入る内容で、各短編にちりばめられた盲点を突いた意外性が楽しい。(「ニャン氏の事件簿」 松尾由美、創元推理文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

年はとるな 土屋賢二

いつものように変な題名の著者の本。たいていは何かの言い回しのもじりだったりするのだが、本書は何のもじりなのか、そもそも何かのもじりになっているのかどうかすらも判らない。題名のつけ方までどんどんいい加減になってしまっているような気がするが、そのことが著者や著者の作品に関しては全く悪口にならない。どんどんいい加減になっていい加減ないことを書いてくれればくれるほど、読者の期待通りということになるからだ。本書ではツチヤ師が2回しか登場しない。どんどん登場回数が減っているのが少し寂しい。(「年はとるな」 土屋賢二、文春文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

世界のタブー 阿門禮

国や地域によって文化が違えば、行動様式やタブーも色々あるだろう。何となく面白いトリビアが出ていそうなので読んでみることにした。第一章の「日常生活のタブー」から読み始めて、紹介されている各国のタブーの事例の多さにまず驚かされた。次から次に色々なタブーが紹介されていて、それでいて、それぞれのタブーの背景にある文化や歴史に関する記述もしっかりしていて、なるほどなぁと感心することばかりだった。1冊の新書に収められたトリビアの数の多さではこれまでに読んだ新書の中でも随一。著者はネットの投稿という形で多くの事例を集めているらしく、次はマイナーな国の様々なタブー、例えばカンボジアではポルポト時代のことがタブーになっているのかどうか等に焦点を当てた続編なども期待したい。(「世界のタブー」 阿門禮、集英社新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

死者の棘 日野草

今年になって初めて作品を読んだ後、どういう作家なのかかなり気になった作家の作品。新しい作家ながら既にもう何冊か作品が刊行されているようで、あと1冊か2冊とりあえず読んでみたくなった。本書は、かなり荒唐無稽な能力を持った人物が登場する不思議な話の連作短編集。全体的にその能力の思いつきが先にあって物語が後付けされたようなところに不自然さは否めないものの、物語としては独特な魅力を感じる。この作者に関しては、作品によってツボにはまる作品とそうでない作品があるような気がするので、当面は評判になった作品を後追いで読もうかなと思った。(「死者の棘」 日野草、祥伝社文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

鷹野鍼灸院の事件簿2 乾緑郎

シリーズの第2作目。前作を読んだ時の感想(本ブログの記述)を読み返してみると、「続編を読みたいかどうかは微妙」という感じで書かれていたが、もう1冊読んでみることにした。本書は鍼灸師を主人公とするお仕事ミステリーだが、東洋医学と西洋医学の葛藤や、鍼灸業界にはびこる覇権争いといった重厚なテーマが扱われていて、読み応えのある内容だった。「前作」の時になぜ「続編を読みたいかどうか微妙」と思ったのかは判らないが、本作を読んだ限りでは、次の作品も期待できる気がする。(「鷹野鍼灸院の事件簿2」 乾緑郎、宝島社文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

リケジョ探偵の謎解きラボ 喜多喜久

本書の作者をウィキペディアで見ると、作品の大半は「科学」ミステリー。知名度もある作家だし、もっと幅広い内容で活躍していると思っていたので少し意外だった。一番の代表作のシリーズはずっと読んでいるが、それ以外の作品は本書が初めて。同じような内容と思えば安心して読めるが、あまり似すぎていても面白くない、などと贅沢なことを考えながら読み始めたが、そのあたりの按配はちょうど良い感じで楽しめた。主人公で語り手が「保険会社の下請け調査員」という設定なので、扱われる謎は「事故か自殺か他殺か」という点に絞られる。かなり限定された設定なので、いくつも話が続けられるのだろうかと心配だったが、案の定シリーズ化は想定されていないようだ。よく考えると、著者の作品のバラエティは、探偵役の科学者ではなく、ワトソン役の語り手に依拠している。そのあたりがちょうどよい按配の秘密なのかもしれない。(「リケジョ探偵の謎解きラボ」 喜多喜久、宝島社文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ