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四つの白日夢 篠田節子

著者の本は2冊目、短編集は本書が初めてだが、話の雰囲気は前に読んだ作品と似ているので、こういう作風の作家なのだと思う。具体的には、夜中に天井から聞こえてくる不思議な物音、ヴァイオリンケースとワインボトルを抱えた老人が小田急線車内に忘れていった遺失物、借金のかたとして譲り受けた多肉植物に取り憑かれていく男、義母の遺影に写っていた謎の人物など、少し謎めいた要素や奇妙な感覚に読者を誘い込むところがある内容。ただし各編の肝はそうした謎の真相そのものではなく、謎が解かれた後に待っているちょっとした物語。たまにはこうした不穏と暖かさの入り混じった小説も良いなぁと思った。(「四つの白日夢」 篠田節子、朝日新聞出版)
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血腐れ 矢樹純

著者の本はこれが4冊目。前に読んだ3冊はいずれも叙述トリック要素の強いミステリー小説だったが、本書は謎解き要素のほとんどないホラー小説だった。登場人物たちが他人には説明できない不安と疑念を苛まれていて、それが事態の進展とともに大きく膨らんでいくというストーリー展開や全体の不穏な雰囲気はこれまでの作品と共通している感じだが、真相が超自然的な闇の存在にあってそれがそのまま終わるという点で全く別のジャンルの話になっている。個人的には前の作風の方が断然面白かったが、今後著者がどういう方向に向かっていくのか、これまでの作品が面白かっただけに、とても気になるところだ。(「血腐れ」 矢樹純、新潮文庫)
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うそコンシェルジュ 津村記久子

好きな作家の最新作。日常のちょっとした閉塞感や悩み、例えば気晴らしの愚痴や他人の悪口に根気よく付き合うのに疲れてしまった人たちの心のうちを描いたような短編が11編収められている。全体の雰囲気は、そうした主人公たちのやるせない気持ちを突き詰めていく著者の初期の作品に似ている気がするが、本書ではそうした初期作品の主人公にはない諸々の辛さを受け流す強さのようなものも感じられて、ちょっとホッとする。11編の中でも出色なのはやはり、ひょんなことから様々な悩みを抱えた人のために人を傷つけないような嘘のつき方を指南することになった主人公を描いた表題作「うそコンシェルジュ」とその続編。ストーリーが、「やはりそうなるよね」という感じと「予想外の展開」のちょうど間を行くような絶妙さだし、登場人物たちは至って真剣なのだがどこかコミカルでとにかく読んでいて面白い。流石だなぁと感心してしまった。、(「うそコンシェルジュ」 津村記久子、新潮社)
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虹のアート展2024

病院内に設置された会場でのアート展を鑑賞。昨年も同じ名前の展示をこの時期にやっていたので、恒例行事なのかもしれない。前回同様出展数は少ないが、素朴な抽象画やアニメのような作品を色々楽しく鑑賞した。特に、町の景色の絵に「光の色は結局は白」、肖像画に「モデルがリラックスしている顔を描く」など、作品名、作者名のタグに作者自身の一言が添えられた作品があり、それがとても面白かった。
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山手線が転生して加速器になりました。 松崎有理

書評誌で紹介されていて面白そうだったので読んでみた初めて読む作家のSF短編集。パンデミック後の世界を描いたとんでもSFが5編収められている。表題作は、パンデミック後の都市撤退政策で需要のなくなった山手線を素粒子ミューオンと反粒子を衝突させる自律運転機能付きの加速器に転用するという内容だが、これがめちゃくちゃ面白かった。さらにその後の短編も全てパンデミックで激変した世界という共通項のとんでもSFで、パンデミックで観光客が激減した後に設立された観光旅行会社の戦略、無人化した東京に住む少年とリモート料理人の交流、パンデミック後に突如現れた言葉を理解するタコと異星人が地球に送り込んだ自律型探査機(グリーンレモン)など、とにかくその発想の面白さと、ドレイク方程式、フェルミパラドックス(保護区仮説)、アシスタントAI、パンスペルミア説(生命宇宙起源説)など科学知識の裏付けのようなものに翻弄され通しだった。巻末の書き下ろし、経済学者の話と宇宙開闢以来の年表もこれらの短編を全て繋ぐ内容で圧巻。著者の本、まだ色々あるようなので、これから読むのが本当に楽しみだと思った。(「山手線が転生して加速器になりました。」 松崎有理、光文社文庫)
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町なか番外地 小野寺文宜

東京都江戸川区と千葉の県境近くの格安アパートの住人4人の日常を描いた連作短編集。そのアパートは交通の便もさほど良くないし、見た目もパッとしない、安さが売りのごく普通のアパートで、その住人達もごく普通のちょっとした悩みや困難を抱えた人たちだ。物語は大きな展開のない内容で、最後の住人全員が登場するクライマックスもとても静かなものだが、著者の本らしい何故か心に残る一冊だった。(「町なか番外地」 小野寺文宜、ポプラ社)
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しっぽ学 東島沙弥佳

ヒトは何故進化の過程でしっぽを失っていったのか、そのプロセスと意味の謎を追求している研究者による啓蒙書。著者がどのようにして「しっぽ」に魅せられそれを研究対象として奮闘するようになったのか、これまでの研究で分かったことなどを、とても面白くかつやさしく教えてくれる。まず著者は、しっぽについて、位置、形、中身の観点から、肛門より後ろにあり、身体の外に出ていて、体幹の延長にあるものと定義し、その上で「ヒトがしっぽを無くした経緯」について、考古学、人類学、発生学、文学など文理の壁を超えた考察を進めていく。なお、猿(モンキー)と類人猿(エイプ)の違いは、しっぽの有無と手を肩から上に伸ばせるかで決まるとのこと。また北の動物ほどしっぽが短いという(アレンの法則)。一般的に、ヒトがしっぽを無くしたのは、「腕で木にぶら下がるようになり、直立歩行するようになる過程でしっぽが不要になったから」と何となく思われているが、これは全くの誤解で、ヒトは木にぶら下がったり直立歩行する以前からしっぽを失っていたということが化石などの研究から明らかになっているらしい。そこから著者の探究は始まる。しっぽのあるサルとしっぽのないヒトの中間の生物の化石が発見されればある程度解明される謎なのだが、未だにそうした化石は発見されていない。発見されないこと自体も謎のひとつということになるだろう。著者の研究はまだ道半ばで、読んでいてワクワクするし、大変面白くて、かつためになる一冊だった。(「しっぽ学」 東島沙弥佳、光文社新書)
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藍を継ぐ海 伊与原新

大好きな作家の最新連作短編集。今回は、最盛期の萩焼に使う幻の土を探す若者と岩石研究に励む地質学者、都会生活に疲れて地方に移住してきた女性とニホンオオカミ、長崎の原爆直後の科学データを記録し続けた在野の学者と空き家問題に取り組む市役所職員、北海道で隕石を探す人々と地域の郵便局員、アメリカの海岸で日本の調査タグをつけたウミガメを助けたネイティブアメリカンにルーツを持つアメリカ人と日本の少女、こうした時代も場所も想いも違う人々が織りなす物語。ストーリーも感動的だし、話の合間に出てくる科学トリビアもとても面白い。特に、オオカミから犬に進化の枝分かれをした際にヒトという種が関わったという仮説、北海道で見つかった隕石は一個だけという話、ウミガメの母浜回帰の話などは、ストーリーの中で何気なく出てくる話だが、全く知らなかった事実にびっくりした。(「海を継ぐ海」 伊与原新、新潮社)
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急がば転ぶ日々 土屋賢二

文庫化されたら読むと決めている元大学教授によるシリーズエッセイ集。かつては、色々なテーマのエッセイだったが、著者が老人ホーム暮らしになったからだろうか、前作あたりからほぼ全編「老人あるある」ばかり。でもこれが意外にマンネリ感もなくそれぞれ面白いというのがこのシリーズのすごいところだ。特に面白かったのは、太っ腹な人物、私のW杯、人のやさしさに触れて、素晴らしいリセットシステムなど。何が面白いのか上手く表現できないが、読んでいて楽しいし、そう考える人が多いからシリーズとしてずっと続いているのだろう。このシリーズ、少しでも長く続いて欲しいと心から思う。(「急がば転ぶ日々」 土屋賢二、文春文庫)
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横浜にぎわい座 寄席

演目をみたら色物が相撲漫談と奇術で面白そう、更にトリが大好きな駒治師匠なので、初めて横浜にぎわい座の寄席に足を運んだ。横浜にぎわい座には50回以上行っているが寄席は初めて。中入り前の落語3席は有名な古典落語ばかり。相撲漫談は、軽いお話でのんびり楽しんだ。中入り後の奇術はヒモ一本で色々見せる渋い内容だがとても面白かった。ちなみにダーク広和さんが自己紹介で六角橋生まれだと聞いてびっくり。トリの駒治師匠のネタは2度目だったが、これが本日一番面白くて観客にも大受けだった。
①笑福亭羽太郎 開口一番 たらちね
②柳家小太郎 道具や
③一矢 相撲漫談
④桂富丸 猿後家
中入り
⑤ダーク広和 奇術
⑥古今亭駒治 B席
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新謎解きはディナーのあとで 東川篤哉

人気シリーズの最新刊。収録されている短編5編全て、主人公をはじめとする登場人物たちのキャラクター、事件解決までのやり取り、単純だが破綻のないトリックなど、これまで通りのパターンが完全に踏襲されていて、とにかく安心して読めるのが本シリーズの最大の特徴かつ魅力だ。人気アイドルが所属する芸能事務所の社長が被害者の事件は、なるほどと思わせつつ、もう一捻りある真相が一番面白かった。(「新謎解きはディナーのあとで2」 東川篤哉、小学館)
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