書評、その他
Future Watch 書評、その他
2013年に読んだ本 ベスト10
今年読んだ本は198冊で、昨年の209冊には届かなかったが、2007年180冊、2008年136冊、2009年129冊、2010年132冊、2011年189冊ということで、このブログを始めてから2番目に多い本を読むことができたので、まずますかなと思う。入手していながらまだ読み残している本も多いので、今年も精力的に読んでいきたい。以下は今年のベスト10。
① 野崎まど 「knouw」
今年一番の収穫はこの本に出会ったこと。まだ作者の本はこの1冊しか読んでいないが、とにかく早く他の作品を読みたい(なかなか本屋さんでは見つけられないのが難点)
②横山秀夫 「64」
この本を読んだのがまだ今年だというのが不思議なくらい昔のような気がする。読んでいたときの興奮が今でも記憶に残っている。次の作品はまた数年後なのかもしれないが、待っただけの甲斐があったと思うだろう。
③朝井リョウ 「何者」
現代の若者とはこういうことなのかと思い知らされた1冊。同じ作者の「世界地図‥」も良かった。
④ユッシュ・エズラ・オールスン 「特捜部Q」
今年シリーズものを3冊読んだが、いずれもめちゃくちゃ面白かった。警察小説、ミステリー、ハードボイルド、いくつもの要素が詰まった傑作シリーズだ。
⑤窪美澄 「晴天の迷いクジラ」
なぜだか判らないが、非常に心を揺さぶられた1冊。この本の前に読んだ作者の作品があまりピンとこなかったので、期待度が低かっせいかもしれないが、予想外に面白かったと感じた1冊。
⑥岩合光昭 「ネコに金星」
写真集だが、まず表紙の写真に度肝を抜かれ、収められた写真1枚1枚に、ネコに対する愛情があふれ出ていて忘れがたい1冊。時々本箱から出してきて眺めるて、ニヤニヤするのが何とも楽しい。
⑦梓崎優 「リバーサイドチルドレン」
賛否が分かれる1冊だが、私には面白かったし、否定的な評者は「やや設定に無理がある」というが、あまり気にならず読めた。今年カンボジアに初めて出張で行った時に、この本を思い出して、胸が熱くなった。
⑧北大路公子 「苦手図鑑」等
今年初めて作者の本を読み、結局今刊行されている作者の単行本と文庫を全て読んでしまった。人に薦めるのは少し気恥ずかしいがめちゃくちゃ面白いことは請合う。
⑨辻村深月 「島はぼくらと」
作者の幅の広さを感じた1冊。「良い本を読むのは良いものだ」と当たり前の感想を強く感じた。
⑩ディビッド・ゴードン 「二流小説家」
まだまだ世界には面白い本がいっぱいだなと思った。3重のどんでん返しの二つ目までは予想がついたのだが、最後のどんでん返しはまさに意外すぎ。
(選外)
ダン・ブラウン 「インフェルノ」 待望の1冊。今年出てくれて良かった。
(ベスト新書)
内田樹 「修業論」 個人的には新書オールタイムベスト3に入る
鈴木光太郎 「ヒトの心はどう進化したのか」 随分賢くなった気がした
藤田伸二 「騎手の一分」 競馬はやらないがそれでも面白かった
(ベストコミック)
卯月妙子 「人間仮免中」 衝撃の1冊でした
イスラム過激派 宮田律
現在世界の色々なところで紛争を起こしている「イスラム過激派」について丁寧に解説してくれる本書。紛争に、他の宗教との衝突である「ジハード」と、同じイスラム教の宗派間の争いである「フィトナ」の2種類があり、現在の紛争のかなりの部分が後者であるいうことにまず驚かされた。また、この「フィトナ」増大の背景に、「アラブの春」の果実を巡る対立、所得格差の拡大、アメリカに対する立場を巡る対立の先鋭化等があるということも、なるほどと思わされた。最後の「日本にできること」などの記述も考えさせられる内容だ。1つだけ難点を言えば、現代の解説の記述だけでなく、その起源にまで遡った解説は、親切と言えば親切なのだが、固有名詞になじみのない素人には、出てくる固有名詞が増えてしまうという点で、やや判りにくさを助長してしまっているような気がした。(「イスラム過激派」 宮田律、角川ONEテーマ21)
もうブラック企業しか入れない 福澤徹三
ようやく景気の回復に伴って就職活動の状況も改善してきているのかと思ったが、この本を読む限りはそうでもないらしい。むしろ、世の中に「ブラック企業」が蔓延していて、待望の景気回復もそれに依存したものであるとすれば、事態は一層深刻になっているのかもしれないと危惧される。内容的には全体的に真新しい内容はないが、そうした現状を的確に把握した上での記述はかなり説得力がある感じがする。本書の面白いところは、(特に後半だが)随所に格言や名言がちりばめられているところだ。「愚者はさまよい、賢者は旅をする」とか「失敗はこれではうまくいかないことを確認できたという成功」など、うまい格言や名言等を拾い読みするだけでも賢くなった気がした。(「もうブラック企業しか入れない」 福澤徹三、幻統舎新書)
手入れという思想 養老孟司
著者が様々なところで行った講演内容を1冊にまとめた本書。色々な場所、色々なテーマでの講演が収録されているが、基本的な論旨にはかなり共通点が多いし、こうして文章にしてしまうとそれが「内容がだぶっている」と思えてしまうのが残念だが、多分耳から聞く講演では、そうした事はあまり気にならないのだろうと思う。そのあたりを斟酌して、文字にするときにそうした重複をカットしてしまうのか、講演そのものの臨場感を残すために手直しを最小限にとどめるのかの選択は難しいと思うが、本書の場合は、内容が思考実験のようなものに近いので、もう少し整理した方が良かったのではないかと思われた。(「手入れという思想」 養老孟司、新潮文庫)
特捜部Q~Pからのメッセージ ユッシュ・エズラ・オールスン
シリーズ3作目。ポケットミステリー版を探していてなかなか見つからず困っていたら、いつの間にか文庫で刊行されていたので、文庫版で読むことにした。正直言って文庫本の方が読みやすい感じだ。物語は、いつのものか判らない漂着物の瓶に入っていた「SOS」の手紙が主人公の手元に届くことで動き出す。最初はほとんど読めないその手紙を鍵として、ついに真相に到着するまでが非常にスリリングに展開する。シリーズお決まりの主人公のアシスタント2人の大活躍も面白い。いくつかの謎は謎のまま残り、次回作への期待はますます高まる。ポケットミステリー版を何とか探し出してすぐに次を読むか、読みやすい文庫版がでるまで待つか難しい選択だ。(「特捜部Q~Pからのメッセージ(上・下)」 ユッシュ・エズラ・オールスン、ハヤカワ文庫)
原稿零枚日記 小川洋子
日記形式の長編小説という変わったスタイルの小説とのことで、興味深く読んだ。冒頭から、どこまでが現実でどこからがノンフィクションなのか判らない不思議な世界に入り込んでいく感じで、この先どうなっていくのか見当もつかない。急に現実に引き戻されたり、明らかに妄想の世界に引き込まれたりしながら、不思議な感覚のまま話は進んでいく。日記風ということで、各章ごとに月の名前がつけられているが、それも現実とは思えない。その一方で、各章の内容が微妙に繋がっていたりする。何を意図した形式なのか良く分からないまま話は終わるが、不思議なことに読み終えた後の満足感は大きい。(「原稿零枚日記」 小川洋子、集英社文庫)
Know 野崎まど
もしかすると今年一番面白かった本かもしれない。ライトノベルに分類されている著者と作者だが、一部の書評では結構話題になっており、期待を持って読んでみた。内容的には近未来SFで、ライトノベルのテイストは少しだけという感じだ。ライトノベル出身者の作家が一般読者向けの作品で活躍するというパターンが続いているが、この作者もそうした流れのなかで、今最も期待したい作家ということは間違いないだろう。「電子葉」「量子葉」「情報材」という概念も斬新だが、それを一般読者にも判り易く(あるいは判ったつもりになるように)記述してくれるその才能には舌を巻く。個人的には、もう1冊読んでからどういう作家なのかを見極めたい気持ちもあるが、間違いなく、これから台頭してくる稀有な存在という予感がする。(「Know」 野崎まど、ハヤカワ文庫)
笑う警官 マイ・シューヴァル
1960年代の「警察小説」というジャンルを打ち立てた記念碑的なシリーズの1冊。スウェーデン語からの直訳(新訳)という触れ込みだったので、昔読んだような気もしたが再読してみた。昔読んだ時の記憶はほとんどなく、昔はこういう小説はあまり好きではなかったということを思い出した。世に言う名作クロフツの「樽」等も同じような印象で、取り立てて面白いと思わなかったのを覚えている。今読むと、スウェーデンの各地方の軋轢などは依然として知識不足で入り込めない部分はあるものの、複数の刑事が地道な捜査によって少しずつ真実に近づいていく様は、地味だが本当にスリリングだ。この新訳も、最近の北欧ミステリーブームの一環だろうが、シリーズで刊行されていくようで、今後が楽しみだ。(「笑う警官」 マイ・シューヴァル、角川文庫)
謎と暗号で読み解くダンテの「神曲」 村松真理子
ダン・ブラウンの新作「インフェルノ」の刊行に合わせて刊行され、出版社も同じ角川書店、「インフェルノ」を意識したような題名と、正真正銘の「関連本」なのだが、中身は一味も二味も違った面白さだった。ダンテという人物の略歴、「神曲」という作品の構成や全体の内容がコンパクトにまとめられていて有難い。しかもそればかりでなく、「神曲」という作品の歴史的な意義、何故この作品が「俗語」で書かれたのかという謎の解明など、読んでいて興味は尽きない。特に書かれて700年も経った今でも、イタリア人はこの作品を普通に理解できるということの意味についての解説は、目からうろこだった。また本書は、こうした昔の作品を考えるときに、今の状況との違いを考慮することの大切さを教えてくれる。読んだ後、随分賢くなった気がする1冊だ。(「謎と暗号で読み解くダンテの『神曲』」 村松真理子、角川ONEテーマ21)
雨のなまえ 窪美澄
著者の作品を読むのはこれで3作目。これまでに読んだ2作品では、評判の高かった方の作品(「ふがいない…」)が私にはあまりピンとこなくて、もう1つの方(「晴天の…」)が俄然面白かったので、どういうことなのだろうかと思いながら本書を読んだ。結論から言うと本書は、ちょうどこれまでに読んだ2つの中間のような作品というか、両方の系譜の短編が交互に収められた作品集という印象だ。私の場合、読む本の大半がエンターティンメント系の作品なので、「何もない日常を描いた作品」よりは、はっきりしたストーリーのある作品の方が合っているということだけなのかもしれない。実際、本書に収められた5つの作品のなかでも、話の中で「東日本大震災」がでてくる2作品が印象に残った。もし仮に、何年かして、「東日本大震災」が小説の中でどのように描かれたのかというアンソロジーが組まれた場合、「震災」そのものは本筋とは言えないものの、ここに収められた作品の少なくとも1つはそこに収録したいと思うような印象的な作品だった。(「雨のなまえ」 窪美澄、光文社)
万能鑑定士Qの探偵譚 松岡圭祐
前作で一つの区切りがついたと思った本シリーズだが、早くも主人公は復活を果たし、逆に今まで以上にパワーアップしそうな展開になってきた。この先、主人公がどこに向かうのかやはり気になることだし、読者の方も気持ちを切り替えて活躍を見守ることにしたい。本書では、1つの事件の解決にあたって不自然な部分があるのだが、それがもう1つの事件の解決によって見事に説明されている。この点に関しては、解説でも「お見事」と評されているが、実際この仕掛けは、長い本シリーズの中でも実に良くできている仕掛けだなと感心してしまった。(「万能鑑定士Qの探偵譚」 松岡圭祐、角川文庫)
千年ジュリエット 初野晴
本シリーズは3巻までずっと単行本で読んでいたはずなのだが、最近続刊が出ていないなと思っていたら、文庫になっている4巻目の本書を本屋さんで発見してびっくりしてしまった。しかも本書の帯にはさらにその続編がこの12月に刊行予定とあり、2重にびっくりした。とういことで久し振りの本シリーズで、話がどこまで進んでいたのかもうろ覚えだったが、それでも何の問題もなく楽しめた。4つの話が収録されているがいずれも心に残るストーリーだ。私の記憶では、これまでの話はもう少しミステリーの要素が強かったような気もするが、本書の内容が少し幕間的な話なので、そのせいかもしれないし、私の記憶違いかもしれない.「千年ジュリエット」 初野晴、角川文庫)
紳士の言い逃れ 土屋賢二
本シリーズは雑誌に連載されているコラム記事をまとめたものだが、本書ではちょうど「東日本大震災」が起きた頃の記事が収められている。直後の記事ではいつもの軽妙な語り口は完全に封印されていて、改めてあの時の「衝撃の大きさ」を思い出してしまう。その後の記事を読み進めていくと、徐々に通常の語り口に戻っていくのだが、それでも何かどうしても戻りきれない部分を感じる。内容的には「内向き」のテーマが多くなったような気もする。それに、本書ではおなじみの「ツチヤ師」が一度も登場しないのだが、これは単なる偶然なのだろうか。本書の中では、「クリケット」をやめさせる方法の話が非常に面白かった。この話は、著者の創作なのか何かの引用なのか知らないが、創作だとしたらびっくりだ。(「紳士の言い逃れ」 土屋賢二、文春文庫)
インスブルック葬送曲 レーナ・アヴァンツィーニ
オーストリアの作家によるミステリー。中欧・北欧ミステリーの流行で、これまで読むことが出来なかったこうした作品を読めるようになったというのは嬉しいことだ。話はオーストリアらしく、音楽家が多数登場し、ミステリーの核心的部分にも「音楽」という要素が重要な役割を果たしている。本書の中にも書かれているように、実際にはほとんど凶悪犯罪の起きない国を舞台にした衝撃的な連続殺人事件に戸惑いながらも立ち向かう捜査陣の活躍、主人公の女性の造形など、面白さがいくつも感じられる1冊だ。(「インスブルック葬送曲」 レーナ・アヴァンツィーニ、扶桑社文庫)
百番目の男 ジャック・カーリィ
人から勧められて読んだ本書だが、凝った内容と驚きの結末を堪能した。既に続編が数冊刊行されているということなのだが、本書の終わり方で、どうやって続編が書けるのか、少し不思議な気がした。本書を薦めてくれた人に聞くと、このシリーズには、何か主人公の周辺に第一作目の本書では明かされていない重要な秘密があるらしい。それを含めて、続編が大変気になる作品だ。(「百番目の男」 ジャック・カーリィ、文春文庫)
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