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未来 湊かなえ

「イヤミスの女王」の名にふさわしいイヤミス要素てんこ盛りの1冊。あまりにその要素が多すぎて辟易するという書評もあるようだが、こういう現実もあるだろうと思わせるしっかりした構成の見事さの方がそうした欠点を上回っているような気がする。最初に提示される大きな謎の真相もそれなりに内容と話の展開に合致している。いじめ問題や育児放棄など現代社会が抱える大きな問題をいくつも扱っていて「焦点がぼける」という批判はある意味当たりかもしれないが、そうした問題が複雑に絡み合っているのが現実なのだろう。(「未来」 湊かなえ、双葉社)

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70歳の絶望 中島義道

70歳を迎えた著者の1年間の日記風のエッセイ。おなじみの日中煌々と明かりのついた駅ホームや車中でお化粧する女性への苦言などは相変わらずだが、それを「気晴らし」と達観しているのには少し驚いた。また、配偶者との微妙な関係なども容赦なく書かれていて、年を取るとそんな感じになっていくのかなぁと思ったりもした。正直言って、著者の哲学的な考察の部分は全く理解できないが、そうしたことを考えながら過ごしているというのも著者の大切な日常の一面であり、著者のことが今までとは違った意味でよく判った気がした。(「70歳の絶望」 中島義道、角川新書)

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そしてミランダを殺す ピーター・スワンソン

三部構成の本書。最初のうちはなかなか事件が起きず、少したるいなぁと感じたのだが、第一部の終わりあたりで思いがけない展開となり、どんどん物語に引き込まれてしまった。三人の視点で過去と現在という2つの時制が交互に描かれていき、やがてその2つが一緒になった時、それぞれの人物の特性が明らかになるという構成は見事というしかない。サイコパスとも言うべき人物の視点で淡々と描かれた物語の後半のサスペンス的な展開に、久し振りにドキドキさせられた。(「そしてミランダを殺す」 ピーター・スワンソン)

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シュークリーム・パニック 倉知淳

ユーモア系、本格派、学園青春物など色々なテイストのミステリーが一冊で楽しめる短編集。それぞれに違った趣向が凝らされていて、今度はどんな話なのかなかなか予想しにくいところが嬉しい。特に最後の一編などは、最後まで事件らしい事件もなく、これだけはミステリーではないのかと思っていたら、最後になっていくつもの伏線が張られた立派なミステリーと判明。記憶に残る綺麗な作品だった。このところ、新進気鋭の注目度の高い作家の短編集をいくつか続けて読んでいるが、1つの型にはまらないバラエティに富んだ作風というのが、最近の実力派の若手の共通点のような気がする。(「シュークリーム・パニック」 倉知淳、講談社文庫)

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アジアルポルタージュ紀行 石山永一郎

仕事の関係で、タイ、ミャンマー、カンボジア、ベトナム4か国についての本はできるだけ読むようにしている。本書は、ネット書店の検索ワード「ベトナム」でヒットした1冊。購入してみたが、ベトナムに関してはわずか数ページと、その点は少しがっかりだったが、北朝鮮・フィリピンなどその他の国の話が読めて、自分自身の見聞を広めるもには大いに役立ったような気がする。書店で見つけても買わなかったと思うと、こうした怪我の功名のようなことも、ネット書店ならではのことだと感じた、(「アジアルポルタージュ紀行」 石山永一郎、NR出版社)

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すべて忘れて生きていく 北大路公子

本書は、お馴染みの脱力系エッセイの他、新聞に掲載された著者の書評や小説などが掲載されていて、これまでに読んだ著者の本とは少し趣きが違う一冊と言える。北海道の気候や日々の生活ぶりを題材にした自虐ネタも相変わらず健在だが、その他の例えば著者の書評などはこれから読む本の参考にしたいと思う本も何冊かあって、特に面白かった。過去の文章を集めた本書だが、その題名に込めた意味が著者らしくて洒落ている。(「すべて忘れて生きていく」 北大路公子、PHP文芸文庫)

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駅物語 矢野帰子

ある特殊な事情を抱えながら、東京駅の駅員さんになった新人鉄道員の物語。読んでいると、駅員さんの仕事がどんなもので、どんな苦労や悩みがあるのか、といったことが色々と分かってきてとてもためになる。その意味で、本書は大きな括りでお仕事小説といってよいだろう。とにかく、身近な存在で毎日見かけたりしていて、時々お世話になったりしている有り難い存在なのに、彼らについて何も知らずにいる自分に気づく。改札口で駅員さんに質問をするとサッと答えてくれるという事実の裏にどのくらいの知識の蓄積があるのかを考えると本当に頭の下がる思いだ。お仕事小説を読んでこんな感謝の気持ちを強く持つというのはなかなかないことだと思う。(「駅物語」 矢野帰子、講談社文庫)

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黒猫の小夜曲 知念実希人

著者の作品を読み始めて1年くらいたつが、シリーズものをほぼ既刊のものは読み終えて、あとは、新刊の作品をゆっくり読んでいこうと思っているのだが、それでも単行本の新刊、未読の文庫化作品が次から次へと出てきて、それだけでも結構忙しい感じだ。それだけ人気があって需要が多く、出版社からの執筆要請も多いのだろう。本書は、文庫の新刊コーナーで見かけた一冊。これまで読んだ著者の作品とは違って、医療とはほとんど関係のないストーリーだが、ミステリー要素はこれまでに読んだシリーズ作品よりも強い感じだ。読んでいて少し違和感を感じたので、ネットで調べてみると、本書は、数少ない著者の未読の作品を第1作目とする別のシリーズの第2冊目ということだった。(「黒猫の小夜曲」 知念実希人、光文社文庫)

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ビリヤードハナブサにようこそ 内山純

著者の作品を読むのは2作品目。本書が処女作とのことだが、ベテラン作家のような書き慣れた感じの軽いミステリー短編集だ。 それぞれの短編の題名がビリヤードの特殊な用語になっていて、それが事件の謎解きと密接な関係を持っているという嗜好が面白い。探偵役の主人公がいくつもの大きな事件に巻き込まれるというありがちな不自然さも、色々な設定で上手く回避されていて、話が良く練られているという感じがする。また、学生時代に少しだけビリヤードをやったことのある身としては、ストーリーの合間に書かれた特殊な用語の解説なども懐かしかった。(「ビリヤードハナブサにようこそ」 内山純、創元推理文庫)

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そうだ、ローカル線、ソースカツ丼 東海林さだお

著者の本は、単行本でも文庫でも書店で目に付いたところで読むことにしてきたので、既読と未読の区別が自分でもつかなくなってしまっている。多分全作品の4分の3くらいは読んでいるはずだが、ある作品が未読と分かっても、それが在庫なしとか絶版というケースもあり、なかなか全作品制覇は難しい。本書は、ネット書店で在庫ありになっていたのですんなり購入することができた。本書の中では、広辞苑で色々な単語を引いて格闘する3つのエッセイが今までにない面白さで、著者の文章はまだまだ奥が深いと感じた。(「そうだ、ローカル線、ソースカツ丼」 東海林さだお、文春文庫)

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瑕疵借り 松岡圭介

「瑕疵借り」という言葉や職業があることさえ知らなかったが、世の中にはそういう需要もあるんだなぁと感心してしまった。またそれ以上に、そういう言葉から、これだけ多彩なストーリーを紡ぎ出す著者のストーリーテラーとしての凄さにも感心してしまった。著者の作品は一見すると、題名や登場人物のキャラクターからエンターテイメント色の強いものに見えるが、実はその時々の時事問題を扱うという形で、社会派的な要素もかなり盛り込まれている。出版社が講談社になってから、その社会的要素を前面に押し出した作品が多くなっているような気がする。この方向性、是非突き詰めていって欲しい。(「瑕疵借り」 松岡圭介、講談社文庫)

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新・冒険論 角幡唯介

冒険家が語る「冒険」とは何か? 本書で著者は、冒険を「脱システムの衝動」と定義し、色々なシステムによって守られている日常からの脱却が冒険の本質だとする。その上で、現代社会は、ジャンル化、スポーツ化によって、冒険の領域が大きく変化していると説く。例えば、北極点へのアプローチという冒険は、GPSの発達や航空機の出現で大きく変化したという。当初とにかく北極点にどこまで近づけるかという単純だった目標が、飛行機で簡単に北極点まで行けるようになった今、一番北極点に近い陸地までは飛行機で行っても良いという暗黙のルールが出来あがっているという。極端な話、何らかのルールがないと、北極点のすぐ近くまで飛行機で行ってそこから少し歩いて到達しても、徒歩での北極点到達ということになってしまうからだ。こうして冒険と認識されていた「北極点到達」という行為はルール化された一つのジャンルと認識され、やがて決められたルールのなかで数字を競うスポーツになっていくという。そうした変化の中、かつて冒険の代名詞のようなものだった「エベレスト登頂」も、大量の物資や資金を投入して、すでに誰かが設置したハーケンを伝って登るだけの運動となり、冒険とはかけ離れたものになってしまったらしい。ストイックに冒険とは何かを考えていく著者の姿勢が清々しく感じられる一冊だ。(「新・冒険論」 角幡唯介、インターナショナル新書)

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豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件 倉知淳

著者の本は3冊目だが、いずれも色々な嗜好が凝らされた短編集。本書も、SFのような作品(社内偏愛)、脱力系の作品(豆腐の角‥)、抒情的な作品(夜を見る猫)、本格的な謎解き作品(猫丸先輩…)など多様な作品が楽しめる。著者の、少しミステリーの枠を超えた特徴が、よくわかる一冊だ。(「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」 倉知淳、実業之日本社)

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誘拐犯はカラスが知っている 浅暮三文

表題作でもある第一話を読んで、主人公の事件への関わり方が何となく出き過ぎという気がしたのだが、それに続く6つの短編が同じような感じになっていて驚いた。これはもう主人公の「事件を引き寄せる特異体質」と考えるか、あるいは作者が意識的にある種の尤もらしさを打ち捨てた作品ということになる。後者と割り切って読んでみると、確かにここに収められた短編はいずれも、動物の行動に関する知識を駆使して事件の謎に迫るアクロバティックなプロセスを楽しむエンターテイメント作品として出色の出来栄えと言えるだろう。(「誘拐犯はカラスが知っている」 浅暮三文、新潮文庫)

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日本史の内幕 磯田道史

TVで何度か見たことのある大学の先生によるエッセイ集。著者と色々な古文書や関係者との出会いに関する内容が多いが、ある特定のテーマについて書かれたものではなく、日本の古文書を通じて見えてくる様々な時代、様々なジャンルの歴史が描かれていて、著者の守備範囲の広さを感じさせる。それが分かったところで何の得にもならないような小さな発見でも実は現代の我々に貴重な教訓を与えてくれるという、歴史を学ぶ本質のようなものに気付かされる一冊だ。(「日本史の内幕」 磯田道史、中公新書)

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