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セブン 乾くるみ

著者の本は、最初に読んだ「イニシエーション…」が衝撃的だったせいで、読む前の期待度が高くなりすぎてしまう傾向があったが、本書はその期待を初めて上回った作品だ。書評誌等で絶賛されているので、さらに期待度は高まったのだが、そのハードルさえも越えてしまったような気がする。とにかく最初の「ラッキー・セブン」を読んでびっくりし、その後の全7編全てがとにかくびっくりするような作品だ。しかも全ての作品が「7」に関係しているというアクロバティックな仕掛けまである。書評誌に「乾くるみは只者ではない」とあったが、まさに「作品の面白さ」よりも「こうした作品を書く作者への驚き」の方を強く感じてしまう1冊だった。(「セブン」、乾くるみ、角川春樹事務所)

出張のため1週間程更新をお休みします。

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円卓 西加奈子

とにかく読んでいて楽しい作品だ。客観的な記述部分、登場人物公の心の内の独白部分、その他地の文章、その3つともが面白い。特に地の文章の面白さには最初から引き込まれてしまった。こういう場合は何故か必ず大阪弁だ。地の文章の楽しさというのは、この著者の作品の大きな特徴だと思うが、本書はそれが際立っていて、何か著者を縛っていたものが解き放たれたかのようだ。ある意味非常に実験的な作品なのかもしれないと感じた。(「円卓」 西加奈子、文春文庫)

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思い出のマーニー ジョーン・ロビンソン

スタジオジブリが映画化するということで本屋さんんで平積みになっていた。いずれは映画として見ることになるかもしれないので、原作のイメージを知っておきたくて読むことにした。物語の前半部分は、主人公のアンアとマーニーの交流が描かれているのだが、荒涼としたイングランドの海岸風景、いつも「外側」にいると感じている主人公の心象風景が静かに読者の心に残る。ある事件をきっかけとして物語は一変、大きな謎がどのように解かれていくのかが興味の中心になり、真相が明かされて、不思議な世界は幕を閉じる。映画向きとは思えない内容だが、そこが却って映画を作る人の意欲を掻き立てるのだろう。その気持ちは良く判る気がする。この独特の世界をどう映像にするのか、映画を見てみたくなった。(「思い出のマーニー」 ジョーン・ロビンソン、新潮文庫)

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亜愛一郎の狼狽 泡坂妻夫

著者の処女作を含む短編集。全ての短編が著者らしいトリッキーなトリックで楽しませてくれる非常にクオリティの高い1冊だ。謎の解明に繋がる証拠や伏線がいたるところに張り巡らされていて、それが伏線であることも読者にも丸わかりなのだが、それがどのような真相につながるのか、かなりミステリーを読んでいると自負している人にもおそらくわからないだろうというくらい意外性がある。私自身、おおよその謎が推測できたのは8編中2編だけで、後の6編は全く歯が立たなかった。これで著者の本は4冊目だが、まだまだたくさんの作品が未読であることが本当に嬉しく感じた1冊だった。(「亜愛一郎の狼狽」 泡坂妻夫、創元推理文庫)

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ヒトラーの側近たち 大澤武男

ナチ政権下でヒトラーを支えた側近たちの軌跡を解説した本書を読むと、ヒトラーの周りにいかに多くのヒトラーに心酔して無批判にヒトラーの政策を遂行した追随者がいたかを改めて知らされる。それらの人々の多くが30歳代で、平均年齢にして40歳という若さだったという。また、最終段階でヒトラーの政策に疑問を持ち、反対した人の多くが「軍人」だったということにも驚かされる。本書は、こうした様々な事実を順序だてて教えてくれる1冊だ。但し、あまりにもそうした人々が多かったということだが、それらの人々をを1冊の本で解説しつくすのはもちろんのこと、紹介しつくすことすら無理があるように思う。全体像をある程度理解するためにさえ、本書に登場する側近たちの1人、1人について、それぞれ1冊ずつの本が必要なくらい、知らなければいけないことが多いのだろう。その意味で、本書はまずはどのような人物がいたのかを知るための第1歩という感を強く持った。次に、ここで紹介された名前で興味を持った人物についての本をいくつか探してみようと思う。(「ヒトラーの側近たち」 大澤武男、ちくま新書)

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自分の壁 養老孟司

本屋さんで新しい本を見つけると、ついつい買ってしまう著者の本。何故か本書は、これまでに読んだ著者の本のなかでも、比較的論旨が明確な1冊だと感じた。著者の語り口などはこれまでと違わないような気がするので、それはこちら側に原因があるのかもしれない。思い当たるのは、本書が最近読んだ「内田樹」の何冊かの本と内容が重なる部分が多いこといである。両者が「現代の日本の風潮」に関して語った本をいくつか読んでいるうちに、だんだんそのあたりの感覚が自分にもついてきて、自然に頭に入るように訓練されてきたからかもしれない。自分としては、その感覚を常に大切にしながら物事を考えていきたいと思う。(「自分の壁」 養老孟司、新潮新書)

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ガウディの鍵 エステバン・マルティン

「ダヴィンチコード」の2匹目のドジョウを狙ったような作品。おじいさんが残した謎を孫娘が警察に追われながら解き明かしていき、真相に近づいていくという話の流れもそっくりだし、謎を解明していく過程で、相棒と2人でいくつもの観光名所を巡るという点も全く同じだし、さらに主人公にすごく近い人物に裏切られるというところまで同じだ。ここまで堂々とパクられると文句を言う気も起こらないし、それはそれということで十分楽しめてしまうから不思議だ。しかも、その解明される謎の衝撃度という点では、ダヴィンチコードに負けず劣らずで、とにかくびっくりさせられる。おそらく、キリスト教を身近に感じていたり、聖書に慣れ親しんでいる人には、決定的とも思える最大級の衝撃なのだろう。このアイディア、ダヴィンチコードのまねのような作品ではなく、もっと別の形の作品にすれば良かったのにと少しだけ思ってしまった。(「ガウディの鍵」 エステバン・マルティン、集英社文庫)

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歴史バトラーつばさ 鯨統一郎

日本史の謎に関する色々な薀蓄を得ながら、楽しく日本史について学べる1冊かと思ったら、物語の大半は、現代の学園もののドタバタ劇で、日本史の薀蓄はほんの添え物という感じの内容だった。でもそのドタバタがなかなか面白くて、期待はずれというよりも意外な発見という感じで、むしろ得した気分になれた。かなり奇妙な設定の主人公と、準主役のライバル同士の2人の、合計3人が織り成す話は、続編があるのかどうか判らないが、かなり気になることは確かだ。(「歴史バトラーつばさ」 鯨統一郎、PHP文芸文庫)

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冬の記憶と時の地図 太田紫織

シリーズ初の長編という本書。シリーズの4作目だと思うが、全部読んでいるかどうか自信がないが、気にしないで読むことにした。主人公が「骨」好きということで、シリーズでは当然ながら被害者が白骨化している事件、すなわち遠い過去の事件が多いのだが、本書では、主人公が学生の時に主人公の伯父が追いかけた事件を、主人公が改めて辿っていくという設定がそれにマッチしている。最後の結末はかなり意外性があるが、事件の手がかりとか主人公が真実に行き着くまでの推理というミステリーの王道はやや影をひそめ、主人公とその伯父の関係やワトソン役の少年の視点が物語を引っ張っていく形が独特の味を出している。シリーズ全体としては、短編がメインストーリーで、長篇の本書が幕間のエピソードということになるのだろうが、それもこのシリーズ独特の味ということになる。(「冬の記憶と時の地図」 太田紫織、角川文庫)

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ヒトラー演説 高田博行

ヒトラーの演説といえば、古い画像でヒトラーが大きな身振りで絶叫しているシーンを何度か見たことがあるという程度だが、実際のところはどうだったのか、それを教えてくれるのが本書だ。著者は、ヒトラーの演説150万語をデータベース化し、それを分析することで、ヒトラーの演説の様々な側面を読者に教えてくれる。本書を読むと、われわれがイメージしているのとは全く違い、冷静に言葉を選んで、民衆の心を掌握するために演説する稀代の弁士としてのヒトラー像が浮かび上がってくる。ナチスが活動を始めて勢力を拡大していくまでの演説、政権を掌握してから国民を言葉で誘導していく演説、戦争が不可避になっていく過程で「外交」を強く意識した演説、人心が離れていき誰に向かって話しているのか判らなくなっていく晩年の演説と、それぞれの時期の対比の分析は、見事というしかない。なお、ヒトラーの全盛期、彼の演説を「ラジオ」で聞くことが法律で義務付けられていたという話を読んでびっくりした。ハンナ・アーレントの本を読んで、彼女の思想の主な発表場所が「ラジオ」だったという話に違和感を感じたが、この本を読むと、当時の自分の考えの伝達手段として「ラジオ」というものが現在の自分たちが考える以上に重要だったということが判って面白かった。そういえば、日本の終戦の時の玉音放送も「ラジオ」だったのだと思い至った。最高に面白い1冊だ。(「ヒトラー演説」 高田博行、中公新書)

 

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嘘と絶望の生命科学 榎木英介

STAP細胞を巡る事件を契機にして緊急出版されたと思われる本書。これを読むと、STAP細胞の事件が決して特殊なものではなく、生命科学分野における様々な事情が関係したい実に根深い事件であるということが良く判る。本書によれば、「研究不正」と呼ばれるものの7割が「生命科学分野」でおきているという。論文重視、3大科学雑誌偏重、教授を中心とする研究所内のヒエラルキーといった生命科学分野特有の要因が「研究不正」が後を絶たない直接間接の原因になっているという。直観や思考実験のみで論文が書ける数学や物理とは違って、生命科学ではとにかく地道に実験を繰り返すことのみが成果を上げる唯一の道ということで、ポスドクと呼ばれる研究員が奴隷のような扱いを受けながら、成果を上げなければというプレッシャーと闘いながら実験を繰り返している。こうした背景を理解すると、「どうしてすぐにばれる不正をするのか」という疑問も少し理解できるような気がする。また、「生命科学に横行する研究不正」という事情は日本に限らず、全世界的な事情らしい。さらに、STAP細胞事件では、「再現できないこと」が大きな問題となっているが、本書を読むと、例えばガンの著名な実験結果論文で再現できたのは10%強という統計もあるそうで、「肝心な部分は隠す」ということは珍しいことではないそうだ。色々な情報が満載で、STAP細胞事件を考えるための多くの材料を提供してくれる1冊だ。(「嘘と絶望の生命科学」 榎木英介、文春文庫)

海外出張のため1週間ほど更新をお休みします。

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魔女の世界史 海野弘

「得体が知れない」「光と影が共存している」、世界史あるは現代の諸相に登場するそうした女性を「魔女」と言う言葉で括って、その変遷を記述した1冊。「魔女」というと「異教的」な感じで宗教的な要素をどうしても想起してしまうが、「魔性」と言いかえれば、あまり違和感なく読むことができるような気がする。内容はとにかく幅広く、感覚的に「?」というものもあるが、様々なジャンルの女性が取り上げられていて面白い。現代日本のアイドルグループにまで「魔性」を感じるというのはご愛嬌だが、最近話題になっているディズニー映画「アンと雪の女王」をいち早く取り上げているのには、著者の守備範囲の広さが感じられた。(「魔女の世界史」 海野弘、朝日新書)

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ためらいの倫理学 内田樹

最近は著者の読んでいない本を見かけると迷わずに入手するようになった。本書も本屋さんで平積みになっていたので入手したのだが、読んでみると、著者の最初の単著とのこと。すぐに文庫化されたようで、文庫になってから10年以上経っている。この本が何故、本屋さんで平積みになっていたのかは不明だが、もしかすると著者の本がブームになっているのかもしれない。最初の単著ということだが、出版されるまでの経緯が少し変わっている。作者によれば、色々言いたいことがあるので、HPを開設してそこに文章を載せていたら、それがたまたまある出版社の編集者の目にとまり、出版ということになったらしい。その編集者がいなければ、著者も普通の大学の先生のままだったのではないかと思うと、偶然というのは面白いものだと思う。内容は、一言で言えば「判らないことを判らないと認識することが大切」ということが全編を通じて書かれている。読んでいて、「結局はそういうことだろうなぁ」と感じたのだが、著者自身があとがきで「結局はそういうこと」と述べているのを読んで少しびっくりした。こういうことはあまりないのだが、自分で勝手に解釈すると、著者の文章が自分の波長に合っていると感じることがある。それが、私が著者の本が好きな理由なのだと感じた。(「ためらいの倫理学」 内田樹、角川文庫)

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神奈川の謎学 博学こだわり倶楽部編

本書は意外な事実等ばかりを集めたウンチク集とかトリビア集というよりも、オーソドックスな「神奈川県」に関する基礎知識集と言った方が良いだろう。それでも、意外な事実というのは結構たくさんあって、飽きさせない。神奈川県が1世帯あたりのパソコンの保有台数が日本一というのも初めて聞いた。また本書では、鉄道に関する章や歴史に関する章が充実していて堪能できる。欲を言えば、食や一次産業に関する記述がもっとあっても良かったと思う。私自身は、子どものころに横浜に住んでいたわけではないので、小学校や中学校で横浜について習ったことはない。それが影響しているのかもしれない。横浜の人は横浜のことを人一倍好きだという話を聞いたことがあるが、そういう人たちはこうした知識を知った上で好きなのか、どうなのか知りたくなった。(「神奈川の謎学」 博学こだわり倶楽部編、KAWADE夢文庫)

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11枚のトランプ 泡坂妻夫

著者の最初の長編ミステリーの再版。著者の本はこれで3冊目だが、前の2冊があまりにもトリッキーかつ衝撃的な本だったので、あまりハードルを高くしないように心がけながら読んだ。この小説の最大の特徴は、ミステリーの大切な要素である「謎を解く鍵・証拠」あるいは読者に解決の糸口を示したり困惑させたりする目的の「伏線」というものの存在だ。ミステリーを多く読んでいると「ああこれが伏線だな」というのはなんとなく判ることが多い。それが伏線であることが判った上で、それがどう解決の糸口なのかを考えるのが読者と著者の知恵比べということになる。しかし本書の場合は、私自身、何が伏線なのか、真相が究明されるまで全く気がつかなかったし、伏線どころか「何が謎なのか」さえもほとんど意識できなかったほどだ。こうした作品を書くには本当に緻密な作業が必要だろう。その意味では、前に読んだ2作品に負けず劣らない異色作だと感じた。(「11枚のトランプ」 泡坂妻夫、角川文庫)

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