goo

犬はどこだ 米澤穂信

著者の本は、古典部シリーズや「四季限定‥」シリーズ(正式名称は知らない)など何冊も読んでいるが、本書はまた別の主人公の作品で、巻末の解説によると新しいシリーズものの最初の作品ということらしい。内容的には、2人の探偵が別々の事件を追いかけていて、その2つの事件に大きな関連があることを読者は知っているのだが、作中の2人はそれを知らず、読者は常にドキドキさせられるという設定だ。この2つの事件が重なった時に大きな謎が解き明かされるのが大変面白い。既に続編が書かれいるのかまだなのかは判らないが、調べてみて、続編が出ているのであればを是非読みたいと思った。(「犬はどこだ」 米澤穂信、創元推理文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

キングを探せ 法月倫太郎

最初の数ページの記述に謎を解く鍵があることは読んでいて何となく判ったが、これを自力で解明しようという気力のようなものが自分にはなかった。この鍵を正確に把握できていれば、その後の展開はある意味で1本道なのだろうということも判った。おそらく気力のある読者であれば、その後のストーリーを満喫することができ、さらにはちゃんと正解にたどり着く論理的な思考の経路があるのだろうが、それを辿るのはかなり非凡な頭脳と根気がいるような気がする。もちろんその謎とき部分は、完全についていけなくても非常に良く出来ていて面白いのだが、それが全てこの作品の魅力に繋がっているかと言えば、残念ながらそうではないだろう。過ぎたるは及ばざるがごとしではないが、完全に論理的であること、あるいはここまで論理的に考えないと着いていけないストーリーとたどり着けない結末は、作品の面白さを保証するものではない。作品の中に登場する「名探偵」はそれを何度か躓きながらも解明するのだが、その推理は、裏を知っている読者もびっくりするほどの明晰さで、客観的には公平なのかもしれないが、どこかに不公平さを感じてしまった。名探偵の何度かの躓きというのも、読者が抱くであろうその不公平感を和らげるためにわざと作者が仕組んだものではないかという気さえした。(「キングを探せ」 法月倫太郎、講談社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

去年の冬、きみと別れ  中村文則

本屋大賞ノミネート作品ということで読んでみたのだが、私にはどう評価したら良いのかよく判らない作品だった。最初の書き出しでは、色々な謎が提示され、それがどのように展開していくのか大変興味深かったのだが、後半以降は、話のつじつまを合わせるための説明なのか、別のことを言いたいのかがよく判らなかったのだ。一番大きな謎はびっくりするような見事な仕掛けで面白かったし、本書の評判の良さを考えると、一瞬ミステリーとして読んではいけないのではないかとも思ったが、そうだとすると細かい部分のつじつまあわせは何のためにあるのかが判らない。私にとっては、これまでこの作者の作品を読んだことがなかったことが、良く判らなかったという感想の最大の原因だったのかもしれない。(「去年の冬、きみと別れ」 中村文則、幻冬舎)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

死神の浮力 伊坂幸太郎

シリーズ第2作の本書。前作を読んだのは、いつだったか思い出せないほど昔のような気がする。続編を待っていた人も多いだろう。前作は短編集だったが、今回は帯に書かれているように「シリーズ初の長編」ということで、じっくり楽しむことができた。本シリーズの最大の魅力は何と言っても主人公の「千葉」。何百年も生きている(?)死神なので、言っていることが妙にずれていて、そのずれ加減が絶妙な面白さを醸し出している。終盤で、いやな結末を予想させる事実が明らかになるのだが、最後にそれが大逆転となり、スカッとする。結末としては全くハッピーエンドではないし、話としてはあまりスカッとしてはいけないのかもしれないが、読後感は非常にさわやかだ。(「死神の浮力」 伊坂幸太郎、文芸春秋社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

現代中国悪女列伝 福島香織

現代中国の悪女というと、文化大革命の4人組の1人「江青女史」を思いだすが、本書では、現代中国史に名を残すような傑出した女史、ネットで露悪的な人気を集める女性等、色々なパターンの「悪女」が紹介されている。読んでいると、その凄まじい権力欲や嫉妬心に驚ろかされるが、何人かの話を続けて読んでいると、その背後にある中国における政治の腐敗や男尊女卑の凄まじさの方が怖いという気になってくる。著者による最後のまとめでも、「悪女」が活躍する背景には必ず「悪い男」がいることが指摘されているし、中国の女性がほとんど権利を主張出来ない環境下、「悪女」の方が人間的なのではないかという指摘も実にもっともなことだと感じる。本書の難点は、全く図版や写真がなく、どのような顔をしている女性なのか、いちいちネットで確認しなければならなかったのが煩わしかったことだが、それを除けば非常に読みごたえのある新書だった。(「現代中国悪女列伝」 福島香織、文春新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ヤノマミ 国分拓

数年前にNHKの番組で、この「ヤノマミ」と呼ばれる部族の取材ドキュメントをやっていたのを覚えている。その番組を見落としていたので気になっていたのだが、本屋さんでこの本を発見したので、読んでみることにした。TVの番組は大変な評判になっていたが、本書を読むとそうしたセンセーショナルなイメージとは違って、地味だが驚くほど骨太の取材記録だということが判る。特にセンセーションを巻き起こした、生まれたばかりの赤ちゃんを精霊の元に返すという話も、文字で読む限りは冷静に受け止められる内容だ。TVの画面で見られなかったことで、イメージできない部分も多いと思われるが、こうして文章で読むほうがしっかり伝わる内容もあるということかもしれない。(「ヤノマミ」 国分拓、新潮文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

維新の後始末 野口武彦

明治維新から約10年位の間に日本で起きた様々な事件を簡潔に解説してくれている本書だが、これを読むと如何にこの時代に多くの出来事が起こり、その時の政策決定者が大変だったかを思い起こさせてくれる。多くの対外的な問題、進めなければいけない内政問題が噴出するなかで、時にはそれぞれの政策の整合性に悩みながら、時にはとにかく事を収束させなければならないという現実的な要請から、行われた対応や措置の多彩さに驚かされる。歴史の教科書に載っているような大事件から、政府要人の暗殺事件、対外政策を巡る国内の分裂といった問題まで、事件は様々だし、それに加えて「日本に漂着した奴隷船の扱い」「これまで知られていなかった隠れキリシタンの存在が明らかになった時の対応」など、難題続きの日本。ドタバタしながらもそれを乗り切った当時の日本人の英知には頭が下がる。(「維新の後始末」 野口武彦、新潮新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

インフェルノ・デコーデッド マイケル・ハーグ

ダン・ブラウン「インフェルノ」の関連本の2冊目。「インフェルノ」と同じ出版社からの関連本なので、やや乗せられてしまったという気はするが、普通の便乗本より色々な配慮がなされていて安心して読めるのではないかと思って、読んでみた。関連本ということで、ダンテや「神曲」に関する基本知識、インフェルノに登場する都市の観光案内、作者ダン・ブラウンについて、シリーズの主人公ラングドンについての基本知識などが、コンパクトに解説されていて、「インフェルノ」の楽しみを大きくしてくれる知識を十分得ることができる。さらに、「インフェルノ」のストーリーの鍵となっている「トランスヒューマニズム」についての解説も他では得られない知識として面白い。「トランスヒューマン」を扱った作品と言えばすぐに安部公房の「第4間氷期」を思い出すのだが、残念ながらそれについての記述はない。良く考えたら、本書は「日本人向け」の本ではなく、外国人が書いた本だった。どこの国の読者も、こうした関連本が必要なのだと思うと、少し面白い気がした。(「インフェルノ・デコーデッド」 マイケル・ハーグ、角川書店)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

いかめしの丸かじり 東海林さだお

出張や外出の時にどの本を持っていくのか、時々悩むことがある。外出先や移動の時の読書時間を想定しながら決めるのだが、そうした時の時間調整にちょうど良い本が本シリーズだ。読んでいて楽しく、しかも時間を損したという気持ちにならないような充実度があり、それでいて細かい時間でも読める、そうした貴重な特徴を併せ持った本だ。今回も、次の本を読み始めるにはちょっと時間がないという状況で楽しく読むことができた。30冊を超えるシリーズだが、本書は、文章のリズム感に今までにない爽快感を感じた。まだまだ文章に磨きがかかっているという発見をしたようで嬉しかった。(「いかめしの丸かじり」 東海林さだお、文春文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

戦場の都市伝説 石井光太

世界の戦争や紛争の副産物として生まれる「都市伝説」を集めた本書。それらの荒唐無稽な話を読んでいると、いかに戦場というものが精神の極限状態をもたらすのかが判って恐ろしいくらいだ。9.11の際の都市伝説などは、初めて聞く話でびっくりした。本書ではそうした話が一応分類されて収録されているが、最後は何の解説もなく終わる。「解説は不要」という著者の潔いスタンスには好感が持てる。「戦場の都市伝説」 石井光太、幻冬舎新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

貴族探偵 麻耶雄嵩

本書は、ロッキングチェア探偵の究極の姿、証拠や証言を集めたりしないのは当然として、推理や謎ときすらしない、「自分では何もしない探偵」が主人公のユーモアミステリーで、大ベストセラーの「謎ときは…」のパロディのような短編集だ。しかし、それぞれの短編のミステリーとしての面白さはかなりハイレベルで、こんな変な探偵でなくても良い気がするし、言いかえれば、この変わった主人公の設定は読者へのサービスのためだけという感じがする。著者は、私にとっては少し謎のある作家だ。色々な書評で高い評価を受けているのは知っているが、実際に読んだことのあるのは本書で3冊目。いまだにどういう傾向の作家なのか掴みきれずにいる。本書も含めていずれも大変面白かったのだが、どういう本作風の作家なのかと問われると、本格ものではないし、オカルトっぽい感じはあるがそれだけの作家でないことは明らかだし、そうかと思うと本書のように最近流行っているユーモアミステリー作品だったりする。読み終えた後、何か既存のジャンル別けには当てはまらないという印象が強く残るのだ。しばらくは、謎は謎のまま、いつかその正体がイメージできるようになるまで、作品を読み続けるしかないような気がする。(「貴族探偵」 麻耶雄嵩、集英社文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

検察側の罪人 雫井脩介

アガサ・クリスティの名作をもじったような題名だが、内容は非常に読み応えのある作品だった。最初は、動機にやや無理があるように感じたが、後半読み進むにつれて、犯人の職業ならではの動機ということが判ってきて、全てが納得できるような気がした。描写は緻密でありながら無駄がなく、自然と一言一言読みもらさないようにという思いが強まっていったのは久し振りの体験だった。エンターティンメントとしても楽しめるし、正義とは何かについても考えさせられる名作だと思う。(「検察側の罪人」 雫井脩介、文藝春秋社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「フェイスブック革命」の真実 石川幸憲

「フェイスブック」の隆盛について、ギリシャの哲学者の言葉や社会学に関する実験結果などから、順番に1つずつ、非常に丁寧に解説してくれている本書。決して「時代の流れ」といった簡単な言葉で片付けず、大きな流れの底にある歴史や人間というものの特質まで遡って、現在起きている革命的な変化の意味するものを解き明かしていこうという著者の姿勢には、その内容以前に本当に感銘を受ける。しかもその内容も、ITの世界の人たちの無言の了解といったものに頼らず、普遍的な考えを提示しようとしているので、門外漢の人間にも、じっくり読めば明確に判るように書かれている。フェイスブックを始めるにあたって、少し勉強しておこうという軽い気持ちで手に取った本書だが、素晴らしい社会学の教科書に出会えたような高揚した気分にさせてくれる本だった。(「『フェイスブック革命』の真実」 石川幸憲、アスキー新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ユダヤ教・キリスト教・イスラーム 菊地章太

同じルーツを持つ3つの宗教について、一神教であるが故の排他性・暴力性と、3つの宗教が合わせ持つ寛容の心・福祉の精神という2つの矛盾する特徴が、どのようにそれぞれの宗教のなかで融合しているのかという問題を中心に、それぞれの宗教の寛容さ不寛容さについて判り易く解説してくれる本書。単純な教義の比較ではなく、教義に基づいて実践される行動の比較に重きを置いているのが良い。3つの宗教のなかで最も完成された「福祉の精神」の実践を行っているのがイスラム教であるという指摘には驚かされた。また、ボクシングのモハメド・アリ選手について1章を割いて語っている部分は、この本の白眉だ。子どものころに興奮しながら見た記憶のある「キンシャサの奇跡」を彼の「強い宗教への思い」を重ねてみる語り口には感心してしまった。(「ユダヤ教・キリスト教・イスラーム」 菊地章太、ちくま新書)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

日本の農業を破壊したのは誰か 山下一仁

農村・農家・農協の実像を判り易い数字で解説してくれる本書。農協については、仕事の関係で多少の知識は持っているが、農村・農家の実態については、知らなかったことばかりでかなり驚かされた。農作業というと毎日毎日神経をすり減らすような重労働というイメージがあるが、実際は0.5ヘクタールの米を作るための仕事量が現在では半月ほどに軽減されているということ。零細の兼業農家ほど、農作業に費やせる時間がないので、農薬づけになっていて環境に優しくないという実態。農作業を軽減するための機械化で過剰な設備投資が行われそのコストが生産者価格の上昇、米価の上昇につながり、それが農協の資金になって還流するという仕組み。いずれも言われてみれば「なるほど」と言うことばかりだ。日本の農業について過剰な悲観論・楽観論をいずれも是としない著者の姿勢に感銘を受ける1冊だ。(「日本の農業を破壊したのは誰か」 山下一仁、講談社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ