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修道女フィデルマの采配 ピータートレメイン

本屋さんで「修道女フィデルマ」シリーズの最新刊を見つけたので久しぶりに読んでみることにした。古代ケルトの王の妹、修道女、法廷弁護士という3つの顔を持つ主人公が、法律の知識、論理的な思考、公平であろうとする道徳心をもって様々な事件を解決して裁決を下す。アイルランドの苦難の歴史、そこで培われた独特の文化に思いを馳せながら、エンターテイメントのミステリーを楽しむという贅沢な時間を過ごすことができるシリーズだ。読んでいると、男女同権意識、信仰と科学の融和、厳しい自然に培われた合理的思考などとにかくケルト文化の魅力や先進性を随所に感じる。このシリーズは長編も何冊か出ているようだがまだ一冊も読んでいない。長編になると、主人公が危機に瀕したり、もっとディープなケルトの描写があるのかなと思うと、このシリーズ、自分には短編で気軽に楽しむのがちょうどいい気もする。(「修道女フィデルマの采配」 ピータートレメイン、創元推理文庫)
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人生で大事なことはみんなガチャから学んだ カレー沢薫

著者の本は2冊目。前に読んだ本は「お取り寄せグルメ」を扱ったエッセイだったが、今回は著者の有料のオンラインゲームをひたすらやり続ける様子が克明に描写されているというもの。正直言って人に勧めるのが恥ずかしいような内容だが、とにかく面白い。そもそも題名の「ガチャ」が何なのか知らないで読み始めたのだが、読んでいくうちに「ソシャゲ」とか「ガチャ」とか「溶かす」とかいったゲームオタクの業界用語らしきものが何となくわかってきたような気がしてきた。お笑いにしても何にしても自虐ネタは嫌いな方だが、鉄道とかゲームとかについて堂々とその楽しさを語る人の文章は面白いなぁと改めて感じた。(「人生で大事なことはみんなガチャから学んだ」 カレー沢薫、幻冬舎文庫)
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六人の嘘つきな大学生 浅倉秋成

本屋大賞ノミネート作品。日本の就活事情に四苦八苦する大学生たちを扱った青春ミステリーだが、ネット環境の進歩の中で旧態然とした就職活動を行わなければいけない今の日本の若者は本当に大変だなぁとつくづく思った。ミステリーの内容は、最後の最後にどんでん返しでアッと言わせるのでははなく、事実の積み重ねや前半の出来事の意味が後半に明らかになっていくという感じで、それがむしろ新鮮に感じる。主人公と同じ年代の若者が本書を読んだらどう感じるのか正確には分からないが、読んで少しでも気が楽になれば良い、そうあって欲しいと心から思った。(「六人の嘘つきな大学生」 浅倉秋成、角川書店)
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嫌われた監督 鈴木忠平

プロ野球中日ドラゴンズの監督だった落合監督の8年間を、彼を新聞記者として一貫して取材し続けた著者の経験、彼に関わった多くの選手や球団関係者の証言などをもとに時系列に追ったノンフィクション。自分は自宅近くの横浜の球場に何度か孫を連れて見に行ったことがある以外、この何十年も野球を見たことのない完全な門外漢。落合監督時代の中日の成績がどうだったのか全く知らなかったし、登場人物のほとんどが知らない選手ばかりだったが、それでも本書はとても面白かった。とにかく落合監督の何事にもブレない姿勢が様々なエピソードから浮かび上がってきて、凄い人なんだなぁという一言に尽きる。ネットで検索すると彼自身が書いた本もあるようなので、それを読んで彼が自分の凄さをどのくらい認識しているのかを確かめてみたいと思った。(「嫌われた監督」鈴木忠平、文藝春秋)
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オンライン落語 古今亭駒治鉄道落語

鉄道落語の第一人者古今亭駒治が鉄道バス連絡船など交通機関の時刻表にやたら詳しい4人(乗り鉄ビッグ4)の提案や意見を聞きながら、鉄道落語の新作を作るという突飛かつ非常にマニアックな内容の会議をオンラインで視聴。古今亭駒治から最初に提示されたのは、①東京駅で新幹線の博多行き最終に乗り遅れた営業マン、②定年後の老夫婦の日本一周旅行、③友達が囚われているところまで至急行きたいが日本のお金を持っていない「走れメロス」のメロス、④時刻表のトリックを使ってアリバイを作りたい殺人犯、これらの4人にどういうアドバイスができるかという問いかけ。これらの難題に4人の時刻表エキスパートが出した提案がいずれも非常に独創的かつ面白すぎて、聴きながらずっと感心し通しだった。①と④は時刻表マニアにはお手のものというところだが、③のメロスへのアドバイスは「その手があったか」という衝撃的な内容で思わず大爆笑だった。なおこの日の提案を取り入れた新作落語が完成したら来年ネタおろしするかもとのこと。今回の話だけでも十分面白かったが、出来上がった落語も是非聞いてみたいと思った。
司会&取りまとめ役:古今亭駒治
アドバイザー:乗り換えビッグ4(夏目雄介、鈴木省吾、三上雄平、廣戸晶)
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高瀬庄左衛門御留書 砂原浩太朗

書評誌などで凄い新人が現れたと話題になっている時代小説。自分自身最近少しだけ時代小説を読む機会が増えている気がする。自分の嗜好が変わってきたのかもと思う反面、時代の閉塞感が江戸時代の武士階級の閉塞感と合致してきたという側面も少しはあるような気がする。本書は、武士としてのお役目を終了した下士の主人公が妻子に先立たれり藩内の陰謀に巻き込まれたりと色々な困難に立ち向かう話だが、シリアスな本筋の合間に暇になって書画を始めたり人付き合いに苦労したりと今の老人を彷彿とさせるエピソードが織り込まれていて面白い。そんなことを考えながら読んでしまうこと自体自分が歳をとった証なのだろうが、主人公の「他の選択肢があったかもと思わぬこと」という言葉をどう受け止めるか、読む人の年齢によって色々だろうなぁ、そういう色々な捉え方ができるところが本書の良さなんだろうなぁと考えながら読み終えた。(「高瀬庄左衛門御留書」 砂原浩太朗、講談社)
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リケジョ 伊与原新

科学の知識を織り込んだミステリーが特徴の著者の短編集。本書もこれまでに読んだ作品同様、科学の知識が事件解決の糸口になるのだが、難しい科学的事実で煙にまくのではなくあくまで解決のきっかけに留まっていて、アンフェアな感じでないところが楽しさの秘密だと思う。扱われている科学の分野も宇宙物理学、生命科学など多岐に亘っていて、特に人間の色彩の認知の仕方の話などは「へぇそうだったのか知らなかった」と思わず唸ってしまった。ちょっと物知りになった気がするなど色々な意味で楽しい一冊だった。ただし、本書の「リケジョ」というライトノベルのような軽い感じの題名は内容のシリアスさや雰囲気とマッチしていない気がする。気軽に読んで欲しいということかもしれないが、もう少し格調高い題名の方が良かった気がした。(「リケジョ」 伊与原新、角川文庫)
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同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬

今話題の一冊。アガサ・クリスティー賞を史上初の審査員全員満点で受賞とのことだが、この作品に満点をつけない人はいないだろうと思うほどすごい作品だ。第二次世界大戦における独ソ戦、特にスターリングラード攻防戦については両軍とも膨大な犠牲者を出したと学校の授業で習った記憶があるが、その攻防のディテール、主人公の変貌と活躍、主人公を含めた登場人物それぞれの葛藤などが、息をつかせぬ迫真性で読む者の心を揺さぶる。特に、当時のドイツとソ連という異様な独裁国家同士の戦いの中で、彼ら彼女らは何を目標に死を賭して戦うのか、自由のための戦いなのか、単なる復讐なのか、人間が生まれつき持っている残虐性なのか、死への恐怖なのか、戦場というものの異様さは単純な勧善懲悪や後付けの分析などでは説明しきれないものだということを教えてくれる。色々な意味でこれがデビュー作というのが本当に信じられない。(「同志少女よ、敵を撃て」 逢坂冬馬、早川書房)
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そこらじゅうにて〜日本どこでも紀行 宮田珠己

題名は全く違うが「日本全国津々うりゃうりゃ」シリーズの第2巻とのこと。このシリーズを読んでいると「国内でも海外でも旅は楽しい」ということが素直に納得できる。相変わらずどこに行っても著者の「無脊椎動物愛」が顔を出すいつものパターン。色々な奇観や奇妙な建造物などの紹介があるのだが写真ではなくて著者のデッサンのみなので、その都度実際のところどうなのかをネットの画像検索をしなければいけないというのもこのシリーズの楽しみになっている気がする。色々面白いところが紹介されているが、本書では「意外に地味な本州最西端」が白眉。(「そこらじゅうにて〜日本どこでも紀行」 宮田珠己、幻冬舎文庫)
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オンライン落語 古今亭駒治独演会

今年初めてのオンライン落語。コロナ禍の深刻化で予定していた落語会などを自粛せざるをえない状況が続いているが、その点オンライン落語は安心して鑑賞できるので有り難い。内容は新作落語3席でいずれも広い意味での鉄道ネタ。最初の1席は相鉄のJR乗り入れというトピックスを題材にした駒次代表作「鉄道戦国絵巻」のスピンオフのような作品で、横浜市民の地元愛をくすぐる秀作。2席目は福岡のホテル戦争を描いた話だが、何故か江戸時代の左甚五郎が登場し、しかも鉄道ネタになっているという異色作。3席目は東京鶯谷から田舎に越してきた転校生がその土地に導入された鉄道「新型車両」をキッカケに友情を育むという心温まる1席。以上3席のうち1席はネタおろしの新作らしいが、オンラインなのでどれがそうなのかは分からず。
(以下の題名はいずれも勝手につけたもので、判明したら修正する予定)
①相鉄線乗り入れ騒動顛末記(多分新ネタ)
②福岡ホテル戦争
③鶯谷から来た転校生
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