佐伯 泰英 著
双葉文庫
31.32巻・2冊 上下巻で刊行。
ネタバレです。
未読の方は絶対に以下、読まないでくださいませ。
初読の後、感想を書こうとして書けず、再読してしまった。
読みながらたくさんの想いがこみ上げてきて収拾がつかない状態。
1行読んでは気持ちを書く?
そんな訳にはいかないから、とにかく今の気持ちをまとめてみる。
では。いきます。
再度確認。以下ネタバレです。ご注意ください。
上巻は、いろいろな感情でこころが揺れた。懐かしかったり優しかったり苦しかったり辛かったり・・・・
下巻は、すべてをひっくるめて、辛さと苦しさでこころが大揺れになった。
上巻。
人々との会話の端々にその後の暗示?や、懐かしさや厳しさ、温かさを感じた。
刀の研ぎ師鵜飼百助は、あの佐々木道場建て増しの時に出てきた刀剣2本をいよいよ研ぐという。これからの佐々木家に必要だと感じている、と。
そして、丸目歌女との戦いの後、佐々木道場の門弟といえども、何となく嫌な人がいる?と思うと、ここで思いがけない大きな力として助けになるのが、小田平助。
長年流浪の旅をしてきた彼は、佐々木親子が真っ直ぐすぎるがゆえに生じる弱点を、最高の形で補佐していく。
そこに。
場面変わってなんと、懐かしい痩せ軍鶏、辰平が登場。
彼が
「江戸神保小路直心影流尚武館佐々木玲圓の門弟松平辰平にござる」
と言い、
「ならばそなた様は坂崎磐音さまをご存知か」
と返されたとき。
もう、あまりの懐かしさに涙。
坂崎の嫁となったおこんさんと共に江戸に帰る途中、磐音が坂崎として立寄っている福岡。
辰平は修行の旅をしながら、磐音の人柄が残していった温かさに触れる機会を得るんだね。
もちろんそれは磐音も予想のできる足跡で、だからこそ、いつか来る彼に、と手紙も送っているのだけれど、電話も携帯も車も飛行機もない時代だって、こうしてきちんとつながっていられる。
すごく辰平の場面はこの巻を読んでいくときに救いになった。
何も捕らわれずに剣術の修行のみをし、上達を目指して一心に生きる。
坂崎磐音が目指したかった、これは1つの道だったのかもしれない。
様々に絡み合った網の中に、納得ずくで入った佐々木磐音には叶わない、夢。
そして。
物語は嫌でも進んでいく。
鷹狩りを好む家基さまを巡る攻防。
この結果は史実として明らかで、だから最後がどうなるか?は承知の上で作者も読者もいるわけだけれど。
そこまで、どんなことがあるのか?そこを色々思いつつ読んでいくのだけれど。
上巻ラスト。
おこんが攫われる。
その時、ほんとうに思いもかけず金兵衛さんが武家に嫁に出した父親の覚悟を語る。
佐々木家がどんな立場なのか、すべて承知の上で磐音に嫁がせたのだと。
どんなことが起ころうと、それが礎になるのならばおこんも本望だろう、と。
もう、この親子。
助かった後のおこんさんもそうだけれど、本当に磐音を信じて曲がらない想いを持って決意した娘を、心の底から信じて送り出す親。
町人だって、いや町人だからこその必死の覚悟。
これは、武家社会にのみに生きていたのならば、磐音は気付くことの出来なかった類の覚悟だろう。
見事としか言いようのない二人の覚悟にこころが震えた。
そして、金兵衛さんの前で慟哭する磐音さんにも・・・。
上巻は江戸庶民、西国の風景、そして将軍家を巡る攻防と様々な風景が上手くかみ合わさって、重苦しいだけではない、とてもバランスのいい1冊だったと思う。
そしてこのバランスの良さがあるからこそ、下巻につながる、つながれた気がする。
上下巻2冊同時刊行。
これが何となく納得できるお話の流れ。
下巻は。
はじめはいつものペースとあまり変わらず、
一瞬家基さんにたどり着くのか?と思いつつ、読み進める。
でも。
玲圓が磐音に当代を譲り隠居。
佐々木家の隠し紋や隠された墓地の存在。
そこかしこに散らばる義父の覚悟と磐音の覚悟。
怒涛のように急流を駆け下る最終章。
下巻は、険しい山岳を駆け下る濁流のような、そんな勢いと正負のエネルギーのある巻だった。
もちろん、家基公の死は最初から覚悟の上の今回。
田沼が勝った時点で、佐々木道場は閉鎖になるであろうことは想像できた。
けれど。
そこまでいくのか。
呆然としてしまったのが、玲圓とおえいの自裁。
武家社会を描く上では避けられなかったのか。このことは。
若い二人が、いまとても重い荷を背負うことになった。
その先に光はあるのか。
淡い、ほのかな一点のあたたかさが灯りはしたけれど。
「更なる旅路、共に歩むならば」
下巻帯のことば。
これがとても切なく胸に迫ってくる。
どこに向かい進むのか。これからのふたりは。
(見えているとは思うけれど、それはまたあまりに厳しい道。)
最後に1つ。
磐音が危うく剣の道に外れた行いをしそうになった時。
正眼に包平を構えた途端に「縁側で居眠りをする年寄り猫」の状態に戻れたことを
心底うれしく思った。
そうなるはずはない、とは思っても、確かにあの時のあの暗い心根は、、捕らわれてしまうことだってありうることだったから。
佐伯先生は一番辛い道を二人に歩ませるんだね。
これから先。
何が起こっても、どんな方向にお話が進んでも最後まで。
見届けようと心に決めた。
いつかたどり着く旅路の果てに幸があることを祈って。
双葉文庫
31.32巻・2冊 上下巻で刊行。
ネタバレです。
未読の方は絶対に以下、読まないでくださいませ。
初読の後、感想を書こうとして書けず、再読してしまった。
読みながらたくさんの想いがこみ上げてきて収拾がつかない状態。
1行読んでは気持ちを書く?
そんな訳にはいかないから、とにかく今の気持ちをまとめてみる。
では。いきます。
再度確認。以下ネタバレです。ご注意ください。
上巻は、いろいろな感情でこころが揺れた。懐かしかったり優しかったり苦しかったり辛かったり・・・・
下巻は、すべてをひっくるめて、辛さと苦しさでこころが大揺れになった。
上巻。
人々との会話の端々にその後の暗示?や、懐かしさや厳しさ、温かさを感じた。
刀の研ぎ師鵜飼百助は、あの佐々木道場建て増しの時に出てきた刀剣2本をいよいよ研ぐという。これからの佐々木家に必要だと感じている、と。
そして、丸目歌女との戦いの後、佐々木道場の門弟といえども、何となく嫌な人がいる?と思うと、ここで思いがけない大きな力として助けになるのが、小田平助。
長年流浪の旅をしてきた彼は、佐々木親子が真っ直ぐすぎるがゆえに生じる弱点を、最高の形で補佐していく。
そこに。
場面変わってなんと、懐かしい痩せ軍鶏、辰平が登場。
彼が
「江戸神保小路直心影流尚武館佐々木玲圓の門弟松平辰平にござる」
と言い、
「ならばそなた様は坂崎磐音さまをご存知か」
と返されたとき。
もう、あまりの懐かしさに涙。
坂崎の嫁となったおこんさんと共に江戸に帰る途中、磐音が坂崎として立寄っている福岡。
辰平は修行の旅をしながら、磐音の人柄が残していった温かさに触れる機会を得るんだね。
もちろんそれは磐音も予想のできる足跡で、だからこそ、いつか来る彼に、と手紙も送っているのだけれど、電話も携帯も車も飛行機もない時代だって、こうしてきちんとつながっていられる。
すごく辰平の場面はこの巻を読んでいくときに救いになった。
何も捕らわれずに剣術の修行のみをし、上達を目指して一心に生きる。
坂崎磐音が目指したかった、これは1つの道だったのかもしれない。
様々に絡み合った網の中に、納得ずくで入った佐々木磐音には叶わない、夢。
そして。
物語は嫌でも進んでいく。
鷹狩りを好む家基さまを巡る攻防。
この結果は史実として明らかで、だから最後がどうなるか?は承知の上で作者も読者もいるわけだけれど。
そこまで、どんなことがあるのか?そこを色々思いつつ読んでいくのだけれど。
上巻ラスト。
おこんが攫われる。
その時、ほんとうに思いもかけず金兵衛さんが武家に嫁に出した父親の覚悟を語る。
佐々木家がどんな立場なのか、すべて承知の上で磐音に嫁がせたのだと。
どんなことが起ころうと、それが礎になるのならばおこんも本望だろう、と。
もう、この親子。
助かった後のおこんさんもそうだけれど、本当に磐音を信じて曲がらない想いを持って決意した娘を、心の底から信じて送り出す親。
町人だって、いや町人だからこその必死の覚悟。
これは、武家社会にのみに生きていたのならば、磐音は気付くことの出来なかった類の覚悟だろう。
見事としか言いようのない二人の覚悟にこころが震えた。
そして、金兵衛さんの前で慟哭する磐音さんにも・・・。
上巻は江戸庶民、西国の風景、そして将軍家を巡る攻防と様々な風景が上手くかみ合わさって、重苦しいだけではない、とてもバランスのいい1冊だったと思う。
そしてこのバランスの良さがあるからこそ、下巻につながる、つながれた気がする。
上下巻2冊同時刊行。
これが何となく納得できるお話の流れ。
下巻は。
はじめはいつものペースとあまり変わらず、
一瞬家基さんにたどり着くのか?と思いつつ、読み進める。
でも。
玲圓が磐音に当代を譲り隠居。
佐々木家の隠し紋や隠された墓地の存在。
そこかしこに散らばる義父の覚悟と磐音の覚悟。
怒涛のように急流を駆け下る最終章。
下巻は、険しい山岳を駆け下る濁流のような、そんな勢いと正負のエネルギーのある巻だった。
もちろん、家基公の死は最初から覚悟の上の今回。
田沼が勝った時点で、佐々木道場は閉鎖になるであろうことは想像できた。
けれど。
そこまでいくのか。
呆然としてしまったのが、玲圓とおえいの自裁。
武家社会を描く上では避けられなかったのか。このことは。
若い二人が、いまとても重い荷を背負うことになった。
その先に光はあるのか。
淡い、ほのかな一点のあたたかさが灯りはしたけれど。
「更なる旅路、共に歩むならば」
下巻帯のことば。
これがとても切なく胸に迫ってくる。
どこに向かい進むのか。これからのふたりは。
(見えているとは思うけれど、それはまたあまりに厳しい道。)
最後に1つ。
磐音が危うく剣の道に外れた行いをしそうになった時。
正眼に包平を構えた途端に「縁側で居眠りをする年寄り猫」の状態に戻れたことを
心底うれしく思った。
そうなるはずはない、とは思っても、確かにあの時のあの暗い心根は、、捕らわれてしまうことだってありうることだったから。
佐伯先生は一番辛い道を二人に歩ませるんだね。
これから先。
何が起こっても、どんな方向にお話が進んでも最後まで。
見届けようと心に決めた。
いつかたどり着く旅路の果てに幸があることを祈って。