新井 素子 著 集英社 コバルト文庫。
「あたしの中の・・・」の中に収録されている中編作品です。
近未来。第三次世界大戦後のアメリカで、ある科学者二人が話しています。
一人は日本人。家族全員を戦争で失い、失意に暮れる遺伝学者。立木広明。
そして、彼の命の恩人ともいうべき友(立木をアメリカに引き止めている間に、戦争がどうしようもなく拡大して、東京が全滅しちゃったんですね。)、アダムスミス・グリーン。
二人の「エデンプロジェクト」という、人類再生に関する会話から、一気に366年後の未来に飛び、お話が始まります。
地球は戦争でどうしようもなく汚染され、人の遺伝子もかなりな確率で壊れており、そんな中、エデンと呼ばれる大きな壁で囲まれた「都市」の中でのみ、人々が生きている時代。衣食住から政治、経済まですべての管理はメインコンピューターに任されていて、人間は何もしなくても注文すれば支給される世界。
その1つ、エデン28。
そして、その中にある収容所「C棟」
そこに暮らす人々は、みな、幼い頃に、何らかの理由から都市生活になじめず、「規格外品」としてはみ出されてしまった人々。但し、攻撃的な人格ではなく、たとえば「外」から入ってきた山猫を庇って攻撃ロボットに対抗してしまった女の子、とか、「ヒトタンパク」と呼ばれる人から作られる蛋白源で作られて支給される食事を頑なに拒んだ男の子、とか、ある意味、「自分」を頑固なまでに持っている、意志の強い人格が集められる場所。
プシキャット、山猫さん、せんせ、菜食主義者、ティンカーベル。
それでもコンピューターの支配のまま、せまい収容所の中だけで暮らしていたこのメンバーにある日「新入り」が来る。
新入り、ミュウ。ここに収容される時期はみな、幼い子どものことが多いのだが、彼女は15.6歳になっており、そもそもそこから他のメンバーとは違っていた。そして、彼女が来た後、3回も続けて人身事故が起こる。機械に万全の管理をされていて滅多に事故など起こるはずの無い世界なのに。
そして。。。彼らは自ら行動を起こす・・・・・
壁の、意味。
このお話の大元には、これがある。
壁で囲むということには、二つの意味がある、と。
1つは、外部の危険から身を守るため、という意味。
そして、もう1つは「危険なものを外に出さない」という意味。
エデンプロジェクト。一見「人類を救うための計画」であるここに、隠されたもう一つの意味があり、すべてはそのための準備。遠大な、膨大な時とお金と、多分犠牲の上に立つ計画。
人はどうしようもない「種」である・・・ということを前提に書かれているのだけれど、、そこを新井素子はさらっとスルーさせる。重苦しいものにならない。
「やっちゃおやっちゃお!」っていうことが、ほんとにできてしまいそうな、、あくまでもとても「明るいお話」になっている。
すごい、、と思う。
テーマはめちゃくちゃ暗い、ぞ?だめだめ人類だって、、いってるぞ?
でも。
新井素子が描くと、お話はこうなる。
「きっと、きっとなんとかなる。今、どんなにだめでも、きっと未来は何とかなる」
恩田陸の小説(タイトルは言いませんけれど、かなりえげつない(!?)部類に入るものでね。彼女の世界感、表現力がなまじしっかりしているだけに、気持ちが入り込んですっかり参ってしまいましたんです。夢にまで出てきてしまって・・・
)で撃沈していた気分を、一気に持ち上げてもらいました。
ああ、、
やっぱり、好きだ。新井素子!
新装版のおかげで、久々に読み返した作品。
ほんとに、この1冊を読むだけで、この作家のすごさがしみじみとわかる。
今夜はいい夢、見られそうです。