佐伯 泰英 著 双葉文庫
読み終わった今、無償に第一巻「陽炎ノ辻」を読みたくなっている。
なんでかなあ?
と思ってふと気づく。
以下、
ネタバレありです。ご注意くださいませ
。
今回の物語。
いままで辿ってきた磐音さんの過去が一気に集束する。
いや、磐音さんだけじゃない、周りの人々にとっても。
家基様の影警護をしていなければ、今の彼らは存在していないかもしれない。。という所まで。
そんなこんなで過去の回想シーンも多く、
それが余計に1巻から読み直したくなってしまう気持ちにさせられるのかもしれない。
けれど。
それは決して過去を懐かしんで振り返ってばかりいるのではなく、
そこがあったから今があり、そしてこの先がある。
自分達の未来を見据えて、先に進むための振り返り。
逃避行は非常に今回特におこんさんにとって厳しいもので。
けれどそれすらも、自分達が生まれ変わるために必要なことだったと言い切れる。
そんな前向きな物語。
この先へ。
ちょっと雰囲気がここ数巻と違う「動き出す前」という位置にあるお話だった。
速水さまは甲府勤番に左遷になり、命を奪われることがなくてほっとひと安心・・・。
小田平助さんが影警護として甲府までつき従ってくれたのも嬉しい。
(この影警護の場面、良かったなあ。今津屋の御寮でただ主の帰りを待つだけでなく、待つ側には待つ側の戦いがある、っていうことまで描いてくれていた。平助さんは密かに大ファンなのでっ。いつかまた、見事な餅つきを見せてもらえることを祈っている。)
今津屋吉右衛門さんはお艶さんとの大山詣で持ち帰った木太刀を幸吉に託し、
今回は金兵衛さんに幸吉、武左衛門が付き添っての大山詣。
お艶さまの名前が思いがけず出てくるし、そうすると一気に記憶は「雨降ノ山」へ遡る。
あの時お艶さまを背負った背に、磐音さんは今回身重のおこんさんを背負って隠れ郷へ。
その姥捨の郷に受け入れてもらえたのは、家基さまの影警護を務めたお陰といってよく。
それは霧子を助けた弥助のお陰ともいえて。
因果は巡る。
過去の行いが現在に還って来る。
それだけを描けるほどに長い時間がこの物語の中には流れているのだなあ・・・と思う。
身重のおこんさんにとってはあまりに過酷な旅程であり、
文字通り、命を賭けて乗り越えなければならない旅になったけれど。
高野山の懐深く隠された里で、
弘法大師さまの深い守りの中で、
磐音さんとおこんさんの次の命が誕生する。
なにやらあまりに恐れ多い・・・ようにも感じてしまうのだけれど、
このふたりならば、それもありか?と納得させられてしまったり。
嫡子誕生。
赤ちゃんは男の子だった。おめでとうございますです。
この先、まだ数年。。ん?4.5年くらい?
磐音さん一家にとって大変な時期がつづく。
息子の手を引いて江戸に帰れる日はいつ?
金兵衛さんや今津屋の面々、柳次郎さん一家に大手を振って会えるのはいつ?
でも。
物語が動き出す。その直前のゆったりとした日々。
あと1冊くらい、磐音さん夫婦とかわいい赤ちゃんのほのぼのな日常を読んでみたいなあ。。とも思ったりして。
(いや、主旨が違うだろーって石が飛んできそうですが、ね。)
長い時間が流れた・・・と思っていたけれど、実はまだ辰平が関前から武者修行の旅に出て2年なんですね。
(辰平、利次郎の合流場面は、田沼に知られないか?とハラハラしましたですよっ。でも、このふたりの上にもとてもいい時間が確実に流れていた。まっすぐに突き進む若者のエネルギーはきっと磐音さんにもいい刺激になるんだろうな。)
坂崎から佐々木磐音になり、おこんという伴侶を娶り・・・でも数瞬も落ち着いていられない日々のまま今は高野山に。
思い返すとなんとも激動の行き方なのに、その時々の坂崎磐音という人物は、その時々に居場所を見つけそれなりに馴染みほっこりとしつつ生きている。そう思わせつつ緊張の連続だった日々。
姥捨の郷で、少しでも磐音さんの、おこんさんのこころの安息も得られますように。
郷を離れたら始まるであろう、戦いの日々の前に少しでも。
2回繰り返して一気に読んで、もう1回行くか?と思いつつ、
すこし遡った1冊を手にしている。
丁度、「紅椿ノ谷」にポチっと頂いたっていうこともあり。
最初はそのままストレートに「紅椿」と思ったけれど、ふと、その1冊前を手に取った。
・・・・・出だしがお艶さまの三回忌法要の前だった。
なんか、「縁」だ・・なんて思うのは、、考えすぎ、かな