☆いつ施設に入るかという問題
私は今年65歳、持病があっても元気だし、ボチボチ仕事もしている。
でも、20年ほどの自立期(自分で身の回りのことを処理できる期間)の老後を経て、
最後は、長い短いはあるが、必ず誰かの手を借りる=介護が必要となるだろう。
介護には、大きく分けて「在宅介護」と「施設介護」がある。
ファイナンシャルプランナー(以下FP)としてよく問われるのは、介護費用のことだ。
最近よく使われるデータとして「生命保険文化センター(2018年度)」の調査がある。
私の実感もそれに近いので、紹介させてもらうと、
「在宅介護」が月額4.6万円、「施設介護」が月額で11.8万円。
平均介護期間は、4年7ヶ月。
さらに、それぞれ介護が始まる段階で、
「在宅介護」の場合は、リフォーム・設備代がかかり、
「施設介護」では、入居金が必要な場合もあるので、
それらの一時金と月々の費用を足すと、概算で介護の平均総額は300万~1500万円となる。
これが高いか安いかは、人の懐具合による。
平均介護期間は、4年7ヶ月だが、
介護が始まって、すぐ亡くなる方もいれば、
10数年寝たきりの人もいる。
介護に関しては、人それぞれなので、平均値は本当に目安にすぎない。
「在宅介護」は、支援の種類や金額がある程度決まっているので、わかりやすいが、
問題なのが「施設介護」だ。
一口に介護施設といっても、介護度や必要となる支援や費用の多寡により、
特養、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅など10種類ほどに細分される。
選択肢も多くなってきた分だけ迷うし、入りたくても費用や空きがないと入れない。
肝心なのは、施設入居の場合、
誰が入居を決め、いつどこの施設に入るかという点だ。
私のまわりを見ても、本当に適切な時期に、適切な施設に入るのは、
かなり至難の業なのだ。
基本的には、自分の受ける介護は、自分で決めるべきだと思っている。
ただ、積極的に自分から進んで、施設に入る高齢者は少なく、
往々にしてぎりぎりまで我慢するため、
まわりが見るに見かねて、段取りする施設介護になりがちである。
こうした「遅すぎる介護」は、本人にとって不本意なものとなる。
一方まれに「早すぎる介護」で、老後がつらくなるという場合もある。
そこで私が知る事例で施設入居時期の問題を考えてみたい。
☆遅すぎた介護
まず遅すぎた介護だ。
この事例はFP相談でなく、友人のY子からの愚痴の混じった相談だった。
ただとても記憶に残り、かつ残念な結末であったので紹介する。
Y子と同じ市に住むA代さんという方が居た。
Y子の伯母である。
A代さんは、子供2人を一人前に育てあげ、
70歳の時に夫を亡くし、その後94歳で亡くなるまで、ほぼ四半世紀をひとりで暮らした。
A代さんの住まいは、一戸建ての持ち家、
勤め人だった夫の遺族年金、それに節約家の夫が貯めた金融資産(推定5000万円)があり、
つましい生活が習い性で、生活費の支出も少なく、
おまけに体が丈夫で、これといった持病もなかった。
健康でお金をもっている年寄りは強気で、
Y子がよく聞いた70~80歳の頃の口癖は「誰の世話にもならない」だった。
A代さんは、子供や孫の来訪を喜ぶ人ではなく、
年に数回アリバイ的に帰る子供たちのことも、快く思っていなかったようだった。
「お金がかかるし、ひとりの気楽な生活を乱されたくない」と言っていた。
子供たちのほうも「元気だから、ほうって置いても、ひとりで大丈夫」
と思っていたようだ。
こういう状態が何年も続き、連絡も時々の電話のみとなり、行き来はなくなった。
大げんかしたわけでも、何か事件があったわけでもないが、お互いに疎遠になっていった。
元気なうちはよかったが、85歳を過ぎたあたりから、
だんだんとひとり暮らしが、厳しそうな様子になったので、Y子やご近所が民生委員に相談し、
デイサービスや宅配弁当やヘルパーさんなどの生活介助を勧めたが、
「他人が、家に上がるのは嫌! だいたい掃除や炊事に、お金なんて払えない。もったいない」
とニベもなかった。
本人が強く拒否すれば、他人は手出しできない。
介護保険の認定も年々厳しくなっているが、
こうした介護保険未満の自立したひとり暮らしのちょっとした生活支援は、自費になる。
もし、施設介護をのぞんでも、比較的費用の安い特養老人ホームは
要介護3以上でないと入れないし、空きも少ないので、
自立型有料老人ホームかサービス付き高齢者向け住宅(食事付き)という選択肢になる。
その場合の費用は、ランクにもよるが、入居金を別にして毎月15万~30万円だ。
☆子供にも熱意がなかった
ほとんどの場合、高齢者がこういう状況になると、
離れて暮らす子供や、身寄りがなければ親戚、友人、それもいなければ、公的機関に連絡が行く。
子供や親戚や福祉の担当者が、介護の必要性を説いて、
高齢者も、まわりに見放されたくないから、渋々受け入れるものなのだが、
A代さんの場合は、そうならなかった。
なぜかというと本人が嫌がり、子供たちに説得する熱意がなく、
かつ親の財産が減るのを嫌がったからだ。
介護の世界では、子供は絶対的権限を持つようになる。
どんなに親切なケアマネでも、どんなに素晴らしい施設でも、
子供の意見を無視しては、介護できない。
認知症などの場合はもっと顕著で、本来なら最も尊重されるべき本人の意志より、
子供の意見が通る。
しかも、残された財産が相続対象になるので、お金に関しては実は子供は究極の利害関係者なのだ。
では、A代さんはどうなってしまったのか。
☆家はゴミ屋敷状態に
A代さんが頑固に「まだ、大丈夫」、「家にいたい」というのを、
子供たちは、自分に都合よく解釈した。
まわりの心配を無視し、現実を直視することなく、
「本人が言うから大丈夫だろう」と放置した。
ひとり暮らしを続けてくれれば、大してお金はかからない。
とくに90代になってからの生活は、悲惨だった。
手押し車を押して、自力で買い物はできたが、
一歩家に入れば、ゴミの分別ができないので、缶や瓶が散乱し、
掃除はしないので、汚れ放題、垢じみた服は脱ぎ捨てたまま、お風呂はほとんど入らず、
冷蔵庫は、賞味期限切れのもので、一杯の状態。
晩年まで、確かに自由で自立していたが、とても人間らしい暮らしではなかった。
そして、やっと子供たちが、介護認定を受けさせ施設に入ったのは、死ぬ一年前だった。
この例のような「遅過ぎた介護」は、
本人が介護を受け入れる覚悟がなかったのが、一番の原因だ。
自分で家事や介護を無償で担ってきた人は、一般的に家事や介護に対する評価が低い。
家族が無償で、家事や介護をやるのはアリだが、
他人にお金を払ってやることではないと思うようだ。
その上、節約家は、往々にして有効にお金を使うという発想がない。
また、なまじお金を持っていると、猜疑心が強くなり、他人との交わりを避ける。
そして子供が非協力であったら、いくらお金があっても、介護にはたどり着けない。
これは特別な事例でなく、この程度の頑固な年寄りは、よくいるし、
親に無関心なくせに、遺産はできるだけ欲しいという子供もいる。
☆早すぎた施設入所
次は早すぎた介護の話。あまり例はないが、ご紹介する
(FP相談の事例を元にしているが、守秘義務があるのでかなり内容を変えてある)。
S子さんという公務員だった方のお話だ。
S子さんは高校卒業後、実家を離れ都会の大学へ行き、その地で就職した。
両親は、すでに他界、田舎の兄弟とも疎遠。
独身で子供はいない。
60歳で退職後、数年は非常勤講師をやって、65歳からは、本格的年金暮らしに入った。
そのころから自分の老後が心配になり、本を読んだり、セミナーに出たり、情報を集め出した。
そこで出した結論が「頼れる身寄りがいないから、
自分がしっかりしているうちに、終の棲家を探そう」ということだった。
健康なので、選択肢は自立型の有料老人ホームか食事付きサービス付き高齢者住宅。
早速、資料を取り寄せ、実際に自分で行って見学した。
老人ホームといっても、自立型なので、まわりは元気な高齢者ばかり、
狭いけど全室個室でありプライバシーはあるし、
建物は清潔、見守りや食事の提供はあるし、サークルもあり、
外出も届ければ自由で、介護が必要になったら、系列の介護付きホームに移れる。