
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide
3年ごとに改正される介護保険法により、介護保険制度は変わる。
毎回、利用者の負担額が増えているが、
2020年の改正では「負担増がついに、低所得者にも及び始めた」
と批判の声が出ている。
ライターの相沢光一さんが、キャリア25年以上のケアマネジャーに
「介護とお金」を巡る背景を聞いた――。
■「国は低所得者層イジメをするのか」介護負担増に憤慨する声
国の「介護保険制度」は、高齢者などの要介護者が受けるサービスの費用を給付し
介護生活を支えるのが目的です。
この制度の規定を定めた介護保険法は、3年ごとに改正されます。
近年は、そのたびに利用者の負担増につながる改定が行われています。
介護保険制度が始まった2000年以降、自己負担額は1割でしたが、
2014年の改正(施行は1年後)では、年金収入などが単身の場合、
年間280万円以上の要介護者は2割負担に、
2017年の改正では、340万円以上の人が3割負担になりました。
高齢化が進み、要介護者も増え、医療や介護といった社会保障費が膨らみ続け
財源が逼迫(ひっぱく)している状況では、
「収入によって、応分の負担をしてもらおう」
という規定もやむをえないことと受け入れられてきました。
ところが、2020年の改正では、負担増がついに、低所得者にも及び始めました。
「補足給付」という制度があります。
2000年の介護保険創設時、特別養護老人ホームなどの高齢者施設の食費と居住費は
保険給付の対象でした。
しかし2005年、在宅で介護を受ける高齢者との公平性を保つという理由から
自己負担になったため、施設に入所している低所得者の救済策として
食費と居住費を助成する「補足給付」が設けられました。
対象となるのは、収入が少ない住民税非課税世帯。
単身の場合、預貯金が1000万円以下の人で。
ところが、それが今回(2020年)の改正では、
この預貯金額の要件が、一気に650万~500万円以下に引き下げられました。
また、この要件を満たしていても、年金などの収入が120万円以上ある人は、
1日の食費が650円から、1360円に引き上げられました。
2倍以上の増額で、ひと月にすると約2万円もの負担増になります。
補足給付を受けていた人は全国で約100万人いて、
このうち約27万人が今回の制度見直しによって負担が増えたといわれます。
「家計が苦しいから、補助を受けていたのに・・・」、
「国は低所得者層イジメをするのか」と頭を抱え憤慨する施設入所者、家族も少なくないようです。
■「ひと月6万円以上も多く払わなければならなくなった」
この改定を、介護現場をよく知るケアマネジャーは、どう見ているのでしょうか。
「実際に負担が増えたのは、2021年の8月からです。
1年前に制度見直しが決まっていたんですが、利用者さんはそういう情報に疎いですから、
いきなり補助を打ち切られたような気がするわけです。
食費に加え、居住費も自己負担になったケースでは、
ひと月6万円余りも多く払わなければならなくなった方もいます。
突然、これほどの負担増になれば、確かにつらい。
『ひどくないですか? 』という声が私の耳にも届いています」
とは、ケアマネ歴25年の男性Hさん。
続けて、このように語ります。
「ただし、第三者的に見れば、見解は異なると思います。
たとえば預貯金が800万円ある施設入所者がいたとします。
これまでの規定では、この方も補足給付の対象で、居住費と食費が安く抑えられていた。
年金などの収入にもよりますが、
その恩恵によって、預貯金をそれほど減らすことなく、キープできたはずです。
でも、世間的には800万円も持っている人が、
高齢者施設の介護で大きな恩恵を受けるのは、いかがなものかと受け止められるでしょう。
厚労省の考え方もそれに近いと思います」
入所者本人にとって、それは老後のためと思って、コツコツ貯めてきた大事なお金でしょう。
病気になって、思わぬ医療費がかかるかもしれませんし、
死期が近づいていることも頭にある。
葬儀代などで家族に迷惑をかけたくない、
少しは遺産を残したいという思いもあるはずです。
ただ、それにしたって「800万円」は妥当か?
と思う人も多いかもしれません。
預貯金額の要件で今回の改正を見ると、1000万円以下だったのが、
年金などの収入額によって650万円以下、550万円以下、500万円以下の3段階になりました。
国の判断としては、1000万円近いお金を持っている人に、補助する必要はない、
500万~650万円あれば、そうした費用は、なんとかまかなえるはずで、
その額を下回る状況になった場合は、補助しますよ、という改正だったというわけです。
「この問題には、家族の意向も絡んできます。
親などが高齢者施設に入所している場合、
居住費・食費の支払いを含め資金管理は、家族がしていることがほとんどです。
入所者本人と同様、亡くなった時の出費が、頭に浮かぶわけです。
加えて家などの資産がある場合は、相続税の心配もある。
ただ、日頃、そういうお金のことは、あまり考えたくないもの。
世間的な相場は、なんとなくわかっていても、
具体的にいくらかかるか、シミュレーションなどしない。
その時に備えて、親の預貯金は、手をつけたくないと思うわけです。
また、心のうちには、できるだけ残して、
もらえる遺産額は減らしたくない、という意識もあるはずです」
■負担増を回避できるかもしれないとっておき“防衛策”
そんなところに、負担増が襲ってきた。
文句の一つもいいたくなるというわけです。
「そうはいっても、社会保障費が逼迫していることは事実。
介護保険制度を維持するためにも、改正には従わざるを得ないというのが、
われわれ介護業界にいる者の共通した見解です。
補足給付の要件に該当していない多くの人が、
全額自己負担を受け入れているわけですしね。
これまでその恩恵を受けてきた人が、異議を唱えても通りにくいのかもしれません」
また、要件に見合うよう預貯金を過少申告したくなるかもしれませんが、
そうした不正が見つかると、大きなペナルティ(加算金が課せられる)を受けるので、
絶対にしないほうがいい、とHさんは話します。
しかし、要件を満たすためにできる“防衛策”はあるそうです。
「親の死後などにかかる費用を“先払い”して、
預貯金額を、要件を満たす500万~650万円以下にするんです。
かける費用としては、たとえば司法書士。
親御さんが亡くなった後、相続などの手続きに多くの書類が必要になり、
司法書士を頼む必要が生じます。
この司法書士には、事前予約というか、契約して料金の前払いができるのです。
その際、相続税がいくらぐらいかかるのか、調べてもらい、
もしかかるようだったら同様に、税理士の事前予約と報酬の前払いもしておきます」
「また、葬儀代は、どこの葬祭業者も行っているように、事前の支払いができます。
葬儀の規模や内容によって、払った金額以上にかかることがよくありますが、
この金額の範囲で済ませてくれ、と言っておけば大丈夫です。
お坊さんへのお布施や戒名代などもかかりますが、
これも相談次第では、支払いを済ませておける場合があるそうです」
「こうした方面の支払いは、いずれも10万円単位と高額になるので、
すぐに預貯金は、要件を満たす額までになるはずです。
親御さんが健在なうちに、こんな手続きをしていたら、
不謹慎だという思いもあるでしょうが、補助を受けられなくなって、
居住費や食費で預貯金が、どんどん目減りしていって、
亡くなった後の出費を心配するよりは、いいのではないでしょうか」
ともあれ介護の負担増が、低所得者層に及び始め、こんな防衛策を考えざるを得なくなるほど、
社会保障費が逼迫する事態になっていることは、覚えておいたほうがよさそうです。・・ 》
注)記事の原文に、あえて改行を多くした。

介護のコストの利用者の負担の変貌、そして今回の改正に伴う問題点・・
そして"負担回避のウルトラ対処策・・に関して、多々教示されたりした・・。
知らなかったことが多く、私は微苦笑しながら、多岐に及び学んだりした。