何だ、これは!奇異な、それでいて不思議な感動を呼び起こす造形美に戸惑った。
毎朝の散歩は全く同じコースなのに、日々何か新しい発見がある。体感温度にも、日差しにも、吹く風の揺らぎにも、明らかな変化がある。真冬の午前6時半は凍えるほどに寒く、手がかじかむほどに冷たい。薄明にも遠く、まだ真っ暗だった。だから黄色のウインドブレーカを羽織って、車から自衛する。裏山から日が昇るのは9時過ぎだった。
同じ時間なのに、今ではもう日の出が過ぎて、歩く背中をほんのり温めたり、真正面からの光がまぶしくて、目をそばめさせたりする。移ろう足取りは少しずつなのに、季節は立ち止まることなく歩き続けていた。ウインドブレーカーも、白い袖の着いた黒地に替えた。
道路の右側を歩いていたのを左側に変えてみるがけでも目線が変わり、町内の屋並みの壁際や庭先に、思いがけない花を見付けたりする。
有酸素運動の速足と、クールダウンのそぞろ歩きを交えながら、僅か30分あまり3千数百歩の日常生活圏巡りを楽しむ毎日だった。
最後の坂道を一気に登り上がって角を曲がると、我が家までは150メートルほどの仕上がりとなる。右手の玄関先、かつて自治会長をやっていた頃、子供会でお世話になっていたIさん宅……いつも、季節ごとの花々で飾られているお宅である。
不思議な花の蕾を見付けた。早速、彼女にメールして名前を尋ねた。
「紫の大きな蕾でしょ~。私も名前がわかりません。宿根草で、毎年この時期にステキな花を咲かせてくれます。何とも言えないステキな紫で、私も好きなんです」
初めて見た蕾だった。勿論、花が咲いた時の姿も想像がつかない。わからないとなると、気になる。このままでは落ち着かない。山野草の図鑑はいろいろ持っているが、これはどう見ても外来の園芸種である。
夕飯後、ネット検索を始めた。季節で探し、外来種で探し、園芸種で探し、ながら見のテレビのドラマの筋が見えなくなった。幸か不幸か、今は潰すのに困るほど、時間だけはたっぷりある。
最後に、「紫色の花」で検索した。とんでもないほどの花の写真が並ぶ中に、遂に見付けた!
「シラー・ペルミアナ」 Scilla peruviana 青紫の小花が傘状に集まって(散形花序をなして)咲く。シラーの中ではやや大型になる種。
学名:Scilla
科名 / 属名:キジカクシ科 / ツルボ属(シラー属)科名は、ヒアシンス科、ユリ科で分類される場合もある。
シラーは星形や釣り鐘状の小花が、房状や穂状(散形花序または総状花序)に咲く。ユーラシア大陸、南アフリカ、熱帯アフリカに100種以上の原種があり、開花期や休眠などの特性は種によって異なる。数種の原種(ペルビアナ、シベリカなど)と園芸品種がよく知られ、花壇やコンテナ、切り花などに利用される。
早速、彼女にメールして教えた。弾んだ返事が来た。
「そうです!そうです!とても難しい名前ですね!覚えられるか心配です(笑)」
毎日の散歩が楽しみになった。少しずつ開いていく花が、いったいどんな造形美を見せてくれるのだろう。咲いたら、もう一度ブログにあげよう。
(2020年4月:写真:シラー・ペルミアナ)