下村湖人著、 講談社学術文庫
下村湖人は、高校時代に読んだ『次郎物語』以来か。当時、教師や家族から、良い本と聞かされていたのが下地にあったのだろう。著者がいかなる人物かも知らず、一心不乱に読んだことだった。確か、ブームとはいかないまでも映画もいくつかあったと思うが。
今どき、論語など読む人がいるのだろうか。いるのである。サイトやブログを訪ねると思いのほか賑やかなことが判った。
今こそもっと読まれるべきだと考える人が多いのだろう。
著者は論語を自家薬籠中の物として、孔子の言説を中心にして自由闊達にイメージを膨らませて、判りやすい展開と文章で物語を創作している。仁だ義だ倫理だ道徳だと堅苦しく規範を説くのではなく、人としての生き方を自然体で理解に繋ぐ。
文革時代、徹底排除された儒教だが、北京五輪では、「四海みな兄弟」「和を持って尊しとなす」「友、遠方より来る、また楽しからずや」と重要なコンセプトの一つになった。中国政府は、世界の大学の中国語コースを「孔子学院」として積極展開中。
思うに、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想をテーゼとしてきた中国共産党は、急激に拡大する党への批判を、儒教をイデオロギーに組み込んで、或いは置き換えることによって、危機を回避しようとしているのではなかろうか。