処遊楽

人生は泣き笑い。山あり谷あり海もある。愛して憎んで会って別れて我が人生。
力一杯生きよう。
衆生所遊楽。

屈折率

2018-05-30 07:31:52 | 

著者 佐々木 譲

出版 光文社文庫

549頁

定価 950円

 

抽斗の整理中、思いがけずに図書券が出てきた。計3000円分。

近年、本はアマゾンで廉価の中古本を求めている。本屋で選ぶのが苦痛になってきたのと、ハードカヴァーは高いのがその理由。しかし、図書券は本屋まで行かねばならない。そこで、前日、新聞広告で見た佐々木嬢のこの本。コピーが巧みだったのか、著者の新分野の意欲作と思い込み、久しぶりの新刊定価購入に至った。

ところが、実は、講談社が99年にハードカヴァー03年に文庫で出していた。池上冬樹の解説で知る。

これまで読んできた、第二次大戦物や警察小説とは異なった世界ではあるが、佐々木節は快調。テンポがよく人物描写も判り易い。配置もぬかりない。何より会話シーンは映画を観ているようだ。

とりわけ、商社マンのなれの果てのガラス工場社長・安積啓二郎とガラス工芸家・野見山透子、二人の描写は、読む者(私だけかしら)に、憧憬と羨望を抱かせて止まない。この部分、息を詰めて読んでいたと言ったら言い過ぎか。

 

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酒とバラの日々  = Jazz for Biginners 4

2018-05-25 22:52:22 | ジャズ

 オスカー・ピーターソン・トリオの「酒とバラの日々」

     

“鍵盤の皇帝”オスカー・ピーターソンが、ファンのリクエストに答え、人気スタンダードやボサ・ノヴァを取り上げた人気アルバム。パワフルで軽やかでスピーディな演奏は聴いていると心が弾んでくる。ジャズ入門としても、おススメの一枚。加えて優秀録音賞受賞作品。(新譜案内より)

ベースのレイ・ブラウンとドラムスのエド・シグペンとのユニットは、”ザ・トリオ”と呼ばれ、長い間、人気のトップを走り続けた。

 これまで曲名でピック・アップしてきたが、この先は、アルバム名もありとする。ジャズに没頭した学生時代は、媒体はLPレコードだけだった。両面で6~10曲程度。売るのも買うのも聴くのもレコード名、すなわちジャケット名が普通だったし、その後のCDの時代になっても片面になった以外は、同様の扱いだった。

今は、1曲ごとに買えるし聴ける。アルバムまるごとへの執着心や熱狂は少ないのではなかろうか。”幻の名盤”を追い求めていたかつてのようにアルバム単位のピック・アップで、往時に還れる。

《動画「C Jam Blues」》

【参考資料「サライ」】

ジャズの理解は、まず任意のCD1枚を聴く。気に入った曲は、何度も聴く。楽器ごとのプレイヤーを知る。覚える。

次の段階は、好きになった曲を他のユニットやプレイヤーで聴く。同様に好きになったプレイヤーの他のCDでの演奏を探す。聴く。そうやって自分の嗜好を中心に広げて行くのがベストかと思う。

 

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ながい坂

2018-05-20 22:08:16 | 

著者 山本周五郎

出版 新潮文庫

頁数 上巻550頁  下巻555頁 

版  平成18年5月3日第66冊

値段 上巻 18円下巻1円(アマゾン)

 

 

山本周五郎、重厚ですね。人間を見つめる眼が透徹している。「生きるとは何か」を問い、示す。

本は読む側の環境によって、興趣が違ってくる。

絶望と孤独の中で覚悟の戦いに突き進む主人公三浦主水正の生き方は、世代によって共感や実感は大きな差があるだろう。例えばこの小説の場合、青年は「こういう生き方もあるのか、私ならこうする」、壮年  「そうだ、この通りだ。俺も負けない」、熟年「我ながらよくやった」と。

中でも、企業で言えば、中間管理職には辛い読み物であろう。と同時に自らを鼓舞する、勇気と元気の本でもある。

以下、部分の抜粋。

《心を労することのない生活に慣れた人たちに特有の、無気力さと、消極的な自己主張がよくあらわれていた》

《攻める力はいつも、守る力に先行する。攻め口がわかるまでは、守る手段も立てられえない。いまどこがどのように攻められているか、敵の力がどれほどのものか、それを知ることができたらと思い、主水正は溜息をついた。山に近づくにしたがって、雪の降りかたはますます激しくなった。彼はそのまっ白なとばりの中で、絶望的な孤独感におそわれた》

《条件によって生活を支配される者と、どんな条件の中でも自分の生活を作ってゆく者とがある。大きく分けてその二つの生きかたがあり、そしてそのどちらも人間の生きかたなのだ、と彼は思った》

《彼はまざまざと、時の足音を聞くように思った。(中略) これらのほかにも老いたり死んだりした人は少なくないだろう。時は休みなく過ぎ去ってゆき、人はその時の経過からは逭れられない》

《そうだ、人間が自分の好ましいように生きられることは稀だし、平安な一生に恵まれることも極めて少ない。(中略) しかし仕事はこれからだ、始末を見届けるまで死ぬことはできない》

《石を運び、土を掘る人足たちと少しも違いはない。一文菓子を売り、馬子、駕籠かきをしても、人間が生きてゆくには、それぞれの苦しみやよろこびがある。そのありかたはいちようではないし、どっちが重くどっちが軽いという差別も評価もでききない》

 奥野健男は解説で、次のように述べている。

『ながい坂』の主水正の生き方は、山本周五郎の作家、売文業者として生き方、処世術の自叙伝だと思う。こういう細心な生き方をしながら、ついに裏街や挫折から浮かび上がることのできない貧しい庶民のあきらめに似た哀感を、絶品ともいうべき短編にうたいあげている。そういうことを描くためには、文学者はこういうふうにながい坂を辛抱強く、ずるく生きなければならない、その舞台裏を書きながらそれを感動ある長編小説に昇華した作者の小説家根性は、見事であり、余人の追随を許さないものがある。

”逃げるな、真正面から挑め!”  この本から汲んだ。

コメント (2)
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石狩挽歌

2018-05-15 23:20:40 | ドーナツ盤

『石狩晩歌』動画)

 註:"ドーナツ盤"カテゴリー

昭和50年の日本作詞大賞作品賞受賞。

 

歌:北原ミレイ

  

石狩の海の鰊漁を舞台に、大きな夢を見て それをつかめないままに終わってしまう男、そんな男と人生をともにする女の気持ちが、鮮やかな情景とともにうたわれている。

小樽市の西北に位置する祝津岬にある鰊御殿の旧青山別邸(小樽市祝津3丁目63)には、石狩挽歌の記念石碑と 作詞のなかにし礼直筆の歌碑がある。

  詞:なかにし 礼  曲:浜 圭介    年:1975年

  海猫が鳴くからニシンが来ると
  赤い筒袖のヤン衆がさわぐ
  雪に埋もれた番屋の隅で
  わたしゃ夜通し飯を炊く


  あれからニシンはどこへ行ったやら
  破れた網は問い刺し網か
  今じゃ浜辺で オンボロロ オンボロボロロ


  沖を通るは笠戸丸
  わたしゃ涙で ニシン曇りの空を見る


  燃えろ篝火 朝里の浜に
  海は銀色 ニシンの色よ
  ソーラン節に 頬そめながら
  わたしゃ大漁の 網を曳く


  あれからニシンは どこへ行ったやら
  オタモイ岬のニシン御殿も
  今じゃさびれて オンボロロ オンボロボロロ


  かわらぬものは古代文字 
  わたしゃ涙で 娘ざかりの夢を見る

 

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中国古典一日一話

2018-05-10 07:34:49 | 

著者 守屋 洋

出版 PHP文庫

頁数 409頁

 

                       

      

文字通り、1年365日の一日一日に、中国の歴史書からの言々句々をあてがった日めくり書。旧版のまえがき(昭和59年11月)には、本書を編んだ意図として、《多忙なビジネス社会の人々に、中国古典のエッセンスをわかりやすく紹介した》とある。

私の座右の書である。職場の机上左脇の手の届く場所に置き20数年。毎朝開いている。

ちなみに、今日5月10日の頁にはこのように書かれている。

 

                        ♯♯♯♯  ♯♯♯♯ ♯♯♯♯ ♯♯♯♯ ♯♯♯♯

 

衆怒は犯し難く、専欲は成り難し

                             ------衆怒難犯、専欲難成      『左伝』

「大勢の人間の怒りには抵抗しがたく、自分一人の欲望を遂げようとしてもむずかしい」という意味。昔、鄭の子孔という宰相が、自分かってな改革案をつくって重臣たちに押しつけ、総スカンを食らった。子孔は反対する者を皆殺しにしようとした。このとき子産という人物がこのことばを引き、「二つの難きを以て国を安んとするは危うきの道なり。専欲は成ることなく、衆を犯さば禍を起こさん」と説得して、改革案を撤回させたという。

子産は後に鄭の宰相に登用されて開明的な政治を行い、名宰相と称されたが、二千数百年も前に、このような認識をもっていたとはさすがである。民主主義の今日、これはもはや常識と言ってよいが、しかし、子孔のような例が依然として跡をたたないのはどうしたことか。為政者たるもの、もって自戒としてほしいところだ。

 

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羊と鋼の森

2018-05-05 08:09:03 | 

著者 宮下奈都

出版 文春文庫

頁 274頁

定価 409円(アマゾン)

 

   

2016年本屋大賞受賞。

瑞々しい感受性に溢れた本。

地方都市の楽器店で調律師をつとめる青年の音探しの物語。登場する人物たちは10人を満たない。皆優しくて思慮深くて繊細。それらとの空間の雰囲気と会話が印象的。音探しが自分探し。

調律という音の世界を活字で表現した筆力は相当なものだと思う。来世、就く職業の選択肢の一つは、調律師にしよう。

 

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