新潮文庫、550ページ。
凄い人だ。佐藤優氏のような外務官僚がいたとは。
果たして氏のような硬骨の職人官僚は他にいるのかしら。
いれば日本の将来は大いに希望に満ちたものになるのだが。
佐藤氏の優秀さと異能には驚嘆するばかりだ。以下、諸点を抜粋。
観察力
「この事務官は経験不足なのか、自己陶酔癖があるのか、仕事に酔って興奮しているだけだ。こいういう手合いはたいしたことはない。過去の経験則から、私は利害が激しく対立するときに相手とソフトに話ができる人物は手ごわいとの印象をもっている。その意味で、この検事の方は相当手ごわそうだ」
「情報の世界では、第一印象をとても大切にする。人間には理屈で割り切れない世界があり、その残余を捉える能力が情報屋にとっては重要だ。それが印象なのである」
記憶力
「情報屋の基礎体力とは、まずは記憶力だ。私の場合、記憶は映像方式で、なにかきっかけがなる映像がでてくると、そこの登場人物が出てくると、そこの人物が話し出す。書籍にしても頁がそのまま浮き出してくる。しかし、きっかけがないと記憶が出てこない。
私にはペンも紙もない。頼れるのは裸の記憶力だけだ。独房に戻ってから、毎日、取調べの状況を再現する努力をした。私の体調がよくないので、取調室には科学樹脂の使い捨てコップに水が入れられていた。私はときどきコップを口にする。その水の量と検察官のやりとり、また、西村検事は腕時計をはめず(腕時計をしているならば、時間とあわせて記憶を定着させることはそれほど難しくない)、ときどき懐中時計を見る癖があるので、その情景にあわせて記憶を定着させた。いまでも取り調べの状況を比較的詳細に再現することができる」
胆力
「『僕や東郷さんや鈴木さんが潰れても田中(眞紀子外相)を追い出しただけでも国益ですよ。僕は鈴木さんのそばに最後まで思っているんですよ。外務省の幹部たちが次々と離れていく中で、鈴木さんは深く傷ついています。鈴木さんだって人間です。深く傷つくと何をするかわからない。鈴木さんは知りすぎている。墓までもっていってもらわないとならないことを知りすぎている。それをはなすことになったら・・・』
略(西村検事)
『僕が最後まで鈴木さんの側にいることで、その抑止にはなるでしょう』
略(西村検事)
『大丈夫です。そこは覚悟しています。これが僕の外交官としての最後の仕事と考えています』」
国策捜査
「被告が実刑になるような事件はよい国策捜査じゃないんだよ。うまく執行猶予をつけなくてはならない。国策捜査は、逮捕がいちばん大きいニュースで、初公判はそこそこの大きさで扱われるが、判決は小さい扱いで、少し経てばみんな国策捜査で忘れてしまうというのが、いい形なんだ」国策捜査で捕まる人たちはみんな大変な能力があるので、今後もそれを社会で生かしてもらわなければならない。うまい形で再出発できるように配慮するのが特捜検事の腕なんだよ。だからいたずらに実刑判決を追求するのはよくない国策捜査なんだ」(西村検事)
「国策捜査が行われる場合には、その歴史的必然性があります。当事者である検察官も被告人もその歴史的必然性にはなかなか気付かずに、歴史の駒としての役割を果たしているのでしょう」
外務省の崩壊
「日本政府の一機関である外務省が、鈴木宗男潰しのために革命政党である日本共産党を利用したこの瞬間に日本外務省は内側から崩壊したのである。外務省に頼まれ、北方領土問題で政治的リスクを負い、多大な労力と政治資金を使った政治家が、国賊、売国奴として整理されてしまうことは理不尽だ」
(東京拘置所面会所)